ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:暁刀魚
怪異が作り出した異界。
わかりやすいところで言うと、初めて俺と牧駒ミウが出会った場所も異界だ。
一度入ると、普通は出ることのできない場所。
まぁ俺と牧駒ミウならなんとでもなるが、今回は怪異を討伐して脱出する王道な方法を取るのがいいだろう。
なお、正規の手段とは口が裂けても言ってはいけない。
「みきゃん!」
「うおっとと」
倒れ込むように異界に突入した牧駒ミウと、普通に着地する俺。
逆だろ。
いや合ってるか?
まぁいいや、とりあえず牧駒ミウを引っ張り上げる。
「手がゴツゴツ……」
「真面目にやるぞ、敵の本拠地なんだから」
「ええと……イマイチピンとこないんですけど、ここって私の実家が昔祀ってた怪異……あるいは神様の住処じゃないんですか? なんとなく見覚えのある場所なんですけど」
「その神様はもういない――賢者の手が乗っ取ったんだよ」
「なんだか……ズルいですね」
元々、神の存在を忘れたのは牧駒家の人間だ。
でもそれを神となった怪異は祟らなかった。
怪異としては、かなり穏健なほうだろう。
そんな神を賢者の手は奪い取り――成り代わったのだ。
見覚えがあるのは、ここがかつての神の住処を模しているからか?
牧駒家の子孫として、魂にこの場所が刻まれているとかだろうか。
ともかく。
俺はスマホを見せながら言う。
「……と、
「ここ電波つながるんですか……」
「気合でつなげてる。面倒だからもうやめるけどな」
「あ、それでなんかさっきからちょっとムキっとしてて……というか、あの人雪吊ソエンちゃん!? というかそれだと、サルマさんが旦那様!?」
「真面目にやるぞー」
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
あんまりその辺りを深堀りすると、フレリリの記憶にまでたどり着きかねない。
ここは敵の本拠地だ。
そこで牧駒ミウが精神ダメージで大変なことになるのは避けたい。
「ていっ」
「はうっ」
というわけで、ななめ45°からのチョップ!
「…………」
「牧駒ミウ……牧駒ミウ……?」
ま、まさかやっちまったか……?
倒れたまま動かない……
「……続きをお願いします」
「お、おう……」
そのままでいいなら、話すけど。
ええと、なになに?
「牧駒ミウ、君はまだ物心がつく前、とても病弱だったそうなんだ」
「そうなんですか……?」
「まぁ、今の君を見ている限りまったくそうは見えないし、実際君は元気そのものなんだが――」
それもこれも、ある人物が牧駒家の神――それを乗っ取った賢者の手に願ったから牧駒ミウはこうなったのだ。
「そう願ったのは牧駒ミウ、君のお母さんだ」
「ママ……」
「賢者の手に乗っ取られてるなんて知らないから、全ては偶然だったんだろう。そして願いを受けた賢者の手は考えた」
「まさか――」
「――そのうち使えるかもしれないから、取っておこう……とな」
「軽い……」
まぁ向こうからすれば、選択肢は多ければ多いほどいい。
とりあえずの気持ちで用意しておいた弾が、今回たまたま装填された。
そんなところだ。
「というか……向こうは私を利用するつもりなんですよね? ここまで連れてきて大丈夫なんですか?」
「厄介な話なんだが、賢者の手は俺じゃ倒せない。賢者の手の影響を受けた人間じゃないと」
「つまり、私は向こうにとっても切り札であると同時に、サルマさんにとっても切り札なんですね」
「まぁ、だからこそ君をここへ誘導する策を向こうが用意しなかったんだろうしな」
普段なら、向こうが撤退するまで殴り続けて、それで終わらせていた。
しかし今回は、向こうの用意した弾である牧駒ミウが強くなりすぎたのだ。
今回はようやく、賢者の手を正しい意味で倒せるかもしれない。
リスクを冒してでも、やる価値はある。
「それにしても……そっか。今の私は、ママが願ってくれたからここにいるんですね」
「ああ、そうだな」
「……パパもママも、私がいっぱい食べるととっても喜んでくれたんです。だから私、ついついいっぱい食べすぎちゃって。それが今では、こんなことに」
