ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
俺が初めて助けた配信者、名前を雪吊ソエンという。
当時は別の名前を名乗っており、ソエンになったのは助けた後なのだが。
まぁ、助けて以来俺はソエンのおかげで金を稼ぐことができていた。
人間らしい生活を送れているのは、奴のおかげとも言える。
――問題は、そのソエン自身が人間と言えるか怪しい生活を送っていることだが。
「おーい雪吊ソエン、来たぞー」
奴の名を呼びながら、合鍵を使って中に入る。
雪吊ソエンは本名ではないのだが、奴は自分の本名を蛇蝎のごとく嫌っているので周囲の人間は雪吊ソエンと彼女を呼ぶ。
奴が住んでいるのは、部屋が複数あるそこそこ高級なマンションだ。
ただ、そんな高級マンションの部屋の中はところ狭しとゴミが散らかっていた。
というか文字通り足の踏み場もなく、完全にゴミがカーペットと化している。
人は半月でここまで部屋を汚せるのか、と感心してしまうほどだ。
俺が部屋に入ってきても、雪吊ソエンからの返事はない。
それもそのはず、奴は防音室にこもってやがる。
今は配信をしていないはずだが、奴の生活スペースはベッド以外ほぼ防音室の中なので、外に出る理由もないんだろう。
どんどんと防音室の扉を叩いて存在を知らせてもいいのだが、そうすると奴は理不尽にもキレやがるので面倒は避けたい。
スマホでメッセージを送るほうが確実だ。
眼の前にいるのに。
『来たぞ』
『おー』
『何やってるんだ、お前』
『トゥイッターで無知なふりして間違った知識を披露してオタクを釣って遊んでた』
『性格悪いなお前』
間違った知識を披露すれば、正しい知識を披露したいオタクが釣れる。
いやなライフハックだ。
まぁそれは別に構わないんだが、悪意を持ってやるから雪吊ソエンは救えない。
『それで、今日の要件は』
『先に掃除してからおねがーい、日当はいつも通りで』
『お前は風呂に入っておけよ』
『やだー』
『臭いから入れ、部屋の中がドブみたいな匂いになってるぞ』
と、そこまで連絡を送ると――
「ざけんなよてめぇ!」
防音室の中から生物学上は女と表現できる何かが飛び出してきた。
癖のある黒い髪、背丈はそこそこ高いのだが猫背のせいで小さく見える。
服はシャツと下着だけというスタイル。
見た目を一言で表現すると――
「相変わらず、虐げられた奴隷みたいな見た目してんな」
「いいだろー、オタクこういうの好きじゃん」
「俺は別に、そもそも臭いからはよ風呂入れって言ってんだ」
「死ね」
とはいえ、拒否すると俺が強硬手段に出ることはわかっているので、渋々と言った様子で雪吊ソエンは風呂へと向かっていった。
この部屋の中で浴室と防音室の中だけはキレイだ。
後者は普段使っているからで、前者は普段使っていないからなんだが。
まぁ、下手に使って掃除せず放置したせいでカビだらけになるよりはマシか。
とにかく、俺はそれから雪吊ソエンの部屋をいつも通り掃除していった。
日当……? そんなものでないよ……
俺があまりにも汚い部屋を見てられなくて掃除を始めたら、この女はそれを当てにしはじめたのだ。
マジふざけんなよこいつ……
まぁ金が必要だったら言えば出してくれるんだが、それはそれとしてなんだか釈然としないのは俺だけか?
んで、掃除を終えた後俺と雪吊ソエンはリビングで茶をすすっていた。
「――奴隷キャラが解放された後に綺麗な身なりになるけどさ、戻してって思うよな」
「知らん」
「あのボサボサ髪がいいのに、どーして普通の美少女になってしまうのか! アタシはそれがよくわからん」
「はいはい」
と、適当に雪吊ソエンの独り言を聞き流す。
今の雪吊ソエンは匂いもマシになっており、一見すれば美女と言っても差し支えはない。
が、本人がこだわって奴隷スタイルを貫いているので、見た目はもさ髪の陰キャ女だ。
「女の容姿はスタイルと化粧が十割」
「そうか」
「かまえよ」
「は?」
そっちが調子に乗ると止まらなくなるから適当に流してるだけなのにこいつ……
「つかさあ、仮にも旦那なら少しは妻のことを労ってほしーんだけどー」
「旦那じゃない。俺はその話いまだに認めてないからな?」
「いーじゃん! そうしておいた方が燃えんぞ? いいのかー、ソエンちゃんに彼氏疑惑で炎上してもいいのかー? ネットで袋叩きにされてストレスで胃袋壊滅させたくないだろー?」
「俺はそもそもSNSはそんなみないし、そもそも壊滅する胃袋もない」
こちとら怪異だぞ?
