ポケモンと俺   作:祐。

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荒ぶるもの共

 ハクバビレッジのホテルに宿泊した自分は、ベッドから身を起こしながら欠伸(あくび)をしていく。こちらの動作に反応して、隣で寝ていたリオルもまた小さな身体で立ち上がりながらおはようの鳴き声を掛けてきた。

 

 自分も「おはよう」と返し、彼女の頭を撫で回した。リオルはとても幸せそうに目を瞑り、尻尾を振っていく。今日のコンディションもバッチリであることを確認すると、自分はベッドから下りて、身支度を整えてからリオルと共に部屋を後にした。

 

 ホテルのエントランスでリオルと戯れていると、直にもラミアとメーが相棒達を連れながら姿を現した。彼女達と合流してすぐにホテルを出ると、早朝のハクバビレッジが視界いっぱいに広がってくる。

 

 陽が昇り切る前のオレンジ色が、地平線に連なる雄大な連峰を覆っていた。天候はやや曇りがかり、上空にてポッポやピジョンの群れが飛び交っている。今も付近ではエイパムやシキジカが地面に溜まった雪解け水を飲んでおり、また、軒先の氷柱が朝日を浴びるとそれはバニプッチへと変化して飛び立っていく。

 

 未知なる旅先で巡り合うポケモン達の営み。その不思議な生き物の生態に感動したのも束の間、スマホロトムを浮遊させるメーがこちらへ振り返りながら勝気な調子で喋り掛けてきた。

 

「今日は予定通りに特訓するから、そこんとこよろた~ん! まずは朝飯を食べて元気をつけよ~う!」

 

「いいね。特訓する場所とかは決まっているの?」

 

「そりゃあ、もち! 人がいなさそうな絶好の穴場をマップで見つけたから、そこで野生ポケモンとバトりまくって経験値を積みまくろうって寸法よ!」

 

「野生ポケモンとバトルするのは俺も賛成だけど、さすがに近くに人がいた方が安全だと思うんだ」

 

「人がいたら、野生ポケモンが逃げちゃうっしょ? ハクバビレッジの過酷な環境で自分自身を追い込む武者修行! ガチで強くなるなら、己の限界に挑むってのがポケモントレーナーじゃね!?」

 

「そういうものかな……。まぁ、危険だと思ったらすぐに引き返そう。命は何にも代えられないからね」

 

「おけまる~! てなわけで~、まずは写真映えするとびっきりオシャレなモーニングを探そ~!」

 

 今日は特に張り切りを見せるメーは、ミズゴロウを連れながら駆け出していった。自分が苦笑しながら眺め遣る最中、キラーメを連れたラミアがこちらへ歩み寄りながら淡泊に喋り出してくる。

 

「カンキさんは、どー思います??」

 

「どうって?」

 

「メーさんの特訓プランです。ウチも止めはしたんですけど、メーさんは聞く耳を持たなくて」

 

「メーは強くなりたい気持ちが先行し過ぎて、ちょっと焦っている部分があると思う。今は特にゴールへの最短距離しか見れない状態だろうから、俺達がどう言おうと穴場スポットには向かうだろうね。ここで無理やり止めると、かえってムキになる可能性があるかも」

 

「じゃー、どーするんですか??」

 

「今の俺達にできることは、メーが危険な目に遭わないよう傍についてあげることだと思う。彼女の意思を尊重しつつ、頃合いを見て撤退を提案する。今日は雲行きが怪しいし、天候を理由にすればメーだって聞き入れてくれると思う。まずは本人に納得してもらうことが大事かな」

 

「分かりました。それにしても、さすがは年上ですねー。こーいう時、カンキさんは頼りになりますよー」

 

「そういえば、俺は二人よりも年上か。ずっと同級生だと思ってたから、なんか不思議な感じだなぁ」

 

「年齢は違っても、同級生であるコトには変わりないじゃないですか」

 

「それもそうか。あはは」

 

 微笑するラミアと会話する自分は、ちょっと照れていたのかもしれない。だからなのか、些細な感情の変化を“波動”で察知したのだろう足元のリオルが、陰りを伴った嫉妬の表情でこちらをジッと見つめていた。

 

 

 

 ハクバビレッジで朝食を終えた自分達は、メーがマップで見つけたという穴場を目指して出発した。

 

