ショウホンジムの挑戦に向けて、本格的な特訓に乗り出した自分とラミア、メーの三人が街中に繰り出していく。シュラも街中で発砲事件の聞き込みを行うと言い、ナコもまた皆が行くなら自分も行くという理由で同行し、自分達は相棒のポケモン達を連れながらショウホンシティを練り歩いていた時のことだった。
自分達も参加しようか。そんな話をラミアやメーと交わしていく最中にも、ラルトスを抱き抱えているナコが視線を他所に投げ掛けながら訝しげな調子で言葉を口にしてきた。
「なに、あれ……」
半ばドン引きしている様子の少女に、一同が振り向いていた。そこに展開されていたのは、敷いたビニールシートの上でプラカードを掲げる二人の男性達という光景。だが、様子のおかしさから明らかに場違いな存在感を放っていたものだ。
堂々と掲げたプラカードには、『ポケモンの根絶!』『世界は人類のものだ!』という文字が大々的に書かれていた。過激な思想に、周囲の人々やポケモンは彼らを避けるように通り過ぎていく。だが二人は、演説するように大声で呼び掛けを行っていた。
「ポケモンの存在を許してはならない!!! 野生的な本能! 強靭な身体能力! 獰猛な爪に牙! 人智を超えた超能力! ポケモンは人類に有害な生物であり、排除しなければならない! ポケモンという存在が人類を恐怖に陥れていることを、我々は理解するべきだ!」
「SNSやニュースで報道されているポケモンの被害から、我々は目を逸らしてはいけない! ポケモンは人類を容易く傷付ける非道な生き物だ! ポケモンは凶暴で残忍な生き物であることを、我々は思い出さなければならない! ポケモンのいない世界にこそ、平和が訪れる!」
彼らの主張に、メーが小声で「マジなんなの? 最悪なんだけど」とキレ気味に呟いた。ラミアも不愉快そうに眉をひそめて眺め遣る最中、シュラはまじまじと男達を眺めていく。
そして、次にも彼女はこちらに言葉を投げ掛けてきた。
「真面目なニーチャン、覚えとるか?? 事件があった日、ジムリーダーのネーチャンのカエンジシが持ってきた靴のこと」
「え? あぁ、確かに靴を持ってきてたね。逃走中に脱げた犯人の靴らしき物だと思ってたけど……」
自分は男達の靴に注目していく。だが、彼らの靴とカエンジシが持ってきた靴の見た目が一致しなかったため、不思議に思いながらシュラへと訊ね掛けた。
「でも見た感じ、靴は違うっぽいけど?」
「見た目はちゃうけど、“サイズ”が一緒やねん」
「え? サイズ?」
「せや、大きさが一致しとる」
「それ、見ただけで分かるの?」
「探偵の観察眼をナメたらアカンで?? ウチには分かる。靴のサイズがピッタリや。もしかするかもしれへんで」
そう言って、シュラはひとりで歩き出しながら言葉を口にする。
「ウチは不審なニーチャンらを見張るために張り込みするで。せやから、一旦別行動や」
「待ってシュラ! 一人だと危ないから俺も付き添うよ」
こちらの心配する言葉を耳にしたシュラは、振り返りながら活発的な笑みを浮かべて返答してきた。
「ほんまかいな?? おおきに、真面目なニーチャン!!」
ラミアとメー、ナコの三人と別れた自分は、シュラと共に広場の片隅で張り込みを行った。建物の柱に身を隠し、男達の動向を探ること数時間。昇っていた陽は徐々に落ち始め、次第と一日の終わりを予感させていく。
日中の日差しは強く、人によっては暑く感じたかもしれない。自分も息をつきながらシャツをハタハタさせて風を送り込んでいく途中、ふと眼前の光景に動きが生じた。
あの男達が諦めたようにプラカードやビニールシートを片付け、撤退を始めたのだ。シュラも身を乗り出して様子を伺っていくと、相棒のベイリーフへと合図を送りながらこちらに言葉を掛けてきた。
「尾行するで。バレへんようにな」
「わ、分かった」
足元にいるリオルも緊張を帯びた表情でこちらを見つめていく。そんな彼女の頭を撫でていく傍らで、シュラはベイリーフと共に柱の陰から飛び出した。
男達が背を向けて、広場から足早に去っていく。尾行するシュラとベイリーフも通行人のフリをしながら何気無い調子で歩き出し、男達を追跡し始めた。自分とリオルも目を合わせてから歩き出し、観光客の気分を意識しながらシュラの少し後ろを維持し続けた。
前進に苦戦する自分がもたもたしていると、付近の屋台から呼び止められることで意識が更に削がれてしまった。今も看板に乗ったパラスが可愛らしい屋台の店主に、視線を向けられながら声を掛けられていく。
「そこのあんちゃん! 揚げたてのキノコはどうだい!」
「え、あ、すみません! 今ちょっと急いでまして!」
「買うだけなら時間かからないから! どうだい!」
