昼休みのバトルコートに集まるオーディエンス。教師でありジムリーダーも受け持つレダがフィールドに立つと、特に男性陣が胸を躍らせながら彼女の活躍に注目した。
自分はリオルにキズぐすりを使用し、準備を整える。リオルもまたやる気に満ちており、何か私的な因縁を以てしてレダと相対した。向こうの彼女はゴージャスボールを取り出すと、艶やかな調子でこちらに声を掛けてくる。
「最初に伝えておくけれど、これはトレーニングの一環として行われるマンツーマンの特別指導よ。勝敗にこだわらず、リオルの潜在能力を引き出すつもりでバトルに臨んでちょうだい? 一応先に教えておくと、わたしはフェアリータイプの専門家としてカルイザワシティのジムリーダーを務めさせてもらっているわ。リオルはかくとうタイプで不利を被るけれども、別にリオルに有利だからフェアリータイプを繰り出すわけではないことは承知してもらえるかしら」
自分は「分かりました」と答え、構えていく。レダもまたゴージャスボールを構えると、それを投げ付けながらポケモンを繰り出した。
「行きなさい! クレッフィ!」
ボールから現れたそれは、リングのような胴体に鍵束を吊るした独特な体型を有するポケモンだった。
審判として佇むメーが、バトル開始を告げていく。彼女の掛け声と共に実践的なトレーニングが開幕すると、自分はいつもの要領でリオルに指示を繰り出した。
「リオル! でんこうせっか!」
先手を取る彼女がノーマルタイプのわざエネルギーを纏いながら突撃する。目にも留まらぬ先制攻撃は瞬く間にクレッフィへと差し迫るが、レダは冷静な様子でクレッフィへと指示を送った。
「クレッフィ! リフレクター!」
相手のクレッフィもまた、行動が素早かった。先制攻撃のでんこうせっかと並ぶ速度でリフレクターを繰り出すと、壁越しにリオルのでんこうせっかを正面から受け止めていく。
リフレクターの物理ダメージ軽減に加え、はがねタイプによる相性不利で一層もの軽微な負傷で済んだクレッフィ。仰け反りすらしないタフな様子でリオルを見据えるが、自分は立て続けにわざを繰り出した。
「はっけい!」
「クレッフィ! でんじは!」
素早さは確実にこちらが上回っていた。だが、クレッフィは命じられた変化技を繰り出すや否や、リオルを越える速度ででんじはを放ってきたのだ。
真正面から直撃したリオルは、でんじはを受けながらもはっけいを完遂する。突き出した右手による波動の衝撃波はクレッフィを退かせるが、リフレクターによるダメージ軽減でまだまだ余裕を見せていた。
「リオル! メタルクロー!」
自分はリオルに次なる攻撃を指示したが、彼女の動きは目に見えて遅くなっていた。でんじはによるまひ状態がリオルの機動力を削いでいる。地面を蹴り出して飛び掛かったリオルが痺れに苦戦していく最中、レダは迎撃を命令した。
「イカサマ!」
リオルのメタルクローが繰り出されるよりも前に、あくタイプの黒いわざエネルギーを纏うクレッフィが突撃した。正面衝突のぶつかり合いはクレッフィが勝ち、リオルを後方へと吹っ飛ばしていく。
こうかはいまひとつだが、特に力自慢のポケモンに対して特大な効果を発揮するイカサマはリオルに有効だった。着地したリオルが痺れでよろめいていく手前、レダは教師とジムリーダーその二面性からなる風格を醸し出しながら言葉を投げ掛ける。
「リフレクターによって物理攻撃が軽減。更にまひ状態で素早さも低下。リオルが得意とするスピーディーな攻めは、現状では発揮し辛いでしょうねぇ。さて、この状況をどう突破するのか。最も有効な手段は、時間経過によってリフレクターが消失した瞬間を狙うこと。つまり、今の状況を耐え忍ぶ、守りの選択肢が重要になるわ! リオル、これからあなたには新しいわざのインスピレーションを掴んでもらうわよ。降り掛かる猛攻を、自慢の機動力以外で捌き切る技量。それを意識しながら、次の一手を食らいなさい!」
