シスターさんのお秘め事   作:とろみ

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19.『故無き死体』

 霊体には色々なタイプがいる。

 直接的な暴力に特化した奴、気づかない内に認識の歪曲をしてくる奴、人格への侵食が得意な奴。

 

 様々な霊体がいる中、私が最も厄介だと感じるのは『一般人でも容易に倒せる霊体』だ。

 正確には『『条件を満たせば』一般人でも容易に倒せる霊体』か。

 

 基本的に霊体というのはどんなに弱かったとしても、グッドネイバーのような専門家でなければ討滅するどころか見る事すら叶わない霊体がほとんど。

 そんな中一般人に倒される可能性を持つのは霊体として大きな穴があると言っていい。

 

 だがこの手の連中は致命的な弱点を抱える代わりに、一芸に特化している奴が多いのだ。

 一芸に特化している、と言ったが人基準で考えられる変動幅ではない。

 

 例えるならその力は『ルール』だ。

 重力が人を地面に立たせるように、時間の流れが物を朽ちさせるように、世界に一つ『ルール』を追加する。

 

 ……今から相手取るのは恐らくそんな相手だろう。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 エデン条約を発端とした混乱も一段落し、私は新たに迎え入れたアリウス生への対応やそれに伴う各所への連絡に手続きなど、表の一般生徒としての業務に勤しんでいた。

 

 そんな折に、グッドネイバー医療施設『恩寵(おんちょう)の揺り籠』から急ぎの連絡が入った。

 内容は街中に見つけた微弱な霊体反応へ偵察兼、討滅に向かった人員がなすすべなく発狂した、とのこと。

 

 これだけならまあそこそこの頻度である事故だ。

 しかし事態はこれだけで収まらなかった。

 

 救出され、専門の医療施設に運び込んだ後も発狂が完治しない。

 それでも懸命に治療は続けられ、わずかに意識が正気に戻ってからはずっと私のことを呼んでいるらしい。

 幸いにも連絡が来た時にいた場所が、トリニティに張り巡らされた独自の移動路に近かったので、すぐに駆け付けられた。

 

「入りますよ」

 

 目に入ったベッドの上には、体全体を弓なりにひきつらせている影守と、それに治療を続けている影守がいた。

 

「影主、様……お待ちし……ぉりました」

 

 狂気を植え付けられた影守は酷い血色で、顔は汗や涙でぐちゃぐちゃになっている。

 それでも焦点が定まらない瞳を私に合わせ、喉を震わせた。

 

 ……想像していたより酷いな。

 

「何があったのですか」

 

「死の風景を……見せられて、います。何度も、今も、私は……蔑まれ、火にかけられるところで。ぃああ゛づぅ……!あ。はぁっ、はっ……。防御霊装は、軒並み素通りされました。破壊されたのではなく……。なんの前触れも前兆も無く、突然に。あとは、ぁ、はぁ。私の死因は、火あぶりや、拷問死が多い……みたいです。う……あぁぁぁあ゛あ゛あ゛……ぁ。こ、これも……何か、手がかりになれば」

 

 話している途中も、彼女の肌にはまるで火で焼かれたような痕が浮かび上がってくる。

 それらは浮かび上がっては即座に治療されを繰り返す。

 

「分かりました。私が討滅を完遂するまで耐えていなさい」

 

「ありがとう……ございます。では、は、ぁッ……、よ、『良き隣人たれ』」

 

 苦悶に表情を歪ませながらも情報を伝えきり、彼女は最後にグッドネイバーの信条と理念の言葉を言い残して気を失った。

 

「ええ、『良き隣人たれ』。……彼女を頼みました」

 

「はい。影主様もお気をつけて」

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 恩寵の揺り籠を後にし、部下を一人連れて現場へ向かう。

 件の霊体は地下水路におり、その地下水路への入り口はメインストリートからほど近い場所にあるらしく、実際に目的地へ近づくにつれ人通りが多くなっていた。

 