 過酷な環境を求めて、人気(ひとけ)の無い山道を突き進むメー。彼女のことはひとまずラミアに任せ、自分はスマホロトムでハクバビレッジの担当課に問い合わせをした。今から自分達が赴く場所を大まかに伝えると、担当の人間は『獰猛な野生ポケモンが出現するため、立ち入りはご遠慮ください』と答えてきた。

 

 ただ、これをメーにそのまま伝えると『尚更と修行になる』という解釈で受け取られそうだったため、自分は悩んだ挙句にメーが満足するまで同行しようと決めた。幸か不幸か、天候は段々と怪しくなってきたため、見切りをつけて撤退を促せそうだった。

 

 自分はラミアとメーの下に合流し、三人で険しい山道を進んでいく。道中にもマンキーの群れに遭遇し、常に興奮している彼らに襲われた。自分達もリオル、キラーメ、ミズゴロウで対抗すると、程なくしてマンキー達は引き返した。この成功体験がメーの向上心を余計に駆り立てたことで、まだまだ苦難は続きそうだなと確信した。

 

 間もなくしてメーが目指す地点に到着すると、そこは鏡のような湖畔が広がっていた。連峰に囲まれた空間は秘境と呼ぶに相応しく、山の神々に監視されているような閉鎖感を覚える。

 

 学園から眺める、遥か遠方の地平線にて(そび)え立つ背景のような山々に自分達は訪れており、言うなれば世界の隅っこ、オープンワールドのエリア外のような一種の到達点とも言える雰囲気は、どことなく旅の終着点を想起させる。今も鏡のような湖畔は曇り空を映し出しており、いつ猛吹雪が到来してもおかしくない。自分は雪を踏みしめながら遠くにいるメーへと言葉を投げ掛けた。

 

「メー! ここがメーの目指していた場所でいいんだよね!?」

 

「もち! ほら見てこの足跡! 多分ウリムーのだけど、めっちゃデカいよ! これ絶対オヤブンの個体だって! ここなら沢山レベルアップできそう! 早く強いポケモンと出会わないかな~!」

 

「ここまでくる道のりも、俺からすれば十分に特訓だったよ! 天候もだいぶ悪いから、今日はハクバビレッジに引き返そう!」

 

「えーっ!? せっかくここまで来たのに!?」

 

「このままだと猛吹雪で遭難する可能性がある! 待ちに待った課外授業なのに、極寒の山の中で野宿とか嫌じゃないか!? もっとこう、映える写真を撮ったり、ゆっくりと温泉に入ったり、柔らかいベッドで寝たりして、最高の学生生活を送ったりしたくないか!?」

 

「う~~~ん。それは、そうかも……!! 挑戦だけが人生じゃないもんね! 分かった! また天気が良くなった時に来よ!」

 

「そうそう! そうしよう!」

 

 自分は安堵した面持ちで頷いた。ラミアもこちらに近付き、小声で「ありがとうございます」と口にしてくる。ポケモン達も険しい道のりでだいぶヘトヘトだったため、自分はモンスターボールを取り出してリオルを戻そうとした時の事だった。

 

 来た道を戻ろうと踵を返した、その瞬間。視界の隅から現れた無数の影が、こちらの往く手を阻んでくる。それから自分達を取り囲むように気配が連なると、あっという間に野生ポケモンに包囲されてしまったのだ。

 

 手慣れた連携で立ち塞がるのは、エレキッドやワニノコ、バルキーといったポケモン達。彼らは荒々しいオーラを放っており、遭遇すれば最後、タダでは済まされない凶暴さを感じさせた。自分達が背中合わせになって警戒していくその最中、連中のリーダーとも言える小柄のポケモンが堂々と姿を現してくる。

 

 緑色の体表を持ち、黒いひし形の模様と赤い腹部、そして鋭い目つきが特徴的であるそのポケモン。頭部のツノが存在感を醸し出すその中で、右目が潰れた深い傷と、身に纏う“赤いマント”が存在を際立たせていた。

 

 それを見たメーが、真剣な面持ちで言葉を口にする。

 

「ヨーギラス……! あれが、こいつらの親玉ってこと……!?」

 

 ヨーギラスは冷徹な眼差しを向けていた。どんな手段をも厭わぬ覚悟が、その左目に宿っていた。赤いマントを(なび)かせて、堂々と佇むそのポケモン。彼が沈黙を貫く最中にも、こちらを囲う連中が束になって襲い掛かってきた。

