ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:暁刀魚
葛木クスハの自宅は、俺達が普段暮らしている街のハズレの方にある。
ごくごく一般的な一軒家って感じで、かつて除霊師として栄華を誇っていた家系の家には見えない。
まぁそれもそのはずで、当時の家はあまりにも広く管理しきれないからと売払い、ここに越してきたのだから。
信者を囲って新興宗教していた時や、栄えていたかつてならともかく、地に足つけて生きていくならクソデカイ屋敷ってのは非常に不便だ。
「お邪魔するぞ」
「うむ、よく来たのう」
んで、葛木クスハに招かれて中に入ると、狐耳と尻尾を身に着けていない私服姿の葛木クスハが迎え入れてくれた。
銀髪は染めているのでそのままだ。
服装は……なんかアニメのキャラがデカデカとプリントされてるな。
「あ、それ前クールでやってたアニメのTシャツですよね」
「うむ、面白かったのでな」
「葛木クスハはともかく、牧駒ミウも大概オタクだな……」
俺も前世はオタクだったけど、今は気が向いたときにサブスクでちらっと見るくらいであんまり見ないんだよなぁ、アニメ。
漫画喫茶で一夜を明かすことが多いので、漫画はそこそこ読むんだが。
「それにしても、今日はありがとうございます。お祓いをするということでしたけど、どんなことをするんですか?」
「うむ、まぁ簡単なものじゃ。どうせ妾ではそこまで本格的な事はできんでな」
いいながら、葛木クスハは自室に俺と牧駒ミウを案内した。
すると、そこには――
「わあ……すごい数のグッズです!」
「うむ……除霊で入ってきた小遣いを注ぎ込んだからのう……」
ところ狭しと並べられたオタグッズが!
アニメやゲームのフィギュアを始め、フレリリやら雪吊ソエンやらの配信者のグッズ。
それから、コスプレに使えそうなアイテムがずらずらと。
ただ乱雑としているようで以外と整理されており、部屋の中央には何やら陣のようなものが描かれた紙が置かれている。
「あ、いつもの制服以外にも色々とコスプレ衣装がある……もしかして普段からコスプレを?」
「うむ、何を隠そう。妾そこそこ人気のコスプレイヤーなんじゃ。クズノハ……って聞いたことあるかの?」
「え? クズノハちゃん!? あのソエンちゃんやフレリリちゃんの配信でたまに名前が出てくる!? SNSも見たことありますよ!」
「うむ!」
そう、葛木クスハは何を隠そうコスプレイヤーとしてネットでもそこそこ有名である。
加えて、俺とのつながりで雪吊ソエンやフレリリといった、有名配信者ともつながりがあるのだ。
牧駒ミウはあの二人のファンだから、そこからクズノハを知っていても不思議ではない。
「ところで……」
「なんじゃ?」
「あ、いえ……なんでもないです」
「…………ふん、言わずともわかるぞ。クズノハと比べて身長が低いと思ったのじゃろう! 盛っとるわ! シークレットブーツだったり、加工だったり! あの手この手で身長は伸ばしておるわ!」
「ひいん、ごめんなさいぃ」
なんてやり取りをしつつ、葛木クスハが除霊の準備をしていく。
途中でふと何かに気付いたようで、ポツリとこぼす。
「ソエンちゃんとフレリリちゃん……?」
「どうかしたのか?」
「……うむ、まぁあとでいいじゃろう」
聞き返すと、どうやら今は関係ないことの様子。
準備を終えた葛木クスハは、牧駒ミウを陣の上に正座させた。
「正座苦手です……」
「こういうのは雰囲気が大事なのじゃ。少しでも雰囲気を出せるよう、正座は必須じゃぞ」
「このオタク部屋で雰囲気なんてそうそう出るか?」
「うっさい! ちょうどいい部屋がないんじゃから仕方あるまい!」
なんだったら葛木クスハもまだアニメTシャツのままじゃないか。
とか、いい出したらキリがないので、とりあえず俺は黙る。
白い紙をつけた木の棒――
「破ァ――!」
「それサルマさんがやるやつじゃないですか……?」
と、寺生まれっぽい掛け声で葛木クスハが叫ぶと――
俺の服は弾け飛んだ。
ボディビルダーみたいにパンツ一丁の俺。
興奮する女子二人。
それはそれとして、空気は沈黙した。
「……ふん!」
「うわ、逆再生した!?」
「怪異は何でもありじゃのう」
で、俺がポーズを取って力を込めると、弾け飛んだ服が逆再生で復活する。
「い、今のはどういうことですか!?」
「――こりゃいかんのう、ミウの霊力が強すぎてお祓いを弾いてもうた。んで、弾かれたパワーが横にいた猿回しの服にヒットしたんじゃのう」
「なんだその……」
「いやそっちじゃなくてサルマさんの!!」
まあはい。
「いつものことじゃろ」
「まあそうですね……」
うわあ急に落ち着くんじゃない!
