ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:暁刀魚
「いやあの、ちがくて……」
「わかってる、わかってるから……食べちゃったんだな?」
「本当に身に覚えがなくて……」
牧駒ミウは自発的に正座をしていた。
うろたえた様子で手をあたふたさせている。
うんうん、気持ちはわかるぞ?
自分でやらかして、それを認めたくない時ってあるよな。
俺もそうだから、とてもよくわかる。
でも別に俺は責めてるわけじゃないし、むしろすごいと思ってるんだよ。
「ううううう……本当に覚えがないんですぅ……」
「と、いうと?」
「何かこう、夢の中で変なものを食べたって記憶はあるんです……どこで食べたかも、どうして食べることになったかも覚えて無くて」
「いやそこはこう、なんか……あるだろ」
「かもですけど……でもなぜか、思い出そうとするとすごく頭が痛くて……」
「……あっ」
――フレリリが精神ダメージを与えた時かぁ。
「じゃあとりあえず、それは置いといてだな」
「……今、置いとかなきゃ行けない理由を思い出しましたね?」
「くっ」
しまった、反撃された!
いやでもしょうがないだろ、そこ指摘するとまた牧駒ミウが倒れてしまう。
フレリリの精神ダメージで弱ってるところをチャンスと見て襲いかかったら返り討ちにされた、ってことなんだろうけど。
なんというか、ちょっと想定より育ちすぎてたんだな。
お前、サウナのあれで実力を測った上で見誤ってたのかよ……賢者の名が泣くぞ。
「なんでしょう……多分その時、私はどうしてもやけ食いしないと行けない理由があったんです……」
「……そっかぁ」
逆だったかぁ。
まぁ、しょうがないね。
「とりあえず、賢者の手はもうぼろぼろだ。後はこいつを食べきるだけで終わりだろう」
「はーい、じゃあいただいちゃいますね」
あちこちガジガジされた後の、賢者の手。
二本のゴリラの腕が、痛ましい姿でそこに転がっている。
普通ならばっちぃと思うんだろうが、すでに熱した岩をパクパクですわした牧駒ミウに対して、その心配は不要だろう。
と、思っていたら。
『U……H…………』
声が、する。
「……まずい、そいつまだ動くぞ、牧駒ミウ!」
「へっ?」
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooooooo!!』
「んにゃっ!」
ガジガジされた賢者の手が、牧駒ミウの首を掴む。
慌てて俺はそこに割って入り、腕をムキムキにして引き剥がす。
けれども、多少なりとも向こうはエネルギーを補給できたようだ。
浮かび上がったガジガジされた賢者の手に、ゴリラのシルエットが浮かび上がる。
賢者の手の部分だけが現実で、それ意外はホログラムみたいな感じで。
「こ、これが……」
「賢者の手が、臨戦態勢に入ったんだ。下がっててくれ」
『UHo……!』
これまで、幾度となくこの賢者の手と、俺は戦いを繰り広げてきた。
毎回最後はこうしてド付き合いに発展するわけだが、その時はいつだってこうしてゴリラの姿になるのである。
賢者イコールゴリラというミームに汚染されすぎた結果だ。
多数の存在から影響を受ける怪異は、どうしたってこういう汚染を受けやすい。
「オラァ!」
『UHOOOo!!』
そうして互いの拳と拳が激突し――
めきょめきょ、というすごい音を立てて賢者の手の拳が曲がっちゃ行けない方向に曲がった。
「うおっ!?」
『UHO!?』
あまりにも脆い!
これまでの賢者の手は、普通に俺と拳を合わせていても何ら問題はなかった。
いや、こっちが圧倒してはいたけれど、こんな風に一方的にめきょってされることはなかったのだ。
賢者の手も、状況が理解できずに困惑し――
『UHOOoooooooo!?』
痛みに、絶叫する。
「はっ……今です! 今なら倒せます、サルマさん!」
「どうやら……そうみたいだな!? というか、何かわかるのか!?」
牧駒ミウの言葉を受けて、俺は即座に踏み込む。
慌てて賢者の手はそれを防ごうとするが――
「おら!!」
ガードの上から、俺が一撃を叩き込んでねじ伏せる。
前は、もう少し硬かったはずだ。
どうしてこうも、賢者の手が弱体化している……?
やはり牧駒ミウによってガジガジされたのが効いているのだろうか……
「……それもあるとは思います」
「人の心を読んだな?」
「怪異ですよね?」
「うん」
「……こほん。ですが、それだけではないはずです。一応さっき、私に触れて少し回復したみたいですし」
確かに、少なくともゴリラを形勢できている以上、賢者の手はそこそこ力は残っているはずだ。
ここまで一方的になるとは考えにくい。
「――だったら、原因は別にあるんじゃないですか?」
「原因は……別?」
正直、あまり心当たりはない。
「私と出会ってからずっと、サルマさんは私の特訓に付き合ってくれました」
「……それは、そうだが」
特訓の内容そのものは、そこまで普段とメニューを変えたつもりはない。
というか、それが理由で強くなるとは思えないのだ。
「しかし、それが理由じゃないだろう。俺の強さはすでにカンストしてるんだ。だって、俺のイメージできる強さの限界がコレだから」
「確かに、そうかもしれません」
普段特訓をしているのも、サボるとイメージが崩れてしまうから。
つまり、衰えてしまうからそうしているだけなのだ。
決して、強くなるためじゃない。
「でも、私は隣で見てました」
「牧駒ミウが……?」
「
牧駒ミウの言葉が、核心に迫る。
同時に牧駒ミウはゆっくりとこちらまで歩み寄り、倒れ伏した賢者の手を見下ろした。
「元々、人のイメージは怪異を生み出すんですよね? だから、私のサルマさんは強いというイメージが、サルマさんを強くしても不思議じゃありません」
「……それは」
過去にも、それについては
葛木クスハを助けた時、あるいは初めてフレリリの参加しているデスゲームに介入した時。
俺は一段、強くなった覚えがあった。
彼女たちのイメージが、俺を強くしたのだろう。
「けど、それにしたって上昇幅がエグすぎる」
「私が賢者の手と繋がっていたから、賢者の手はサルマさんへのイメージを普遍的な願いとして受け取っていたとしたら」
「……!」
だから、それが原因で――
「どうも、ちょっと想定より育ち過ぎてたみたいですね」
俺は、強くなりすぎてしまったのか――――
「そして、今」
更に、一歩。
牧駒ミウは賢者の手に踏み込む。
賢者の手は動かない、あの一発で完全にKOされてしまったのだろう。
「私と貴方は、まだ繋がった状態のままです」
ぴくり、と賢者の手がふるえた。
それはきっと――恐怖。
あるいは、反射か。
どちらにせよ、正常な動きではない。
「今なら、私の願いも叶えてくれますよね」
一体、牧駒ミウが何を願うのかは知らないが、まあ牧駒ミウなら大丈夫だろう。
なんというか、とんでもない人ではある。
俺とは別方向に、怪異みたいな動きをする人だ。
というか現在すでに半分怪異である。
それでもなんていうか……
「……よし、と」
「何を願ったんだ?」
「ええと……」
なんだか、少し恥ずかしそうに。
少し視線を逸らしてから、牧駒ミウははにかんだ。
「サルマさんがこの世界に現れてくれますように」
それは、なんというか。
「……君だったのか? 俺をこっちに呼び出したのは」
「
それは、なんとも。
まあでもなんというか、腑に落ちた。
「……君に呼ばれたなら、確かに俺は行くしかないか」
「似た者同士ですから! あ、あと……」
それから、本当に何気ない様子で。
「
えっ。
次回で一応一区切りです。
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