退院の当日を迎えた自分は、手近な荷物をまとめて出発の準備をしていた。ベッドの周辺も確認して万端になると、病室が開くなり複数名の足音がこちらに向かって歩いてくる。
ナースのラッキーに案内され、ラミア、メー、シュラ、ナコ、そしてショウホンジムのジムリーダー・ハオマが顔を出してきた。彼女らの足元にはリオルとヨーギラスもいて、特にリオルはこちらを発見するなり飛び付いて再会を喜んだ。
ヨーギラスもクールに振る舞う中で、ハオマが柔和な調子で喋り掛けてくる。
「カンキ君! 久しぶり! この前は調査に手伝ってくれてありがとね! それと、今回も大変だったね……! もっと早く顔を出しに来るつもりだったのに、遅くなってごめん!」
「お気遣いありがとうございます。おかげさまで、怪我も治りました」
「わー! それなら良かった! ショウホンシティの景色を眺めながら療養できただろうから、たぶんいつも以上に元気いっぱいになってるよ! ショウホンシティに住み続けてうん十年の私が保証するから!」
ハオマはふんすっと自信満々に鼻を鳴らしながら胸を張ってくる。とても誇らしげに見える彼女の様子に自分は苦笑していくその手前、ハオマはふと神妙な面持ちに切り替えて言葉を続けてくる。
「……ありがとね、体を張ってくれて。その勇気は、年上の私だって見習いたいくらいだよ。キミだって怖かったでしょ? でも、キミの行動にはちゃんと意味があったんだ。キミはショウホンシティの治安とみんなの命、両方を救ってくれた。カンキ君の勇気ある行動で、多くの人やポケモンが救われたんだよ」
「そう言われると、なんだか照れますね……」
「なので!!! このあと表彰式をやろうと思います!!!」
うわビックリした。自分はハオマの切り替えにビクッと驚きながらも彼女の言葉に耳を傾けていく。
「犯人逮捕に協力してくれたカンキ君とシュラちゃんに、感謝状を贈呈したいって警察の人達から言われてるんだ。私も同じ気持ちだよ? だから、カンキ君の体調が良ければ表彰式に参加してくれないかな?」
「あはい、体調は問題ありませんので参加できます」
「やった!! それじゃあこのまま警察署に行こっか!! レッツゴー!!」
ハオマの勢いに押されるまま、自分は退院を済ませて警察署に直行した。そこでは感謝状の小さな授与式が準備されており、自分とリオル、シュラとベイリーフが立ち並ぶことでささやかな表彰式が行われる。
とても小さなイベントだったが、マサクル団という組織の事件関与が世間の興味を引いたらしく、複数名の記者が集まっていた。そこで自分らが最初の発砲事件から探偵として調査していた旨を伝え、ハオマも補足や説明を手伝い、最終的に銃撃を受けながらも生還、自分らの活躍によってマサクル団の悪事を咎めたという話の流れに至った。
熱心に話を聞いていた記者の数名から質問を受け、自分は緊張混じりに受け答えをする。一方でシュラは堂々としながら受け答えを行い、節々で林檎探偵俱楽部の宣伝も欠かさなかった。そうして小さな表彰式が終わると、解散する記者達の傍らでハオマはやり切ったように息をつきながら喋り出してきた。
「ありがとね! カンキ君! シュラちゃん! リオルもベイリーフも頑張ったね! ラミアちゃんとメーちゃん、ナコちゃんも付き添ってくれてありがと! おかげさまでいい絵が撮れたよ~。たぶん全国的に報道されるから、これで一躍有名人だね!」
「えっ」
自分が声を漏らす中、シュラは部員が増えるかも! と喜んでいた。ナコはちょっと複雑そうに眉をひそめていたが、部長の様子にどこか絆されているようにも見えた。ラミアとメーもこちらをイジるように言葉を投げ掛けてくる最中、ハオマは純粋な笑顔を浮かべながらそれを口にしてきたものだ。
「初めて会ったのはジムの入り口前だったよね! その時から、なんか予感がしてたんだ~。後出しじゃんけんみたいで良くは聞こえないかもしれないけど、なんだかこの人達とは良い意味でも悪い意味でも、今後も関わりそうっていう女の勘が働いていたのだよ! ……本当に大変だったね。でも、よく頑張ったと思う。カイム君からも聞いたけど、ハクバビレッジでも色々あったんだってね。こういうの、何て言うのかな。悪運? 強運? あ、カイム君から
