Guns & Garlands — 銃と花輪 作:たこ焼き 龍月
ロアナプラの港湾地帯は、昼間だというのに夜のようだった。
煙が空を覆っている。
燃えた車両の黒い煙。撃ち抜かれた配電盤から上がる白い煙。倉庫街の奥で誰かが焚いた陽動の煙幕。海から吹く湿った風が、それらをまとめて街の上へ押し流していた。
太陽はある。
だが、その光は港の鉄骨と煙に裂かれ、地面に届くころには鈍く濁っていた。
コンテナが積み上がる一帯。
古い港湾クレーン。
錆びたレール。
崩れかけた倉庫。
そして、PMCの残存部隊が守る指揮車両。
ロアナプラの街は、そこへ向かって少しずつ圧力をかけていた。
ホテル・モスクワは北側から。
三合会は東側の道路を塞ぎ。
暴力教会は西側の抜け道に武器と情報を流しながら、逃げようとする連中の足を止めている。
そしてラグーン商会とココ・ヘクマティアルの部隊は、南側のコンテナ群を抜けていた。
レヴィは歩きながら銃を回し、唇の端で笑っている。
「なあ、ロック」
「何だ」
「最終決戦って感じだな」
「そういう言い方をすると、だいたいろくなことにならない」
「じゃあ何て言えばいい」
「港湾地区における敵指揮系統の制圧作戦」
レヴィは心底嫌そうな顔をした。
「お前、それ本気で言ってんのか?」
「かなり本気だ」
「つまんねえ。お前の言葉は時々、役所の壁みたいになる」
「銃撃戦を格好良く言い換えても、弾は軽くならない」
「格好良さは大事だろ。どうせ撃つなら、気分よく撃ちたい」
横を歩くバルメが低く言った。
「気分で撃たないで」
レヴィはそちらを見る。
「まだ言うか、優等生」
「あなたがまだやるから」
「俺は気分だけで撃ってるわけじゃねえ」
「そうなの?」
「半分は勘だ」
「もっと悪い」
「おい、半分って言ったぞ。お前まで感染したな」
バルメは一瞬だけ黙り、顔をしかめた。
「……不覚」
レヴィは腹を抱えて笑いそうになった。
「今の顔、最高だったぜ」
「忘れて」
「嫌だね。一生覚えとく」
「一生が今日で終わらなければいいけど」
「縁起でもねえな」
「現実的と言って」
その後ろで、ルツが静かにスコープを覗いていた。
「二人とも声を落とせ。敵が近い」
レヴィは振り向かずに言う。
「お前、いつも冷静だな」
「冷静にしていないと、誰かが勝手に前に出る」
「誰のことだ?」
「心当たりがないなら重症だ」
マオが荷物を担ぎながら、ため息をついた。
「このチーム、戦闘前の会話だけ聞いてると遠足みたいだな」
ベニーが端末を抱えたまま言う。
「遠足でこんなに弾薬持っていく学校があったら、即閉校だよ」
ワイリが明るく言う。
「でも、爆薬を使う校外学習って面白そうだよね」
「やめろ。教育委員会が泣く」
ココはそのやり取りを聞きながら、港の奥を見ていた。
彼女の手には、地下通信室から抜き出した記憶媒体がある。
花輪の断片。
敵の計画。
未来の火種。
彼女はそれを握りしめている。
ロックは、その手を見ていた。
ココは気づく。
「何?」
「いえ」
「言いたいことがある顔」
「あります」
「今聞く?」
「聞きますか」
「半分くらい」
レヴィが前から叫んだ。
「それ禁止だっつってんだろ!」
ココは楽しそうに笑う。
「流行語になりそうね」
ロックは笑わなかった。
「あなたは、そのデータをどうするつもりですか」
ココの笑みが少しだけ静かになる。
「今ここで?」
「今ここだからです」
「撃たれるかもしれない場所でする話?」
「撃たれない場所で、あなたは本当のことを話さない気がします」
ココはしばらくロックを見た。
「あなた、本当にいいチェス相手ね」
「その言い方で逃げないでください」
「逃げてないわ。褒めてる」
「答えは?」
ココは港湾クレーンの方を見る。
その先に、敵がいる。
指揮車両。
PMCの司令官。
そして、おそらく花輪の最後の制御端末。
「使えるものなら、使う」
ロックは眉を寄せた。
ココは続ける。
「壊すべきものなら、壊す。隠すべきものなら、隠す。売るべきものなら、売る」
「売る?」
「武器商人だもの」
「人が死にます」
「何もしなくても死ぬわ」
「それは答えになっていない」
「ええ。答えにしたくないから」
ロックは口を閉じた。
ココは珍しく、笑っていなかった。
「ロック。私は、綺麗な答えを持ってない。あなたが欲しがるような、“これは世界を救うためです”なんて言葉は言えない。言ったら嘘になる」
「では、なぜ進むんです」