 

 自分達もまた構え、リオル、キラーメ、ミズゴロウへと指示を繰り出していく。

 

「リオル! でんこうせっか!」

 

「キラーメ!! げんしのちから!!」

 

「ミズゴロウはみずでっぽうで薙ぎ払って!」

 

 先行したリオルが、高速の突撃で無数のポケモン達を弾き飛ばした。キラーメはげんしのちからを自分達の周囲に生成し、飛び掛かってきた連中の進行をブロックする。ミズゴロウのみずでっぽうは横薙ぎに繰り出されると、無数の相手を吹き飛ばして行動を阻害した。

 

 襲撃に失敗した連中が怯んでいる隙に、自分達は反撃へと移った。リオルは主にでんこうせっかでスピーディーに動き回りつつ、ワニノコのかみつくやバルキーのたいあたりをカウンターで受け流し、場を攪乱(かくらん)させていく。その間にキラーメはアシッドボムで相手を弱体させながら、時にはまもるでトレーナー達の身を守っていた。

 

 集団を突破する上で、ミズゴロウの特殊技が大いに役立った。みずでっぽうやマッドショットで範囲攻撃を行い、狙われたらまもるやいわくだきで相手を弾き飛ばしていく。全員が身の危険を感じながらも一丸になって突破口を開こうとする協力プレイは、相手の連携をも上回って着実と来た道に近付いていた。

 

 だが、微かな希望を感じ始めたこちらに次なる困難が降り掛かる。

 

「カンキくん! 危ない!」

 

 メーの忠告を受け、自分は視界に覆い被さった無数の岩石を見る。

 

 降り注ぐ岩の数々を、咄嗟に駆け付けたリオルが打ち砕いた。彼女は慌ててこちらに近付いて心配してくるが、その視線は直ぐにも前方へ向けられる。

 

 逃げ道に立ち塞がるヨーギラスの姿。そのポケモンは茶色のオーラを身に纏うと、わざエネルギーによって岩を生み出し、山なりに投げ付けてきた。

 

 がんせきふうじ。場に残り続ける岩が、相手の行動を阻害するいわタイプの技だ。直撃すれば大怪我を負いかねない危険な技が自分達に降り掛かり、皆が身震いした次の瞬間……。

 

 がんせきふうじの岩が、空中で粉々に砕け散った。共にして通り抜けたのは、光沢を放ちながら旋回する鎧の身体――

 

「エアームド! はがねのつばさ!」

 

 男性の声が響き渡ると、エアームドは鮮やかに宙を舞いながら周囲の野生ポケモン達を(ことごと)く蹴散らした。真白のエネルギーが斬撃のような物理技を生み出し、空間に湾曲する一閃を描き出す。野生ポケモン達が次々に吹っ飛ばされていくと、彼らはこちらに目もくれず一目散に逃げ始めた。

 

 ヨーギラスもまた、冷徹な眼差しはそのままに撤退する。荒くれもの達が退散する光景の中、宙に留まるエアームドは深追いせずに睨みを利かせていた。

 

 程なくして、山道から一人の男性が現れる。181cmほどの背丈である彼は脹脛(ふくらはぎ)まである黒髪を一つ結びにしており、真ん中で分けた前髪とクールな顔つき、太い眉に穏やかで面長な印象を持つ人物だった。服装は袖が長くゆったりとした民族風の白いチャイナローブに黒色のバルーンパンツ、膝丈まである黒色のブーツに様々な鉱石をあしらったネックレスというもので、塗り潰したかのような黒色の瞳は無感情に光を放っている。

 

 口元だけが笑っている表情で、こちらに歩み寄ってくる彼。直にも口を開くと、一定のトーンを維持した独特な声音で喋り掛けてきたものだ。

 

「ここ最近、ハクバビレッジでは野生ポケモンによる強盗被害が相次いでいてね。担当課から電話相談の一報を聞き付けた時には、やれ確信したものだ。様子を見に来て正解だった。おかげで強盗団の全容を把握することができたからね。おっと、自己紹介が遅れたかな。私はハクバビレッジのジムリーダーを務めている“カイム”というものだ。以後、よろしく。将来有望なトレーナーさん方」

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