「用事を済ませてから、また後で来ます!」
自分は振り切るように屋台を通り抜けた。今も前方にはシュラと男達が見えているが、だいぶ距離を離されてしまった。足元のリオルはこちらの背中に飛び乗って、おんぶの要領でしがみつくことで離れないように工夫してくれた。
直にも男達は街道から外れた路地裏に曲がっていく。シュラも様子を伺うようにベイリーフを連れて路地裏に入り、自分も追い掛ける形でそこに踏み入れた。
非常に入り組んだ小道は、シュラの後を追うだけでも困難を極めた。最初は完全にシュラを見失ってしまったものだが、道中の地面にベイリーフが木の葉を落としてくれていたことで、それを辿りながら路地裏を突き進んでいく。
それをしばらく続けていると、次第とひと気のない雑木林に出てきた。街道の外れにある森林地帯は陰気なオーラを漂わせており、何か嫌な予感を抱かせた。
そこで自分は、スマホロトムを取り出して警察に電話した。内容は、この雑木林で不審な男達を見たというもの。電話越しの声は半分聞き流すように取り合っていたものだが、どうやらこの雑木林は犯罪の温床としても名高く、進入は控えるよう告げられた。
自分は了解し、通話を切っていく。その間も歩は進めており、主にベイリーフの足跡を目印にしてシュラとの合流を目指していた。
間もなくして、茂みに身を隠すシュラとベイリーフを発見した。後ろからやってきたこちらへと振り向いてきた彼女は、急ぎでしゃがむように合図してくる。自分とリオルはシュラの指示に従ってしゃがみながら近付くと、彼女は前方にある開けた地帯と小屋に視線を向けながら小声で喋り出してきた。
「不審なニーチャンらは、あの小屋に入っていったわ。中で何をしとるのかは分からんけど、近くに録画中のスマホロトムを忍ばせといたさかい、どないな動きを見せようとも証拠は持ち帰れるように手筈は整えとるで。……シッ!! 小屋から出てきよった!!」
自分らが茂みから目を覗かせるその手前で、開けた地帯の小屋から出てきた二人の男達は気の抜けた様子で会話をし始めた。
「あーあ、嫌になるなぁ。どうして誰もポケモンの恐ろしさを理解できないんだろう。ポケモンとの共同生活は知能の低下にも繋がるんだろうか」
「我々“マサクル団”が真理に到達しているだけの話だ。平和ボケした庶民共には到底理解の及ばない真実なのだろう。皆は現実から目を逸らしているだけの愚者だ」
「いつだったか、我々にいちゃもんをつけてきたトレーナーもいたもんだしな。ブイゼルもろとも、愚かな人間だったよ」
「救いの無い人間は、耐え難い苦痛で更生させるべきだ。彼の怪我に関しても、元を辿ればポケモンに行きつく。その適切な思考を兼ね備えていれば、自ずとポケモンを手放すだろう。我々の活動は清く正しい世界の創造に貢献している。ポケモンがいない、人類だけの
「感動した……! 拍手喝采だ……! 俺の家族はポケモンに殺された。ポケモンがいなければ、俺は今も幸せに暮らせていたはずなんだ。ポケモンのいない世界、誰もがその真理に辿り着ける未来を心から願っているよ」
「同胞よ、共に理想の未来を築き上げよう。在るべき世界を、この手で作り出す」
「それが、マサクル団の野望! マサクル団に乾杯!」
男達は会話を交わしながら歩き出す。来た道を引き返すように歩を進めた彼らだったが、ふとした違和感に気付いたのか双方共に黙りこくって周囲を見渡し始めた。
どうやら、尾行した自分らの足跡を発見したようだ。男達が冷淡な眼差しを向けながらこちらの茂みを見据えていくと、直にもシュラは勢いよく飛び出しながら大声でそれを言い切ったものだ。
「
シュラは録画中のスマホロトムを自身の下へ引き戻し、彼女の隣にはベイリーフも並び立つ。自分も急いでリオルと共に飛び出していくと、それを見た二人組の男達は驚きを見せた。だが、彼らは一瞬だけ動揺を見せたものの、次第と余裕のある様子で佇みながら言葉を口にしてきた。
「愚かな。我々の活動に異論を呈するなど、愚者の極みとも言えよう。ならば、思い知るがいい。我々が掲げる理想の重大さ。ポケモンという生物が如何に凶悪で、人類に仇なす存在であるかということを!」
それを言うと、男達は服を手で掴むなり脱ぎ払った。
次にも現れたのは、栗色のコートに身を包んだ男達の姿。フェイスベールで顔の下半分を覆い隠し、胸元にはMのロゴが大々的に主張されている。彼らは正体を明かすなり、左手にはモンスターボール、そして掲げた右手の指で鉄砲のような形を作りながら高らかに宣言してきた。
「我らはマサクル団!! 我らが掲げる理想に基づいて、障害となる存在を抹消する!! 我らの判断は、世界の条理!! これより、正義を執行する!! “