プルルルルプルルルル
「はい、もしもし、おじさん?今日はどうしたの?」
『来週末、店の予約がしたいのだがいいか?』
「はい、いいですよ。何名ぐらいでいらっしゃられるのですか?」
『人数は確定していないがかなりの大所帯になるかもしれん。』
「分かりました。ではお酒の用意もしておいた方が良いですか?」
『あぁ、頼む。』「分かりました、では来週末お持ちしています。」
『……コウ、お前は大丈夫なのか?』「えぇ、大丈夫です、皆さんのおかげで吹っ切れましたし。」
『そうか……ならいいのだが……じゃぁ頼んだぞ』「はい。」
プツッ
「さて、来週末か、それに備えて準備しておかないとな……大所帯となると貸し切りになるか?」
「多分、俺一人だと回らないな……サオリさんにバイトに入れないか聞いてみないとな……」
「あそこの人たちはみんないい人たち、お礼もかねて腕によりをかけないとね!」
そしてコウは来週末に向けての準備を始めるのだった。
ガラララ
店の扉が開きキャップをかぶり筋肉質のお腹を出している少女が入ってくる。
「コウ、来たぞ。」
「急な頼みだけど受けてくれてありがとう、サオリさん。」
「いや大丈夫だ、たまたまバイトが無く開いていたからな。」
「それならよかった、今度何かお礼をさせてくれないかな?」
「いや、お礼なんていいのだが……」
「それだと、僕の気が済まないから受け取ってくれると嬉しいんだけど……」シュン……
「わ、分かった……それなら、今度家族を連れてきてもいいだろうか?」
「うん、その時はなんでもご馳走するよ!」
そうしてサオリさんと少し会話をしていき時間がたっていく。
「よし、それじゃぁ準備を始めようか。」「分かった。」
「説明したかもしれないけど一応もう一度言っておくね。今日はお客さんが沢山来るから忙しくなるよ。」
「僕は料理の方に集中するから、サオリさんは接客やできた料理の配膳の方をお願いね。」
「あぁ、分かっている。」
「まぁでも、緊張しないでいいよ、今日来る人たちは僕の知り合いの人たちだから大丈夫だよ。」
「そうか、了解した。」
そうして、サオリさんはフロアの掃除を始める。サオリさんの掃除は丁寧だ時間は少しかかるがそのかかる時間以上の成果がある、だからかなり助かっている。
それにサオリさんはかなり美人さんで、ボーイッシュな感じが店を訪れる人達にも人気だ。
コウは掃除を始めたサオリを見て自分も準備を始める。
油を用意して、熱し始め、焼き鳥用の炭に火をつける、卵を溶きだし巻き卵を作る準備を始める。
そしてご飯を炊き、サラダ用の野菜を切っていく。
酒倉からいくつかお酒を準備する。
コウの営む店は、普段は普通の飲食店だが、場合によっては居酒屋にもなる、そしてお酒を提供できる店の一つでもあることから居酒屋の時は大人に特に人気である。
「コウ、そういえばお酒を用意しているがどうやって補充をしているんだ?」
お酒の準備をしていると掃除をしながらサオリがそう、コウに声を掛けてくる。
キヴォトスでの未成年の飲酒はかなり重い罪に問われる。そして飲んだ本人だけでなくそのお酒を販売した者やお酒を渡した者もヴァルキューレに御用になってしまうらしい。だからどこのお店も未成年にお酒を売るようなことはしない。なのになぜ未成年であるコウがお酒を所持しているのか疑問に思うだろう。
「あぁ、そうか確かに疑問に思うよね。確かに僕は未成年だし。」
「昔から僕に付き合いのある人たちがいてね、その人たちのおかげさ。僕自身がお酒を飲まないと信じてくれているから売ってくれるんだ。」
「昔からの付き合い?」
「あぁ、僕の母親がブラックマーケット内でお酒を売ってくれる人と、仲が良くてね、その関係で今もお酒を売ってくれるんだ。」
「この食材とかも、母親のコネで今も関係が続いている人たちから買っているものだよ。」
「そうなのか、それでそのコウの母親は今どこに?」
「……もういないよ。」
「!……そうか……すまない……。」
サオリはコウの声色と表情で「もういない」の意味を理解する。その「もういない」はこの店にいないという意味ではなく、「この世にもういない」という意味だということに。
「いや、別にいいよ、サオリさんは知らなかったんだし、僕はもう吹っ切れてるから。」
「そう……なのか……。」
死、それはここキヴォトスにおいて重い意味を持つ、キヴォトスに生きる者は基本的によっぽどのことが無いことに死に至ることはない。
そんなキヴォトスでの死、それも近しい人、家族の死、そんなデリケートな話を知らずとはいえ聞いてしまった。そしてサオリ自身も先生というヘイローの無い人間を撃ってしまった事がある、死に至らなかったもののその体に体に傷が残してしまったという過去がありそれ故に人の生死については敏感であった。
