課外授業の当日を迎え、自分はリオルを連れ歩きながらナガノシティのターミナルステーションに向かった。集合場所には既にラミア、メー、シュラ、ナコ、ユノと勢揃いしていて、時間ピッタリに到着した自分が逆に申し訳無く思いながら声を掛けていく。
こちらの姿を捉えるや否や、シュラは「ニーチャぁぁぁン!!」と黄色い歓声を上げながら全力ダッシュで抱き付いてきた。もはや好意を一切と隠さないシュラの大胆さにリオルがショックを受け、彼女を引き剥がそうとその脚に組み付いていく。しかしシュラは一向に離れようとせず、しばらくはシュラとリオルの攻防が繰り広げられた。
一同が新幹線に乗り込み、ショウホンシティを目指していくその最中。向かい合った席では和やかな会話が展開されていた。メーがスマホロトムで写真を撮り、それに対してラミアが淡泊に言葉を添え、シュラはこちらにメロメロし、ナコは隣に座るユノにくっ付きながら自分らの会話を聞いていく。
もうすぐショウホンシティに到着する頃、シュラは活発な調子で思い付いたようにこちらへ言葉を切り出してきた。
「なぁニーチャン!! 聞いて!! ウチとニーチャンの表彰式が全国デビューした後な、林檎探偵俱楽部の部員が増えたんや!!」
「そうなんだ! やったねシュラ! 悲願達成だね!」
「まだ数人程度やけどな、ようやっと軌道に乗り始めたわ~!! これもニーチャンのおかげやで!! ほんま、ありがとぉ!! まぁ、静かに過ごしたいジョーチャンからすれば、いい迷惑やろうけどな」
シュラはナコをチラ見する。その視線にナコはムッとするのだが、ふとこちらに向きながら不機嫌そうな声音で口を開いてきた。
「ねぇ」
「どうしたの?」
「……アンタのことさ、その」
「うんうん」
「……カッキーって、呼んでいい?」
「いいね、喜んで」
こちらが快く答えると、ナコはユノにぎゅっとしがみついてから口を尖らせて喋り出してくる。
「ありがと……カッキー」
「どういたしまして。こちらこそ、いつもありがとね」
「は? どういうこと?」
「俺やみんなと仲良くしてくれてありがとう、って意味だよ」
「意味分かんない。……むしろ、こっちのセリフだし」
そう言って、ナコはユノにめり込むよう顔を埋めた。少女の様子をラミアやメー、シュラが微笑ましく眺めていく中で、ユノはとても安心したような面持ちでナコのことを見遣っていた。
ショウホンシティに到着すると、一同は相棒ポケモンを出しながら街の中を練り歩いた。リオルやキラーメ、ミズゴロウやベイリーフが和気藹々と過ごしていて、ラルトスはナコに抱き上げられながらきゃっきゃと楽しんでいる。その足で自分らはショウホンジムに訪れると、自分とラミア、メーは受付でジムチャレンジのエントリーを済ませ、今もスタジアムで繰り広げられているポケモンバトルの様子を見るために観客席へと移動した。
フィールドでは大将戦が行われていた。チャレンジャーのネギガナイトがボロボロの状態でなんとか立ち上がっており、対峙する形で威風堂々と佇むカエンジシが相手の行動を注意深く観察している。
ネギガナイトは力を振り絞って揺らめくような動作を起こしていくと、次にも逆転の一手とも言える手段を講じてきたものだが……?
