ショウホンシティの病院を出て、アップルアカデミーに復帰してから数日が経過した日のことだった。
昼食終わりにポケモンバトルを行うべく、ラミアとメーの二人と共に校庭のバトルコートを目指していく自分ら。リオルやキラーメ、ミズゴロウもやる気満々な様子で張り切っていると、不意に他所から声を掛けられた。
「よぉ! カンキぃ! カンキやないかぁ!」
「オキクルミ!」
今もこちらへと歩み寄るオキクルミの傍には、相棒のシビルドンが浮遊していた。知った仲である自分らは気楽な面持ちで向かい合っていく最中、オキクルミはケラケラとした笑みを浮かべながら喋り出してきたものだ。
「見たでぇ! ネット記事! オタクとリオルの嬢ちゃん、立派に映っとったわぁ! せやけど、銃撃を受けたっちゅうのが衝撃的やったわ。ほんで、どこ撃たれたん? ワシ、ハジキの生傷を見てみたくてしゃあないわ!」
「いやいや……見せるとしても撃たれたのは背中だから、ここじゃあ服脱げないよ」
「せやったら、今度二人で銭湯にでも行こ! 積もる話もあるさかい、男同士で語らおうや」
「是非とも」
自分が前向きに受け答えをしていく中で、ふとオキクルミは眼光をギラつかせながら話題を変えてくる。
「こうして顔ぉ合わせるのが久しく感じるわ。ワシのおらん場所で過激派組織ともカチ合って、命懸けの修羅場も潜り抜けた。ほんま、大した男やで。こないな漢気を見せ付けられたらワシ、もっとオタクのファンになってまうわ。やけど、入院が続いてその身体……ナマっとるんちゃうか? 次はショウホンジムに挑むんやろ? ポケモンのコンディションが整ってても、トレーナーが不調やったらポケモンの全力引き出せんやろ。んなことになったら、ポケモンが可哀想や。せっかくの大一番で、実力を発揮できないんやからな」
オキクルミは八重歯を剥き出しにしながらこちらに近付いてきた。ギラギラに輝かせた眼光をかっぴらいて、今にも目の前の獲物に齧り付かんとする気迫を纏いながら、彼は挑発するような眼差しを向けて言葉を続けてくる。
「ツラ、貸してもらうで。カンキの腕が鈍っとらんか、ワシが見定めたる」
「むしろ、願ったり叶ったりだよ。新しいエースでオキクルミ相手にどこまでやれるか、試してみたかったんだ」
校庭のバトルコートに移動すると、自分はオキクルミと対峙するよう配置についた。
審判は銀嶺会の不良生徒。オキクルミはクイックボールを取り出しながら、向かい側にいるこちらへと言葉を投げ掛けてくる。
「ルールは一対一のガチタイマン!! 交代も道具も無し!! 先に相手のポケモンを倒した方が勝ちや!! 前の時と同じルールさかい、これ以上の説明は要らんやろ」
そう言い、オキクルミは期待による高揚感で野生的な笑みを浮かべてきた。
「カンキとのタイマン勝負はうずうずしてしゃあない! 今もボールん中におるワシのポケモンが、我慢できずに早く出せぇと訴え掛けとる! ワシも同じ気持ちやでぇ! のぉ、カンキぃ。ワレとのバトルは、ワシの闘志を強く呼び覚ますんや。もう収まらんで、この昂りは。――全力で来ぃや!!! ほんで、ワシを納得させんかい!!!」
オキクルミは勢いよくクイックボールを投げ付け、ポケモンを繰り出した。
登場したのは、ルクシオだ。コリンクの進化系で、前回の個体が成長した姿であることが伺える。
成長を続けているのは自分だけではない。自分がその一歩を踏みしめている間にも、周囲のライバル達もまた前進を続けているのだ。自分はそれを強く実感しながらモンスターボールを取り出すと、ショウホンジムでエースの大役を任せる相棒を繰り出した。
