ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:暁刀魚
アレから数日、俺達は地獄ヶ原死神子の実家へとやってきていた。
俺達が住む街から車で二時間ほど、隣県にある片田舎だ。
ちなみに運転は、地獄ヶ原死神子のお付きである紫子さんが担当している。
一応牧駒ミウも免許証は持っているそうだが、車がないのでペーパーとのこと。
「到着致しました。猿回し様、牧駒ミウ様、ようこそ地獄ヶ原家へお越しくださいました」
「よ、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
どことなく緊張した様子の牧駒ミウ。
ここ最近はジャージ姿が多かったが、今回はバリバリにめかしこんでいる。
その装いは、一言で言うといいところのお嬢さん。
実際、お嬢さんではあるんだろう。
ただまぁ、地獄ヶ原死神子はそういった次元の世界の住人ではない。
広大すぎる敷地と、デカすぎるお屋敷。
なんともまぁ、こんな絵に描いたようなお金持ちって存在するんだ……みたいな。
おかげで牧駒ミウも、どこか緊張した様子である。
「それにしても、地獄ヶ原さんって同郷だったんですね……」
「そうなのか?」
「はい、私の実家もこの県にあるんですよ。だいぶ遠い場所にあるので、地獄ヶ原さんのことは存じてなかったんですけど」
「そういうこともあるんだな」
なんて話をしつつ、中を進む。
庭園としかいいようのない立派な庭やら、めちゃくちゃ金のかかってそうな見た目のお屋敷やら。
まぁ見るものは色々あるんだが、俺達の目的地は屋敷そのものではない。
「本日は、こちらの書庫にて牧駒様に関する書物を探すとのことで。ご多忙に付き対応できなかったお嬢様に代わり、この紫子が案内を勤めさせていただきます」
「は、はひっ」
「ああ、ありがとう紫子さん」
――で、肝心のフレリリ対策。
俺は思い切って、これを紫子さんに相談することとした。
すると紫子さんは一言。
「そのお気持ち、たいっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっへんよく解ります」
と力強く言ってくれた。
そんなに力強く言わなくても……
とにかく、ユニコォーンなのは紫子さんも同様らしく、フレリリと牧駒ミウが出くわすのはよくないという判断になった。
なのでこうして、屋敷の案内を地獄ヶ原死神子ではなく紫子さんに頼んだというわけ。
「というわけで、早速探していこう」
「ええと……凄まじく広いんですけど……どうやって探すんです? というか外観に比べて広すぎません?」
「ああ、内部の空間が歪んでるからな」
「うわっ、すごくオカルトっぽい……禁書とかあるんですよきっと……」
いいながら、牧駒ミウは手近な本に手を伸ばす。
すると――
――牧駒ミウの開いた本から、濃密な”呪い”が黒い陰のような見た目で噴出した。
「ぶわあああああああ! や、ヤバいです!?」
「大丈夫ですか、ミウ様!」
「あ、もも、問題ないです。……これ結構美味しいですね」
「えっ」
吹き出した陰をぺろりと舐めて一言。
さっき紫子さんは慌てて止めようとしていたのだが、問題ないだろうから、と俺はそれを制していた。
「というわけで、普通に禁書があるから、気をつけような」
「こんな入口のところにあるなんて思いませんよぉ! ああでも、これはちょうどいいおやつになりそうなのでそのままお借りしてもいいですか?」
「え? あ……え? あ、は、はい? …………え?」
紫子さんは困惑していた。
このまま正気が削られる前に、外で待っててもらった方がいいかもしれない。
とはいえ、言い出すと多分意固地になってついてこようとするタイプの人なので、ここは諦めてもらおう。
んで、俺達は先に進む。
道中――
「ここの書庫は入る度に内装が変化するんだよ、だから場合によっては入口に読んだら死ぬタイプの本があったりするんだな……ふん!」
「そんな不思議な書庫が実際にあるんですね……もぐもぐ」
本がひとりでに浮き上がり、襲いかかってくる。
俺はそれを拳で叩き落とし、牧駒ミウは喰った。
「わ、ワァ……っ!」
「泣いちゃった!」
そして、紫子さんは耐えきれずに泣いた。
「やっぱり、紫子さんは先に書庫の外で待っているべきじゃないか……?」
「ヤダーッ!」
