ポケモンと俺   作:祐。

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祝宴の席にて

 白熱とした試合の余韻を、立ち込める砂埃が演出する。それが次第と風に吹かれて消え去ると、フィールドに倒れ伏したエアームドの姿が伺えた。

 

 滞空するステルスロックの防壁から下りてきたリオルが、ボロボロになった全身で着地する。最後に立ち上がっている彼女の姿を見て、審判は勝負ありの合図を下したのだ。

 

 バトル終了。大将戦を制したのは、リオルだった。瞬間にも勝敗が確定し、自分はジムリーダー・カイムに勝利した。

 

 ガラ空きの観客席から、所々と歓声が沸き上がる。その中にはラミアとメー、オキクルミの声も混じっていた。現地の様子を上空からカメラで生配信しているドローンが高度を落としてくるその中で、カイムはひんしになったエアームドをスーパーボールに戻していく。彼の表情は無感情でありながらも、どこかやり切ったような、一種の達成感を思わせた。

 

 自分はリオルの下へと駆け出すと、振り返ってきた彼女を思い切り抱き締めた。急な抱擁にリオルは驚きながらも頬を赤く染め、こちらに身を寄せてくる。それから喜びを分かち合うようにお礼の言葉を掛けながら撫でていると、直にもカイムが歩み寄ってきた。

 

 一定のトーンを保つ彼の声音が、無感情に響いてくる。

 

「してやられた、というものかな。どうやら君の究極が、私の究極を上回っていたようだ。この敗北は戒めとして受け取っておこう。君の勝ちだ。おめでとう」

 

 カイムから差し出された手を取って、彼に支えられながら立ち上がった。そこで握手を交わしている間にもドローンが近くにやってきて、バッジ授与の様子を映し出していく。

 

 カイムが懐から取り出したジムバッジを、自分は受け取った。鳥の翼を模した、角張ったバッジだった。足元にいるリオルにもそれを見せていく最中、カイムはこちらに向けて拍手を行ってくる。

 

 彼の拍手を受けて、周囲からも拍手の音が聞こえてきた。

 こだまするそれを耳にしたことで、改めて勝利の実感が湧いてきた。それは何にも代えがたい喜びに溢れた、究極の達成感だった。

 

 

 

 ジムチャレンジから数時間が経過した現在、自分達は一同揃ってハクバビレッジジムから出てくる。

 

 時刻は昼下がり。粉雪が舞い散る村の中を歩き進めていく途中、メーは残念な様子で天を仰ぎながらそれを口にした。

 

「あぁ~~~~~!! 負けたぁ~~~~~!! カンキくんの勝ちに続けると思ったんだけどなぁ~~~!!」

 

 ガッカリといった具合に肩を落としたメー。彼女の背中に手を添えるラミアが無言で慰めていく中、オキクルミはこちらに対して祝いの言葉を投げ掛けてくる。

 

「にしても、やったなカンキぃ!! オマエのバトル、めっちゃアツかったわぁ!! さすが、ワシが見込んだ漢なだけはある!」

 

「ありがとう。オキクルミも手伝ってくれたからこその勝利だったよ。本当に感謝してる」

 

「相手へのリスペクトを忘れへんその姿勢も、男前やなぁ! ほな、メーは今回こそ残念やったけど、いくらでも挑戦できるさかい。今日はカンキのジムバッジ一つ目を祝して、盛大にパーティーでもしたろやないか! 絶景を拝みながらディナーを堪能できる絶品のレストランをワシは知っとるからな、特別に紹介したるわ!」

 

 オキクルミの提案に真っ先と反応を示したのは、ラミアとメーの女性陣だった。二人が手を合わせながら喜んでいく様子は微笑ましく、自分はくすっと微笑しながら眺めていたものだ。

 

 少し時間を潰した後に、オキクルミが紹介する絶品レストランに訪れた。黄昏が沈むハクバビレッジの連峰寄りにあるひと気の少ない立地であり、大自然に囲まれた環境は山々の清涼な空気を漂わせている。そこに佇むお城が如きガラス張りの建物に案内されると、オキクルミの名義で予約されていた席に招かれた。

 

 舞踏会を思わせるゴージャスな大広間に用意されたテーブルやイスの数々。そこでは遥々と遠方から訪れたのであろう観光客や、フォーマルな格好をした気品のある人々が食事を行っていた。連れているポケモン達もムシャーナやバリコオル、ムウマといった優雅な面子であり、自分は思わず気圧(けお)されてしまう。だが、シビルドンを連れたオキクルミが先頭をずかずか歩いていくと、キラーメを連れたラミアと、ミズゴロウを連れたメーはむしろ心を躍らせた面持ちで彼に続いていった。

 

 リオルを連れている自分は彼女と共に歩き進め、席についた。そこからはフルコース料理が振る舞われ、豪華なディナーを満喫したものだった。四人で飲み物が入ったグラスを打ち鳴らし、オキクルミが教えるテーブルマナーを三人で実践しながら、今日の出来事を祝していく。特に印象的だったのは、本日のジムチャレンジに感化されたラミアの何気無い言葉だろうか。