「ネギガナイト! つるぎのまい!」
「カエンジシ! おにび!」
隙を見て攻撃力上昇の演舞を展開するネギガナイト。しかしステータスの上昇よりも先にカエンジシのおにびが到達すると、やけどを負ったネギガナイトは苦し紛れに構えながら一直線の突撃を繰り出した。
「スターアサルト!」
ネギガナイトが勇猛果敢に飛び出していく。超特急の勢いで真っ直ぐと突撃したネギガナイトだが、カエンジシは相手の攻撃に動じることなく悠然としたサマで迎撃する。
「ねっぷう!」
ハオマの指示を受け、カエンジシは猛々しい
ねっぷうの勢いは次第に増し、ネギガナイトは地上に踏ん張り続けた。やけど状態で真正面からねっぷうを受ける度量は大したものだったが、手にするネギの先端がカエンジシの胴体に触れた時に、ネギガナイトは気力を無くしたのか前のめりに倒れ込んでしまった。
弱点のスターアサルトを前にして、最後まで怖気づくことなく対戦相手を見据えていたカエンジシ。倒れたネギガナイトの雄姿を見届けて、彼は悠然たる所作で踵を返しながらハオマの下へと戻った。
バトルは終了し、ジムリーダー・ハオマが勝利を収めた。チャレンジャーに深々とお辞儀するハオマが周囲の観客席にも振り返ってお辞儀をしていくその最中、こちらの姿を発見した彼女は一瞬だけ目を輝かせた。しかし、直後にも気を引き締めた真剣な眼差しでこちらと向き合うと、深々とお辞儀をしてからカエンジシと共に入場口へと引き返していった。
宿泊するホテルに移動し、エントランスのソファに座りながら休憩する一同。自分が今もジム攻略のために思考を巡らせていると、ふとユノが脚を組んだ姿勢で凛々しく喋り掛けてきた。
「勝算はあるのかしら」
「え?」
自分は図星を突かれたように驚きながらも、ひと呼吸を置いて返答する。
「エースを務めるヨーギラスの成長が著しいので、自信はあります。ただ、そう簡単に上手くいくとは思えません」
「妥協の無いその姿勢を、私は高く評価しましょう。勝負に確実は存在しないわ。知識を活用し、実力をぶつけ合い、そして天運に明暗を委ねる。それが、ポケモンバトルというものでしょうから」
「ユノさんもポケモンバトルをやられるんですか?」
「えぇ、程々に」
ユノが凛々しく返答する横から、ラルトスを抱き抱えたナコが珍しく食い付くように補足してくる。
「カッキー、ユノさんはジムバッジ全部持ってるから」
「え? ……え!?」
「ポケモンリーグにも出たことある。トーナメントの準決勝まで行ってる」
ナコがとても誇らしげに喋り、自分もまた驚愕でユノを見遣る。ラミアやメーも二人して声を上げながら驚いて、すかさずスマホロトムで検索をかけるとポケモンリーグの動画を再生し始めた。
「ホントですねー、ユノさんいらっしゃいます。ウチもリアルタイムで観てたんですけど、どーして気付かなかったんでしょーねー」
「まぁさ~、ポケモンリーグはチャレンジャーとチャンピオンの戦いを見たいって人がほとんどだから、ぶっちゃけチャレンジャーを決める予選トーナメントの方はそんな集中して観ないよね~」
「メーさんメーさん!! ユノさんの切り札が映ってます!!」
「やば! しかも見たことない方のメガシンカなんだけど!」
え~、俺にも見せてほしい~……。
ラミアとキラーメ、メーやミズゴロウに加えて、シュラとベイリーフも興味津々に彼女らの後ろへと回り込んでいく。そんな光景に置き去りとされた自分が仲間外れ感を覚えていく中、ユノは苦笑しながらも凛々しい面持ちでこちらに言葉を続けてきた。
「カンキくん、視点を変えましょうか。貴方がショウホンシティのジムリーダーだったら、貴方の手持ちに対してどのような手段を講じるものかしら」
「俺がハオマさんの立場だったら? そうですね……手持ちはリオルとヨーギラスの二匹ですから、カエンジシはどちらも相性不利で選出を控えるかもしれません」
「良い考察ね。あらゆる可能性を考慮できる視点は非常に重要よ。それじゃあ、仮にカエンジシが登場したとしましょう。相手はリオルとヨーギラス、先の視察を踏まえた上で貴方ならどのような戦略で攻める?」
「おにび、でしょうか。リオルもヨーギラスもぶつりを得意とするポケモンですから、その効果を弱めるやけど状態が要になると思います」
「その思考自体は柔軟で素晴らしいわ。ただ、貴方はひとつ情報を見落としている」
「え?」
「ヨーギラスの特性を思い出してちょうだい」
「ヨーギラスの特性は、こんじょう……あ!」
「ヨーギラスをやけど状態にしてしまえば、かえってこちらが不利になるでしょう」
「じゃあ、この場合はどうすれば……?」
自分は相手視点の立場で思考し始めてしまった。その様子にユノは柔らかく微笑みかけながら言葉を口にしてくる。
「つまり、現状では貴方が有利。そのアドバンテージをどう活かすかは、トレーナーである貴方の腕の見せ所といったところかしら。もっと自信を持ちなさい。どんなに有利な状況でも、
ユノは胸ポケットから電子タバコを取り出しながら立ち上がる。それから「少し席を外すわ」と告げると、ホテルの出口へと歩き去っていった。
その背中を見送る自分は、不思議と加護を授かったような気分になれた。リオルもユノに憧れるような眼差しを向け、赤い瞳をキラキラと輝かせていたものだ。