 到着したそこはトリニティらしい石畳とレンガで出来た街並みだった。

 カフェが多く立ち並び、いつも多くの通行人で溢れる通称カフェストリート。

 夜の七時を迎えた今の時間帯も、店内から漏れた光や街灯が道を明るく照らしている。

 

 (これはちょっと力押しは控えた方が良さそうですね……)

 

 そこから少しそれた場所にある路地に入ると、すぐに古びた鉄のマンホールを見つけた。地下水路への入り口だ。

 開けると梯子が下に続いている。

 この先で彼女は霊体に遭遇し、影響を受けたらしい。

 

 部下をマンホール前に待機させ、暗視や防臭、諸々の霊装が使える事を確認してから中に入る。

 

 中はカビ臭く汚いが、古い時代に作られたレンガ造りであるため趣がある。

 歴史が好きな人なら一度来てみるのも良いかもしれない。

 私はこれきりで遠慮したいが。

 

 水路の脇に設けられた道を進みつつ、この先にいるだろう霊体について推察する。

 被害にあった影守の証言や状態、遭遇した場所を確認し、いくつか他の可能性も考えたが、やはり先ほど考えていた通りのタイプだと思われる。

 

 理由は遭遇した場所が人通りの多い道路のすぐ近くの地下だということや、観測した霊体反応の小ささに見合わない強力な能力があること、被害者が偵察に行った彼女しか見つかっていないことが挙げられる。

 

 これらから件の霊体は直近で発生、または能力を得たこと。

 移動能力が異常に低いか皆無で、霊体反応が小さいのに『ルール』というべき強度の幻覚能力を持つことが分かる。

 総合してちぐはぐした能力値なこの霊体は『『条件を満たせば』一般人でも倒せる』タイプと考えていい。

 

「ここの左、ですか」

 

 降りてきた梯子から二分もかからず目的地の直前まで来た。

 しかしここまで近くに来たのに霊体特有の嫌な感じはしない。

 それが逆にこの先にいる霊体が厄介なことを保証しているようで嫌になる。

 

 だが足踏みする時間はない。早く片づけよう。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 さむい。

 

(う……ぁ?さむ、い。いや、あつい?あれ……?体が、うまく、動かない)

 

 ぼんやりとした視界、下を見ると真っ赤に染まったシャツが見えた。

 そして、硬くて冷たい場所にいる。

 

「…………?」

 

(あ……、え?なんで?なにが……、あ。そうだ、今日もいつも通りの時間に起きて、いつも通りの道を通って、それで。気付いたら大きなものが目の前に迫ってて)

 

痛い。

 

「だ、だえ……か。たす……」

 

 酷くだるい体を動かし、視線を上げて助けを求めようとして、声が止まる。

 

『目』があった。

 それを知っている。

 いやなものをみる目。

 きたないものをみる目。

 なかまはずれをみる目。

 

「……ぇ」

 

 そんな目で見るほど、私は今、醜い姿をしている?

 ずっと隠していたのに。

 

「や、やめ……そ……んな……、みな……で」

 

なんでそんな目をするの仕方ないでしょう知らなかった

真面目でいることがそんなにつまらなくていやなやつだ

と思われるなんて誰も教えてくれなかったなのに見るな

見るな生き方を覚えた時にはもう青春なんてもうずっと

前に終わってたでもおかしいよ皆で過ごす場所なんだか

らそうじのじかんになったらちゃんとそうじしないとだ

めっていっただけなのにぼくのことなかまはずれにして

 

 暗くなり狭まる視界の中、こちらを見る人たちが何かを話している。

 

「酷い  」

 

「   、見て  」

 

「最悪 。  道 く通   」

 

「下 っ !    邪魔   ま  」

 

 

「……あっ」

 

 彼らが何を話しているのか、どんな顔をしているのか。

 ほとんど何も分からなかったけれど。

 

 子どもが一人、顔を青くして口を押さえながら去っていったのはよく見えた。

 