「もー、そうやってサルマさんが煽るから、ムキになっちゃったじゃないですかー」
「煽って無くてもこうなるから……」
小さくてかわいい生き物と化した紫子さん。
よしよしと、牧駒ミウが頭を撫でる。
途端、ビクッとふるえて数歩後ろに後退した。
「イヤッイヤッ」
「臆病なワンちゃんみたいです……」
「いやなんかもっとこう、他にふさわしい表現があると思うんだが……」
とにかく、探索を続ける。
この書庫は、入ってきたものの欲しい書物を書庫の最奥に配置するという、意地の悪い書庫である。
猿の手や賢者の手の亜種みたいな書庫だ。
ただし、逆に言うと
襲いかかる書物をボコして回れば、それで終わりだ。
「それにしても、サルマさんって紫子さんのことは紫子さんって呼ぶんですね。私たちはフルネームなのに……」
「いやそれは……俺が紫子さんの苗字を知らないからだが……」
「ええ……」
フレリリが教えてくれなくて……
なので俺にとって、紫子さんというのは「苗字が紫子、さんが名前」みたいになっている。
俺が人の名前をフルネームで呼ぶのは怪異としての特性みたいなものなので、こればかりは仕方がない。
なお、フレリリはフレリリと呼んでいるが、そもそもフレリリは名前ではないので普通に呼べる感じだ。
フレンド・もふもふ・リリシュテインは名前として認識されるんだけどな。
「とにかく、そろそろ最奥だぞ」
「なんか雰囲気だけはヤバそうでしたけど、あんまり大したことのない場所でしたね……」
「それは君が強くなりすぎただけだ、牧駒ミウ」
いやぁ、ずいぶんと育ててしまったな……
最終的にこれが俺に襲いかかってきたとしても、まぁまだまだ俺のほうが強い。
けど、それはそれとしてヤバいぞこの嬢ちゃん。
俺はとんでもない逸材を見つけ出してしまったんだなぁ。
「よし、ついた」
「……待ってください、誰かいませんか?」
「ん……?」
最奥、そこはなんかこう、ダンジョンの最深部みたいな装飾が施された場所だ。
なので一度来たことがあれば、ここが最奥だと一発でわかるようになっている。
中央には台があって、その上に本が置かれているんだが……今回はどうやら、巻物が置かれているみたいだ。
その巻物を眺めながら、白いワンピース姿の女が一人、立っている。
すわ怪異か? と警戒を強めると――
「お待ちしておりましたぁ」
ヤンデレみたいな生気のない顔をした、フレリリこと地獄ヶ原死神子が立っていた。
「うひいいい!?」
「ひええええ!?」
普通にビビる牧駒ミウと、純粋にか弱い紫子さん。
というか俺としても普通に怖い。
下手に般若みたいな顔で出てくるより、この貼り付けたような笑顔の方がよっぽど怖いぞ!
「地獄ヶ原死神子……何故ここに?」
「あら、いつものように別の呼び方をしてくださっても構いませんよ?」
くすくすと、俺の方に近づいてくる地獄ヶ原死神子。
こちらを上目遣いで見上げながら、どこか媚びるような視線だ。
そして、何やら牧駒ミウの目が恐怖から怪訝なものに変わっている。
ま、まずい……!
「わたくしがここにいる理由は単純です」
そういって、何やら気づいては行けないことに気付き始めた牧駒ミウの前で地獄ヶ原死神子は俺の手に抱きつくと――
「はじめまして、わたくし地獄ヶ原死神子、ネット上ではフレンド・もふもふ・リリシュテインとして活動しております。以後、お見知りおきを」
「にぎゃらぁあぁぁああああぁぁぁぁああ――――――――ッッッッッッッッッッッッッッッ!!」
――牧駒ミウを殺害した。
ああ、可哀想に……牧駒ミウは奇声を上げながら、頭の上に生えていた一本角(幻覚)をへし折られつつ絶命したのである。
なんてことをするんだ……
「ん?」
と、思っていたら、牧駒ミウから感じられる力のようなものが薄まっている。
精神ダメージが大きすぎたからだろう、怪異としての強さは精神の強さで決まるからな。
これにより、牧駒ミウを俺の討伐に利用する賢者の手の策略も、少しだけストップするだろう。
「なるほど、フレリリはここまで考えて……」
「さすがです、お嬢様……!」
「え、いえ。私を慕うユニコーン系のリスナーと聞いて、からかいたくなっただけですけれど」
そっかぁ……
殺しちゃったんだ! リスナー!
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