「はーつまんな、これだからお前はダメなんだよ。もっとSNSで面白き事も無き世を面白くとか呟けよ」
「嫌だが……」
「ま、そんなこと言い出す奴、総じて全員つまらねーけどな! ゲラゲラゲラ!」
「ゲラゲラって口に出して笑う奴初めてみた」
「今のSNSでつぶやいてこよ」
「やめろ!」
こいつ、自分が燃えてファンとアンチがレスバするのが面白いからって理由で燃料注ぎ込むんだよな。
最悪すぎるだろ。
とにかく、そうやってしばらく雪吊ソエンの機嫌を取っていると、ようやく奴は本題に入るつもりになったらしい。
今回奴が俺を呼び出したのは、掃除以外にも別の用事があるのだ。
「はー満足した」
「んで、さっさと本題に入れよ」
「はいはい。んじゃ早速だけど、世界の怪異解説の方に依頼が入ったわーけーよー」
「それで?」
「いつもどーり」
世界の怪異解説。
牧駒ミウも視聴していた、俺と雪吊ソエンが運営するチャンネルだ。
こちらは雪吊ソエンが裏方で、俺が解説を担当している。
んで、そんな世界の怪異解説だが、時折リアルの怪異案件を解決してくれという依頼が入ってくることがあるのだ。
怪異の解説してるからって怪異案件を解決できるとは限らないが、俺たちの場合は実際に事件を解決したことがあったりするわけ。
コナン・ドイルが実際に冤罪事件を解決した……みたいな。
「ただ面白いのがね、今回の案件……なんと孤島に来てくれって案件なのさ」
「へえ」
「クローズドサークルよクローズドサークル! いやーアタシも実際に行ってみたかったなー、本格ミステリの世界をたんのーしたかったなー」
基本的に、うちへやってくる依頼は怪異が関わっているかもしてない事件を解決してほしい、というものだ。
純粋な怪異案件ではない。
端的にいうと「事件を起こした人間」がいて、その裏側に「人間を利用する怪異」か「犯人が呼び出した怪異」が存在する。
こないだ解決した「トリハネ」の事件とかがそれだ。
こういう事件の何が厄介って、怪異そのものが事件を起こしたわけじゃないから俺の能力の対象外なことがあるんだよな。
トリハネは狙っている相手が犯人だったから能力の対象内だったけど、今回はどうなることか。
なのでこうやって、解決の依頼が舞い込むのはありがたいって話だ。
「行きたいならいけよ、別にいいんだぞ?」
「いやいやいや、それでアタシが世界の怪異解説のスタッフだってバレたら大炎上だから。ダメに決まってるっしょ」
「そんな燃えるもんかね、お前が俺を旦那だって言い放っても燃えなかったのに」
「燃えるんだよ。アタシと怪異解説じゃ層が全然違うんだから」
んで、怪異解説の運営は雪吊ソエンなので、依頼もそっちにくるわけだが、こいつは炎上を気にして外に出たがらない。
出不精というのも大いにある。
本格ミステリを堪能したいというが、多分スマホの電波が届かないことにキレて事件が起きる前に帰るぞこいつ。
そしてWi-Fiが使えることに気付かないんだ。
「とにかく、いつも通り助手がほしいんならフレリリ連れてきな」
「いや、今回はちょっと別の人を誘おうと思ってる」
「は?」
何やら凄む雪吊ソエン。
俺としては、怪異案件に関わる際は助手が一人欲しい。
それも、
俺が怪異について質問すると「専門家なのにそんなことも知らないのか」と思われるが、あまり詳しくない助手が質問すればそうはならない。
いつも怪異案件に連れて行っているフレリリことフレンド・もふもふ・リリシュテインは本人もやる気があってその点ちょうどいいんだが。
今回に関しては、別の適任がいる。
牧駒ミウだ。
「女?」
「お前とは違って、普通に女だ」
「人を女じゃないみたいにいうなよ」
「失礼、お前と違って普通に人間だ」
「悪化した!?」
フレリリは雪吊ソエンと違って登録者数数十万の超有名配信者だからな。
予定を確保するのも大変だし、牧駒ミウなら誘えば普通に乗ってくれるだろう。
「てめぇなぁ、フレリリはアタシの舎弟だからいいけど、他の女さーそーうーなーよーなー……」
「はいはい。とりあえず日当を払いたいから資金を用意してくれ、調査費用もな」
「しかもその女に貢ぐ金まで要求してきたなぁ!?」
「貢ぐ言うな」
あとフレリリは舎弟だからって油断しすぎだろ。
まあ何にしても、こうして俺は依頼を受けて、怪異案件に首を突っ込むこととなった。
さて、今回の事件はどうなることやら。
Xのことを一生twitterと呼ぶタイプの女です。
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