学園の昼休憩。昼食を終えた自分とラミア、メーはバトルコートでポケモンバトルを行っていた。
メーのミズゴロウと戦闘する自分のリオル。リオルはミズゴロウのみずでっぽうをでんこうせっかで避けながら接近し、その衝突でミズゴロウをよろめかせた後にメタルクローを繰り出した。
こうかはいまひとつだが、鋼鉄の切り裂きは攻撃の勢いをつけるのに十分な出だしだった。自分は続けて技を指示していく。
「はっけい!」
リオルの攻勢は止まらない。即座に距離を詰めて左手を構えると、ミズゴロウに向かって波動を込めた右手の一撃が繰り出される。前方に拡散する衝撃が相手を捉えると、ミズゴロウはそのまま吹き飛んでK.O.された。
目をぐるぐるにして倒れたミズゴロウ。メーは頭を抱えながら悔しさで唸り、しかしどこか納得した様子でため息をついてから言葉を掛けてきた。
「あーーー、もう! 今日もダメかぁ。カンキくんのリオルには全然勝てないなぁ~……」
「逆にリオルが勝てない相手に、メーのミズゴロウは勝ったりしてるからさ。タイプとかではない個人的な相性とかはあるんじゃないかな」
「なんだろう、攻め込まれちゃうと一気にキツくなるんだよね~。ミズゴロウもそれを対策して流れを断ち切るまもるとか入れてるのに……あああ~~~~クソ、上手くいかね~~~」
自分達はバトルコートの中心に集まっていく。メーは渋い表情をしながら反省を行う一方で、観戦していたラミアとキラーメは無言でこちらと合流してきた。
と、バトルの感想を交わす自分らの下へ投げ掛けられた声。その主は艶やかな調子で歩み寄りながらそれを口にしてくる。
「ジムリーダーを兼ねている教師の目から見ても、二人は良い動きをしていたわよ~? 入学当初よりもだいぶ見違えたんじゃないかしらぁ?」
「あ! レダ
メーが指を差しながら呼び掛けるそれに対して、レダは余裕のある様子で手を振りながら応えていく。
レダがフィールドに現れると、周囲の人々……特に男性陣が続々と視線を向け始めた。皆が「レダ
「はぁ~い、レダ
自分は後者の名に反応する。
「オキクルミ、ですか?」
「銀嶺会のオキクルミ、覚えているでしょう? 知っての通り彼らは問題児だし、よくわたしへ絡みに来るわ。その中でもオキクルミは際立った存在ねぇ。何故なら、わたしに興味が無いから。彼は仁義とポケモンバトルが好きで、それを両立した人間が特に好きみたい。例えば、カンキくんの事とか」
「え、俺ですか」
「そう。そしてわたしも、あなたの事が好きよ? 授業を一番真面目に受けてくれる生徒としても、容姿や内面といった個人的な好みとしても、ね?」
レダの誘惑するような
「そういう決まり事はないけれど、ここの教師の多くは平等に生徒達と関わる心掛けを徹底しているわ。お気に入りの生徒だけに色々と教える教師は全然いないもの。でも、わたしは違う。わたしはどんどん
レダは所持していた分厚いファイルを開いていく。そこから生徒のページを開いて眺めると、まずはラミアへと振り向きながらアドバイスを始めた。
「あなたのキラーメは、特性がふしょくなのねぇ。覚えているわざは、アシッドボム、げんしのちから、まもる、かたくなる。キラーメの特徴としては、高いとくこう種族値と特有の特性にある。ただ、高いとくこう種族値と特有の特性にこれといったシナジーはないわ。まずは立ち回りの方向性を固める必要が出てくるでしょうねぇ」
「特性、ですかー。言われてみれば、あまり気にしたコトがありませんでしたねー」
「ふしょくは、どくタイプとはがねタイプをどく状態にさせることができる特性ね。誰でもどく状態にできる個性を活かして、耐久する方面で立ち回ってみてもいいかもしれないわ。戦法は至って単純よ。どくどくというわざを覚えさせて、それで相手をもうどく状態にしてからひたすら耐え凌ぐだけ。まもるやかたくなるは有用的に働くでしょうし、隙を見てアシッドボムで相手を弱体させてから、げんしのちからで一気に押し切るというスイッチングもできる」