「ここで止まると、もっと嫌な人間がそれを持つから」
「あなたより?」
「私より」
ロックは黙った。
「私は危険。でも、少なくとも自分が危険だと知っている」
「それで十分だと?」
「十分じゃない。だから仲間がいる」
ココは前を歩くバルメ、レーム、ルツ、ワイリ、マオ、そしてベニーを見る。
「私が間違えたら、彼らが止める。止められなければ、あなたが見てる」
「俺にそんな役目を押しつけないでください」
「押しつけてないわ。見てる人には、見てしまった責任がある」
ロックは少しだけ笑った。
「ひどい理屈です」
「よく言われる」
*
港湾クレーンの周辺には、PMCの最後の防衛線が敷かれていた。
大型の指揮車両。
移動式通信ユニット。
周囲を守る武装兵。
コンテナの隙間に配置された射手。
そして、海側には高速艇が二隻。
逃走用か、あるいはデータを外へ運ぶためのものか。
ルツはスコープを覗きながら言った。
「指揮車両の上にアンテナ。あれが制御端末だな」
ベニーが端末を見て頷く。
「間違いない。花輪の残りの制御信号が、あそこから出てる。地下ノードを失っても、まだ周辺通信に干渉してる」
ナタワットが震える声で言う。
「完全な花輪ではない。だが、十分危険だ。あれを使えば、港の部隊を誤誘導できる。三合会とホテル・モスクワをぶつけることもできる」
レヴィが鼻で笑う。
「させるかよ」
ダッチが地図を見る。
「正面から突っ込めば蜂の巣だ」
レヴィが口を開く。
「俺は――」
「言うな」
ダッチが遮る。
「まだ何も言ってねえ」
「言う前からわかる」
バルメが静かに言う。
「敵の注意を割る必要がある」
レームが頷く。
「ホテル・モスクワと三合会が外側を押している。こちらが内側から混乱を作れば、指揮車両まで届く」
ワイリが手を上げる。
「混乱なら得意」
ベニーが即座に言う。
「爆発以外で」
ワイリは真剣に考えた。
「煙?」
「それもだいたい爆発の親戚だよね」
「親戚だけど、優しい親戚」
「親戚に優しいも怖いもない」
ロックは敵の配置を見ていた。
コンテナの列。
無線アンテナ。
港湾クレーン。
敵の車両。
そして、PMCの兵士たちの動き。
彼らは整然としている。
だが、整然としすぎている。
ロックは言った。
「偽の無線誘導を使えませんか」
全員が彼を見る。
ベニーが眉をひそめる。
「偽の無線?」
「花輪は、通信を拾って、偽装して、誘導するためのシステムですよね」
「そうだけど」
「なら、逆に利用する。敵は花輪の制御信号を信用している。こちらがそれに似せた偽の命令を流せれば、敵部隊を動かせるかもしれない」
ナタワットがすぐに首を振った。
「無理だ。認証が違う」
ベニーが考え込む。
「完全な命令は無理。でも、ノイズとして混ぜることはできるかもしれない」
ナタワットが見る。
「ノイズ?」
「そう。命令文じゃなく、位置情報の揺らぎ。敵端末に“味方識別がズレている”ように見せる。こっちが敵を動かすんじゃなくて、敵自身に疑わせる」
ロックが頷く。
「部隊が一瞬止まればいい」
ココが微笑む。
「その隙に、誰かが突っ込む」
レヴィが笑った。
「ようやく俺の出番だな」
バルメが即座に言う。
「あなた一人では行かせない」
「何だ、ついてくるのか?」
「ココのため」
「素直じゃねえな。俺と一緒に暴れたいって言えよ」
「絶対に違う」
「半分くらいは?」
「ゼロ」
「言い切ったな」
ルツが言った。
「俺が上を押さえる。指揮車両のアンテナ周りを狙う」
レームが頷く。
「では私は外側の圧力を調整します。ホテル・モスクワ側へ合図を」
ダッチが低く言う。
「合図?」
レームは少し笑った。
「バラライカなら、こちらの動きくらい見ているでしょう。必要なのは、始めるタイミングだけです」
その時、ココの携帯端末が鳴った。
表示はない。
ココは少し笑って出た。
「もしもし」
『ずいぶん楽しそうだな、ヘクマティアル』
バラライカの声だった。
周囲が静かになる。
ココは明るく言った。
「見てた?」
『見せているのだろう』
「話が早いわね」
『私は無駄話が嫌いだ』
「でも電話してきた」
『お前たちが動くなら、こちらも合わせる。港湾クレーン周辺の敵を挟む。だが、花輪の端末は破壊する。持ち出そうとすれば、お前も敵だ』
ココは笑みを深くした。
「怖い」
『怖がっていない声だ』
「少しは怖がってる」
『嘘が下手だな』
「よく言われる」
