ポケモンと俺   作:祐。

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アップルアカデミー

 新居であるアパートの室内。自分は靴下を履いた足でフローリングをひたひたと歩きながら洗面台の前に立つ。

 

 鏡に映し出された自分の姿。175cmの身長で群青色(ぐんじょういろ)の無難なショートヘアー、よく誠実と言われる黒色の瞳に爽やかと評される顔立ち、水色の分厚い前開きパーカーと黒色のシャツ、黒色のスラックスという格好で佇んでいる。変じゃないだろうかという疑問を脳裏に浮かべていると、足元のリオルが目新しいものを見つめる惚れ惚れとした目を向けてきたものだったから、自分は彼女の期待を信じて自信を持ち、最後に黒色の大きなリュックサックを背負って玄関へと足を運んだ。

 

 リオルをモンスターボールに入れ、駐輪場からダートじてんしゃを引っ張り出す。天気は快晴、新たな旅立ちを祝福するかの如き清々しい晴天の下、自分はダートじてんしゃに跨ってそれを走らせる。

 

 住宅街を抜けると、近未来的に発達した街中の光景が広がった。

 場所は『ナガノシティ』。定住していたジョウダシティの北部に位置する街で、シナノ地方を代表する最大都市でもある。ナガノシティではポケモンリーグやポケモンコンテストといった大規模のイベントが開催され、シナノ地方発展の中核を担っている。

 

 じてんしゃを走らせる最中にも、様々な景色が流れていった。視界の遥々遠くで連なる山脈の景色、ミアレシティを彷彿とさせるホログラムと角張った建造物の数々、人々とポケモンが共生する日常的な風景、そして各所に点在するワイルドゾーンの生態。

 

 それらが視界を横切っていくと、直にも目的地が見えてきた。緑の木々に囲まれた環境と、その中に設けられた広大かつ巨大なキャンパス。聖堂のようなビルと、様々なカレッジを収容する横並びの大きな校舎、アカデミーを象徴する噴水に、本格的なポケモンバトルができる校庭などが整備されている。

 

 シナノ地方最大級の学園、『アップルアカデミー』。自分はその校門をくぐり、駐輪場にじてんしゃを停めてから改めて周囲を見渡した。

 

 庭の通路を歩く私服姿の人間とポケモンの姿。野生の個体も入り混じり、常に新しい出会いや体験をもたらしてくれる環境。人物やポケモンの銅像も幾つか見受けられ、それらの景色を眺めながら学食を利用する人々の姿も垣間見える。植林や池ではポケモン達が活き活きと活動しており、それは進化系を問わず各々の生活に勤しんでいた。

 

 学校という環境に戻り、過ぎ去った青春を思い出すかのような感覚を覚えた。いや、むしろ第二の青春が始まろうとしている。自分は堂々とした心持ちで歩き始めると、広大な敷地を横断して一つの校舎へと進入した。

 

 番号は振られていないが、クラスが横並びしている長い廊下。しばらく歩きながら自分のクラスを探してそれを見つけると、壁に貼られていた『ポケモン厳禁』の紙を横目に扉を開き、入室する。

 

 50人は収容できる室内。木製の床は学生の時の懐かしさを蘇らせた。椅子に着席している生徒と思しき人達は、若い男女をはじめとした幅広い年齢層を感じさせる。同じ志を持つ者同士か、皆、登校初日にも関わらず打ち解けた雰囲気で会話を交わしていたものだ。

 

 この日に指定されていた自分の席に視線を投げ掛けると、隣の席では談笑する二人の少女が伺えた。一人は自分の隣の席であろうその場所に落ち着き、もう一人は彼女のテーブルに腰を掛けて馴れ馴れしい様子でいた。自分が近付くと彼女らは振り返り、隣人であることを察したのだろう椅子に座る女の子は淡泊な調子の敬語で言葉を掛けてくる。

 

「あー、ウチらに気にせず、お隣どーぞ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 隣の席で落ち着く彼女は、158cmほどの背丈である小柄な人物だった。猫耳が付いた黒色キャスケットを被り、ヴァイオレットカラーのセミロングヘアーに同色の大きな瞳を持つ彼女は、幼げな顔の輪郭に可憐な容貌からお人形さんを想起させた。服装は、黒色のポンチョに白色のブラウス、黒色のフリルミニスカートに、オーバーニー&厚底ブーツという格好をしている。

 

 一方、少女のテーブルに腰を掛けている彼女は小悪魔的な笑みを浮かべながらこちらを見遣っていた。身長165cmで、腰辺りまで伸ばしたウェーブがかかった紅鳶(べにとび)の赤褐色ロングヘアーをボリューム多めのツインテールとしてまとめている。紺色の瞳と長いまつ毛、煌めく化粧が現代風を思わせて、前開きでAラインシルエットの紺色ロングコートと、へそ出しでノースリーブの白色キャミソール、アイボリーのワイドパンツに、ベージュのハイヒールサンダルという格好がギャルという印象を決定付けた。

