昼休みを告げるチャイムが鳴り響き、クラスの一同はのびのびとした雰囲気で教室を後にする。自分もラミアとメーの二人と共に食堂を目指して歩き、アップルアカデミー内の庭園に差し掛かった時のことだった。
連れ歩いているリオルが何かに気付くと同時にして、人目を引く絶世の美女が自分らの目の前を横切った。林檎探偵俱楽部の外部指導員を務めているユノが何気無く通りがかったため、自分は思わず声を掛けて彼女を呼び止めていく。
「あ、ユノさん!」
こちらの言葉を耳にしたユノは、凛とした面持ちで振り返った。ふわりと揺らめく乳白色の分厚いポニーテールと、所作のひとつひとつで振り撒かれる良い匂いが、男女を問わずに魅了する。リオルも見惚れる眼差しで相手を見遣る中、ユノは落ち着きを払った凛々しい声音で喋り出してきた。
「こんにちは。貴方達に気付かなくてごめんなさい、考え事に集中していたわ」
「こちらこそ、お忙しい中すみません! ユノさんの姿を見掛けたもので、つい」
自分があたふたと応じていく傍らで、メーが何か閃いた表情を浮かべていく。それからユノの様子を伺いながら勝気な調子でそれを提案してきたものだ。
「アタシら、これから昼メシなんすけど~。ユノさんも一緒にどうっすか?」
自分が驚きでメーの方へ振り向くものの、その問い掛けに対するユノの答えに自分は再度と彼女の方へ振り返っていく。
「そうね、じゃあお言葉に甘えて同席しようかしら」
「マジすか!? うぇーい! ユノさんが一緒とか、マジでテンション爆アゲなんだけど~!!」
メーが喜びで飛び跳ねている真横で、ラミアはユノへと「突拍子の無いお誘いですみませんねー」とフォローを入れていく。これにユノは「構わないわ」と返していくと、悠々としたオーラを纏いながらこちらに向き直ってきた。
「貴方達と過ごすひと時を求めていたの。じゃあ、向かいましょうか」
まるで神話の絵画に登場する女神が如き美貌と風格の持ち主であるユノという存在は、食堂に集まった人々やポケモンの関心を強く引いていた。
周囲からの視線が非常に突き刺さる空間の中、自分は若干と緊張を帯びながらテラス席で食事を行っていく。足元ではリオルやキラーメ、ミズゴロウがモリモリとご飯を食べ進めており、周囲を全く気にしていない様子だった。ラミアとメーも興味津々といった具合にユノへと様々な質問を投げ掛けており、話が弾む穏やかな雰囲気に包み込まれていた。
終始と凛々しい対応を見せていくユノは、こちらも気に掛けながら会話を行っていく。そうして話がひと段落したタイミングを見極めると、ふと彼女はお礼の言葉を投げ掛けてきたのだ。
「ありがとう、カンキくん、ラミアさん、メーさん。私は貴方達と巡り会うことができた運命に、言葉では伝えきれないほどの多大な感謝を抱いているの」
ユノの切り出し方に自分らが目を合わせて戸惑う中、ユノは言葉を続けてくる。
「ナコちゃんがラルトスを迎え入れたそのキッカケに、間違いなく貴方達が携わっていることでしょう。課外授業でショウホンシティに同行し、ラルトスと運命的な出会いを果たしたナコちゃんは、その出来事を皮切りにして短期間で見違えるほど成長したわ。――私は彼女の行く末を案じていた。ナコちゃんは、私の親愛なる友人の妹であり、義妹のように大切な存在。彼女が理想と現実の狭間で葛藤し、誰にも相談できずに独りで自分自身と戦い続けた姿を身近で見届けてきたからこそ、彼女がその一歩を踏み出し、新たな可能性に希望を見出してくれたことを、私はとても喜ばしく思えた」
ユノは凛々しい面持ちで微笑しながら、自分達へと感謝を告げてくる。
「ナコちゃんに希望をもたらしてくれた貴方達は、私にとっての救いとも言える存在。そんな貴方達に、私は最大限もの感謝を表しましょう。本当に、ありがとう。そしてどうか、これからも友人としてナコちゃんと関わり合ってくれると嬉しいわ。彼女も言葉にしないだけで、貴方達にとても感謝をしているでしょうから」
一切と揺らぎを見せない真剣な黒色の瞳を向けたユノは、恥じらいもなく先の言葉を繰り出した。それらを聞いた自分らの方が視線を逸らして照れていくと、お互いがお互いを見つめながらなぁなぁの雰囲気で言葉を口にしたものだ。
「俺はそんな、大層な事は何もしていませんよ! ナコちゃんが自分で決めて、自分で努力して掴み取った結果だと思いますので……!」
「ウチに関しては、ホントにナニもしてませんからねー。ですけど、ナコさんのキッカケとしてお役に立てたなら、まー素直にお礼を受け取っておきます」
「なんつーのかなぁ……ユノさんってなんか大袈裟じゃね~? アタシからすれば、ナコちゃんをずっと見守ってきたユノさんの方がスゲーと思いますけど~……!」
各々の反応を眺めていたユノは、絶世の美貌で申し訳無さそうに苦笑する。口元に手をあてがってフフッと鼻を鳴らした彼女は、気を取り直すような凛々しい面持ちで自分達を見遣ってきた。
「気を遣わせてしまったかしら。その人間性も、私は純粋に評価しているわ。ナコちゃんに良いキッカケをもたらしてくれた人物が貴方達で本当に良かった。この巡り会いに感謝をしましょう」
ユノは水を飲み、一息ついていく。そうして僅かの間を置くと、次にも彼女はこちらを見据えながら喋り出してきた。
「カンキくん、傷は痛まないかしら」
「傷、ですか? もしかして、ショウホンシティで撃たれたところの……?」
「えぇ、話は伺っているわ」
「そうでしたか。傷の方でしたら大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます」
「貴方が無事で良かった。マサクル団を追跡している身として、貴方の出来事も決して他人事ではないものだから」
「それって、どういう意味ですか……?」
こちらの問い掛けに対して、ユノは脚を組んだ悠然とした姿勢で、清々しいほどにはぐらかしながら言葉を続けてくる。
「ショウホンシティのジムに挑むとしても、かの地に潜在的な恐怖を覚えてしまえばジム巡りも困難を極めるでしょう。そこで私から提案だけれども、もし差し支えがなければ、次の課外授業は私も同行していいかしら」
「え? 構いませんけど……」
ユノの提案に真っ先と食い付いてきたのはメーだった。身を乗り出しながら「マジで!?」と声を上げていくと、直後にも嬉しさのあまりにラミアへ抱き付きながらユノの同行を歓迎していく。ラミアもまた「メーさん、髪が崩れます」と抱擁に抵抗を示しながらも、ユノの同行については賛成してこちらを見遣ってきたものだから、自分はユノにお礼を伝え、次回の課外授業で合流する約束を交わした。
ショウホンジムへの挑戦も、間もなくだ。