バラライカは冷たく言った。
『データも含めて、この街を実験場にした連中の手へ戻すな』
「それは同意」
『お前の手に残すことにも同意していない』
「交渉の余地は?」
『結果次第だ』
ココは少しだけ黙った。
「了解」
『合図は?』
ココはワイリを見た。
ワイリは嬉しそうに親指を立てる。
「煙、三つ」
『派手すぎるものは撃つ』
「努力するわ」
『努力ではなく、成功しろ』
通信は切れた。
レヴィが口笛を吹く。
「怖い女同士の電話ってのは、聞いてるだけで胃に来るな」
ベニーが力なく言う。
「僕は今日、胃が何回も死んでる」
ダッチがまとめる。
「やるぞ。ベニー、博士、偽信号。ロック、お前が文面を見るんだな」
「文面というより、誘導の筋を組みます」
「十分だ。レヴィ、バルメ、前へ。ルツは上。レーム、ホテル・モスクワと合わせろ。ワイリ、煙三つ。壊すな」
ワイリが微笑む。
「煙だけ」
ベニーが念を押す。
「本当に煙だけ?」
「煙が出る過程で少し音がするかも」
「それを世間では爆発と言うんだ!」
*
最初の煙が上がった。
コンテナの陰から白い煙が噴き出す。
次に、二つ目。
そして三つ目。
港湾クレーンの周辺で、PMCの部隊が一斉に反応した。
同時に、北側からホテル・モスクワの火線が伸びる。
それは乱射ではない。
必要な場所に、必要なだけ撃つ。
敵を倒すより、動かすための射撃。
バラライカの部隊は、PMCを指揮車両側へ押し込めていった。
東側では三合会の車両が道路を塞ぎ、逃走用のルートを潰す。
張は遠くの建物の屋上から、双眼鏡で状況を見ていた。
隣の部下が言う。
「介入しすぎでは?」
張は穏やかに答える。
「この街で店を開くには、店先を掃除する必要がある」
「掃除、ですか」
「今日は少し大がかりだがね」
一方、コンテナの陰では、ベニーとナタワットが必死に端末を操作していた。
ロックは横で敵の配置を見ながら、短く指示を出す。
「右側の部隊に、港湾クレーン西側へ移動するような偽の味方識別を混ぜられますか」
ベニーが叫ぶ。
「命令じゃなくて、誤認を誘うだけならできる!」
ナタワットがキーボードを叩く。
「だが長くは持たない。敵の指揮官が気づく」
「一分でいい」
ロックは敵指揮車両を見る。
「一分あれば、あの二人なら届きます」
ベニーはレヴィとバルメの背中をちらりと見た。
「僕はその信頼が怖いよ」
ロックは静かに言った。
「俺も怖い」
その時、敵の一部隊が動きを止めた。
彼らの端末に、味方識別の矛盾が出たのだ。
味方が敵に見える。
敵が味方に見える。
命令は正しいが、位置情報が違う。
プロであるほど、一瞬確認を求める。
その一瞬が、ロアナプラでは命取りになる。
レヴィが走った。
「行くぞ、デカ女!」
バルメも同時に走る。
「名前で呼んで」
「じゃあ、バルメ!」
「今さら素直!」
「うるせえ!」
二人はコンテナの隙間を抜けた。
レヴィは低く、速く、荒く。
バルメは正確に、無駄なく、静かに。
敵が気づいた時には、すでに近すぎた。
レヴィが笑いながら撃つ。
「おら、こっちだ!」
バルメが反対側から射線を潰す。
「前に出すぎ!」
「出なきゃ当たんねえ!」
「当てられる距離まで待って!」
「待つのは嫌いだ!」
「知ってる!」
ルツの狙撃が、指揮車両の上部アンテナを狙った。
一発。
金属片が飛ぶ。
通信出力が乱れる。
ベニーが叫ぶ。
「今ので敵の統制が落ちた!」
ロックが言う。
「もう一度、偽の撤退指示を」
ナタワットが首を振る。
「それは無理だ。認証が足りない」
「命令ではなく、救援要請に見せる」
「救援?」
「指揮車両の反対側で味方が孤立しているように見せる。敵は部隊を割くはずです」
ベニーが素早く打つ。
「それならいける!」
ナタワットがロックを見る。
「君は、商社マンではなかったのか」
ロックは画面から目を離さずに答えた。
「今はロアナプラの運び屋です」
「厄介な職業だ」
「ええ。最近よくわかりました」
偽の救援信号が流れる。
PMCの一隊が指揮車両から離れた。
道が開く。
レヴィとバルメが、そこへ飛び込む。
*
PMCの指揮官は、指揮車両の中で状況を見ていた。
彼の名はグラント。
かつて軍にいた。
今は企業に雇われている。
彼にとって戦場とは、管理するものだった。
人員、弾薬、通信、地形、損耗率、撤退経路。
混乱も、数値化できるものだと思っていた。
だがロアナプラは違った。
ホテル・モスクワは、軍隊の顔をした亡霊のように動く。