ハオマは柔和な調子で言葉を続けてきた。思い浮かんだ言葉や話題をどんどん繰り出してくる彼女に自分らが相槌を打っていく中、ハオマは次にも柔らかく微笑みながら言葉を告げてきた。
「だからだろうね。キミ達の成長が、すごく楽しみなんだ。この中でジム巡りしてる人ってどのくらいいる? もしもショウホンジムに挑むとなったら、私は誰よりも優先してキミ達の挑戦を引き受けるよ。だって、純粋にキミ達と戦ってみたいから。キミ達の覚悟を、この身体で受け止めたいから。悪いけど、その時は手加減できないからね。ほのおタイプの調教師として、私は全身全霊でキミ達に立ちはだかるよ。今回の件があったから尚更、本気のキミ達を見てみたい。私も本気で臨むから、挑む時は教えてね! 最高のコンディションで、キミ達を迎え撃つから!」
温かなオーラに垣間見えた、譲れないもの。ハオマはキリッとした表情でえっへんと腰に手を当ててみせると、最後に別れの挨拶を添えて踵を返していった。
歩き去る彼女の背中を、自分は揺らぎなき闘志と共に見送った。おそらく、次の課外授業でショウホンジムに挑むこととなる。自分は入院で療養していた分、そこで緩んでいた気持ちを改めて引き締めた。
ハオマと別れた一同は、ナガノシティに帰るための駅を目指して歩を進めていた。本日は課外授業でもない普通の休日だったため、悠長に留まっていられなかったからだ。今も足早に歩く中で、自分はラミアとメーにお礼を告げていく。
「リオルとヨーギラスの面倒を見てくれてありがとう。とても助かったよ」
こちらの感謝に対して、彼女達はいつもの調子で答えていく。
「別にイイですよー。ウチのキラーメとニューラは両方ともオスですから、リオルと女子会できたのは新鮮で楽しかったです」
「アタシのトコでも、ヨーギラスは良い思いしたもんね~? 一緒に写真撮ったり、美味しい物を食べたり、お風呂にも一緒に入ったもんな~?」
連れ歩きで同行しているヨーギラスが、ぷいっとそっぽを向いていく。その仕草に対してメーは、「おやおや? もしかして照れてるのかな~?」と揶揄い気味に訊ね掛けると、彼は少しだけ気まずい様子でしかめっ面をしたものだ。
ラミアの所で過ごしたリオルは、とても楽しそうに反応してみせた。同じ女子として、積もる話があったのだろう。たまにはこういう機会も悪くないのかもしれないと自分が思っていくその最中、何やらシュラは堪え切れない調子でこちらに声を掛けてきたものだ。
「に、ニーチャン!!」
「シュラ? どうしたの?」
「あ、あのな……っ」
彼女らしくない、モジモジした様子。隣を歩いていたナコもラルトスを抱えた姿で不思議に思う中、シュラは目を泳がせながら言葉を続けてくる。
「……た、助けてくれて、ありがと!! ニーチャンが盾になってくれなかったら、ウチはタダで済まんかったと思っとる……!!」
「シュラが無事で何よりだった。怪我したのが俺だけで良かった。一時はどうなるかと思ったけど、結果的に大団円で終わって安心したよ」
「せ、せやな!! それでやけどな……っ」
足を止めたシュラが、何か悩むように俯いていく。その様子に一同が首を傾げて伺うと、次にもシュラは思い切った調子でそれを告げてきたのだ。
「う、ウチ……ニーチャンに惚れたわ!!! 完っ全にべた惚れや!!! もぉ我慢できひん!!! ウチ、ニーチャンの事が好きやねん!!!」
「え、えええ!?」
瞬間、シュラはこちらに飛び付いて抱き締めてきた。突然の出来事にラミアとメーが困惑とトキメキで黄色い歓声を上げていく傍ら、一番と衝撃を受けたのは足元にいたリオルだった。
ガビーンッ!!! 彼女にショックが訪れる。シュラが力強く抱き締めてくる状況に自分は満更でもない気分を覚えたものだが、それ以上に後が怖くて仕方なかった。
リオルは慌てて、シュラを引き剥がそうと彼女の脚に掴み掛かった。だがシュラはシュラで体重を乗せて動かないようにしていたため、暫くはシュラとリオルによる一進一退の攻防が繰り広げられた……。