アップルアカデミーの初日は、オリエンテーションを中心とした一日だった。主に施設や規則、授業などの説明に時間が割かれていく。その最中にもアラマキは教壇からクラス内を見渡しながら、口角を吊り上げた表情でそれを口にしたものだ。
「せっかくこうして全員が揃ってんだ。ここらでいっちょ、皆に軽い自己紹介でもしてもらおうかね。おっと、そんな身構えんなって。ポケモントレーナーを目指すモン同士、夢でも語り合おうや」
アラマキの提案から始まった自己紹介は、彼の進行で滞りなく行われた。先んじて数名が教壇に呼ばれると、次にもメーが選ばれて彼女は教壇の方へと移動した。
緊張する様子など伺えず、むしろ悪戯に微笑んでいるメー。彼女は右手でギャルピースを作ると、先程の会話と同じ調子で簡単な自己紹介を行った。
「うぇーい! どうも~、メーでーす。あたしは最強のポケモントレーナーを目指すんで~、皆の衆、よろた~ん!」
「おぅ! メーちゃんの意気込みが十分に伝わってくるぜ! そんなメーちゃんに改めて質問だが、メーちゃんが目指すポケモントレーナーとは一体どんなモンか、具体的に教えちゃくれねぇか?」
「そりゃあ、もち! あたしが目指すポケモントレーナーは、有名になって、お金も稼いで、ウハウハで楽しい人生を送れる最強のポケモントレーナー!」
「素直でよろしい! バトルを
「あざーっす!」
メーの紹介が終わると、少ししてラミアが教壇に呼ばれた。
「どーも、ラミアと言います。よろしくお願いします」
「おぅ! よろしく頼むぜ、ラミアちゃん! ラミアちゃんに早速と質問だが、ラミアちゃんが目指すポケモントレーナーとは一体なんぞや、教えてもらえるかい?」
「ウチはメーさんに誘われてコチラに進学しただけなので、具体的な目標は特に決まっていません。ポケモントレーナーの専門的な職業を目指しながら、就職に困らない程度に頑張る予定です」
「一口にポケモントレーナーと言えども、そいつぁバトル、冒険、コンテスト、ポケスロンと有り方は多種多様だからな。一つに絞らず、自分にできるもの、合っているものをこの学校で探していく。とても現実的な考え方でオレちゃん良いと思うぜ! オレちゃんも全力でサポートするから、いつでも頼ってくれよな?」
「ありがとうございます」
ラミアの紹介から程なくして、自分が教壇に呼ばれた。
いつになっても慣れない自己紹介の場。程々の緊張を抱え込みながらも深く息を吸い込んでから言葉を発していく。
「初めまして、カンキと言います。ポケモントレーナーの免許証を取ってから間もない身分ですが、皆さんと一緒に頑張ります。よろしくお願いします!」
「おぅ! こいつぁ期待の新星だな! よろしく頼むぜ、カンキちゃん。さて、ポケモントレーナーに成り立てのカンキちゃんへ質問だが、カンキちゃんが目指すポケモントレーナーとは一体なにか、オレちゃんすご~く興味あるんだが~?」
ポケモントレーナーになりたい。それを強く思ってこの道に踏み入れたものだが、いざ自分のなりたい姿が何かを問われると途端に自信を失ってしまった。
自分はどうしてポケモントレーナーという道を選んだのか? 自分は何を思ってポケモントレーナーになろうと決めたのか?