「もう、何年か前のことだし本当に気にしなくてもいいよ。」
「……了解した。」(そんなに近い時のことなのか……)
そうして少し気まずくなりながらも着々と準備を進めていく。
ガラララ
「いらっしゃいませ!」「いらっしゃいませ!」
「予約していたカイザーだ。」
そうして扉が開きカイザー理事とその部下たちが入ってきた。
「お久しぶりですカイザー理事殿。」「そんなにかしこまらなくてもいい、私とコウの仲だろう。」
「いいのですか?」「部下の前だからと気にする必要はない。」
「なら、遠慮なく、久しぶりおじさん。」「あぁ、久しぶりだな。」
「話もあるけどまずは皆さんを席に案内しないとね。」「あぁ、頼む。」
「サオリさん、お客様の案内をしてくれないかな?」「わかっ……分かりました、こちらへどうぞ。」
「君も別にかしこまらなくていい、自然体でいい。」「えっと……」
「サオリさん、おじさんがそう言ってるんだし僕と話すような感じでいいよ。」「……分かった、席はこっちだ。」
そうしてサオリは理事の部下たちを席に案内していく。しかし理事本人はカウンター席に座る。
「注文を聞かせてくれ。」
全員席に案内し終わった後サオリは注文を取っていく。しかし……
「お?嬢ちゃんバイトの子かい?注文を取る必要はないよ。」「?どうしてだ?」「見て見な。」
部下の一人がサオリに声を掛けそう言いコウの方を指さす。
そこには注文をする前に料理を作り完成させているコウの姿があった。
「……???」「コウ君はね俺たちがよくここに来るから俺たちの好みとか覚えたんだろうな。」
「そうそう、忙しくなる前は月4できてたからな!!」「おいおい、それを言うなら週1だろうが!酒飲んでないのに酔っぱらったか?」
「うるせいやい!場酔いってやつだよ!場酔い!」「料理もまだ配膳されてないってのに何言ってんだお前は~!」
ハハハハ!!
その場に大きな笑いが起こりそれを起点に全員が談笑し始める。
「とまぁ、そういうことだから初めの注文は大丈夫だぜ!追加で頼むときはよろしくな!嬢ちゃん!」
「そ、そうなのか、分かった。では料理を持ってくる。」
そうしてサオリは厨房に向かって行く。そこには出来立ての料理たちが並んでいた。
唐揚げや揚げ出し豆腐、フライドポテトなどの揚げ物、ももやつくね、ねぎまと言った焼き鳥類、マグロやブリ、サバなどと言った刺身の盛り合わせ、そして枝豆や冷奴、たこわさなどの小鉢料理、だし巻き卵、とんぺい焼きの一品料理まで様々な種類の料理が並んでいる。
そしてその料理の皿付近にはご丁寧に紙でどの机に持っていけばいいか分かりやすくイラスト付きで書かれていた。
コウ自身はこれほど多くの料理を作ったのにも関わらずいまだに料理をさらに作り続けていて、理事はそれ様子をいつの間にか用意されていた刺身と焼酎を食べ飲みしながら見ている。
サオリは用意されていた紙をひとしきり見て覚え料理をそれぞれ指定された席に配膳していく。
「お待たせした。」「お!来たか!サンキュー嬢ちゃん!」
サオリはテンポよく厨房とフロアを行き来して料理を運んでいく。
そうして料理を一通り配膳し終えキッチンの方に戻ってくるとそこには様々なお酒が用意されていた、ビールやワイン、純米酒、ウイスキー、焼酎、梅酒やリキュールと多種多様だ。
これにも紙に持っていく机が書かれている。それに従いお酒も各机に持っていく。
「おー!おーい!酒が来たぞー!」「待ってました!」「この料理達が出たら酒がねぇとなぁ!」「ウッヒョ――!!」
お酒が来たとたんにさらに場が盛り上がっていく。
「サオリさん少し休憩してきていいよ。」「まだ休憩時間ではないはずだが……?」
「いや、結構時間たってるよ。」「?……本当だな……」
料理とお酒を配膳していると思っていたより時間がたっていたようだ。
「今日は多いから大変だったからね、少し長めに休憩していいよ。」「だがそれだと……」
「大丈夫、今までも一人でできていたし、それに一番大変な最初の時間を手伝ってくれたからね。」
「そうか……分かった。なら先に休憩に入らせてもらう。」
そしてサオリが休憩室に入っていく。
そしてコウと理事は会話を始める。
「元気かコウ。」「うん、こうして料理を張り切ってできるぐらいにはね。」
理事の質問にコウが答える。
「そうか、ならいい。」「おじさんは最近忙しそうだったね。何かあったの?」
「まぁ色々あったのだよ……」「そうなんだ、詳しくは聞かない方が良い?」
「そうしてくれ、あまりいいことではない。」「分かったそれなら聞くのはやめておくね。」
かつての先生やアビドスの生徒達と敵対した時からとは考えられない程穏やかに話している。
「ほんとにおじさん焼酎好きだよね。」
