ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした   作:いつもより多く回っております

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2 胡散臭い人のこれまで

 俺が猿回しになったのは、今からもう一年ほど前のこと。

 もとはただの社畜でしかなかった俺だが、気づいたらいきなりこんな胡散臭い男になっていたのである。

 最初のうちは、単なる転生だと思っていた。

 そのうえで、場所は現代だから変に魔物に襲われて死ぬ恐れもない。

 前世と比べれば見てくれのいい顔立ちも相まって、結構運がいいんじゃないかと思ったものだ。

 しかしそんな感想も、いきなりホラースポットに放り込まれれば話は変わってくる。

 猿回しの転移により怪しい雰囲気の廃墟に放り込まれたのだ。

 そして眼の前には明らかにこれから犠牲になりますよって感じの配信者。

 声をかけようか迷っているうちに配信者は廃墟の奥の方に進んでいく。

 気がつけば”一度目”の転移が終わっていて、なんだったんだって感じで俺は首をかしげたことを覚えている。

 そしてそれから少しして、二度目の転移。

 今度は先程見かけた配信者が、怪異の犠牲になりそうな場面。

 こりゃまずいと思った俺は――配信者をひっつかんで怪異から逃げたんだ。

 

 それがまぁ、俺の猿回しとしての初めての仕事だったと思う。

 それから色々あって――具体的には、この世界の怪異と戦う集団とであったりして――俺は自分が猿回しという怪異になったのだと知った。

 特性は本当にただ怪異案件被害者の前に現れて意味深なことを言ったあと、事件が終わったあとにまた現れて意味深なことを言うだけ……というもの。

 無害と言えば無害だけれど、端から見ているとやたら腹立つタイプの怪異だ。

 ただまぁだからこそ、前世の頃の記憶と自我を持つ俺は、わざわざそれに従うこともないなと思ったわけ。

 

 結果、今みたいに被害者の前に現れたら警告を与えつつ、次に現れた時にその被害者を救出するようになったのだ。

 出現した時に、若干意味深なことしか言えないのは仕様です。

 口に出そうとしても、なんでか言えなくなってしまうんだよね。

 まぁ、今の俺は人間ではないのだし、そういうこともあるだろう。

 

 ただまぁ、最初から今みたいに怪異をボコして回れるようになったわけではない。

 最初の俺は、ちょっとうさんくさいだけの普通の怪異だったんだ。

 おかげで最初に配信者を助けた時は、ただただ逃げるしか無かったし、怪異と戦う連中と出くわした時も逃げるしかなかった。

 特に後者はひどいんだぞ、俺は別に何もしてないのに退治しようとしてくるんだから。

 まぁ、中には話のわかる人もいたけれど、今でも一部の連中とは普通に敵対関係である。

 え? じゃあどうやって今は戦えるようになったのかって?

 それを話すとなると、これまた長くなるんだよな――

 

 

 ◇

 

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙が流れていた。

 どうするんだよこの空気、絶対こんなところで再開しちゃダメな流れだっただろ。

 ああ早く料理来ないかな……せめて食事に集中したい。

 とか思っていたら俺の眼の前に注文した焼肉定食が到着し、牧駒ミウの元にも料理が到着する。

 そして――

 

 

「おまちどうさまです。当店自慢のチョモランマにんにくマシマシラーメンとチャーハンと餃子とビールです」

「――――多くね?」

「――――多くないです」

 

 

 ちょっと牧駒ミウの食事量が尋常じゃなかったおかげで、会話が発生した。

 それから俺は、ずるずると特盛ラーメンを平らげるミウの横で、軽く怪異について解説する。

 

「怪異とは、人の悪意が形を成したものだ。基本的には死者の悪意が形になることが多いが、生者の悪意が生霊となることもあるぞ」

「はえー」

 

 聞いているんだか聞いていないんだか、よくわからない返事が帰ってきた。

 まぁ食事中なので相槌をうってくれるだけで十分だ。

 それから、俺は俺のことについても色々と話す。

 元は普通の人間だった……ということは話すが、転生したということは話さない。

 ややこしいからな。

 気づいたら怪異になっていた……という方が伝わりやすいだろう。

 どうせどっちも現代なんだから、誤差だ。

 

「ごちそうさまでした。それでえっと、サルマさん」

「サルマさん」

「猿回しさんなので、サルマさん。人間だった頃の名前を覚えてないなら、これでいいかなと」

「まぁ名前じゃないもんな、猿回し」

 

 どっちかというと種族名だ。

 

「……じゃあサルマさん。……私、これからどうすればいいんでしょう」

 

 流石に先程死にかけたのは堪えたのか、はたまた食事を終えて恐怖がぶり返してきたのか、牧駒ミウは顔を曇らせる。

 神妙な面持ちの牧駒ミウに対し、俺から言えることは一つだけだ。

 

