白銀の英雄譚   作:アウストラロピテクス

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第2話

第2話 穢れた精霊と白銀の守護者

 

第50階層――。

合同遠征隊は、原作の記録と同じように未踏破領域へと足を踏み入れていた。

深層特有の重苦しい空気。

歴戦の冒険者たちですら神経を張り詰める緊張感の中、フィンは周囲を警戒しながら進軍を続けていた。

「妙だな……」

小人の団長が眉をひそめる。

「フィン?」

隣を歩くリヴェリアが視線を向ける。

「モンスターの数が少なすぎる。まるで何かを恐れて逃げているみたいだ」

その言葉に遠征隊の空気が一変した。

そして――。

ゴォォォォォォォォォッ!!

地鳴りのような咆哮が響いた。

直後、天井が崩壊する。

巨大な影が落下してきた。

「全員散開!!」

フィンの号令。

轟音と共に着地したそれは、巨大な竜だった。

しかし普通のドラゴンではない。

全身を黒紫色の瘴気が覆い、胸部には人型の精霊のような存在が融合している。

「穢れた精霊……!」

リヴェリアの顔色が変わった。

アイズも剣を構える。

「精霊が竜に憑依している……」

その圧力は異常だった。

Lv.6のアイズですら肌が粟立つ。

フィンが即座に判断する。

「推定Lv.7級!」

周囲に緊張が走った。

次の瞬間。

竜が口を開く。

黒炎のブレス。

「来るぞ!」

ベートが叫ぶ。

しかし。

「任せてください!」

ベルが前に出た。

全身に雷光が走る。

「プラズマ・コート!」

青白い雷がベルとシルヴァを包み込む。

さらに。

「ファイアボルト!!」

連続詠唱にも等しい速攻魔法。

炎の奔流が黒炎と激突した。

轟ッ!!

衝撃波が遠征隊を揺らす。

「防ぎ切った!?」

ティオナが目を見開く。

ベルは歯を食いしばりながら踏みとどまる。

「アイズさん!」

 

「うん!」

 

二人は同時に駆け出した。

 

まるで何度も訓練したかのような連携。

 

アイズの風が竜の視界を奪い、その隙にベルが懐へ飛び込む。

 

だが。

 

ガァァァァッ!!

 

巨大な爪が振り下ろされた。

 

ベルは咄嗟に回避する。

 

地面が爆発したように砕け散る。

 

「速い……!」

 

Lv.6のベルでさえ圧倒される速度。

 

まさしくLv.7級。

 

正面からの突破は困難だった。

 

その時だった。

 

「ベル!」

 

アミッドの声。

 

ベルの身体を淡い光が包む。

 

「身体能力強化と魔力補助です!」

 

Lv.4となったアミッドの支援魔法。

 

ベルの身体が一気に軽くなる。

 

「ありがとう!」

 

さらに後方ではリヴェリアが長文詠唱を開始していた。

 

フィンも状況を見極める。

 

「弱点は胸部だ! 精霊本体を叩く!」

 

「了解!」

 

アイズが風を纏う。

 

「《エアリエル》!」

 

黄金の髪が舞う。

 

剣姫の最大加速。

 

アイズの斬撃が竜の胸部を切り裂いた。

 

しかし再生が始まる。

 

「やっぱり!」

 

「なら!」

 

ベルが飛び込む。

 

雷を纏った短剣が閃く。

 

だが竜は咆哮し、ベルを吹き飛ばした。

 

「ベル!」

 

アミッドの悲鳴。

 

しかし。

 

「大丈夫!」

 

空中で体勢を立て直したベルの背後に白銀の影が現れる。

 

シルヴァだった。

 

「シルヴァ!」

 

「キュオオオオオオッ!!」

 

雷炎の息吹。

 

ベルのプラズマ・コートが混ざった雷炎が竜を直撃する。

 

再生が止まった。

 

「今です!」

 

アミッドが叫ぶ。

 

リヴェリアも完成を告げる。

 

「全員、退いて!」

 

超高位魔法が放たれた。

 

轟轟轟轟轟轟――!!

 

無数の光弾が竜を飲み込む。

 

大爆発。

 

だが。

 

まだ倒れない。

 

「なんて生命力だ……」

 

ガレスが唸る。

 

そこでベルは決断した。

 

「――竜神化」

 

全身に白銀の鱗が浮かび上がる。

 

背中から巨大な翼が展開した。

 

竜神化(ドラゴニック・アバウト)。

 

ベル最大の切り札。

 

圧倒的な魔力が周囲を震わせる。

 

「ベル……!」

 

アミッドが息を呑む。

 

ベルは空へ舞い上がった。

 

アイズが理解する。

 

「私が道を作る」

 

風が爆発する。

 

アイズが竜へ突撃した。

 

連続斬撃。

 

再生能力を上回る速度で傷を刻む。

 

そして。

 

「ベル!」

 

「はい!」

 

アイズが切り開いた傷口。

 

その奥に精霊核が見えた。

 

ベルは全魔力を右腕へ集中する。

 

シルヴァも隣へ飛ぶ。

 

「行こう、シルヴァ!」

 

「キュオオオッ!!」

 

一人と一匹の力が重なる。

 

雷。

 

炎。

 

竜の力。

 

全てが融合する。

 

「――雷炎竜撃(ドラゴニック・ファイアボルト)!!」

 

白銀の閃光が放たれた。

 

精霊核へ一直線に突き刺さる。

 

刹那。

 

穢れた精霊が絶叫した。

 

『アアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

竜の身体に無数の亀裂が走る。

 

そして。

 

轟音と共に崩壊した。

 

黒い瘴気が消滅していく。

 

静寂。

 

やがてフィンが槍を下ろした。

 

「……勝った」

 

その言葉と同時に遠征隊から歓声が上がった。

 

Lv.7級の怪物。

 

それを討伐したのだ。

 

ベルは竜神化を解除し、その場に膝をつく。

 

消耗は激しい。

 

すると真っ先に駆け寄ってきたのはアミッドだった。

 

「ベル!」

 

彼女はベルを抱き締める。

 

周囲の視線も気にせず。

 

「無事で……本当に無事で良かった……」

 

震える声。

 

ベルは苦笑しながら答えた。

 

「心配かけてごめんね」

 

「帰ったら説教です」

 

「やっぱり?」

 

「当然です」

 

そう言いながらもアミッドはベルの手を離さなかった。

 

その様子を見たティオナが笑う。

 

「いやー、完全に夫婦だね!」

 

アイズは黙ったまま二人を見つめる。

 

胸の奥に小さな痛みを感じながら。

 

そしてフィンは崩壊した竜の残骸を見つめる。

 

「穢れた精霊が一体だけ……原作の記録と同じか」

 

だが団長の直感は告げていた。

 

これは終わりではない。

 

むしろ――。

 

ダンジョン深層で始まる新たな異変の、序章に過ぎないのだと。

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