コウが理事が飲んでいる焼酎を見ながら言うしかし料理をする手は止めない、第二陣のための下準備やをしているのである。
「ここに来るといっつもそれを飲んでる。」「ふん、私が何を好んで飲もうがいいだろう?」
「それはそうだけどさー、僕はおじさんの身体を心配してるんだよ?久しぶりに来たとはいえそんなに一気に飲んだら体調崩しちゃうよ?」
「おじさんには長く健康で居てもらいたいし……」
コウが野菜を切りながら寂しそうな声色で言う
「…………そうか……だが安心しろ、ここ以外では飲むことは止めている。だからここぐらいでは好きに飲ませてくれ。」
「……分かった、おじさんの部下さんたちの感じからも本当っぽいし、今日はいくらでも飲んでよ。」
「フッ、言われなくてもそのつもりだ。」
理事は少し笑いコップに注がれている焼酎を煽る。そしてまた二人は静かになり周囲には理事の部下の談笑の声がひびく。
「私がここの焼酎が好きな理由、コウは知っているのか?」「いや、とくには?」
すると理事がコウに問いかける。
「そうか……
「へー、初めて飲んだ奴だから、印象に残っているから好きなの?」
「まぁ、そうだな。」「そうなんだ。」
そう話していると休憩室の扉が開きサオリが入ってくる。
「休憩が終わったから戻ってき……すまない会話中だったか?」
「いや、大丈夫だよ。ちょうど会話がひと段落ついたからさ。」
「ちょうどいいタイミングだ、そろそろもう一度忙しくなるぞ。」
理事がそう言ったとたん。
「おーい!嬢ちゃん!注文良いかー?」「こっちも頼むー!」
「ほら、第二陣が来たぞ。」
理事の言った通り注文が多くなってくる。
「分かった!今から注文を取りに行く!」
そうしてサオリは慌ただしく注文を取りに行った。
「あいつら…一気に注文をするなと前々から言っているはずなのだが……はぁ……」
「ははは……でもこの忙しさも僕は好きですから。」
「いつもすまないな…やはり酒は思考を鈍らせるか。」「おじさんも飲んでるじゃん。」
「私の事は良いのだよ私は。」「ふーん。」
そうしてブラックマーケットの夜の居酒屋に絶えない笑い声が響いたのだった。
カイザー理事とその部下たちが帰り後片付け後
「今日はありがとうサオリさん、大変だったでしょ?」
「いや、思ったより楽しかった。いろいろな話を聞けた。」
「そう?ならよかったあの人話長いから心配だったんだよ。」
サオリは注文を受けた時に理事の部下のおしゃべりな奴に掴まり話していた時があった。だがサオリ本人は特段嫌そうではなかったため放置していた。
「はいこれ、今日のバイト代、確認してね。」
そう言ってコウはサオリに封筒を渡す。
「感謝す……うん?多くないか?」
渡された封筒はいつもより明らかに分厚く重かったかった。
「今日は、急に来てくれたし、それに沢山働いてくれたからね。ちょっとしたボーナスだよ、遠慮なく受け取ってくれ。」
「そ、そうか、コウがそう言うなら……」
「今日はありがとう、今度、サオリさんの言っていた家族の方も連れてきてくれたら御馳走するよ。」
「覚えていたのか……分かったまた今度連れてこよう。では私はこの辺りで……」
「うん、気を付けてね。」
そうしてサオリは店を出る。
「おじさん疲れてたな……仕事が忙しいのかな?それに帰る前良く分からないことを言ってたし。」
理事が帰る前コウの母親の仏壇で手を合わせた後に理事はこう言った。
『これから少し騒がしくなるかもしれんが気にしなくていい。』
「うーん、騒がしくなるって何だろう?」
そう疑問を持ちながら二階の部屋へと戻っていった。
「まぁ、気にしなくてもいいって言ってたし大丈夫かな、明日は店は休みだしゆっくりしようっと。」
そうしてコウは編みかけのセーターを編みはじめるのだった。
「……私が焼酎が好きな理由……コウには言えんな……」
理事は帰り道そう呟く。
(ねぇねぇ!
(うーん、ブラックマーケット!)(貴様!?何でそんなところに行っているのだ!?)
(えへへ~気になっちゃって。)(貴様は前々からアホだと思っていたがここまでとは……)
(むっ!今私の事をバカにしたなー)(事実だろう)
(バツとして〇〇にはこれを飲んでもらいます!)(!?ちょっと待て!焼酎は割るも……モガモガ!?)
「はぁ、今思い出すと最悪な初飲酒だったな……」
理事は今は亡き彼女との思い出を懐かしむ。
「貴様は私が思いを伝える前に逝ってしまったな……」
「貴様の息子は元気だぞ……」
そうして理事は一人で道を歩くのだった。
理事はコウの母親が亡くなってから一番面倒を見てくれていた人物となっております。
なのでこの二人には親子に近い信頼関係があります。
こんな感じですがこれでアビドス編では原作と全く同じようなムーブをしていた模様。
こいつマジ?
先生は?
-
男!
-
女!