「それでもご両親は、喜んでくれるのか?」
「はい! 大好きなパパとママです!」
なんとなく、想像できる光景だ。
聞けば牧駒家は現在裕福な家庭だそうだが、それもこれも牧駒ミウの食費を稼ぐために両親が頑張ったかららしい。
結果として事業が成功し、両親にとって牧駒ミウは大事な娘であるとともに幸運の象徴なのだという。
……どうやってそれを調べたんだか知らないが、雪吊ソエンもやるじゃないか。
でもこのメッセージで送られてきた文章、絶対脚色しまくってるだろ……
それはさておき。
「――なんというか、思うんですよ」
「なんだ?」
「私とサルマさんって、ちょっと似てるのかも……って」
「似てる? 怪異みたいな挙動をするからか?」
「失礼なこといわないでください! まだ人間ですよ、私は!」
いや……普通の人間は熱された岩は食べないって。
「むー!」ぽかぽか
「悪かった悪かった。……ええと、それで?」
「願われてここにいる、という点です」
「願われて?」
俺がここにいる理由は、正直俺でもよくわからない。
牧駒ミウはわかるのだろうか。
「サルマさんは、よくわからない理由で別の世界からやってきました」
「まぁ、そうだな」
「でも、なんとなく思うんですよ。サルマさんは――怪異という理不尽から救いを求める人々の祈りで、ここまで来たんじゃないかって」
想いが現実を歪める世界だ。
そういうことが、ありえないとは思わない。
けど、なんていうか。
「……どうだろうな、俺は少し違和感があるぞ、その考え」
「えー? 合ってると思うんですけどね。……というか、仮に違ってたとしても、合ってるってことにしません? 私、サルマさんと一緒がいいです」
「そうかぁ?」
俺みたいな胡散臭い狂言回しみたいなムキムキと同じになるのは、どうかと思うぞ。
「あと、ずっと疑問だったんです。……猿回しさんって、数年前にこっちへやってきたんですよね?」
「まぁそうだな。割と最近の話だ」
「だけど、賢者の手って私が生まれた頃からいます。……これってどういうことですか?」
「あー、単純だよ」
そう言えば言ってなかったか、と牧駒ミウに真相を話す。
「猿回しは、代替わりするんだ」
「……代替わり?」
「そうそう。今の猿回しが怪異や除霊師に倒されるか、猿回しを続けられない状態になると、次の猿回しがどこかで生まれるんだ」
その言葉に、牧駒ミウは難しい顔をする。
「サルマさん……いつか消えちゃうんですか?」
「他の怪異とかに倒されなきゃ、問題はないはずだ。話によっちゃ、百年以上猿回しが同じ存在だったこともあるらしいからな」
「……じゃあ、絶対に負けられませんね」
「そうだな」
さて、そろそろ到着する頃だろう。
ここまで話しながら歩いてきたが、だんだんと怪異の気配が濃くなりつつある。
俺は一度立ち止まって、牧駒ミウに視線を向けた。
「行けそうか?」
「バッチリです、任せてください!」
カチカチと、歯を鳴らして答える牧駒ミウ。
いや、賢者の手は食べられるかわからんぞ?
「今のサルマさんは、特別な猿回しさんなんです。だから、絶対に今のサルマさんがいなくなるなんてダメです」
「……」
「だから、何があっても私が守ります。……っていうと何かおかしい気もしますけど、大丈夫ですから。私……今、何でも出来ちゃう気がしてるんです!」
「それは心強いな」
牧駒ミウは、当然のようにここから帰ることを夢想する。
強い人だ。
俺は心の底から、そう思う。
だから――
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっ」
そうして俺達は、最後の戦いへと赴く。
今なんか、小声で牧駒ミウがなんか言った気がするけど、気のせいか?
こほん。
ともかく、待ち受けるは賢者の手。
世界の願いを歪めて叶える怪異。
それが、今――
――半分くらいかじられた無惨な状態で、俺達の前に現れた。
…………牧駒ミウ?
脱兎の如く逃げ出す牧駒ミウ。
牧駒ミウ!?
完!
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