刹那の思考が、真白の脳内に駆け巡る。そんな状況の最中にふと
自分がポケモントレーナーを目指す理由。ポケモンと俺を結び付けたそのキッカケ。
「俺は……困っている人々やポケモンを助けられるような存在になりたいと思って、ポケモントレーナーという道を目指すことにしました」
「素晴らしい! 助けること自体はポケモンセンターやポケモンレンジャーとかいろんな選択肢があるモンだけどよ、オレちゃんは思うんだ。ポケモントレーナーのフットワークの軽さは、どんな職業にも勝るってな。免許を取ったのにも
「あ、ありがとうございます」
自己紹介の時間も終わり、時刻も気付けばお昼時。チャイムが鳴るとアラマキは昼休憩を言い渡し、名簿を持って颯爽と教室を後にした。
自分の隣に座るラミアへと、メーが近付いてくる。それから二人は軽い雑談を交わしていくと、ふとメーがこちらへ振り向いてそれを提案してきたのだ。
「カンキくん、おつー! メシとかどうする~ん?」
「ご飯は学食で済ませようかなって考えていたところだよ」
「じゃ、あたしらとメシ食いに行かね?」
「え? でも二人の邪魔にならないかな?」
「なんないって! ラミアもいいっしょ?」
メーの問い掛けに、ラミアは「別にイイですよ」と淡泊に答える。その返答を聞いた自分が「それなら」と言うと、メーはウキウキとした様子で頷いたものだ。
ラミアは黒色で大容量のトートバッグ、メーはアイボリーのショルダーバッグを提げなら自分と共に教室を出た。昼休みということもあって、校舎や庭はアップルアカデミーの生徒やポケモンで溢れていた。皆がのびのびと過ごしていく中で、外に出たメーも背を伸ばしながら言葉を口にする。
「ん~っ、まだなんもしてないのに疲れたわ~! それに、相棒もずっとモンスターボールの中に閉じ込めっぱなしだから可哀想になってくる。だから今の内に解放しておこっと! 出ておいで! ミズゴロウ!」
メーは取り出したモンスターボールを天高く投げ付ける。するとボールがパカッと開き、光を伴いながら一匹のポケモンが着地した。
独特なエラを持つ、水色の体色が愛らしい両生類のポケモン。ボールから出てきたミズゴロウは、待ってましたと言わんばかりにその場で飛び跳ねながら自由の身を心から喜んでみせる。
続けてラミアがモンスターボールを取り出し、ポイッと投げていく。そのフタも開かれると光を放ち、低空で浮遊する一匹のポケモンが姿を現した。
小さな花弁と
「キラーメはご存知ですか??」
「今、初めて見たよ。こんなポケモンもいるんだね」
「シナノ地方ではあまり見かけないと思います。カンキさんもリオルを出してあげたらどーでしょーか??」
ラミアの問い掛けに、メーが横から「あ、見たい見たい!」と口を出してくる。二人の催促を受けて自分もモンスターボールを取り出すと、親指でフタを開きながら“彼女”を繰り出した。
光を伴って現れたリオルは、広大な学園のど真ん中に降り立つことでその光景に圧倒されていた。周囲を見渡しながら唖然としている間にも、横から興味深そうに眺めてくるメーの視線にやっと気が付いていく。かと思えばリオルは急にハッとして、機敏な動作でこちらの脚に縋りついてきた。
……いや、縋りつくというよりは、警戒していた。まるで、こちらを守るかのように。リオルはその小さな身体で、こちらと彼女達を遮るように佇んだ。目つきもどこか緊張していて、ジリジリと二人を見つめている。
リオルの様子にラミアとメーは疑問を抱いていく。そして女の勘だろうか、間もなくしてメーは合点がいくように納得した様子でこちらに訊ね掛けてきたものだ。
「ねね、もしかしてカンキくんのリオルってメスだったりする?」
「そうだね。どうして分かったの?」
「えー? そりゃあ、ねぇ~?」
メーがニヤつき、ラミアと目を合わせていく。それからメーは小悪魔的に微笑みながら言葉を続けてきた。
「リオルはね、カンキくんが他の女に取られるかもって思ってピリピリしてるっぽいよ?」
「え?」
自分は視線を下げていく。リオルはちょっとだけこちらと目を合わせるが、余裕の無い様子ですぐさまラミアとメーの二人へと向き直り、けん制するようにジリジリとしたオーラを出し続けた。
そんな様子を見たメーは途端に玩具を見つけたかのような眼差しを向け、リオルと目を合わせるように屈みながらそれを喋り出す。
「えーん、チョーカワイイー!!! ほら大丈夫だよ~? カンキくんを横取りしたりしないから、そんな顔しないで~? ね~?」
メーの