白熱したポケモンバトルに決着がつき、訪れた沈黙が先程までの苛烈さを余韻として引き立てる。審判を務めていた銀嶺会の不良生徒も呆気に取られた様子で立ち尽くす中、暫くして動きを見せたのはオキクルミの方だった。
自身の脚を手で叩き、バチンッと軽快な音を響かせながら天を仰ぐ。表情は清々しいほどの笑みを浮かべており、とても愉快げに大笑いしながらおどけるような調子で喋り出した。
「ごっっっっっついなぁ!!! ほんま! ごっついわ! ワシのプランは完璧やった。常に戦況は有利のハズやった。なのに、結果はこれやで!!? ワシの練りに練った戦略を、カンキはアドリブの機転で上回ってきよった!!! ほな、どないすればええねん!!! こないな掟破りの対策見せられたら、感服を通り越して尊敬しかあらへんわ!!!」
オキクルミはヒィヒィ言いながら満足するまで笑い続けると、少し落ち着きを取り戻してからこちらに向き直り、拍手を送り出す。彼の拍手が端的に響き出すと、次第にも周囲の部下やラミア、メーなども拍手をし始めた。
ヨーギラスがクールに佇む傍らで、自分は気恥ずかしく思いつつも素直に照れていく。その手前でオキクルミはルクシオをボールに戻しながら、野生的な八重歯を剥き出しにして言葉を続けてきた。
「ええもん体験させてもろたわ! もう、ワシのすぐ後ろにカンキが迫ってきとる。このままやと追い抜かされるのも時間の問題や。ワシも悠長にしてられへん。この試合で喝が入ったで、ワシもバッジ四つで満足しとる場合やないな。恩に着るで! カンキ!」
「そこまで言われると、なんか恥ずかしいな……。でも、俺としても自分達の可能性に気付ける良い機会だった。またポケモンバトルしよう!」
「その意気や! ワシの見込んだ男がどこまで突き進むか、その快進撃を見せてもらおうやないか」
自分とオキクルミはバトルコートの中央まで移動し、握手を交わして健闘を讃える。お互いが晴れやかな様子で見つめ合う中、次にもコートの外からはカッコつけた青年の声音が投げ掛けられた。
「オキクルミ、軽薄な潔さは軟弱に見えるぞ」
一同が声の主へと振り返る。そこには一人の青年がギャラリーに混じっており、彼を認知した銀嶺会の不良生徒達は一斉に頭を下げながら挨拶を口にしてくる。
「お、“オロチ”の兄貴! お疲れ様です!」
オロチと呼ばれる彼は身長178cmほどの人物であり、着用している灰色ダメージロングコートのフードを深く被ることで顔の上半分を覆い隠していた。影となった顔の上半分には蛇のような鋭い両目のみが浮き上がっており、晒している顔の下半分から伺えた病的に青白い肌もまた印象的だ。服装は前述したダメージロングコートの前を留め、意味深に靡かせたコートの隙間から垣間見える黒色のスキニーパンツと灰色の長靴みたいなブーツというものだった。
彼の傍にはズルズキンが存在していた。また、彼の佇まいは非常に独創的であり、右手の親指、人差し指、中指の三本指を顔にあてがったポージングを行いながらそのセリフを続けてくる。
「この世は弱肉強食だ。如何なる勝負事であれ、敗者は勝者に跪く。それが世の理だ。オキクルミ、貴様にそう易々と敗北されては銀嶺会幹部の
「オロチなぁ、男同士の熱い戦いと友情に水を差すなや。オマエは勝敗に拘り過ぎやねん。あと、いちいち難しい言葉遣いもやな」
「フッ、オレ様の崇高な理念を理解できないとは、貴様も落ちぶれたものだな」
「やかましいわ。その気取った口ぶりもくどいねん。ワシはな、オマエみたいに表面上の勝ち負けだけを見る男やない。重要なんは、中身や!」
「銀嶺会幹部という玉座に選ばれし貴様は、同等となる責任が伴っている。こいつは、高みへと上り詰めた実力者に付き纏う
「プライドだけでメシぃ食える程、世の中は甘くあらへん。自分や現実を受け入れられる器の大きさも、強さのひとつとちゃうか」
「プライドの意味を傲慢さだと履き違えているようだな。プライドとは、結果だ。ステータスだ。積み上げてきた
「はー、アホくさ。自分も相手も認めてこその世の中やろ。オマエの考え方なら力は誇示できるやろうけど、お高くとまってたら人としてナメられるで」
オキクルミはタメ息をつき、呆れた様子でこちらに振り返りながら言葉を掛けてくる。
「あのやかましいフード男はオロチいうて、三人おる銀嶺会幹部のひとりや」
「じゃあ、オキクルミと同じ立ち位置の人なんだ?」
「立場上は、やな。せやけど、ワシは認めとらん。ヤツの思想に納得できひんからな。ただまぁ不本意やけど、ポケモンバトルの実力だけで言えばオロチとワシは同じくらいか。その実力で幹部の座まで上ってきた男さかい、そこだけは認めたる」
渋々といった具合にそれを口にすると、次にもオキクルミはこちらに拳を突き出しながらおどけた調子でお礼を告げてきた。
「ええ試合やったで。おおきにな、カンキ! 次のタイマンも楽しみにしとるで! ほな、また!」
彼は踵を返し、後方で待っていたシビルドンや周囲にいた銀嶺会の不良生徒達を連れながらバトルコートを後にした。自分がオキクルミを見送っていくその最中、ふと場に留まっていたオロチと目が合っていく。
……狙いを澄ましたかのような、注意深い目を向けていた。自分は嫌な汗をかきながらも彼に対して会釈をすると、そそくさと背中を向けてラミアとメーの下へと引き返したものだった。