違う違うごめんなさい違う私はもっと綺麗なことをして

た美しいことをしてた人助けだってボランティアだって

ずっとやってた本当はもう嫌だった頑張ってもまた汚さ

れるしお礼だって言われないこともあるでもちゃんとや

ってたなのになんで今見るの違うごめんなさい見るな見

るなどうして見る見るな見るな今ジャないなんで今違う

違うこれ違ウ違うからミルな見るな見ルなごめんなさい

 

 さむい。

 

 急激な寒気が全身を襲う。

 手や足先は冷たさに覆われて感覚が無くなり、徐々に意識が闇に引きずり込まれて分解されていく。

 

 こんな最期?

 こんなあっけなく?

 こんな独りで?

 

「……なん、で」

 

嫌嫌いや嫌イヤ嫌嫌嫌イヤ嫌嫌死にタくない嫌だ嫌イヤだ

なンでなンデなんでなんで死ヌノやだまだ会エてない良い

人でいれば良い人に会えるって言ッたジゃんウソつき嘘つ

き嘘ツあアぁああアなんで私ガ死ぬの私じゃなくてアイツ

らが死ネばいいもっと悪い奴いるぁァあなンで奴ラガ生き

て私が死ぬのなんでちャンとしテタのに憎いニクい憎いシ

ね死ねし違う死ね殺す殺ス違うこんなこと思ってない違う

 

 ずっと世間に不満を持っていた。

 十の幸福より一つの不幸を見ていた。

 人の嫌なところばかりに目を向けた。

 純粋な気持ちで人助けを出来なかった。

 いつだって中途半端だった。

 結局善人には、良い人にはなれなかった。

 

 だからこれはそんな私への

 

「……ばつ?」

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 最期にそう呟いて、救いようのない愚かで惨めな男は死んだ。

 死の直前の悍ましい闇で暗くなっていた私の視界はいつの間にか晴れていて、うな垂れ血を流す男を見下ろしていた。

 

 何度も通った道、騒ぐ群衆、冷たい空気。

 男が死んでも、恐ろしくリアルなそれらはそのままに残っていた。

 

「……彼女が見せられていた死因と差異がありますね。個々人でそれぞれに一番嫌な死のシチュエーションや受け入れがたい最期を見せるといった能力でしょうか」

 

 報告通り身に付けていた霊装を壊さず幻覚を見せてきたのを考えると、ここの霊体が強いた『ルール』は『範囲内に入った者は必ず死の風景を見ること』で間違いないだろう。

 

 被害にあった彼女が死の風景で経験したであろう傷を現実でも付けられたり、繰り返し見るはめになったのは途中離脱のペナルティ?

 まあなんにせよ『ルール』を乗り越えた以上後は本体を見つけ───

 

「まだ、息がある……?」

 

 死んだはずだった目の前の男はかすかに息を吹き返していた。

 

 そして小さく体を震えさせ、ゆっくりと視線を上げた男と私は目が合う。

 その絶望に濡れた瞳は私の息を詰まらせ、数秒思考を止めさせる。

 そのまま男は血が固まった唇を少しだけ動かした。

 たすけて。

 広げられた唇からは掠れた空気が漏れるだけで、まともな声は出ていない。

 けれど私にだけはなんと言っているか分かった。

 

「なる、ほど」

 

 私は眼下にいる男の頭に銃を向けた。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 排出された薬莢が地面に跳ねた音を響かせ、気づくと景色は戻っていた。

 

 男がいた場所には、水分は抜け筋肉が収縮しているのにもかかわらず、絶望しているような表情を残したミイラがあった。

 

 死の風景の後現れた自分の死体は、霊体が化けていたものだった。

 つまりは自身の死の風景を見た後、自分の手でもう一度自分を殺すこと。

 これがこの霊体の攻略法だったわけだ。

 

 座り込んだ姿勢をした薄暗い赤茶色のそのミイラは、頭に開けられた穴からボロボロと崩れていき、やがて塵一つ残さず消えた。

 

