ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
俺と牧駒ミウはスポーツジムにいた。
スポーツジムはいいぞ、二十四時間やってるからな。
現在時刻はすでに二十一時を回ろうかというところ。
「……それで、なんですか? 乙女の腹筋を割ってやろうっていう魂胆ですか?」
「いや、俺の鍛え方は普通の人間とは少し違うよ。そもそも怪異の俺がただ鍛えても体力がつくわけじゃないしな」
二人してトレーニングウェアに着替えてから話をする。
俺は自前のものを持っていて、牧駒ミウはレンタルしたものだ。
別に俺が誘ったんだから代金はこっちで出してもよかったんだが、断られた。
すでに助けて貰った上で護身の方法まで教えてもらうのに、そこまでされたら申し訳なさに耐えられないとのこと。
ええ子やな……
「そもそも怪異は人の悪意だって、さっきも話したよな?」
「いいましたっけ?」
「言ったよ、食事中に」
「ああはいはい、いいましたね、そういえば言ってました」
思い出してないやつ……!
まぁとにかく、それ自体は別に直接関係するわけではない。
「要するに、人の意識が超常現象を引き起こす世界なんだよ、この世界は」
「えっ!? でも子供の頃に私がどれだけかめはめ波を撃とうとしても撃てませんでしたよ!?」
古くない?
「それは君が、心の底ではかめはめ波を撃てるわけないと思ってるからだな。人は根本的にそういったオカルトを”ありえないもの”として認識してるんだ」
「ええー、なんかもったいないですね、それ。どうしてありえないと思うんですか?」
「――
俺が少しだけ声のトーンを低くして話す。
すると牧駒ミウも、恐ろしい雰囲気を感じ取ったようだ。
先ほど相対した怪異を、思い出しているのだろう。
「人はそういった超常現象を――自分の理解の範疇から外れるものを本能的に恐ろしいと思う。だからありえないと否定することで、身を守っているんだ」
「う……」
「怪異は死んだ人間の悪意であることがほとんど、といったな? それには二つ理由がある。一つは死んだ人間が死後の世界というオカルトを認識するから」
「ありえない……っていう無意識の枷が外れるんですか」
そのとおり、と俺は頷く
「加えて、恐ろしいと思っていたものに自分がなることで、恐ろしいものが恐ろしくなくなるから」
「なんですかそれ……ずいぶん自分勝手なんですね、怪異って」
「悪意なんていつでも理不尽なものだろ、向けられた側からしてみれば」
「それは……そうですけど」
実際に自分も悪意を向けられた側だからか、怪異の身勝手さに牧駒ミウは憤っている。
とはいえ、ここまでの話は実のところ、前フリだ。
本題ではない。
「で、それを踏まえた上で、怪異の中には生霊も存在するって言ったよな? 怪異を退治する連中もいる……って」
「ええまぁ……あ、もしかして」
「お察しの通り――
オタク的な素養があるからか、牧駒ミウはこういうところで察しが良い。
俺は頷いて、続けた。
「んで、そういった超常現象を過去の人間は――魔術とか、呪術とか呼んだりしていたわけだ」
「つ、使えるんですか? 私もそういう……特別な力!」
「少なくとも、条件は満たしていると言えるな」
「ひゃっほう!」
ひゃっほう!?