現れたヨーギラスは、赤いマントを靡かせながら隻眼を前方に向けていく。一方で、ルクシオのいかくは彼にとって若干のプレッシャーとなったようだ。僅かな萎縮は攻撃力にも影響が出てくるだろう。
互いのポケモンが出揃うと、審判の不良は双方を確認した後に開戦を合図した。
先手はオキクルミ。不利対面であるにも関わらず彼は果敢な調子でルクシオに命令を出していく。
「ルクシオ! とおぼえ! ガンガン行くための下ごしらえや!」
「ならば、ヨーギラス! りゅうのまい!」
最初の一手は、お互いに自己強化に努めた。ヨーギラスは赤黒いオーラを纏って攻撃性と俊敏性を高め、ルクシオは己の士気を高める一声で強気を高めていく。
それからルクシオは身構えると、オキクルミの指示と共に威勢よく攻撃を仕掛け始めた。
「ルクシオ! くさわけ!」
「ヨーギラス! バークアウト!」
くさタイプのわざエネルギーを足元に放ちながら接近を試みるルクシオに対して、迎撃のバークアウトを繰り出すヨーギラス。だが、くさわけによる素早さ上昇でルクシオは速度を上げると、バークアウトを飛び越える形で跳躍しながらヨーギラスとの距離を詰めてきた。
「あなをほる!」
咄嗟の判断にヨーギラスは応え、あなをほることでルクシオの突撃を回避する。くさわけは低下力でありながらも相性的に超抜群であるため、油断はできない。
地中に移動したヨーギラスは、すぐさまルクシオの真下から飛び出した。しかしオキクルミ、正攻法は決して通さない。
「ルクシオ! みがわりや!」
ヨーギラスが突撃したルクシオは、宙に浮き上がるや否やみるみると人形に変貌していく。みがわりを繰り出すことでその場から引き下がったルクシオは、高めた攻撃と素早さでヨーギラスに攻め立てる。
「こおりのキバや!」
完璧なプランだった。ルクシオはみがわりを攻撃したヨーギラスに向けてこおりのキバを直撃させた。痛手を食らったヨーギラスは回転しながら吹き飛ぶものの、なんとか着地をしてから反撃へと転じていく。
「がんせきふうじ!」
「ルクシオ! スパークでがんせきふうじを破壊しながら接近や!」
ヨーギラスががんせきふうじを繰り出していくが、放たれた岩石に向かってルクシオはスパークを纏いながら飛び出すと、降り掛かるそれらを破壊しながらヨーギラスに向かって一直線に突き進んでくる。
その勢いのまま、オキクルミは攻めの一手を命令した。
「こおりのキバ!」
「ヨーギラス! てっぺき!」
ルクシオがこおりのキバを伴って噛み付いてくるものの、ヨーギラスは鋼鉄を纏うことで相手の攻撃を完全に弾き返した。ヨーギラスも弱点を突かれて多少のダメージは食らったが、ルクシオもまた鋼の守りを突破できずに止む無く引き下がる。
オキクルミは俄然と眼光をかっぴらき、目前のバトルにのめり込んでいた。口角を吊り上げた野性的な笑みを浮かべて一層と前のめりになる彼は、戦況を見極める冷静さと共に次なる一手を繰り出してくる。
「ルクシオ! 焦らんでええ! じっくり行くで! まずはほえるでヨーギラスを遠のけるんや!」
オキクルミの指示に従い、ルクシオはほえるを行うことでヨーギラスを遥か後方へ吹き飛ばす。無傷であるそれを受けたヨーギラスが砂埃を舞い上げながら押し退けられていく手前、距離を空けたルクシオは再び自己強化へと努め始めた。
「とおぼえや! どんどんテンション上げてくでぇ!!」
「ヨーギラス! あなをほるでルクシオに接近するんだ!」