それを言い、レダは手を突き出しながら指示を行う。
「クレッフィ! ラスターカノン!」
クレッフィがリング状の胴体から鋼鉄の弾を繰り出した。甲高い音を響かせながら一直線に放出されたそれは、リオルに目掛けて飛んでくる。
リオルは痺れで自由が利かない中、身を翻すようにしてラスターカノンを避けた。だが、その先に待ち受けていたのは、続けて発射されたラスターカノンの弾。
攻撃が命中した彼女は敢え無く吹っ飛ばされた。自分が必死に呼び掛けていく最中にも、クレッフィは続けてラスターカノンを撃ち込んでくる。
よろめきながら立ち上がったリオルは、間もなくと迫ったラスターカノンを見据えていった。神経を集中させた赤色の眼差し。全身に巡る活力を迸らせ、新たな可能性を探る――
次の瞬間、リオルはラスターカノンを紙一重で回避した。力を抜き、流動する空気に身を任せるような挙動。滑らかにラスターカノンを通り抜けたリオルの様子に、レダは艶やかな微笑を浮かべながらセリフを口にした。
「やっぱりそうだった! 一目見た時から、のみ込みが早そうだと思ったのよ! リオル! それが、みきりよ! 新しいわざの感覚を身体に染み込ませなさい! 新たな力を、自分のものにするの!」
リオルは痺れた身体で接近を試みた。自分も彼女の意図を汲んででんこうせっかを命じていく。こちらの指示にリオルが自信を持ちながらクレッフィに近付くと、相手もまた次なる手段を講じてきたものだ。
「みがわり!」
リオルのでんこうせっかがクレッフィに命中した瞬間、相手の身体が人形に変化した。それは質量を感じさせない軽量感で吹き飛んでいくと、飛んでいった人形の陰からクレッフィが現れた。
でんこうせっかを食らわせた反動で、未だ空中に滞在するリオル。無防備になった彼女の隙を突くべく、クレッフィはイカサマを繰り出した。
「ッ! メタルクロー!」
リオルは早急にメタルクローを繰り出し、イカサマと競り合う。だが、相手のリフレクターがリオルのメタルクローを弾くと、クレッフィのイカサマがそのまま彼女に命中して吹っ飛ばされていった。
自分は地面に転げ落ちた彼女を見遣る。リオルは目をぐるぐるにしながら仰向けに倒れていた。
バトルは終了。勝負自体は敗北したが、みきりの習得によって実践的なトレーニングは成功の形で幕を閉じた。
審判のメーが勝敗を下すと、自分はリオルへと駆け寄った。ボロボロになった彼女を抱き抱えていくと、リオルはどこか清々しい面持ちでこちらと目を合わせてきたものだ。
結果はどうであれ、新たな力が身に付いた。自分がリオルに「よく頑張ったね」と声を掛けていく最中、歩み寄ってきたレダが艶やかな調子で喋り出してくる。
「お疲れ様、カンキくん。教師として今回のバトルを添削するならば、相手のリフレクターが消える前に物理攻撃で仕掛けてしまったのが敗因として挙げられるでしょうねぇ」
「確かにそうですね。つい焦って、分が悪い勝負に出てしまいました」
「クレッフィの特性がいたずらごころで、変化技を素早く繰り出せることも考慮するべきだったかしら。でも、何事も経験よ。まずは自分で体験して、そこから知識をつける事も勉強の内。経験から得た知識は立派な財産になるわよ? 何はともあれ、新しいわざの習得おめでとう、リオル」
そう言って、レダは屈みながらリオルと目線を合わせてきた。リオルは敵対心から一瞬だけムッとした表情を見せていくが、レダの素直な祝福に彼女はぎこちない様子で頷いてみせたものだった。