いやまぁ、それはいいや。
んで、俺はこういったこの世界の法則を加味して考えたわけ。
「人の意識が超常現象を起こす世界で、俺はそんな意識だけで構成された存在だ。つまり――俺自信が強くなると本気で信じて鍛えまくれば、再現なく強くなれるんじゃないか?」
「な、なるほどぉ~!」
とまぁ、これが俺のムキムキの正体。
そしてムキムキはあくまで意識的なものなので、普段はムキムキしていない状態でいることができるのだ。
「えーっとじゃあつまり、その説明をした上で私をここに連れてきたってことは……やっぱりサルマさん、私の腹筋をカチコチにしようとしてるじゃないですか!」
「いや! ……まぁ、それは……そう、なんだけどさ……そもそもの話、いきなり魔術だとか呪術みたいなザ・オカルトみたいなものを扱おうとしても無茶だよ。それまでの常識にまだまだ君は囚われてるんだから」
「そ、そんなことないですよ! 私の黒歴史ノート見ます!? めちゃくちゃ異能とか作ったんですからね!?」
「自爆してる!」
少なくとも、何もないところから魔術の練習をするよりも、ずっと効率的であることは間違いないんだ。
俺という実例もいるのが、なおのこと大きいというのもある。
「別に腹筋をムキムキにする必要はないだろ? 体力づくりを意識したトレーニングで、どれだけ走っても疲れないようにするとか、そういう感じだよ」
「それならまぁ……」
「怪異ってのは悪意で構成されているからな、追いつけると判断してる内は
「それはそれでしんどいですけど……まぁ、逃げられないよりはマシですか」
というわけで早速、牧駒ミウと共にルームランナーの元へ。
本当ならもっとちゃんとしたトレーニングメニューが必要なんだろうけど、トレーニング量がそのまま成果になるのが怪異流トレーニングだ。
アレだけ牧駒ミウが大量に食事をとっても、問題なく効果が出るだろう。
我ながら、なかなかズルいことしてると思う。
「さて、早速走るわけですが」
「ああ、なんだ?」
「……なんか近くないですか?」
「これはちょっとした仕込みのためだよ」
訝しむ視線を向ける牧駒ミウに、俺はごまかすように言う。
胡散臭いという感情が強く感じられるが、俺は全身から胡散臭いオーラを常に垂れ流しているのでノーダメージだ。
しばらくそうして胡散臭い笑みを浮かべていると、渋々といった様子で牧駒ミウが走り出す。
「大事なのは、疲れないことを意識することだ。自分は疲れていないと常に言い聞かせて、それを事実にしていく感じだ」
「うおおお疲れてない疲れてない! これ逆に疲れませんか!?」
「逆に疲れるって意識が疲れを感じさせてるんだよ。淡々と疲れてない、疲れてないと言い聞かせる感じで行こう」
アドバイスを送りながら、牧駒ミウの走りが安定してくるのを待つ。
オカルトの存在を意識しすぎると、逆に力んでよくない。
この世界にオカルトがあるのが自然であると思うことが、オカルトを上手く扱うコツだ。
怪異であるために疲れを知らない俺と違って、牧駒ミウはどうしても疲れてくる。
すると、少しずつ余計な思考を巡らせる余裕がなくなってきて、いい感じにリラックスしてくるだろう。
慣れてくる、とも言える。
その状態に彼女が突入するのを、俺は待った。
「はっ、はっ、はっ」
よし、いい感じだな。
――――さて、これはまだ牧駒ミウには言っていないことだが、この特訓にはもう一つ裏技がある。
それは一体何か。
答えは、とても単純。
「牧駒ミウ、君は頑張っているね――ああ、とても頑張っている――すごいぞ、えらいぞ、だからもう少し頑張ろう――――」
と、
これは自慢じゃないが、今の俺の声はとてつもなくいい。
そして胡散臭い。
人とか騙して裏切ってそうな声なのだ。
故に、それを利用して耳元で囁くと――トブぞ。
「あっ、あっ、あっ」
「疲れていない、君は疲れていないよ。――ほら、もう少し走ろう。まだまだ疲れないからね――――」
とまぁ、こんな具合に耳元でつかれていないことを刷り込んでいくのだ。
俺自身が怪異であることも相まって、効果は非常に高い。
この状態でしばらくトレーニングを続けていけば、逃げる時の体力を問題なく確保することができるだろう。
ちょっと人に見せられない表情で走る牧駒ミウと、その耳元でひたすらイケボをささやき続ける俺。
端から見るとやばすぎる光景だが、俺の怪異パワーを用いれば人払いも容易。
後は彼女が満足するまで走らせれば問題ない。
と、その時である。
「あ、あのあの……あひぃ」
「どうしたのかな――? 何か困ったことがあったら言うんだよ――――」
「……ムキムキ形態で囁いてもらっても、いっすか。あひぃ」
「えぇ――――」
牧駒ミウが胡乱なことをいい出した。
君、何ていうか……図太いね……
でもこの胡散臭いイケボは通常形態で喋ったほうが説得力あるんだけど……
え、ムキムキ形態の方が捗る?
そう……
マジで声は本当にいい。
感想、お気に入り、高評価いただけると嬉しいです。
特に高評価は執筆の励みになります。
ハーメルンの仕様上、9点以上だと助かります。
よろしくお願いいたします。