ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした   作:暁刀魚

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23 狂言回しと腹ペコ怪人

「なりました……って、そんな軽く言う事じゃなくないか!?」

「なっちゃいました。てへ!」

 

 てへ、のタイミングでアホ毛が脈動する。

 人間とは思えないこの動き……まさに怪異だ!

 

「判断材料、そこですか!?」

「いやまぁ……一番判断しやすいのがそこだし……」

「賢者の手をすぅ……って吸い込んでましたよね!?」

「食に関しては、人間だった頃からやりかねないから、カウントしてない」

「人と怪異の境目ってなんなんですかぁ!?」

 

 そもそも、の話。

 俺のような怪異は特例も特例だ。

 理性のある怪異なんて、他に聞いたこともない。

 一見会話のできる怪異でも、その根底にあるのは悪意で、人を害することが普通だ。

 牧駒ミウはその誕生経緯からいって、俺と同種の怪異ということになるだろう。

 これを怪異として分類していいのかは、正直よくわからん。

 

「しかし……いくらなんでも軽率すぎないか? 怪異になるって、人間をやめるって……結構大変なことだろう」

「一度人間から怪異になったんですから、逆もできると思いませんか? 私はできると思うので、問題ないです!」

「そういう問題かなぁ」

 

 まぁ、本人が強く戻れると思えば、そのうち戻ることもできるだろう。

 

「一番いいのは、気軽にスイッチできることですね。食べたい時だけ、怪異になっちゃえばいいんです」

「怪異をマジで都合よく利用している!」

「えへへ」

 

 まぁ、いいか……いいのか?

 少なくとも、本人は喜んでるみたいだし、俺の感覚も牧駒ミウは悪い怪異ではないと告げている。

 きっと、問題はないのだろう。

 それはそれとして、

 

「じゃあえっと……君は怪異としてなんと呼ぶべきなんだ?」

「……カー○ィ?」

「よしなさい!」

 

 確かに怪異みたいな事件解決能力してるけど、怪異じゃないから!

 どっちかというと怪異っぽいのはグ○イのほうだろ。

 え、知らない? うそぉ。

 いや最新作の方でも出てたはず……調べて画像見せればわかるだろ……って、そんなことをしている場合じゃない。

 

「とりあえず仮称として、腹ペコ怪人としておこう」

「情緒のない! もう少し気の利いた怪異の名前ってないんですか!」

「この世界の怪異の名前は、そこそこ気合入った名前か、雑すぎる四文字のどっちかになるぞ?」

「嫌な二択! とりあえず自分で考えますから、腹ペコ怪人はやめてくださいね!」

「お、おう」

 

 そもそも俺にネーミングセンスを求めるのが間違っている。

 多分、うちで一番ネーミングセンスがあるのは雪吊ソエンだ。

 あいつの挨拶とか、結構凝ってていいと思うんだよな、俺。

 

「それよりも、私が怪異になった理由は、もう一つあるんです!」

「もう一つ?」

 

 そうして、牧駒ミウは自分の胸に掌をかざして、叫ぶ。

 

 

「私を、名前で呼んでください、サルマさん!」

 

 

 そう、本当に。

 ただそれだけのために、牧駒ミウは人ではなくなったのか。

 

「だって……なんか嫌じゃないですか、ずっとフルネームで呼ばれるの」

「いや、だからって……」

「――それに、サルマさんがずっと一人で怪異なのって……寂しいじゃないですか」

「それは――」

 

 俺から、話を聞いた時もそうやって問いかけてきたけれど。

 あの時からずっと、牧駒ミウはそう考え続けてきたのだろうか。

 

「別に、必ず怪異になろうと思っていたわけではないですよ? ただ思いついた時に、たまたまできそうだったからやっただけです」

「たまたま……ってなぁ」

「そ、れ、で! 言ってましたよね、サルマさんが人をフルネームで呼ぶのって、そういう特性だから……って。怪異なら、そうじゃないですよね?」

「正確に言うと……怪異に対しても、フルネームで呼ぶことは変わらない。けど、今の牧駒ミウには二つ名前があるわけだ」

 

 一つは、まだ決まってないけど。

 

「牧駒ミウは、怪異としての名前じゃありません。なら、大丈夫ですね!」

「まぁ……そうなるな」

「というわけで、ほら。呼んでみてください! 親愛を込めて!」

 

 なんというか、それは。

 ……若干気恥ずかしいな。

 正直、気恥ずかしいなんて思うことすら意外だった。

 でも、ここ数年俺は、ずっと怪異として人を名前で呼んでこなかったわけだ。

 人らしい部分を、無意識に遠ざけていたのかもしれない。

 なら、俺は――

 