 いつから、どうしてここに居たのか。

 疑問は虚無に呑まれ、まるで元々何も無かったかのような、暗い行き止まりだけがそこにあった。

 

 霊体反応が消滅したのを確認し、入口のマンホールへと戻る。

 梯子を上り外に出てから時計を見てみると、突入からほとんど時間は経っていなかった。

 事後処理を部下に任せて医療部門へ通信を飛ばす。

 

「私です。彼女の容体はどうですか」

 

「容体の悪化は止まりました。今は大分改善しています。霊体からの影響が無くなったわけではないですが、このまま治療を進めれば完治できる見込みです」

 

「そうですか。療養が済んでも、彼女はしばらく偵察や討滅の任から外し休暇を与えるつもりですので、後でそのように伝えて下さい」

 

「分かりました」

 

 他にもいくつかの部門や部下に指示を出したり報告を聞いたりし、今すぐ緊急で片づけるべき事案は無くなったので帰路に就く。

 

 今日の夜は多少冷え込んでいるのか、凍みるような寒さがした。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 く、くそがよぉ……。

 悪趣味なんだよホント。こんなんばっかじゃんもう。

 あの野郎共見た目がグロイか最悪な気分にさせてくるかの反吐が出る二択を強制してくることが多すぎる。

 その二つじゃないならないで今度は馬鹿みたいに強いことがほとんどだし。

 

 ていうかそもそも今回のは環境と人命に配慮して力抑えてただけだし本気出したら一瞬でぶっ飛ばせるんだから良い気になるなよ。

 はー、ほんと一匹残らず滅ぼしてや───

 

「見てみてコレ!」

 

「ひゅッ……」

 

 ……。

 

 突然大きな声が聞こえたので少しだけ驚いて立ち止まってしまったが、声の方を確認するとなんてことはなかった。

 そこにはコンビニ前に張り出されているチラシに集まる二人の少女がいて、先の声は片方の少女がそのチラシを友人にも見てもらいたくて発したのだろう。

 

「……」

 

 ま、まったく、驚かせやがって。

 あんな大きな声を出してはしたない。トリニティの生徒としてもう少し品を保ってほしいものである。

 それにこんな夜中に出歩いて。ちゃんと寝ないと大きくなれないぞ。

 

「はぁ~……」

 

 心の中で説教したところで意味も無し。

 懐から『やわらかしっぽぬい』と充電式カイロを取り出す。

 家に帰るまでこの二つを握って心を落ち着かせよう。

 

 スイッチを入れた充電式カイロは十秒もしない内に熱を帯びて、すぐに手先を温めてくれるし、『やわらかしっぽぬい』は柔らかな感触が心地よく、お気に入りのミストを付けたので良い香りがする。

 完璧だ。キヴォトスで最強の布陣だと言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

 もうすぐ家に着くぐらいになって、帰宅路の反対側からは見知ったシスター服の少女が向かってきていた。

 

 サクラコだ。

 あっちもちょうど今帰りだったのか。

 

 軽く手を振ってみる。

 

 そうすると、サクラコも私に気付いたのか視線をこちらに寄越した。

 そのまま私へ自分も気付いたことを示すように小さく手を振ろうとしたサクラコは、しかしその動きを止めた。

 

「サクラコ……?」

 

 サクラコは何故か両手の指を地面につけるようにして屈んだ。

 

 なんだ……?

 一瞬靴紐でも結ぶのかと思ったが、腕は肩幅より広めに開かれ、両の指は足元ではなく地面に触れている。

 そして右足の膝を立て、左足をピンと伸ばした。

 

 見覚えがある……!あれは、『クラウチングスタート』の姿勢ッ!

 

「サクラコっ……!?」

 

 だ、だがなぜ今ここでそんなことを……!?

