ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
金満富蔵は焦っていた。
なんか――なんか爆速でトリックが台無しになっていく――――
そもそも、金満富蔵とエンカンはそれぞれがそれぞれに目的を持って動いている。
金満富蔵の場合は、この村の長達によって殺された父の復讐だ。
金満富蔵の父は、戦後に行われた最後の人柱で犠牲となった人物である。
父は最後まで殺されまいと抵抗したが、寄って集って無惨に殺された。
しかも本来であれば人柱が出た家は手厚く村で面倒を見るしきたりになっていたが、殺した長達が逮捕されたことで有耶無耶に。
金満富蔵の少年時代は、苦渋に満ちたものだった。
村を自分の手で発展させることで、かつての長たちの面目を潰したが、それだけでは満足できずこうしてその長達の子どもを呼び出し殺そうと考えていたのだ。
――だが、エキストラとして呼び立てた無関係な人間が死ぬほどノイズになった。
まずなんだあのコスプレ女。
聞けば現代ではほぼ唯一と言っていい信頼できる除霊師だそうだが、衣装の頭がおかしすぎる。
ついでに言えば子どもじゃないか。
まさか子どもを騙して働かせているのか? 金満富蔵は心配になった。
ただそのコスプレ女のせいで、コスプレ女以外の面々が想定以上に交流を深めてしまったのは想定外だ。
集まった者たちが、自分達の関係性について気付き始めている。
最悪、気付いた奴から片っ端に殺していかないと、すぐに自分の目的に気付かれてしまうかもしれない。
なんなんだコスプレ女……ハレンチすぎるぞコスプレ女……
金満富蔵氏はすでに天寿を全うした妻一筋で、女性相手にあくどいことは一切しないタイプだった。
見た目は絶対そういうことしてそうなのに。
次に厄介なのは、数合わせで呼んだ怪異解説チャンネルの動画投稿者の助手だ。
投稿者本人は何やら調査と称して島の外に出かけているらしい。
いやこの島にそんな調査するところあるわけないだろ……と内心島を作った張本人である金満富蔵は思いつつも、自分の計画に関わらないなら無害なのでほうっておくことにした。
だが、問題は助手だ。
何あの吸引力。
もはや食べるというよりも、吸っているとしかいいようのない速度で食事が消えていく。
いくら大食いだからって、この速度で食事が消えていくのはあまりにも非現実的だ。
歳のせいであまり料理が食べられない金満富蔵としては羨ましくて仕方がない……
いやそんなことよりも、この料理に金満富蔵は毒を仕込むつもりだった。
しかしいきなり仕込んではあまりにも露骨。
エンカンに纏わるわらべ歌に見立てて殺人事件を起こしつつ、最低限の偽装工作はする予定だったのだ。
なので、最初の料理には毒を仕込んでいない。
おかわりとして持ってきた料理に、毒を仕込む予定だった――の、だが。
おかわりがすべてあの少女によって吸われてしまった――――
やばすぎる、何だあいつ。
というか、前にどこかで見たことがあるような気がする。
アレは確か……金満富蔵が経営する店の……大食い企画……?
うっ、頭が……何かトラウマを刺激されそうだ……
ともかく。
最初の計画は失敗に終わった。
しかし、リカバリは可能である。
本来は食事に毒を仕込んで弱らせた上で、更に直接殺害する段取りだったのだ。
こうなったらオリチャー発動、毒なしで乗り込んで殺害するしかない。
なぁに殺害した後に、密室を作れば問題ないのである。
そのために屋敷を新造し、いくらでも密室を作れるよう細工を施したのだ。
ミステリの常識? 知らん知らん。
そんなものエンカンにでも喰わせて置けばいいのだ。
というわけで、金満富蔵は夜になって標的の部屋へと向かう。
部屋割と館の構造を工夫して、絶対に足音を聞かれないルートを作成してある。
そのルートを悠々と通って向かった先、そこでは――
部屋の壁に大穴が空いて、それを見ながら呆然としている参加者の姿があった――
わ、儂の密室――――
そしてトリックがすべて台無しとなり、金満富蔵も呆然としてしまうのだった。
◇
エンカンは焦っていた。
猿回しがここまで化物とか聞いてなかったんですけどおおおおおおお!
金満富蔵とエンカンはそれぞれ別の目的で動いている。
金満富蔵の殺害計画を利用して、エンカンは猿回しの謀殺を計画していた。
あの猿回しは、怪異をボコボコにして回る恐ろしい怪異だ。
猿回しってそんな怪異じゃなかっただろ!