こちらの命令にヨーギラスも即座と行動に移していく。地中の移動にルクシオが警戒を強めながら様子を伺っていく中、次にも地面を突き破るよう、相手の背後から“それ”が飛び出してきた。
「ルクシオ! みがわりや!」
オキクルミの命令に従い、ルクシオは再びみがわりを繰り出すことで後方に引き下がる。だが、そうして引き下がったルクシオの足元が膨れ上がると、直後にもヨーギラスが飛び出してきて攻撃が直撃した。
一体、何が起こったのか。オキクルミが咄嗟に先程の“それ”を見遣る。
ルクシオの背後から飛び出してきたのは、がんせきふうじの岩だった。ヨーギラスが出てきたと勘違いさせるブラフに、オキクルミは瞳孔をかっぴらいた満面の笑みで言葉を口にする。
「カンキのやつ、がんせきふうじの岩をヨーギラスに見立ててワシらの行動を釣りよった!!! これぞまさしく、みがわりってか!!? ほんま、オタクら最高やなッ!!!」
吹き飛ばされたルクシオが地面に落ち、体勢を立て直していく。この隙を逃さないためにも自分はヨーギラスへと猛攻を指示した。
「ヨーギラス! がんせきふうじ!」
「ルクシオ! 正念場や! 気張るで! くさわけで攻撃を回避しながら直進や!」
ヨーギラスのがんせきふうじが降り掛かる中、ルクシオは素早さ上昇を伴いながら前進を始める。がんせきふうじを次々と避けながら確実に距離を詰めてくる相手を前にして、自分もまたヨーギラスに迎撃を命令した。
「ヨーギラス! とっしん!」
ヨーギラスのとっしんが、迫るルクシオのくさわけとかち合った。両者が衝撃で後方に吹っ飛ばされていく最中、自分はそこで生じた僅かな隙に勝機を見出していく。
「ヨーギラス! りゅうのまい!」
ヨーギラスは超抜群の攻撃を受けて苦悶の表情を見せながら、赤黒いオーラを纏って勝負を決めにいく。オキクルミもまた決着を予感すると、期待に胸を膨らませた野生的な笑みと共にルクシオへと命令を下していった。
「漢気勝負やで! これに打ち勝った者が、勝負を制する! ルクシオ! スパークや!」
数度のくさわけで俊敏性が飛躍的に上昇したルクシオ。その気合いを込めた雄叫びと共に一直線と駆け出すと、自分もまたヨーギラスへと命令を繰り出した。
「がんせきふうじ!!」
ヨーギラスは頭上に無数の岩を浮かび上がらせる。そこから、りゅうのまいで威力が上がった攻撃を一発ずつ発出することで、前進を続けるルクシオの往く手を遮った。
一発ずつと発出されるがんせきふうじを、ルクシオは力を込めながら打ち砕いていく。しかし、りゅうのまいで強化されたがんせきふうじは先のように容易く破壊することができなかったため、ルクシオは折を見て脇に逸れることで軌道から逃れようとした。
だが、そこに来てヨーギラスは頭上の岩を一気に真下へ落とした。ヨーギラスの姿はがんせきふうじで遮られ、様子が伺えない。
ルクシオは、岩で身を隠した状態からのあなをほるに警戒して足を止めた。
その瞬間だった――
「バークアウト!!」
ヨーギラスのバークアウトによって、一つの岩がルクシオ目掛けて押し出された。疑似的に発出された岩は、警戒によって足を止めていたルクシオに命中する。
真正面から岩を食らって後ずさりしたルクシオは、すぐに前方へと意識を向けた。だが、そこにはヨーギラスの姿が無く……。
「あなをほる!!」
膨れ上がる足元。ルクシオが異変に気付いた直後にも、飛び出してきたヨーギラスの突撃を受けて相手は宙を舞うように吹っ飛んだ。
着地するヨーギラスが、確信と共に佇んでいく。少ししてルクシオがバトルコートに落下すると、相手は戦闘不能となって力無く転がっていた。