第1話:白銀の守護者と、小言の多い聖女「痛っ……! あ、アミッド、ちょっと手がキツい、かな……?」オラリオの北西に位置する、巨大な医療施設を兼ねた『ディアンケヒト・ファミリア』の本拠(ホーム)。その一室にある診察台の上で、ベル・クラネルは情けない声を上げていた。「――静かにしてください、ベル。自業自得です」目の前で包帯を静かに、しかし容赦のない力加減で巻き直しているのは、ファミリアの至宝にしてオラリオ最高の治癒師、アミッド・テアサナーレだ。神品(最高級)の絹のような銀髪を揺らし、その美貌に明らかな「お怒り」のマークを浮かべている。「これだけの裂傷を負いながら、ご自身の『ディオス・キュア』で表面だけ塞いで誤魔化そうとするなんて、治癒師の所属するファミリアの団員として言語道断です。それとも、私の治療がお気に召しませんか?」「そんなわけないよ! アミッドの魔法は、世界で一番温かくて安心する。それは本当だよ!」「っ……! 口が上手いのも減点です」慌てて弁明するベルの純粋な瞳に見つめられ、アミッドはわずかに頬を赤らめて顔を背けた。怒っているのは、彼が憎いからではない。ベルがディアンケヒト・ファミリアの「筆頭前衛」として、常に自分たちの盾となり、無茶な戦い方をするからだ。「きゅ~う……」診察室の広い窓から、ぬっと大きな白い頭が覗き込んだ。ベルの相棒である、白銀の竜(シルヴァ)だ。窓枠に顎を乗せ、琥珀色の大きな瞳で「僕も怒られた」と言いたげにショボんとしている。「シルヴァも、ベルの無茶を止めなかった連帯責任です。今日は二人とも、特製の苦い回復薬(ポーション)を飲んでもらいますからね」「きゅ、きゅ~ん……」「シルヴァまでごめん……」一人と一匹で同時にうなだれる姿を見て、アミッドは小さくため息をついた。現在のベルのステイタスは『Lv.6』。オラリオでも片手で数えられるほどの超大物(ファースト・ティア・アドベンチャー)だ。本日も深層近くで発生したイレギュラーな変異種を、相棒の竜と共に瞬く間に討伐してきた。圧倒的な強さを持ちながら、中身はオラリオに来たばかりの頃と変わらない、心優しい少年のまま。「……本当に、無事でよかったです。あなたが傷つくたびに、私の心まで引き裂かれそうになる」ぽつりと、アミッドが本音を漏らす。包帯を巻き終えた彼女の手が、ベルの手にそっと重ねられた。Lv.4に至った彼女の魔力は、触れているだけでベルの疲労をじんわりと溶かしていく。「ごめんね、アミッド。でも、アミッドが後ろにいてくれるから、僕はどんな敵が来ても絶対に負けないって思えるんだ」ベルがはにかむように笑う。その真っ直ぐな言葉に、アミッドは胸の高鳴りを隠すように、わざとらしくフンスと鼻を鳴らした。「そこまで言うのなら、明日の遠征では私の目の届く範囲から絶対に離れないでください。いいですね、白銀の英雄(ベル・クラネル)」
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