ポケモンと俺   作:祐。

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林檎探偵俱楽部

 話し合いの末に、自分達は林檎(りんご)探偵俱楽部(クラブ)を覗いてみることにした。

 

 放課後を迎え、一同は部室の前に訪れる。そこは校舎の隅にある階段の下に設けられた小さな部屋で、元は倉庫として使われていたのかもしれない。部室の前に来るなり、キラーメを連れたラミアとミズゴロウを抱き抱えるメーが無言の促しをこちらに向けてきたものだから、自分は足元にいるリオルをチラッと見た後に部室の扉をノックした。

 

 瞬間、中からドタドタと駆け寄る音が聞こえてくる。そして待ってましたと言わんばかりに扉が開かれると、次にも関係者と思われる活発的な女の子が姿を現してきたのだ。

 

 166cmほどの背丈である彼女は、腰辺りまで伸ばした真っ直ぐなおさげの茶髪と黒色のベレー帽、(つや)やかな黒色の瞳に強気な八重歯が印象的だ。服装は、両肩をルーズに露出した厚手で裏生地ナイロンの玉虫色パーカーと、大胆にへそを出している黒色のキャミソール、焦げ茶色のベルトがルーズに巻かれた青色のホットパンツに、クリーム色の厚底サンダルという格好をしている。

 

 彼女と共に顔を出してきたのは、来客を心待ちにしていたベイリーフ。そわそわとした様相で期待の眼差しを向けてくるベイリーフに見つめられていく中、自分は眼前の女の子に手を握られながら活発的に喋り掛けられた。

 

「なんや、お客さんかいな!? しかも三人も!! いらっしゃ~い!! サークルの入部!? それとも依頼!? せっかく来てくれたんやし、部屋に上がってって~!!」

 

 そう言って、彼女はこちらを部室の中に引き摺り込んできた。リオルも慌ててついていく様子を前にして、ラミアとメーもおそるおそると入室する。

 

 部屋の中は、普通の倉庫にテーブルやイス、可動式のホワイトボードなどが用意されただけの簡素な光景だった。強いて言えばリクライニングソファが二つほど置いてあったが、その内の一つは既に、部員と思われる女子高生が占領していた。

 

 こちらに無関心な様子でスマホロトムを操作している女子高生は後述するとして、まずは部屋に招き入れてきた女の子が活発的な調子で自己紹介を行ってくる。

 

「ウチは“シュラ”や!! この林檎探偵俱楽部の部長をやっとる!! 活動内容は、学園内の名探偵として数々の難事件を鮮やかに解決すること!! 困っとる皆様方の悩みに寄り添って、その解決のために足を使って奔走するトラブルシューターやね!! この大所帯やから、入部志望なんやろ?? どや、興味出てきたんちゃうん??」

 

「入部志望というよりは、見学に来た感じかな……」

 

「見学!! ええ心掛けやね!! 入部してから『思ってたんとちゃう!』思われても切ないだけやしな!! 部室はな~んもあらへん場所やけど、活動はたま~にしとるから、雰囲気を知るためにもまずはゆっくりしてって!!」

 

 シュラと名乗る彼女が部屋の奥へと案内すると、ソファに座っていた女子高生が無言で部屋の隅に移動した。

 

 積み重なった跳び箱に寄り掛かる彼女は、160cmほどの背丈である不良系の人物だ。ミルクティー色の長髪を肩甲骨あたりまで伸ばし、鬱陶しそうな黒色の瞳と気だるげなオーラがある意味で印象的。服装は、灰色の制服ブレザーに緩めたネクタイを巻いたままの白色ワイシャツ、赤色のチェックスカートに白色のソックスと黄色のシューズというものだった。

 

 彼女は左手をブレザーのポケットに突っ込み、右手でスマホロトムを操作し続けていた。こちらに興味を示さない様子を自分は不思議に思っていく中で、シュラに着席を促されてそちらに腰を下ろしていく。ラミアとメーがリクライニングソファに座り、自分とシュラが固いイスに座って落ち着いていくと、次にもシュラはテーブル越しに身を乗り出しながら質問を投げ掛けてきた。

 

「で、ぶっちゃけたハナシやけど、ジブンらが此処に来た理由って何なん!? 探偵に興味があったから、とかかいな!?」

 