 

 彼女達の邪魔にならないよう、なるべく気配を殺して着席する自分。背負っていたリュックサックもおろしてふぅっと息をつくと、次にもギャルの彼女から声を掛けられた。

 

「おは~! そこってキミの席でいいんだよね? じゃあ“ラミア”の隣じゃーん!」

 

 ラミアと呼ばれた隣の席のお人形さんみたいな彼女は、どこかあざとい仕草で首を傾げながらこちらの顔を覗き込んでくる。

 

「どーも、意図しないご紹介に(あずか)った“ラミア”といいます。別に、名前は覚えて頂いても、覚えて頂かなくても、どっちでもイイです。隣同士、まーテキトーにやっていきましょー」

 

 可憐な容貌で、どこか適当な調子に喋るラミアの紹介から程なくして、ラミアのテーブルに腰を掛けている少女が前のめりになりながら、小悪魔的な笑みを浮かべてこちらに喋り出してくる。

 

「で、あたしはラミアのズッ友やらせてもらってまーす。名前は“メー”でーす。よろ~」

 

「俺はカンキ。よろしく、ラミア、メー」

 

「カンキくんね~、おけ~。バッチリ覚えた!」

 

 積極的なメーを淡々とした眼差しで眺めるラミア。直にもメーから話題を切り出してくる。

 

「カンキくんも進学で此処(ここ)に来た感じ?」

 

「いや、俺は社会人をやってからここに来たよ」

 

「マ!? じゃあワンチャン、あたしらより年上?」

 

「今は22」

 

「あたしとラミアは18! えーなんか意外。雰囲気的に進学だと思ったな~。あ! てかさ、相棒ポケモンは誰? あたしはミズゴロウ!」

 

「ウチはキラーメです。メーさんのミズゴロウと相性最悪で、勝負でまだ勝てたコトありませんねー」

 

「あたしをなめてもらっちゃいかんですなぁ。それで、カンキくんの相棒ポケモンは?」

 

 初対面の成人男性を相手に、随分と積極的な少女達だ。自分は純粋に雑談を楽しみながら答えていく。

 

「俺はリオルかな」

 

「リオルって、あのリオル? ヤバ! めっちゃ珍しいじゃん! ねぇどうやって手に入れたん!?」

 

「道端で怪我しているリオルを見つけて、ポケモンセンターに届けてあげたんだ。そしたら懐いてくれて、パートナーになってくれたんだ」

 

「えーん、エモ~い。泣きそ~」

 

 ここら辺で学校のチャイムが鳴り響いた。これを聞き付けたメーは急いでテーブルから下り、元の席へと駆け足で戻っていく。その間にも隣の席のラミアがこちらに振り向くと、淡泊な調子で訊ね掛けてきた。

 

「リオルと出会ってどのくらいが経ちました??」

 

「まだ数か月ちょっとだよ。その間にも急いでポケモントレーナーの免許証を取って、本格的にポケモントレーナーを目指そうと思って仕事も辞めて、それからリオルを迎えてここに来たんだ」

 

「その数か月ちょっとで、アカデミーに通うコトを決めたんですか?? 随分と思い切りましたねー」

 

「せっかくの人生だから、冒険してみたくなって」

 

「イイと思いますよ。まー、カンキさんの人生はカンキさんの人生なんで、ウチがとやかく言う意味なんてないですけど」

 

 ラミアと会話をしていると、クラスの生徒達は所定の席についた。そして次にも部屋の前扉がガラリと開くと、そこからは厳つい風貌の男性が姿を現した。

 

 187cmはあるノッポの彼は、トサカのような金髪を揺らしながらも片面を黒く刈り上げた非常にヤンチャな容姿を持つ人物だった。室内で装着した黒色のサングラスに、面長な輪郭。服装は前開きの灰色スーツに、ボタンを二つ外した黄色のYシャツ、首回りには緩めたネクタイが垂れ下がり、その先端に何か丸い石が嵌め込まれている。灰色スラックスに焦げ茶色の革靴という格好の彼は教壇に上がると、名簿を開いてからクラスの中を見渡し、次にも陽気な調子で喋り始めた。

 

「よーぅ! 新入生の諸君、まずは入学おめでとう! お前さん達がシナノ地方最大級の学園、アップルアカデミーに入校してくれたおかげで、オレちゃんはこんなにも沢山の光る原石と相まみえることができた! オレちゃんは“アラマキ”、このクラスの担任を受け持つ者だ。要は、担任の先生だな。今日から一人一人としっかり向き合いながら、各々が目指す最高のポケモントレーナーになるべく指導を行わせてもらうからよ、そこんところよろしく頼むぜ!」

 

 社会人を辞め、学校に出戻りした末に導かれたご縁の数々。

 

 自分の冒険はまだまだ始まったばかりだ。

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