多くの怪異のそんな嘆きを聞いて、エンカンは猿回し討伐を決意したわけだ。
そのために、各地から様々な怪異の協力を得ている。
しかし、彼らはことごとく猿回しによってワンパンされていった。
船を沈める怪異カプヘリや、因習村のガキの怪異であるインガキなどなど。
様々な怪異を呼び出したのに、あいつら何の役にもたちゃしない。
相手は猿回し、怪異を殺す怪異だ。
もう少し慎重に接触しろ。
特に船を沈める担当は、館に猿回しを始めとした参加者が全員島にやってきてから沈める手筈だったはずだ。
誰が猿回しの乗ってる船に取り憑けと言ったああああああ!?
むしろ猿回しが乗ってる時は取り憑かずにやり過ごせよおおおおお!?
インガキも猿回しの前に姿を見せたらだめだろうがよおおおおお!!
何がちょっと煽ってくるだよ死亡フラグを立てるのは参加者だけでいいんだよおおおお!
しかも、猿回しを追い詰めるために雇った除霊師が土壇場で気づいて逃げやがった。
島にさえ連れてきてしまえば、後はなし崩しでなんとかなるはずだったのに。
もう一人の除霊師は猿回しの関係者。
こっち方面の助力は期待できない。
何が
その後も食事にヨモツヘグイを混ぜる作戦もほぼ失敗。
あの程度の量では、参加者を支配するにはぜんぜん足りない。
明日以降の食事に少しずつ盛っていけば最終日には足りる算段だが、最終日まで自分の命が残っている保証もないのだ。
この作戦はほぼ破綻したと言っても過言ではない。
しょうがないので、強硬手段。
金満富蔵が最初に殺害する予定の参加者に細工をして、ゾンビとして手下にするのだ。
他のバカどもと違って金満富蔵は優秀である。
殺害計画はガバってオリチャーが必要になってしまったものの、そのための準備はすべて完璧。
あいつが参加者を殺してさえしまえば、後はこっちがどうとでも誤魔化せる。
そう考えて怪異を被害に合う参加者の部屋の外に待機させていたら――
「――見つけたぞ」
ムキムキゴリラの猿回しによって、壁ごと無惨に破壊されてしまった。
しかも、まずいまずいまずい!
奴は見つけたと言っていた。
これは決してあの怪異を見つけたという意味ではないだろう。
ここに至るまで、猿回しは島に呼びつけた怪異を殲滅といっていい勢いで鏖殺している。
島の奥の方に設置しておいた祠の怪異を破壊し、それが破壊されたときに呼び出されるホコガキという怪異も破壊し。
他にもありとあらゆる怪異が破壊され尽くし、残るはほぼエンカンのみとなっていた。
その間、ムキムキゴリラは決して「見つけた」などとは言っていなかったのだ。
このタイミングで見つけたということは、すなわちエンカンを見つけたという意味に他ならない。
本来、エンカンの社はわからない場所に隠されているはずだった。
何せ地面の中に埋め込まれているのだ。
金満富蔵にとっても、エンカンにとっても社が見つかるというのはまずい事態だったため、こうなったのである。
しかし、見つかってしまえばゴリラオブムキムキにとって、そんなの何の障害にもならない。
迫りくる掘削音、恐怖が限界に達したエンカンは、叫びながら怪異ムキゴリに飛びかかった。
「てめぇなんざ怖かねぇ! 野郎ぶっ殺してやるぅうううう!」
◇
――それから4日後、猿回し達は無事に島から脱出した。
エンカンそのものは一日目に討伐され、金満富蔵の殺害計画も一日目でほぼご破産。
その後も何とか金満富蔵は軌道修正を図ろうとしたものの、怪異の助けがなければ猿回しの横暴を止めることなど出来ず。
最終的には、猿回しの前で崩れ落ち、何の成果も得られませんでした! と涙を流した。
本人もわかってはいたのだ。
自分の父を殺した犯人たちはすでに死んでいる。
村を発展させ、奴らの尊厳を破壊した時点で復讐は終わっていたのだ。
しかし、結果としてそれが今回の悲劇を引き起こしてしまったのだろう。
怪異の中には、金満富蔵への恨みによって生まれた怪異も存在していた。
金満富蔵は被害者だったのだ。
――後に、この島は観光者向けに整備された。
島に残された、鏖殺された怪異の痕跡が、ちょうどいい感じのホラースポット感を醸し出しているためだ。
そんな島で、館を利用したミステリーツアーは大好評を博し、この島を建造するために注ぎ込んだ費用は数年後にはペイできる見込みであるという。
かくして、横暴なる怪異探偵によって事件は未然に防がれた。
しかし忘れてはいけない、世界にはまだまだ怪異に纏わる事件が無数に眠っているのだから――
「これでよかったんですかねぇ……私、結局食事しかしてませんよ?」
「まぁええじゃろ……妾に至ってはそもそも何の仕事もしとらんし……」
どっとはらい。
というわけで怪異探偵編でした。
探偵……?
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