 

 混乱する私を置き去りに、サクラコは高らかな号砲の音すら聞こえてくるかのような綺麗なスタートダッシュを決めた。

 

 瞬く間にサクラコと私の距離はどんどん縮まって来る。

 進路の先は私、減速する気配は無い。

 

 昔からサクラコは真剣な顔で真面目に変なことをするちょっと愉快なやつではあった。

 よく分からないがこの唐突なダッシュも彼女なりに本気で何か取り組んでいるんだろう。

 

 であれば幼馴染たる私のやることも決まっている。

 

「来なさいッ!サクラコっ!」

 

 腕を横に広げ、腰を少し落とし受け止める体勢を取る!

 腐っても退魔組織の長をしているのだ。戦車程度なら余裕で受け止められるぞ!

 

 私の様子を見て、サクラコは前傾姿勢となり、更に加速した。

 接触にもう三秒もかからない。……2、1、ここッ!

 

 正面からハグするような形で飛びかかって来るサクラコに合わせ、体全体を使って衝撃を逃す。

 ぐるぐると数回回転し、ようやく勢いが落ちた。

 

 ふう、なんとかケガとかはさせてなさそう。

 

「……それでどうしたんです?いきなり走り出して飛びかかってくるなんて。猿かコアラの幽霊にでも憑かれましたか?」

 

 勢いが止まってからも、ぎゅうう、と強めに抱きしめてくる幼馴染に問う。

 

 だいぶ面白いやつなのは理解しているが、高校生になってからは野外でこんなアクロバティックにとんちきなことをするのは珍しくなっていたからだ。

 

「なんとなくこうしたいと思いまして」

 

 正面から抱き合ってる都合上表情は見えないが、声色は穏やかに聞こえた。

 暴走しているふうではないので、彼女の証言が本当なら、なんとなくで人に飛びかかって来たことになる。

 とんでもないやつを幼馴染に持ったものだ。

 

「サクラコ?実はなんとなくで人に飛びかかるのはいけないことなのですよ?」

 

「そうなのですね。校則には記載されていなかったので気づきませんでした」

 

 ……言われてみれば確かに校則にはそんなこと書いてなかったな……。

 よくよく考えれば銃撃戦がそこら中で起こっている街なのだから、人に飛びかかるくらい問題ないのか……?

 いけない。悲哀を感じるほどのキヴォトスのモラルを前に私の常識が崩れそうだ。

 

 ……まぁそれはそれとして。

 

「あの、長くないですか?そろそろあの……さすがにちょっと、恥ずかしくなってきたんですけど……。それにここ外ですし……」

 

 そう言ってもサクラコは無言で抱き着いている。

 確かに受け止める体勢を取った私も同罪かもしれないが、もうかれこれ一分は抱き合っている。

 お互いの体温で結構暑くなってきた。

 

 私は体を冷やしやすい体質で、結構布を重ねて着ているのも相まってサクラコも暑いと思うのだが、依然としてサクラコは腕の力を弱めない。

 

 彼女は優しく穏やかな気質だが、同時に恐ろしいほど頑固でもあるので抵抗は無意味だろう。

 諦めて手持ち無沙汰の腕をサクラコの腰に回し、時が過ぎるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

✚ ✚ ✚

 

 

 

 

 

「もう大丈夫そうですね」

 

 多分十分くらい経った後。

 私の顔をのぞき込みながらそう言って、ようやくサクラコは私を解放した。

 

 大丈夫じゃなかったのはどう考えてもそっちの方だと思う。

 夜道で会ったかと思えば突然飛びかかってきてそのまま抱き着き続けるだなんて、字面だけ見れば新手の妖怪か都市伝説だろう。

 

 それにもし夜中にシスター二人が十分近く路上で抱き合っていたなんて知られたら、シスターフッドが怪しげな儀式をしていたと噂されていただろうに。

 ただでさえ黒い噂が絶えないのに更に追加してどうする。

 日頃言っているシスターフッドのイメージ改善に努めるとの発言はなんだったのか。

 

 ……色々言いたいことはあったけど。

 では、帰りましょう、と手を握ってくるサクラコが心底安心したような顔をしていて、なんだか気が抜けた私は小言を胸にしまっておくことにした。

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