校舎の庭で繰り広げられたポケモンバトルに、周囲の生徒達は何事かと集まり始めていた。ざわめきというよりはワイワイという言葉が近しく、皆は小声で会話したり指を差したりなど、面白半分の様子で先の戦闘を眺めていたものだ。
リオルという種族や、赤いマントを靡かせたヨーギラスなどに物珍しさを感じたのだろう、中にはスマホロトムで撮影まで始める者達もいた。段々と集まってきたギャラリーに二名の不良生徒達は肩身の狭さを感じて縮こまっていく傍ら、自分は駆け寄ってきたリオルとヨーギラスに言葉を投げ掛けていく。
「リオル! ヨーギラス! 良いバトルだったよ! 怪我とかしてない? 大丈夫?」
こちらの問い掛けに、リオルは健気に笑顔で応えてきた。ヨーギラスもいつも通りの様子でクールに振る舞ってくる。
二匹の様子に自分は安心しながら撫で掛けていた。しかし勝利の余韻も束の間、不良生徒達はひどく腹を立てた様子でこちらに大声を上げてくる。
「ひ、卑怯だぞ! 普通、使用ポケモンは一匹までだ! これはノーカンだ! ルールを破っている!」
「勝った気になるなよ、この野郎! オレ達が諦めない限り、まだ勝負は終わりじゃないからな!」
怒鳴る二人は周辺を見渡して、付近に落ちていた石ころを拾い上げてくる。それを手に持つと、彼らはこちらに向かって思い切り投げ付けてきた。
自分は多少と驚きながらも、リオルやヨーギラスに当たらないよう両腕で覆い被さっていく。だが、投げ付けられた石ころはこちらに到達する前に、“あるポケモン”によって跳ね除けられた。
とびひざげり。石ころに向かって放たれたわざが、それらを跳ね飛ばしていく。脅威を遮るように現れたポケモンは赤色のトサカを髪の毛のように頭で振り払い、腰パンの要領で履いている皮を持ち上げながら気だるげな様子で不良生徒達を睨み付けると、彼らは恐れ多い面持ちでそのポケモン、ズルズキンを見遣ったものだった。
直にして、カッコつけたような青年の声音が聞こえてくる。
「弱肉強食の
「お、オロチの兄貴……!」
不良生徒達が向けた視線を、自分も目で追いかけた。そこからは、以前にも対面した灰色ダメージロングコートの青年が意味ありげな足取りで歩み寄ってきており、深く被ったフードで顔の上半分を隠しながら気取るように佇んでくる。陰りの中に浮き上がった蛇のような瞳は小さくも鋭く、彼はこちらをチラッと見遣った後に含みを持たせた調子で不良生徒達へと言葉を掛けていった。
「見苦しいぞ、戦友。如何なる事情が背景にあろうとも、勝負に敗北した以上、貴様らに人権は無い。貴様らは屍なのだ。死した者に人権は適応されない。故に、異論があろうとも言葉を呑み込め。そして去るのだ。敗者は敗者らしく、無念と共に
「ですが兄貴、こいつは日頃から調子に乗っている厄介者で……!」
「幹部の玉座に君臨するオレ様の命令に従えないのか? ならば、反逆の罪で貴様らを銀嶺会から除名してやろう」
「ま、待ってくださいよ兄貴! それだけは勘弁してください! 後ろ盾が無くなっちまったら、どうすりゃあいいんすか!」
「貴様らの事情など、オレ様には関係ない。強者こそが正義だ。身の程を知れ、負け犬共」
「す、すんません! じゃあ自分らはこれにて……失礼しました!」
不良生徒達はオロチに頭を下げると、彼らは逃げるようにそそくさと駆け出していった。
自分はリオルとヨーギラスから手を離し、立ち上がっていく。その間にもオロチはこちらを鋭い眼光で見据えてくると、次にも右手で顔面を覆い隠しながら意味深に喋り掛けてきた。
「貴様はカンキといったな。情報は逐一と聞き入れている。随分とオキクルミに気に入られているようだな。今しがたまでは特別な実力を持たぬ凡人風情という認識だったが、銀嶺会を相手に怖気づくことなく立ち向かうその姿、敬意に値する。どうやら、貴様の評価を改める必要があるようだ」
オロチはこちらを試すような眼差しでセリフを口にする。トレーナー、リオル、ヨーギラス、こちらを構成する全ての要素を見定めるような視線は挑発的であり、必然的になめられているとも言えたかもしれない。
それはそれとして、自分はオロチに真っ直ぐと言葉を投げ掛けた。
「ズルズキンはアンタのポケモンだよな。さっきは助けてくれてありがとう。アンタのおかげで、俺もポケモン達も怪我をせずに済んだよ」
自分としては思ったことを口にしただけだった。しかし、こちらの感謝を聞いたオロチは直後、ひどく動揺しながら返答を行ってくる。
「な……っ!? べ、別に貴様の身を案じていたわけではない……ッ!! オレ様は、オレ様の信念に基づいた行動を起こしただけであってだな、お、おお、お礼を言われる事なんか何一つしてないからな……っ! そこのところは勘違いするなよッ!!」
オロチは目を泳がせながら、対応に困るような素振りを見せてきた。その様子を遠目で眺めていたラミアとメーは、お互いに耳を近付けながら小声で言葉を交わし始める。
「メーさん、あのヒト照れてますよね??」
「ね~。なんか意外とイジり甲斐あるカンジ?」
「褒められるコトに慣れてないんですかね??」
「ただカッコつけてるだけの人じゃないっぽいね~」
彼女らのクスクスとした会話に、オロチは一種の怯えを見せながらフードを深く被っていく。それから近くまで歩み寄ってきたズルズキンに安堵の表情を浮かべていくと、途端にして彼は気取った調子を取り戻しながら意味深に喋り出してきた。
「カンキ! 貴様の活動はオレ様も把握している。ショウホンシティでは凶弾に伏したようだな。その設定が非常に羨まし……じゃなくて、その数奇な運命こそが貴様を貴様たらしめるのだろうと、先のやり取りで吟味することができた。――オキクルミがその漢気に惚れ込んだ理由も、今となっては分からなくもない。貴様は持ち前の誠実さで周囲を照らす、言うなれば光属性の人間だ。それ
オロチは強気に見下すような視線を向けながら、言葉を続けてくる。
「オロチの名を忘れるな。弱肉強食の理において、貴様という対極の存在はオレ様の障害にもなり得よう。――これは警告だ。銀嶺会の幹部として、学園内で輝きを増す貴様に慈悲をくれてやる。己が存在意義のため、必要とあらばオロチの名において貴様を打倒することも厭わない。然るべき
オロチはこちらをいたぶるような眼差しで眺め、それから踵を返して歩き去る。ズルズキンも彼と足並みを揃えて歩き去るその背中を、自分は終始とクエスチョンマークを頭に浮かべながら見送ったものだった。