「担任の先生に、林檎探偵俱楽部を勧められたんだ。まずその話が出るキッカケになったのが、ユノさんと会ったことなんだけど」

 

「あ~、顧問のネーチャンか~。まぁベッピンさんやもんなぁ~。そ~やったか~」

 

 シュラはどことなく残念そうだった。探偵の活動そのものが目当てではないことを知れば、誰だってこのような反応は見せるだろう。

 

 両肘をついて頬杖をつくシュラへと、ベイリーフは頭部の葉っぱで撫で掛けていく。それを受けて彼女は微笑すると、気を取り直してこちらに喋り掛けてきた。

 

「ウチはな、みんなの役に立ちたいと思うてこの部活を立ち上げたんや。悲しそうな顔、俯いた目、晴れない表情、湧き上がる怒り。ウチはな、知能を持つ生き物である以上は切っても切れない感情っちゅーモンに興味がある。特にナーバスな感情は誰にでも付き物や。精神や思考を蝕んで、身も心も追い込んでいく。感情は、生き物を簡単に支配できる。それに吞み込まれたらもう、どないに(たくま)しい生物でも抗えへん。ウチはな、そんなSOSの信号を見落としたくないんや。困っとる誰かがおるんなら、ウチが全力で駆け付けて助けたい!! そないな存在でありたいと思うて、林檎探偵俱楽部を発足したんや」

 

「とても素敵な考え方だと思う。助けが必要な時は誰にだってあるから、そんな時に頼れる存在が居てくれると心強いよね」

 

「ただ!! ただやで!? おらんねん!! ウチを!! 林檎探偵俱楽部を頼る誰かが!! 学園の!! みんなは!! 意外と!! (したた)かやねん!! なんか自己解決しとる!! なんでや!? ニンゲン、そないに強くあらへん生き物やろ!? どーして誰も困っとらんの!? そういうモンなんか!?」

 

「それは、ほら……もしかしたら誰にも言えずに一人で抱え込んじゃってるだけかもしれないし、誰かに相談するのが大変とか、恥ずかしいとか、申し訳ないとか、色々と思うところがあって切り出せないでいるだけかもしれないし……」

 

「ウチは痛感したんや。頼ってもらうには結局、知名度や信用が必要なんやって。ほな、それらはどないして上げていくのか。答えは簡単や。それは、部員を増やすこと!! せやから、ウチの演説に共感してくれたんやったら是非とも林檎探偵俱楽部に入部をやな――」

 

「何というか、活動の目的が人助けからメンバー集めに入れ替わっちゃっている気がするというか。多分だけど、ちょっと必死過ぎるところが敬遠されている理由なのかも……?」

 

 シュラは脳天に稲妻が落ちたようにフリーズしてしまった。

 

 暫しと硬直した彼女。直にもシュラは唐突に涙を流し始め、それを呟いていく。

 

「ッ……なんやジブン、正論ばかりやとモテへんで。人の心とかないんか?」

 

「え、いや! 別に泣かせたかったわけじゃ!」

 

 焦る自分を脇目に、ジト目のラミアとメーが口を開いてくる。

 

「あー、カンキさんが女子を泣かせましたー」

 

「ね~、女の子は正論じゃなくて共感を求めてることを知らないのかな~?」

 

「え、えぇぇぇ……!!!」

 

 心なしか、隣にいるリオルも渋い顔をしている。改めて周囲を見渡してみると自分以外が女子であるこの空間において、自分は意識しない内に孤立してしまったことを自覚した。

 

 な、なんとかしなければ。フォローを入れるべく言葉を必死に選んでいくその最中、この気まずい沈黙を破るように部室の扉がノックされた。

 

 瞬間、シュラは何事も無かったかのようにケロッとしながら猛ダッシュで駆け付けた。そして持ち前の活発さで一人の女子生徒を迎え入れると、部室に集まるこちらへと声を投げ掛けてきたものだ。

 

「依頼人が来よったで~!! 久しぶりの仕事や~!! やる気出てきた~!! ほらジブンら、依頼人が座るから席空けて!! ほんで今から見習い探偵に任命するから、皆で仕事するで仕事!!」

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