三合会は、商売人の顔をした蛇のように道を塞ぐ。
暴力教会は、祈りの顔をした闇市のように情報を売る。
そしてラグーン商会は、規格外だった。
特に、二挺拳銃の女。
グラントはモニターを睨む。
「通信補正はどうした」
オペレーターが叫ぶ。
「花輪ノードからの出力が不安定です。味方識別にノイズ。偽信号の可能性があります」
「排除しろ」
「できません。信号が内部プロトコルに似ています」
「似ている?」
「完全ではありません。しかし、システムが一部を正規ノイズとして扱っています」
グラントは歯を食いしばった。
「ヘクマティアルか」
その時、車両の外で銃声が近づいた。
護衛が叫ぶ。
「接近! 二名!」
「二名?」
グラントは一瞬、理解できなかった。
二名で指揮車両へ突っ込むなど、まともな戦術ではない。
だが、ロアナプラではまともであることが弱点になる。
車両の扉が衝撃で揺れた。
続いて、外から女の声。
「開けろ! 宅配便だ!」
別の女の声。
「黙って」
「何だよ、雰囲気出してんだろ」
「出さなくていい」
グラントは拳銃を抜いた。
扉が開いた。
レヴィとバルメが同時に入ってきた。
狭い指揮車両の中で、銃口が交錯する。
レヴィは笑っている。
バルメは笑っていない。
グラントは即座に机を倒し、遮蔽物にする。
レヴィが舌打ちした。
「おいおい、社長室にしちゃ狭いな」
グラントが冷静に言う。
「ラグーン商会のレヴィ」
「有名人じゃねえか、俺」
「そして、ココ・ヘクマティアルの護衛」
バルメが答える。
「バルメ」
「名前を覚える必要はない」
「なぜ?」
バルメは銃を構えたまま言った。
「あなたはここで終わる」
レヴィが口笛を吹く。
「言うねえ」
グラントは低く笑った。
「君たちは自分たちが何を守っているのかわかっているのか。ヘクマティアルは、あのシステムを破壊するだけではない。彼女は使うぞ」
バルメの表情は変わらない。
「知っている」
「それでも従う?」
「従っているだけではない」
「では何だ」
「見ている。必要なら止める」
レヴィが横目で見る。
「お前もそんなこと考えてんのか」
「当たり前」
「忠犬じゃねえな」
「誰が忠犬?」
「俺じゃねえ」
「でしょうね」
グラントは二人を見た。
「理想家に銃を渡すな。君たちはそれを理解していない」
レヴィが笑う。
「俺に説教か?」
「経験からの忠告だ」
「忠告してやるよ」
レヴィの目が鋭くなる。
「この街で、上から目線で説教する奴は長生きしねえ」
グラントが撃った。
車内で銃声が響く。
レヴィは身を沈め、バルメが横から踏み込む。
銃撃と近接戦が混ざる。
狭い空間では、距離の取り方がすべてだった。
レヴィは荒く、速く、危険に近い。
バルメは相手の重心を読み、銃口を逸らし、隙を作る。
グラントもただの指揮官ではなかった。
元軍人らしい正確な動きで、二人を相手に粘る。
レヴィが叫ぶ。
「こいつ、机仕事のくせに動けるぞ!」
バルメが返す。
「油断しないで!」
「してねえ!」
「今した!」
「してねえって!」
グラントが二人の間を割るように動く。
その瞬間、バルメが彼の腕を押さえた。
レヴィが反対側から銃を突きつける。
グラントの動きが止まる。
バルメは静かに言った。
「終わり」
グラントは荒い息を吐いた。
「ヘクマティアルは止まらない」
レヴィが答えた。
「止まらなきゃ、誰かが撃つだろ」
「君が?」
「さあな」
レヴィは少しだけ笑った。
「俺は未来の予定を立てるのが苦手なんだ」
バルメがグラントを拘束する。
「端末は?」
レヴィが車両内を見る。
「あれだろ」
指揮端末はまだ動いていた。
画面には、花輪の制御ログが流れている。
外部接続。
バックアップ先。
データ送信準備。
レヴィは端末を覗き込み、顔をしかめた。
「読めねえ」
バルメが通信を入れる。
「ココ。指揮車両を制圧。端末を確認」
『了解。ベニーを向かわせる』
レヴィが端末を睨む。
「面倒だな。撃って壊しちゃだめか?」
バルメが即答する。
「だめ」
「だと思った」
*
ロックたちは指揮車両へ向かった。
途中、PMCの残存部隊が何度か抵抗したが、すでに統制は崩れていた。ホテル・モスクワが外側を押さえ、三合会が逃げ道を塞ぎ、ルツが高所から要所を潰している。
ロアナプラの街は、外敵を噛み砕きつつあった。
指揮車両に到着すると、ベニーはすぐ端末へ取りついた。
