シスターさんのお秘め事   作:とろみ

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15.青空の下で

「起きて下さい。もうお祈りの時間は終わりましたよ、ヒナタさん」

 

 私の肩に頭を預け気持ちよさそうに眠る少女に声をかける。

 

 今はトリニティ大聖堂の中、朝のお祈りの時間が終わったところ。

 

 そして声をかけても起きないこの少女は若葉ヒナタ。

 彼女を一言で表すなら、片目隠れおっとりぽわぽわシスターだろうか。

 このシスターヒナタはお祈りの時間になる度すやすやと居眠りしてしまい、その時横に座るお祈り中の他シスターに寄りかかるのだ。

 しかし信心深い他シスターたちがお祈りの時間中に寄りかかられるのは不憫なので、代わりに私が居眠り用枕になっている次第である。

 

 二年前、つまりこの学園に入学した時からこうなので、もうすっかり慣れた。

 

 一応フォローするとシスターヒナタはお祈りを軽んじているわけではない。

 むしろその逆で、真剣に祈りすぎてこうなっている。

 真剣に祈るあまり肩や腕に力がこもり、体力を一瞬で使い切って眠るのだ。

 

 ……赤ちゃんかな?

 

「ほら、起きて下さい。今日は古関ウイさんと約束があるのでしょう?遅れてしまいますよ」

 

「ウイ……さん?うぅ……はっ!」

 

 むにゃむにゃ言っていたシスターヒナタは、古関ウイの名前を出すとようやく起きた。

 彼女は最近図書委員長の古関ウイという少女と仲良くなったらしく、今日は手伝いをするとかで朝のお祈りの後ウイさんの拠点である古書館に行くと話していた。

 ひとまず起きれたようで良かった。いつもこのくらいすぐ起きてくれると助かるのだが。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

「あ、そうだ!この後お時間が良ければ、アルマさんも一緒に行きませんか?」

 

大勢いた人影もまばらになった大聖堂を抜けたところで、ヒナタがそう提案してきた。

 

「私も、ですか?」

 

「はい!どうでしょう?」

 

「今日は急ぎの予定もないので時間は問題ありませんが……。ウイさんとの約束というのは個人的なものではないのですか?もしそうであれば私がお邪魔するのはいかがなものかと」

 

「いえ、今日は本棚の清掃や移動のお手伝いの約束なので、人手が増える分なら大丈夫だと思います。あ、でも一応モモトークでウイさんに聞いてみますね!」

 

 そう言うとヒナタは沢山のストラップがついているスマホを取り出した。

 

「今日の、お手伝いに、お友だちを、連れてきても、大丈夫ですか……っと。あっ、もう返信が。騒がしい人や、乱暴な人でなければどうぞ……なら大丈夫ですね。大丈夫です、とっても、やさしいひとなので……っと、よし!」

 

 文字を打ちながら小声で喋ってしまっているので、モモトークの内容が全部垂れ流しになっている。

 

 大丈夫かこの子。

 秘密保持が大事なシスターフッドの一員という自覚はあるのだろうか。

 

「アルマさん!大丈夫だそうです!」

 

 連絡を終え、まぶしい笑顔でそう言うヒナタ。

 うーん、元気でよろしい。

 

「そうでしたか、なら私もご一緒させていただきますね」

 

「ふふ、アルマさんとどこかに行くのは久しぶりですね!」

 

 私が肯定の意を示すとヒナタは嬉しそうにニコニコと笑顔を見せた。

 

 大げさな、と思ったがそういえば最近一緒の現場で働くことは無かったな。

 彼女は聖堂の備品管理が主な仕事で、私は自立支援が主なので、シスターフッド全体で共同の仕事などがなければ意外と業務を共にすることは少ない。

 彼女とはクラスメイトの間柄でもあり、ほとんど毎日顔を合わせるので意識していなかった。

 

「では行く途中に購買部へ寄って、手土産に良さげな豆でも買って行きましょうか。」

 

「はいっ。……あれ、私ウイさんがコーヒー派だって言いましたっけ」

 

「覚えはないのですか?最近のあなたは口を開けばウイさんウイさんと彼女のことばかり話しているのですよ」

 

「へっ!?」

 

 顔を赤くして、そんなにウイさんのこと話してました……?と小声で言うヒナタ。

 出会ってから短期間でずいぶん仲良くなったようだ。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 ヒナタとたわいない会話をしながら購買部本館へ向かっていると、大勢の作業着を着た生徒たち、そして工事中と書かれた看板が立てかけられている、シートで囲われた建物が見えた。

