ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした   作:いつもより多く回っております

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1 狂言回し、怪異をボコして回る

 ――物語には、時折胡散臭い狂言回しが出てくることがあるだろう。

 突如として不思議アイテムを売りつけてきて、それによって因果応報で人が破滅したり。

 世にも奇妙なストーリーが展開されて、その導入に出てきたり。

 そういう狂言回しが、たまにいる。

 

 なった、それに。

 

 俺の名前は猿回し。

 前世はしがない社畜オタクだったんだが、気づいたらスーツ姿で如何にも胡散臭そうなワカメ髪の青年になっていた。

 目つきは糸目で、笑うとこれまた胡散臭い。

 

 言うまでもなく、俺は人外だ。

 だからか面倒なことに、俺には人としての名前と人権がなかった。

 戸籍もない、住む場所もない。

 普段の暮らしはどうするんだって話。

 まぁ、そこら辺はオカルトパワーでなんとかできるんだけど、オカルトパワーに振り回されることもある。

 というのも俺って、どうやら怪異案件に巻き込まれそうな被害者の前に出現して、意味深なことを言って去っていくタイプの狂言回しみたいなんだよね。

 そのうえで、その被害者が怪異事件の中で一つの結末……あるいは末路へたどり着くともう一度でてきて意味深なことを言うのだ。

 

 そう、どこからともなく出現するのである。

 先日はラーメン屋で麺をずるずる言っている最中に呼び出されましたよ。

 何もない場所から空気椅子に座って、どう考えてもラーメン啜ってるポーズの狂言回しが出てきた時の被害者の気持ちを考えろよ。

 もう少し気を使って呼び出せよ!

 まぁ俺個人に関しては、役目が終わったら元いた場所に転送されるからいいんだけど。

 どうも俺自身に認識阻害みたいなものがかかっているのか、転移しても周りは騒がないし。

 いいんだけどね、俺は。

 お代? 普通に払いましたよ。

 どこからお金を手に入れているのかは秘密。

 

 で、そんな狂言回しな俺だけど、思うのだ。

 俺が狂言回しとして召喚されると、そこにはこれから怪異にひどい目に合わされる人がいる。

 ――これ、放って置くのは忍びなくない?

 いや、半数はいかにもチャラくて肝試しの最中にうっかり封印を破壊しそうな連中ですよ?

 でも、残りの半数はごくごく普通の一般人だ。

 怪異にひどい目に合わされる理由なんて何一つない。

 そんな人が怪異に脅かされる。

 

 理不尽だろ、それ。

 

 そもそも半数のチャラい連中も、いくらなんでも殺されるほど悪いことはしたか? って話。

 まぁ流石に悪いことそのものはしてるので、そこそこ怪異に追い回されて怖い目にはあってもらうけど。

 反省してたら許してもいいと思うんだよね、俺個人としては。

 流石に反省してなかったら……アレだけど。

 

 だから俺は、自分の特性を利用することにした。

 どうするかって?

 さっきも言ったけど、俺は怪異案件の被害者の前に二回出現する。

 一回目は、怪異の被害に合う直前。

 そしてもう一つは――

 

 

 ◇

 

 

 今年で大学二年生になる少女、牧駒ミウは夜道を必死に駆けていた。

 空は分厚い雲に覆われ、街灯だけが道を照らしている。

 見栄を張ってヒールなんて履いてくるんじゃなかったと後悔してももう遅い。

 何度もつまづきながら、後方から迫ってくる”何か”から必死に逃げ続けるしかないのだ。

 

「……はぁ、はぁ……なんで、なんで私が追われなくちゃ行けないんですか!」

 

 これまで、ミウは品行方正に生きてきたつもりだ。

 なのにどうして、こんな目に合わなくちゃ行けないのだろう。

 事の起こりは今から一週間ほど前のこと。

 部屋の外から、”何か”が自分の部屋を覗いていることに気がついた。

 夜になると、じっとこっちを見つめてくるのだ。

 怖い、と思いながらも警察は取り合ってくれず、一人暮らしで友人も少ないミウに頼れる相手はいない。

 故に、ただふるえながら眠れない毎日を過ごすしかなかったのだ。

 そんなある時、ミウの前に見知らぬ男が現れた。

 そいつは黒いスーツと帽子で、如何にも胡散臭い雰囲気を漂わせていて、笑うとこれまた狐みたいな笑みを浮かべる男だ。

 そんな男が――

 

「――月が浮かばぬ夜は、外に出るのを控えるといい。さもなくば、君は闇に呑まれてしまうだろう」

 

 なんて言って、気がつけば眼の前から消えていた。

 あの時から、いつかはこうなる時が来るとおもっていたのだ。

 いくらなんでも、大学生に夜出歩くなというのも無茶な話。

 ミウもバイトで帰りが遅くなり、更にはこうして空も雲に覆われて月が隠れてしまった。

 結果がこのザマだ。

 

「月が浮かばない夜って、新月のことじゃないんですか!?」

 