「……牧駒さん」

「苗字!? この期に及んで!? せめて名前で呼んでくださいよ! 紫子さんより他人行儀ですよ!?」

「……ミウさん」

「できれば、ちゃん付けか、呼び捨てでお願いします! 親愛が! 欲しい!」

「……恥ずかしくないか、言ってるの」

「やーめーてーくーだーさーいーよー! 意識しないようにしてるんですから!」

 

 ああ、もう。

 わかった、わかったよ。

 お互い恥ずかしがってるような状況じゃない。

 さっさと名前を呼んだほうが、手っ取り早いんだ。

 じゃあ、早速――

 

 

「――ミウ、これからよろしく」

 

 

 俺は、そう呼びかけて――

 

「…………ひゃい」

 

 牧駒ミウ――ミウは、なんか顔を真っ赤にして、溶けた。

 

 

 ◇

 

 

 まぁ、それから特にこれといって、大きな騒動はなく。

 俺達はさっさと賢者の手が作った異界を抜け出すこととなった。

 これまで何度も俺を消そうとしてきた賢者の手が、こうもあっさり消滅するとは、なんとも実感がわかない。

 まぁ、元々倒せない事以外は特に問題になってなかった相手なんだ。

 当然と言えば当然か?

 あるいは、それだけミウが凄かったってことかね。

 

 ――それから、俺達は普段暮らしている街へと帰還する。

 途中、ちょっとだけミウの実家にも顔を出したけど、なんか俺のことを「よく捕まえてきたなぁ」とか言っていた。

 怖い!

 まぁミウが男性相手に免疫がなく、またトラブルを起こしそうな性格なのは両親もよく解っていたんだろう。

 信頼できそうな相手なら、よろしくとなっても仕方がない。

 ……いや、信頼できるか? 胡散臭いし裏切りそうだぞ?

 ただ、お父さんは見たところかなりの筋肉をお持ちで、俺もそれにシンパシーは感じていた。

 人は裏切れても、筋肉は裏切れない……ということか。

 何いってんだ?

 

 まぁ、賢者の手周りのあれこれは、これで終いだ。

 とはいえ、問題が残っていないわけではない。

 具体的には――ミウのユニコーン問題。

 一度角がへし折られたとはいえ、現在は記憶を改竄して折れた角に気付かないふりをしている状態だ。

 いつまた暴走してもおかしくはないが――まぁ、まさかこれが世界を揺るがすシリアスな事件に発展することはないだろう。

 ミウは怪異になったとはいえ、彼女の怪異としての特性は腹ペコ部分でユニコーンは関係ないんだから。

 

「ピコーン」

「今何のフラグを立てた!?」

「あっはは! いやぁ、今回も楽しかったよー、旦那ぁ」

「その言い方だと、あくどいことしてる商人が言うタイプの旦那だよな……」

「へっへっへ、あっしはしがない有名配信者ですんでね……」

「有名って自分で付けていくのか――」

 

 ――で、現在。

 俺は今回起きたことを、雪吊ソエンに共有していた。

 

「人の旦那の浮気話を、聞かされることになるとは……」

「お前の旦那ではないが……」

「まぁそれいったら、クズノハちゃんの時もそうだったしよぉー、いいけどさぁ」

 

 なんならフレリリだってそう違わないだろ。

 あいつの真意は本人にすらわからんが。

 

「まぁ、なんだ。――気をつけろよ、旦那」

「何がだ」

「人が生きたまま怪異となる、それは本人の強い意思と、とてつもない偶然によって為されるものだ」

「まぁ、そうだな」

 

 ――多分俺だって、そうだし。

 

「牧駒ミウには、それだけの強い意思がある」

 

 そんな俺を脅かすように、雪吊ソエンはいった。

 

 

「いつか、お前が食べられちまうかもしれないぞ?」

 

 

 どこか、怪談のオチを語るかのように、おどろおどろしく。

 妖しく、不気味に。

 

「――性的に」

「お前はそういうオチを付けないと話をまとめられんのか」

 

 そして落とした。

 というか、いいのかそれで、お前は。

 

 ともあれ、改めて賢者の手と牧駒ミウに関する話はここまで。

 これからどうなるかは俺にもわからんが、まぁどうにでもなるだろう。

 次に起きる事件が何かは知らないが――今回ほど、驚きに満ちていないことを願うばかりだ。




今回でとりあえず一区切りです。
お付き合い頂きありがとうございました。
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