「とにかく、ミウを妾がどうこうすることはできん。妾に無理なら、除霊師にどうにかできる奴はおらんじゃろ」
「そ、そこまでやばいんですか? というかクスハちゃんって凄かったんですね……」
「妾をなんだと思っておる! こと除霊に関してだけなら、この国でもトップクラスであると自負しておるぞ!」
「除霊師に除霊以外の分野ってあるんですか?」
「呪い」
牧駒ミウは俺の言葉にああ……と納得した。
なんというか、まともな除霊師が少ないんだよ。
ほぼ詐欺師しかいない。
その癖悪辣な呪いとかはちゃんとかけられるんだからタチが悪いな。
「でもクスハちゃんが無理なら、私はどうすればいいんですか?」
「そもそもどうしてお主はそこまでの霊媒体質になってしまったのか、妾はそこが気になるのう」
「さぁ……」
「わかりません……」
牧駒ミウには、どうしてここまで自分が霊媒体質になってしまったのか、原因がわからないらしい。
まず、もともと霊媒体質だったのは確実で、牧駒ミウの食事量は昔からこんな感じだったそうだ。
それが俺と出会ってからさらに強化されている。
強化された理由は明白なのでさておくとして、そもそも怪異を引き寄せる理由は不明。
俺と出会うまで、全く怪異と出会ってこなかった理由もわからない。
「俺もわからなくて、葛木クスハもわからない。となると、古い文献を漁る他ないか……」
「ええと……地獄ヶ原さんが、書類を漁ってくださってるんでしたっけ」
「ああ、ただあくまで片手間だし、危ない書物は今はもう除霊師じゃない地獄ヶ原家には手が負えない。……俺たちが直接行くしかないな」
「むう、ところでのう、ミウ」
「なんですか?」
今後の予定が決まったところで、不意に葛木クスハが話を逸らす。
「知っての通り、我にはフレリリと付き合いがあるわけなんじゃが」
「あ、はい! ぜひお話しとか聞ければ!」
かなり急旋回な話題転換である。
一体どうして、そんなことをいきなり言い出すのか。
気になっていると、葛木クスハはすごいことを言い出した。
「――――フレリリに、親しい男性の知人がいるとしたら、どう思う?」
「は? 死にます」
えっ。
「ダメですやめてください想像すらできませんうわああああああいませんいませんフレリリちゃんはきよくておせいそな女の子なんですううううううう! 男の人と話をしたこともないんでしゅううううう!」
「ユニコォーーーーーン!」
「こら!」
そんな「それでも!」とか言い出しそうな顔をするんじゃありません!
いや、本当にいきなりなんなんだ。
「……で、地獄ヶ原家に行って、バレたらどうなるか。妾しらんぞー」
「あっ」
…………あっ。
こそこそ、その場にうずくまってしまった牧駒ミウに聞こえないよう、ヒソヒソ葛木クスハが話しかけてくる。
「やはり気づいておらんかったか。どうする? このままミウを連れていくかの?」
「……いや、すでに行くって話になってるから、今更置いていくとそれはそれで不自然……」
「くはは、しらんぞー」
くそお、他人事だと思って……!
しかしほんと、どうしたもんかな……これは…。
確変入った?
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