「うわ、まだ送信準備してる。止めないと、花輪のデータが外へ飛ぶ」
ナタワットが隣に座る。
「バックアップ先は?」
「複数。衛星経由で分散送信。全部止めるのは無理だ」
ココが問う。
「どれくらい止められる?」
ベニーはキーボードを打ちながら答える。
「全部は無理。でも、本命のパケットを潰せば使い物にならない断片にできるかも」
ナタワットが画面を見る。
「いや、違う。これは囮だ」
「囮?」
「送信準備に見えるが、本当は受信待機だ。外部から最後のキーを受け取るつもりだ」
ココの目が細くなる。
「本体がまだ外にある」
「そうだ。彼らは花輪を完成させるためのキーを、ここへ送ろうとしている」
ベニーが叫ぶ。
「来てる! 外部接続!」
ココが言う。
「止めて」
「止めると別ルートへ逃げる!」
ロックは画面を見た。
意味は完全にはわからない。
だが、流れはわかる。
複数のルート。
偽装された送信元。
自動的に最適ルートを選ぶ仕組み。
逃げ水のように、止めるほど別の道へ流れる。
ロックは言った。
「止めるんじゃない。受け取ったふりをする」
ベニーが振り向く。
「またそれ?」
「本物のキーを受け取ったように見せて、偽の完了信号を返す。相手は送信が成功したと思う。実際には、こちらで空の器に受ける」
ナタワットが目を見開いた。
「そんなことをすれば、端末内に不完全な花輪が生成される」
「使えますか?」
「使えない。だが、危険な断片にはなる」
ロックはココを見た。
「壊すなら、その後です」
ココはロックを見つめた。
「あなた、本当に盤面に乗ってきたわね」
「乗せたのはあなたです」
「降りる?」
「今さら」
ココは笑った。
「ベニー」
「やってる!」
ナタワットが補助する。
「偽の完了信号を作る。だが、署名が足りない」
ココが記憶媒体を出す。
「これを使って」
ロックが言う。
「それは地下で抜いたデータですね」
「ええ」
「だから持っていた」
「ほら、役に立った」
「後で話があります」
「生き残ったらね」
ベニーが記憶媒体を差し込む。
画面が切り替わる。
花輪の断片データが、指揮端末の中で偽のキーとして組み替えられていく。
外では銃声が続く。
車両の壁に弾が当たり、金属音が響く。
レヴィが外から叫ぶ。
「まだか! 客が追加で来てるぞ!」
バルメも叫ぶ。
「長くは持たない!」
ルツの声が通信に入る。
『南側から増援。数は少ないが、重装備』
レームが続く。
『ホテル・モスクワが押さえますが、早めに終わらせたほうがよろしいですな』
ベニーが汗を拭う暇もなく叫ぶ。
「今やってる!」
ナタワットが声を震わせる。
「外部キー到達まで二十秒」
数字が減っていく。
二十。
十九。
十八。
ココは静かに立っている。
笑っていない。
ロックは尋ねた。
「怖いですか」
ココは答えた。
「ええ」
「そうは見えません」
「見せてないもの」
「あなたにも怖いものがあるんですね」
「いっぱいあるわ」
「例えば?」
ココは少しだけ笑った。
「自分が正しいと思い込むこと」
ロックは何も言えなかった。
十。
九。
八。
ベニーが叫ぶ。
「偽の器、生成完了!」
ナタワットが続ける。
「完了信号を返す!」
三。
二。
一。
画面が白く点滅した。
次の瞬間、外部接続が切れた。
ベニーが椅子にもたれかかった。
「……騙した」
ナタワットも息を吐いた。
「キーは空の器に入った。使えない。だが、ここに危険な残骸が残っている」
ワイリが端末の後ろから顔を出す。
「今度こそ?」
ベニーは疲れ切った顔で言った。
「今度こそ、壊していい。ただし、記憶媒体は抜いてから。いや、待って。電源を落として、ログを消して、それから――」
レヴィが外から叫ぶ。
「長え!」
ベニーが叫び返す。
「爆破ってのは、前準備が大事なんだろ!」
ワイリが感動したように言う。
「ベニーがわかってくれた」
「君のために言ったんじゃない!」
ココは記憶媒体を抜いた。
ロックがそれを見た。
「また持つんですか」
「これは花輪そのものじゃない。抜け殻」
「抜け殻でも、危険です」
「ええ」
ロックは手を伸ばした。
「俺に渡してください」
ココは意外そうに見る。
「あなたに?」
「あなた一人が持つよりはいい」
「ロック、あなたはそれをどうするの?」
「わかりません」
「正直ね」
「でも、あなたが一人で決めるよりは、少しだけましです」
ココはロックを見つめた。
長い一秒だった。
やがて、彼女は笑った。