 中からは工具の駆動音とそれに負けないくらい張り上げられた作業員たちの声が聞こえる。

 

 なんとなくその様子を眺めながら歩いていると、見知った顔が見えた。

 アリウス分校の生徒だ。

 

 そうか、今日の現場はここだったか。

 

 彼女たちアリウス生の更生プログラムは私の想定以上に順調に進んでおり、少し前から一部の生徒は試験的に収容所の外にて実地での職業訓練がスタートした。

 キヴォトスでは銃撃戦や爆発がそこらで頻発するので、建物や道路の修復、再建依頼には事欠かない。

 ゆえに私は彼女らの職業訓練には専門的な土木作業の訓練を積極的に取り入れた。

 何かを破壊することしか教えられてこなかった彼女らに、分かりやすく何かを作るということを体験して貰いたかったのもある。

 

 見る限りアリウス生たちは真面目に仕事に取り組んでいるようで、皆さわやかな汗をかいている。

 収容された当初からは見違えるような進歩だ。

 

「アルマさん、どうされました?」

 

 いけない。アリウス生を眺めていて、会話を途切れさせていた。

 

「すみません、あそこの工事現場に見えるのは今私が受け持ってる方たちでして、つい様子を見ていたのです」

 

「あら、そうだったんですね」

 

「それでですね、申し訳ないのですが購買部に行った後、またここに寄ってもいいですか?彼女らになにか差し入れをしたいのです」

 

「もちろんいいですよ。約束の時間にはまだ余裕がありますし」

 

 スポーツドリンクにお茶、コーヒーとかでいいかな。お菓子とかもついでに買おうか。

 トリニティ総合学園が誇る購買部本館は業務スーパーくらい大きいので、なにかしら良いのがあるだろう。

 

「……あっ、そういえば七転八倒団の方々をそちらで受け入れていただいた件について、まだ直接お礼を言ってませんでした。あの時は急なお願いを聞いていただいてありがとうございます」

 

 七転八倒団……?

 ああ、ヒナタが連れてきたあのスケバンの子たちか。

 カツアゲなどのみみっちい犯罪で生計を立てていたグループだったが、更生の意思はあったようで、最近ヒナタに連れられてきたのだ。

 七転び八起きと七転八倒を混同してるくらい残念な連中だが、ガッツには目を見張るものがある。

 

「お礼などいいですよ。本当にスケバンだったのか疑問に思うくらい特に問題も起こさず真面目なものですし。それに彼女らに必要な推薦書や各種手続きは、約束通りあなたに押し付けるつもりですからね」

 

「ふふっ、任せて下さい。彼女たちは元気にしてますか?」

 

「ええ、元気にやっていますよ。今はトリニティへの編入試験のため勉強を頑張っているようです」

 

「そうですか……。それは良かった」

 

「まあ先日累計七度目の試験に不合格になっていましたけどね」

 

「えっ、なっ、七回も!?こんな短期間でですか!?」

 

「ええ。『いける!今度はいける気がする!』と都度六回繰り返して全部玉砕してましたね。元気なものです」

 

「え、えぇ……」

 

 あまりのアホの子具合に頬を引きつらせるヒナタ。

 さもありなんである。

 しかし醜態を伝えるだけというのもかわいそうだし、ちょいとだけ援護してやるか。

 

「ふふ、そう引かないであげてください。彼女らが何度も挑戦しているのは、きっとあなたのためでもあるので」

 

「私……ですか?」

 

「はい。彼女たちはみんな、あなたにとても感謝していましたからね。自分たちの話をあんな真剣に聞いてくれた人は初めてだったと。ああして頑張っているのは、恩人であるあなたに変わることができた自分たちの姿を早く見せたいのでしょう」

 

「……!えへへっ、嬉しいですね。次に彼女たちと会うのが楽しみです!」

 

 更生しつつあるスケバンたちのことを知って、自分のことにように喜ぶヒナタ。

 

 あまりにニコニコとするのでこちらもつられて笑みがこぼれる。

 ここまで思ってくれる人がいるなら、きっとあの子たちも新しい人生を歩めるだろう。

 

 澄み切った青空の下、爽やかな風が吹く。

 降り注ぐ太陽の光は心地いい温かみを乗せていた。

 

「それにしても……今日はいい天気ですね」

 

「ええ、とっても」

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