「――いや、別にどうすることもないが」

「えっ」

「怪異はすでに退治された。もう君が怪異と関わることもないだろう」

「……じゃあなんで、私は怪異について懇切丁寧に解説されたんですか?」

「いや……知りたいだろ、隣に怪異がいたら。……そういう空気だったし」

「そ、それは……そうですけど……」

 

 言いながら、お変わりした三杯目のビールに口をつける牧駒ミウ。

 この人の胃袋どうなってるんだ……? と思いつつ俺はまとめた。

 

「とにかく、怪異っていうのは人の悪意そのものだ。君に落ち度はないし、巻き込まれたのも純粋に運が悪かったからだよ」

「よくそこまで断言できますね……」

「怪異のもとに転移すると、怪異そのものと被害者の情報がある程度脳内に生えてくるんだよ」

「そ、存在しない記憶……!」

 

 この世界に俺は存在しないけど、ミームは割と共通しているぞ。

 ともあれ、そんなふうに牧駒ミウを慰める俺だったが、不意にある気配を感じた。

 

「…………」

「……どうしたんですか?」

「君……誰かから恨みを買うようなことをした覚えは?」

「な、ないですけど……というかそういうのはサルマさんの能力でわかったりするんじゃないですか?」

「俺の能力は、転移が発生しないと発動しないんだ」

 

 そして現在、俺はどうあっても牧駒ミウに対して能力が発動しない状況にある。

 眼の前に本人がいるからだ。

 そんな状況で能力が発動しないことを知ったのは初めてだが、まぁそれはいい。

 大事なのは――

 

「それ、どういう意味です?」

「……今、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ひあっ!?」

 

 驚いた様子で、牧駒ミウが振り返りながら立ち上がる。

 それから、ここが食堂であることを思い出したのだろう、人の視線を気にしつつ辺りを見渡すと、誰も自分に注目していないことに気付いたようだ。

 

「ああ、悪い。今の会話を誰かに聞かれるとまずいから、俺がちょっと細工をして認識されないようにしてる」

「ひ、人払い! 便利ですねサルマさんのパワー!」

「パワー言うな。とりあえず肩の怪異を祓うから、座ってもらっていいか?」

「あ、は、はい」

 

 そう言って、俺は席についた牧駒ミウの肩へと手を伸ばす。

 一瞬ビクッとふるえて、牧駒ミウは縮こまった。

 その後ろにいる怪異を――

 

「やー!」

「やっぱりパワーじゃないですか!」

 

 腕だけムキムキにして握りつぶす。

 牧駒ミウの鋭い突っ込みが飛んできた。

 

「というか何なんですかそのムキムキ! 絶対狂言回し系の胡散臭いイケメンが使っていいパワーじゃないですよ! あとちょっと二の腕触らせて貰ってもいいですか!!!!!!」

「お、落ち着いて落ち着いて、あと最後なんか怖いぞ」

 

 何やら興奮した様子で、牧駒ミウがまくしたてる。

 最後だけやたらと熱量があるのは、単純に彼女の嗜好ってことでいいんだよな?

 ともかく。

 

「これはアレだよ、さっきも話しただろ、どうして戦えるようになったのか話すと長くなるって。それだよ」

「長くなるどころか滅茶苦茶シンプルじゃないですか! あとちょっと二の腕触らせて貰ってもいいですか!!!!!!」

 

 後半はスルーした方がいいやつだな、これ。

 俺はムキムキにした腕をもとに戻すと、話を続ける。

 露骨に残念そうな牧駒ミウのことは、知らない知らない。

 

「いや、どういう戦い方をするかは、見ての通りだから説明はほとんどいらないんだけどな。それをどうやって手に入れたかってなると……ちょっと難しい」

「ははぁ……でも気になります。だって筋肉ですよ!?」

「そうだなぁ……怪異を退治したはずなのに、別の怪異が君に乗っかってるってことは……まだ終わってないってことだ。そうなると俺も君を放り出してさようならってのも寝覚めが悪いし……」

 

 いや、怪異だから睡眠は必要ないんですけどね。

 気持ちの問題だ。

 

「ちょっとした自衛の手段くらいはあったほうがいいかも知れないな。俺のやり方が参考になるかはわからないけど……」

「でも気になります! 教えてください!」

「このあと時間ある? 今からでも大丈夫なんだけど」

「夜に行われる怪異の儀式! 大丈夫です、どうせ暇な大学生なので!」

 

 グイグイ来るなぁ。

 一応、男から誘われてるんだけど、いいんだろうか。

 まぁともかく。

 俺は牧駒ミウの了承を取り付けて、普段自分を鍛えている場所に向かうことにした。

 そこは――――

 

 

「って、スポーツジムじゃないですかぁ!!」

 

 

 ――だった。

 いやまぁだって、筋肉を鍛えるんだから、そりゃなぁ。

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