「半分だけ預ける」
ココは記憶媒体を二つに分けた。
一つを自分のポケットへ。
もう一つをロックへ。
「これで共犯ね」
ロックは受け取った。
「嫌な言い方です」
「でも正確」
「否定しません」
ワイリが端末に仕掛けを置く。
「みんな、出て」
ベニーが急いで機材を抱える。
「今度はどれくらい?」
ワイリはにこりと笑った。
「ほどほど」
全員が一斉に走った。
*
指揮車両が爆発した。
大きすぎず、小さすぎず。
中の機材を完全に沈黙させるには十分で、港湾地帯全体を吹き飛ばすほどではない。
ワイリは遠くからその煙を見て、満足そうに頷いた。
「いい仕事」
ベニーは息を切らしながら言った。
「いい仕事の定義について、いつか真剣に話し合いたい」
「今する?」
「絶対にしない」
PMCの部隊は指揮系統を失った。
花輪の制御端末も沈黙した。
ホテル・モスクワと三合会に挟まれ、ロアナプラの路地を知らない彼らは、急速に逃げ場を失っていく。
バラライカの部隊は、冷静に包囲を狭めた。
張の部下たちは、港の出口を塞いだ。
暴力教会は、いつの間にか撤退路の一部を有料化していた。
エダはそれを見て呆れる。
「ヨランダ、商魂たくましすぎるわ」
通信の向こうでヨランダが笑った。
『神は逃げ道にも値段をつけるのさ』
「その神様、絶対に地獄で商売してるわね」
『この街と大差ないよ』
エダは港の煙を見た。
そして、小さく呟いた。
「終わった……わけじゃないわね」
ロックが近くで聞いた。
「どういう意味ですか」
「こういうのは、終わった瞬間から後始末が始まるの。誰が責任を取るか。誰が知らないふりをするか。誰がデータを持つか。誰が死んだことになるか」
「CIAは?」
エダは肩をすくめた。
「さあ。きっと“そのような作戦は存在しない”って言うわ」
「存在しない作戦で、街が燃えた」
「この街では、存在するもののほうが少ないのよ。戸籍も、契約も、良心もね」
ロックは黙った。
エダは少しだけ優しい声で言った。
「ロック。ココから何か預かった?」
ロックは答えない。
エダはそれだけで察したように笑った。
「隠し事が下手ね」
「あなたほど上手くなりたくありません」
「いい返し」
「褒めないでください」
「じゃあ忠告。持ってるなら、誰にも全部は渡さないこと。ココにも、バラライカにも、私にも」
「あなたにも?」
「もちろん。私はいいシスターだけど、悪い女でもあるから」
ロックは小さく笑った。
「自覚があるんですね」
「自覚のない悪人より、少しはましでしょ」
*
夕方。
ロアナプラの港は、いつもの港へ戻り始めていた。
煙はまだ残っている。
壊れた車両も、穴の開いた壁も、焦げた地面もある。
だが、作業員はもう動き始めている。密輸業者は損得を計算し、情報屋は話を売り、バオは店の修理代を怒鳴りながら書き出していた。
この街は、壊れてもすぐに日常へ戻ろうとする。
それは強さではない。
そうしなければ生きられないだけだ。
HCLIの船は、出港準備をしていた。
ココの部隊は慌ただしく荷を積み直している。
レームはダッチと並んで煙草を吸っていた。
「今回は、なかなか愉快な仕事でしたな」
ダッチが横目で見る。
「愉快?」
「生きて終わった仕事は、だいたい愉快に分類することにしてるんです」
「便利な分類だ」
「年を取ると、記憶を整理しないと重くて持ち歩けませんからな」
ダッチは少し黙り、言った。
「おたくの社長は、これからも面倒を起こすな」
「ええ」
「止めないのか」
「止めますよ。必要なら」
「止まるのか」
レームは笑った。
「そこが問題ですな」
二人はしばらく海を見た。
ダッチが言う。
「また仕事を頼まれたら?」
レームが答える。
「お嬢なら頼むでしょうな」
「俺は高く取る」
「それがいい。安い仕事ほど高くつきます」
少し離れた場所では、レヴィとバルメが向かい合っていた。
レヴィは煙草をくわえている。
バルメは腕を組んでいる。
「で、帰るのか」
レヴィが言った。
「ええ」
「寂しいか?」
「いいえ」
「即答かよ」
「あなたは?」
「清々するね。うるせえ優等生がいなくなる」
「あなたのほうがうるさい」
「うるせえ」
「ほら」
レヴィは少し笑った。
「まあ、腕は悪くなかったぜ」
バルメは静かに答える。
「あなたも」
「褒めるの下手だな」
「慣れてない」
「だろうな」
バルメはレヴィを見た。
「あなたは危ない」
「知ってる」
「でも、戦場では信用できた」