 

「なんと言いますか、今日はイイ日でした。カンキさんとメーさんを見ていたら、ウチもジム巡りがしたくなりましたから」

 

 ラミアのセリフに、オキクルミが「ええやん!!」と言う。メーも「いいじゃん! やろーよ!」と促し、ラミアはちょっと照れながらも微笑した。

 

 各々が進歩する様子に元気を貰えた自分は、少し離席することを告げてリオルと共にテーブルを離れていく。夜風にでも当たりたい気分だった。きっと、達成感の余韻に浸りたかったのだろう。

 

 ハクバビレッジの連峰を一望できるテラスに出てきた自分とリオルは、手すりに寄り掛かって景色を眺め遣る。陽は完全に落ち、宵闇が連峰を黒に染め上げていた。数回にも及ぶ課外授業で訪れたこの景色とも、自分は一旦とおさらばになる。次なるジムが、自分を呼んでいるような気がした。思った以上に、自分は舞い上がっていたのかもしれない。

 

 自分が物思いに耽る中、ふとリオルは横を振り向いた。彼女が向けた視線を目で追い掛けていくと、その先からは一人の人物が歩いてくる。

 

 183cm程の背丈である、影のような存在だった。カールがかかった黒色のウルフカットヘアーと、その人物の左目を覆い隠す前髪。男性的な顔の骨格でありながらも、チークやアイシャドウ、口紅などの化粧が施された色っぽい容貌が特徴的だ。潤いに満ちた黒色の瞳は小さくも数珠のようにまん丸で、細めた目つきは特有の妖艶さを醸し出している。服装は、実体を持たない影のように(なび)く黒色のダメージロングコートと、色褪せた青色のVネックシャツに黒色のスキニージーンズ、そしてくたびれた焦げ茶色のブーツというもの。

 

 その人物が歩いてくる様子を、自分とリオルは静かに見つめていた。失礼だとは思いながらも、何故か目を離せなかったからだ。その人物もまた、こちらを目指して歩を進めていた。直にも相手は目の前で立ち止まると、直後、何の躊躇いもなくこちらの手を取るなりパァッと表情を明るくしながら男性的な声音で喋り出してきたのだ。

 

「今日の試合、ジムで観てたわよ! とてもスゴかったわー! なんだか私が誇らしくなっちゃうくらい、とても良いバトルだった! もう、涙が出るくらい感動しちゃった! せっかくのお化粧が崩れちゃいそうで大変だったんだから!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 自分は困惑を極めていた。リオルも足元で汗を流しながら、この光景を見守っていく。

 

 相手の男性は、陰りを帯びた風格からは想像もし得ない程の満面の笑みで握手をしてくる。表情も絵に描いたようなニッコリ顔で、子供らしかった。彼はひとり興奮した様子で感想を伝えてくると、慌ててこちらの手を離しながら言葉を続けてくる。

 

「あら、急にごめんなさいね! 貴方に会えた喜びで、我を忘れちゃったみたい! こういう時は自己紹介から、よね! 私の名前は“ラヴクラフト”。よくラヴさんって愛称で呼ばれていたわ!」

 

「どうも……。カンキと言います……」

 

「えぇえぇ、知ってるわ! よく知ってるわ! きっと、誰よりも知ってる! まぁそれは置いといて、今日は良い物を見せてもらったお礼がしたくて、会いに来たの!」

 

「お礼、ですか?」

 

 そう言い、ラヴクラフトと名乗る男性はどこからともなくポケモンのタマゴを抱えて取り出してきた。

 

 あまりにも急な出来事に絶句する自分。対するラヴクラフトは、満面の笑みでニッコリしながら明るい調子でタマゴを差し出してくる。

 

「これ! 貴方にあげる! 私からのプレゼント!」

 

「えっと、あの……?」

 

「ほら、遠慮しないで! 孵化したら、絶対に貴方の冒険で活躍してくれるから!」

 

 さぁ! さぁ! とずいずい詰め寄ってくるラヴクラフトを前にして、自分は半ば押し付けられる形でタマゴを受け取った。上半身くらいの大きさであるそれは意外と軽量なもので、自分は拍子抜けしながら抱え込んでいく。

 

 タマゴを受け渡すと、ラヴクラフトはパァッと両手を開いた仕草でニッコリ微笑みながら、とても楽しげにそれを口にしてきたものだった。

 

「今日は貴方に会えて良かったわ! タマゴ、大切にして頂戴ね! じゃあ、私はこれで!」

 

「ま、待ってくださ……!」

 

 呼び止めようにも、タマゴが大きくて身動きが取りにくい。ラヴクラフトはそんなこちらに背を向けてさっさと退散すると、まるで闇夜に溶け込むかのようにあっという間にその場から姿を消してしまった。

 

 一体、何が起こったのか……? 彼は一体、何だったのか……?

 理解が追い付かない状況の中、自分はリオルと目を合わせていく。何はともあれ、ジムチャレンジを突破した報酬として謎に包まれたポケモンのタマゴを受け取った。




 【一章 完】
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