「どくどくは盲点でしたねー。変化技という
「もうどく状態は相手に心理的な負荷を押し付けることができる。早く倒さなければ。そんな切羽詰まった状態で耐久されてしまうと、相手は一層と困るでしょうからオススメするわよ」
そう言い、レダは「次は~……」と口にしながらこちらへ振り向いてくる。
「カンキくんのリオルは、特性がせいしんりょく。覚えているわざは、でんこうせっか、フェイント、カウンター、メタルクロー、はっけい。“わざは6つまで覚えられる”から、もう一個わざを増やしておくと手段が豊富になって便利でしょうねぇ。その上で考察していくと、リオルは俊敏な機動力を持つ好戦的なポケモンで、低耐久が目立つからそこのカバーが必須と言えるかしら。現時点でも非常に強力な攻めのわざ構成をしていて、リオルの俊敏性でこれらを押し付ける立ち回りがあなた達の勝ちパターンになっているんじゃないかしら?」
「勝つ時の勢いは凄まじいですね。一気に距離を詰めて、そこからズガガガガって感じで」
「それ故に、受けに回った時が儚いほど脆いわ。今のリオルに必要なのは継戦能力。そこでオススメなのが、みきりかしらねぇ。以前までは遺伝でしか確認されなかったわざだけれども、今はトレーニングで習得できるから便利な時代になったわよね~。みきりは相手の流れを断ち切ったりできるし、様子見としても使える万能なわざだから、6つ目のわざとして最も採用価値のあるわざだと思うわ」
「なるほど……! ありがとうございます!」
それからレダは「最後に~」と言い、メーの方へと振り向いていく。
「あなたのミズゴロウの特性はげきりゅう。覚えているわざは、みずでっぽう、マッドショット、いわくだき、まもる。まずあなたのミズゴロウだけど、非常に高水準な個体のように見受けられるわ。わざ構成も攻守ともに優れていて、バランスがいい。わざの使い方もバトル中の立ち回りも見ている感じ、普段からバトルを研究している人間のそれだとわたしは一目で感じたわねぇ」
「マジっすかレダ
「その上で指摘するならば、バトル中のあなたは机上論ばかりを見ていてミズゴロウと向かい合えてないように感じるわ」
「そ、それってどういうことっすか……?」
「練られたプランは上出来だけれども、それをミズゴロウが再現できるかどうかは別の話。あなたが戦っているのは相手じゃなくて、完璧を追い求める自分自身。もっと言えば、今のあなたは脳内シミュレーションで思い描いた理想を、ミズゴロウという相棒を利用して再現しようとしているだけ」
「あの……もしかしてこれ、ガチめの説教だったりします?」
「誤解を与えたならごめんなさいねぇ。ポケモンバトルは良くも悪くもトレーナーの思考に左右されるわ。今のあなたに必要なものは、ポケモンバトルという仕組みを理解すること。ポケモンバトルには、相手がいることを忘れないように。相手の思考、心理、目的を些細な情報から読み取り、技という限られた手段で最適な方法を下しながら勝利を目指す競技。それがポケモンバトルよ。話が逸れてしまったようだけれど、現状のミズゴロウに目立った欠点は無いわ。最適なわざも、あなたなら自分で判断して習得させるでしょうから。引き続き励みなさい」
「あ、あざっす!」
レダはファイルを閉じていく。それから艶やかに微笑みながら次にもこのようなセリフを口にしてきたのだ。
「お昼休みの時間はまだあるから、良ければわたしが直々にトレーニングしましょうか? キラーメのどくどくは自主的な特訓で習得できるでしょうから、今回はカンキくんのリオルがみきりを覚えるための実践的なトレーニングをしましょう。位置について、カンキくん。わたしとのマンツーマンレッスン、存分に楽しみましょ?」