レヴィの笑みが少しだけ変わる。
「それ、褒めてんのか」
「半分」
「まだ言うか」
「残り半分は、警戒」
レヴィは笑った。
「いいね。俺も同じだ」
「また会ったら?」
「撃つか、飲むか、その時決める」
「私は飲んでもいい」
レヴィは少し驚いた顔をした。
「お前、酒飲めんのか」
「人並みに」
「人並みってのは、この街じゃ基準にならねえぞ」
「なら、あなたより少なく」
「それは賢い」
二人は短く笑った。
仲良くなったわけではない。
だが、互いの危険性を認めた。
それは、この街では友情よりも信用に近いことがある。
ルツはその様子を見て、マオに言った。
「あれ、別れの挨拶なのか?」
マオは肩をすくめる。
「たぶんな」
「わかりにくいな」
「わかりやすい奴らのほうが危ない」
ワイリはベニーの横で、壊れた端末の部品を眺めていた。
「これ、少し持って帰っていい?」
ベニーが即座に言う。
「だめ」
「まだ何に使うか言ってないよ」
「言う前からだめ」
「信用ないなあ」
「君に爆発物と電子部品を同時に渡すのは、文明への敵対行為だ」
ワイリは感心したように頷いた。
「その表現、いいね」
「使わないでくれ」
*
ロックは桟橋の端にいた。
海を見ている。
夕陽が水面に伸び、油膜の上で奇妙に光っている。
綺麗とは言いにくい。
だが、目を離せない光だった。
ココが隣に来た。
「一人?」
「考えごとです」
「また?」
「ええ」
「今度は何酔い?」
「たぶん、ロアナプラ酔いです」
ココは笑った。
「それ、治らないかも」
「困りますね」
「でも、あなたはもう慣れてる」
「慣れたくはありません」
「慣れたくなくても、慣れるものってあるわ」
二人はしばらく海を見ていた。
遠くで船の汽笛が鳴る。
港の騒音は少しずつ戻ってきている。
ロックはポケットの中の記憶媒体に触れた。
「これは、どうするつもりですか」
ココは自分のポケットを軽く叩いた。
「あなたの半分と、私の半分。どちらか一つでは意味がない」
「それで安心ですか」
「少しだけ」
「俺を信用しているんですか」
「半分」
ロックは苦笑した。
「それ、本当に便利ですね」
「でしょ?」
「もう半分は?」
「期待」
「重いですね」
「そう?」
「あなたの期待は、銃より重そうです」
ココは楽しそうに笑った。
「やっぱり、あなたはうちに向いてる」
ロックは彼女を見る。
「勧誘ですか」
「ええ」
ココは冗談のように、しかし目だけは真面目に言った。
「ロック。うちに来ない? あなた、いいチェス相手になれるわ。戦場を見て、商売を見て、人間を見て、それでもまだ質問できる。そういう人は貴重よ」
「質問するだけなら、ここでもできます」
「ここでは、観客席に戻れる」
「燃えたんじゃなかったんですか」
「修理すれば座れるわ」
ロックは少し笑った。
「俺は、ここに残ります」
「どうして?」
「この泥沼の観客席が、まだ俺には必要だからです」
「見るため?」
「たぶん、見ているだけでは済まないでしょうけど」
「なら、なおさら来ればいい」
ロックは首を振った。
「あなたの船に乗れば、たぶん早く進める。今よりずっと遠くまで見える。でも、早すぎる気がする」
「怖い?」
「怖いです」
ココは少し意外そうに見た。
ロックは続けた。
「あなたが怖い。あなたの見る世界も怖い。そこに自分が慣れることが、一番怖い」
ココは黙った。
ロックは海を見た。
「ここも十分壊れた場所です。でも、ここではまだ、自分がどこに立っているのか、ときどき確認できる。レヴィがいて、ダッチがいて、ベニーがいて、バオが怒鳴って、エダが嘘をついて、バラライカが睨んで、張が笑っている。ひどい街ですが、まだ足場がある」
「私の船にはない?」
「あると思います。でも、俺には速すぎる」
ココは静かに笑った。
「振られたわね」
「誘い方が軽すぎます」
「本気だったわよ」
「わかっています」
「だから断った?」
「はい」
ココは少しだけ嬉しそうにした。
「いい答え」
「褒め言葉ですか」
「全部」
ロックは初めて、その答えに少し笑った。
「珍しいですね」
「最後くらいはね」
ココは空を見る。
「ロック。あなたは、いつか観客席を降りるかもしれない」
「もう降りているのかもしれません」
「そうね」
「でも、どの舞台に立つかは、自分で決めたい」
ココは頷いた。
「それでいいわ」
少し離れた場所から、レヴィが叫んだ。
「おいロック! 別れのキスでもしてんのか!」