 流石に空が曇ってる日まで襲いかかってくるのは卑怯だろう。

 そう思いながら走る。

 ”何か”はもうすぐ後ろまで迫っていて、しかし未だミウに追いついてはこない。

 きっと、わざとそうしているのだ。

 さっきからずっと走っているのに、コンビニどころか明かりのついた家すら見つからない。

 不自然なくらい真っ暗な、街灯だけの街をミウは走っていた。

 

「なんで、なんでなんでなんで! ――あっ!」

 

 どうして自分がこんな目に、そう思いながらも逃げていたミウの足がもつれる。

 終わった。

 そう、心の何処かで冷静な自分が語った。

 

「あづっ!」

 

 地面に転がると、途端に痛みが襲ってくる。

 泣きだしてしまいそうだ。

 もしかしたらもう、泣いているかも知れない。

 それでも足を動かそうとして、しかしミウは自分の足が動かないことに気がついた。

 疲労が限界を迎えたからというのもある。

 しかし、もっと根本的な話――”何か”が、自分の足を掴んでいるのだ。

 

「嫌――っ!」

 

 暴れる。

 なんとか逃げ出そうとした。

 しかし敵わない。

 明らかに向こうのほうが力が強いのだ。

 

 怖い。

 怖い、怖い怖い怖い。

 あまりの恐怖に視界がゆがむ。

 ミウはもう、ただただ涙を浮かべて震えるしか無かった。

 

『ツ カ マ エ タ』

 

 ――ゾクッと、背筋が震える。

 悍ましい何かが、ニタニタと自分を見下ろしていた。

 これが、自分を追いかけていたものの正体。

 こんなものに――こんなものに殺される?

 そう感じた時。

 ミウは――――

 

 

「――月の浮かぶ夜は気をつけなさいと、アレほどいったのに。残念だ、牧駒ミウ」

 

 

 その時だった。

 不意に、声がする。

 聞き慣れない声だった。

 しかし、聞き覚えのある声だった。

 視線を向ければそこには、先日声をかけてきた胡散臭い男が立っている。

 

「あ、え……?」

 

 理由のわからない光景だ。

 最初に男と出会った時、ミウはその胡散臭さに恐怖を覚えた。

 まるで、自分が死ぬ時にそれを嘲笑ってくるかのような、そんな雰囲気を感じ取ったからである。

 しかし今、眼の前に現れた男は――まるで、ミウの窮地を救いに来たみたいじゃないか。

 

「しかし、君が嘆くことはない。君が相対しているのは、ただ理不尽なだけの存在だ。――君は、何も悪くない」

 

 その言葉が、すっと胸の奥に入り込んでいく。

 どうしてかミウは、この胡散臭さの塊みたいな男に、安堵してしまっている。

 もう大丈夫だと、彼が言ってくれているように聞こえたから。

 

『ジ ャ マ ス ル ナ』

 

 怪異が、男に向かって怒りを顕にする。

 獲物を前にして、それをようやく自分のものにできるというまさにその瞬間。

 それを妨害するように男は現れた。

 だから怪異も、怒っている。

 そんな怪異に男はゆっくり近づいていく。

 

 ――ああ、もしかして怪異を不思議な力で追い払ってくれるのだろうか。

 そんな希望が、湧いてしまった。

 現状は、まだぜんぜん助かってなんかいないのに。

 ミウは、希望を抱いてしまったのだ。

 そしてその希望は――――

 

 

 突然ムキムキになった男が、見えない何かを殴り飛ばすという形で叶えられた。

 

 

「ええ――――――――」

「ぺっ、雑魚が」

「ええ――――――――――――――――」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。

 完全に脳筋ゴリラと化した男の手によって、怪異は討伐されたのだった。

 なお、スーツはパツンパツンになっていて、筋肉フェチのミウは少しだけ興奮してしまったが、それはここだけの話だ。

 

 

 ◇

 

 

 いやぁ、いい仕事をした。

 今回の被害者は牧駒ミウというらしい。

 苗字から分かる通り、ただ巻き込まれただけの純粋な被害者である。

 それでいいのかホラー世界。

 まぁいいか。

 何にしても、今回は俺としても満足な仕事だったのだ。

 というのも、怪異に関わる人間というのは後ろ暗い人間が割といる。

 流石に死ななきゃ行けないほど悪いことをしている人間はそういないが、完全に落ち度ゼロな人間もあまりいない。

 対して今回の牧駒ミウは純然たる被害者だった。

 相手の怪異も悪意100%の怪異で、殴ってもなんの罪悪感もない。

 毎回こういう怪異案件だけならいいんですけどね。

 一発殴って解決……みたいな展開にならないこともあるし。

 とか思いながら、元いた場所に転移した俺は、店のカウンターに座る。

 食券を購入するタイプの食堂で、食券を購入した直後に呼ばれたんだよ。

 カウンターに座る前で本当に良かった。

 まだギリギリ格好のつく登場の仕方になったはず。

 そう思っていた――その時だった。

 

「はぁ、疲れました……」

 

 

 牧駒ミウが、俺の隣の席に座った。

 

 

「あっ」

「あっ」

 

 向かい合う俺達。

 君がついさっきまでいた場所、ここの近所だったのか――――

 俺達二人の間に、気まずい沈黙が流れるのだった。

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