ロックが慌てて振り返る。
「してない!」
ココは手を振った。
「してもよかった?」
レヴィが爆笑した。
ロックは頭を抱える。
「やめてください」
ココは悪戯っぽく笑う。
「冗談よ」
バルメが船のほうから冷静に言った。
「ココ。時間です」
「今行く」
ココはロックに向き直った。
「じゃあ、またね」
「また会うんですか」
「この世界、狭いもの」
「嫌な予感しかしません」
「いい予感より当たるわよ」
ココは歩き出した。
だが数歩進んで、振り返る。
「ロック」
「はい」
「あなたが私を止める日が来たら、ちゃんと本気で来てね」
ロックは答えに迷った。
そして、静かに言った。
「その前に、止まってください」
ココは笑った。
「善処する」
レヴィが横から叫ぶ。
「しねえな、それ!」
ココは楽しそうに笑いながら、船へ戻っていった。
*
HCLIの船が出港する。
白い船体は夕陽を受けて、少しだけ赤く染まっていた。
甲板にはココの部隊が並んでいる。
レームは片手を上げた。
ダッチも短く手を上げる。
マオは煙草をくわえ、ルツは軽く頷く。ワイリはベニーに向かって何かの部品を振って見せ、ベニーが全力で首を振っている。
バルメはレヴィを見た。
レヴィは煙草をくわえたまま、手を振るでもなく、銃を軽く持ち上げた。
バルメはそれに対し、ほんの少しだけ口元を動かした。
笑ったのかもしれない。
レヴィはにやりとした。
「またな、優等生」
バルメの声は届かない距離だった。
だが、口の動きだけは読めた。
――またね、問題児。
レヴィは吹き出した。
ロックはその隣で、白い船が港を離れていくのを見ていた。
ポケットの中には、半分の記憶媒体。
軽い。
だが、重い。
ダッチが隣に来る。
「受け取ったのか」
ロックは少し驚いて見る。
「知ってたんですか」
「お前の顔を見ればな」
「どうします?」
「どうしたい」
「わかりません」
「なら、わかるまで持ってろ。ただし、持ってることを忘れるな」
「はい」
ベニーも近づいた。
「それ、僕の近くに置かないでね。絶対に開けたくなるから」
「開けたいんだな」
「すごく。でも、開けたら今回の騒ぎの第二幕が始まりそうだから、理性で我慢する」
レヴィが煙草を吐き捨てる。
「面倒なら海に捨てちまえ」
ロックが言う。
「それで終わると思うか?」
「思わねえ」
「じゃあなぜ言った」
「言ってみただけだ」
ダッチが低く笑う。
「うちらしいな」
レヴィは白い船を見送った。
「あの白いの、また来ると思うか?」
ロックは答えた。
「来るでしょうね」
「だよな」
「嫌か?」
レヴィは少し考えた。
「半分」
ロックとベニーが同時に笑った。
レヴィが睨む。
「笑うな」
ダッチも少しだけ笑った。
「流行っちまったな」
レヴィは舌打ちする。
「最悪だ」
その時、イエロー・フラッグの方角からバオの怒鳴り声が聞こえた。
「ラグーン商会! 修理代の話をしに来い! 逃げるなよ!」
レヴィがうんざりした顔をする。
「聞こえねえな」
ロックが言う。
「聞こえてるだろ」
「花輪のせいで通信障害だ」
「肉声だ」
「じゃあ心の通信障害だ」
ベニーがため息をつく。
「それ、バオに通じるかな」
ダッチが歩き出す。
「行くぞ。請求書を見るだけ見てやる」
レヴィが驚く。
「払うのか?」
「見るだけだ」
「だよな」
ロックはもう一度だけ海を見た。
HCLIの船は、夕陽の中で小さくなっていく。
ココ・ヘクマティアルは次の空へ向かう。
ロアナプラは、いつもの泥沼へ戻る。
だが何かが変わった。
街ではなく。
世界でもなく。
たぶん、自分の中の何かが。
観客席は燃えた。
それでも、まだ座る場所はある。
だが、次に舞台が燃えた時、自分は本当に座っていられるのか。
ロックには、もうわからなかった。
遠くで船の汽笛が鳴った。
レヴィが振り返る。
「おい、ロック。置いてくぞ」
「今行く」
「考えすぎんなよ。考えて弾が避けられるなら、哲学者は全員無敵だ」
「名言だな」
「だろ?」
「半分くらい」
「てめえまで言うな!」
ロックは笑った。
ダッチも、ベニーも、少しだけ笑った。
ロアナプラの港には、夕方が来ていた。
朝は似合わない街。
夜が終わらない街。
それでも、次の一日は来る。
銃声と冗談と、修理代の請求書と、半分だけ残された秘密を抱えて。
白い船は遠ざかる。
黒い街は残る。
そして、引き金にかかった指は、まだ完全には離れていなかった。