ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした   作:いつもより多く回っております

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4 巻き込まれ少女とよくわからない人

 あのなんとも不思議な猿回しという青年と出会った翌日。

 牧駒ミウは驚くほどぐっすりと寝ることが出来た。

 しばらくぶりの快眠に、若干の気だるさと心地よさを覚えつつ、ミウは一言こぼす。

 

「寝過ごした――――」

 

 大学の講義を、軽く二限はブッチしてしまっている。

 起きてそのことを認識してから、しばらく思考した後、ミウは心に決めた。

 

「今日は休みます」

 

 ぐう。

 大学なんて自主休講してなんぼである。

 二度寝を決め込んだミウが本格的に起き上がったのは、昼もだいぶ過ぎた頃だった。

 

 ――なんだったのだろう、とミウは遅い昼食を取りながらここ数日のことを振り返る。

 今日の昼食は冷凍の唐揚げ二十個だ。

 マヨネーズをたっぷりかけて、特盛のごはんで食べる。

 えぐい。

 

「サルマさん……変な人でしたねぇ……」

 

 猿回し、あるいは人っぽくサルマ。

 どちらにしても、変であることに代わりはない。

 後者は自分で名付けておいて……と突っ込みを入れるサルマの顔が浮かんで、なんとなくミウはおかしかった。

 

 怪異と呼ばれる人知を超えた存在が実在する。

 なんとも恐ろしい話だ。

 今は間にサルマとのやり取りが挟まっているから、恐ろしいという感情も薄れている。

 けれど、逃げている最中のもう助からないのかも知れないという恐怖は本物だった。

 

「……また、あんな怪異に襲われるのかも知れないんですよね」

 

 曰く、ミウは複数の怪異に付け狙われているという。

 窓の外からじっとこっちを見てくる怪異の他にも、ミウは別の怪異にも目をつけられているのだ。

 本当になんで、そんなことになったのか。

 まったく心当たりがないし、サルマもミウに瑕疵はないという。

 他人に自分のパーソナリティを覗き見られるのはなんとも気恥ずかしいものがあるが、サルマならまぁ問題ないか、とミウは考えていた。

 

「……いい人ですよね、怪異に対抗する手段も教えてくれましたし。方法は……アレですけど」

 

 サルマは、ちょっとアレな方法でミウに怪異に抗う手段を与えてくれた。

 気持ちを強く持つことが大事なのだという。

 少なくとも、ここしばらく怪異に追いかけられていた時の疲れは睡眠と昨夜の運動で吹き飛んでいた。

 効果はあった……のだろう、多分。

 でもやはり、不安もある。

 唐揚げがなくなってしまったので次の唐揚げの袋を解凍し、ごはんも大盛りでよそい直してから席につき、こぼす。

 

「……サルマさんに会いたいな」

 

 その時だった。

 

 

 眼の前に、件のサルマが出現した。

 

 

「…………」

「…………」

 

 唐揚げを口に運んでいる最中のことだった。

 あんぐりと口を開け、目を見開きながらサルマを見る。

 サルマもどこか気まずそうに帽子を深々と被り、帽子に隠れた視線はそっと横にそらされているのがミウにはわかってしまう。

 これは、アレだ。

 サルマは怪異が迫っている人間の前に現れて警告を残すという。

 その能力が発動したのだ。

 そして――

 

「……………………雄大だな?」

「ま、まだ二袋目ですよ!」

 

 ――こうして出現した時のサルマさんは、発言が意味深になってしまうそうなので、おそらく「食べ過ぎじゃないか?」と言ったかったのだと思います。

 失礼な、まだぜんぜん食べてませんよこんなの! ミウはぷんすこ怒った。

 

 

 ■

 

 

 どちらにせよ、サルマが出現したということは次の怪異がまもなくやってくるということ。

 あの後一度サルマは消失したが、連絡先を交換したスマホにメッセージが飛んできた。

 それを見て、外でサルマと会うことにしたミウは、早速出かけることにする。

 

「今君を狙っている怪異の名前を、サンドウ様という」

「サンドウ様……賛同? それとも参道ですか?」

「どっちも、だな」

 

 現在、ミウとサルマは川辺でランニングをしながら話をしていた。

 トレーニングウェアとニット帽の胡散臭い男と、胸だけはデカイ小柄な黒髪少女がジャージを着ながら走っている。

 少女――ミウのアホ毛が走るたびに揺れていた。

 

「君が神社やお寺の前を通ると、参道の方から声が聞こえてくるんだ。大丈夫ですか? お元気ですか? って」

「えーと、それに”賛同”してしまうと、あの世に引きずり込まれるとか……そういうこと、あります?」

「正解。正確に言うともう少しエグい方法であの世に連れて行かれるんだが、まぁそれは怖がらせるだけだし、気にしないでくれ」

「はぁい、退治しちゃえば気にする必要もないですもんね」

 

 しかし、ふと考えてしまう。

 サンドウには複数の意味があるということだ。

 賛同、参道……他に考えられる意味があるとしたらなんだろう、ミウは想像を働かせてしまった。

 そして()()という単語に行き着いた時……ゾクっと背筋がふるえたのを感じて、ミウは思考を打ち切る。

 

「それにしても、正直脅威度としてはそこまでじゃなくないですか? 知ってさえ入れば、寺社に近づかなければいい話です」

「まぁそうなんだが……俺が呼ばれるってことは、運命的に君は寺社に吸い寄せられるってことなんだよ」

 

 不幸な偶然が重なって、勝手に寺社に足が向いてしまうよう仕向けられるのだとか。

 半ば詰んでるじゃないか、と思いながらミウは足に力を込めた。

 

「理不尽ですね……怪異って!」

「正直、大抵の場合はそもそも被害者にも責任がある場合がほとんどだ。君みたいに一方的に巻き込まれる例は、案外少ない」

 

 曰く、悪意というのは指向性があるものだ。

 人は興味のない人間にはとことん興味を抱かないもの。

 

「SNSで普通なら炎上しそうな内容なのに、注目されていないがために放って置かれてる……みたいな感じだな」

「それが誰かの目に止まって注目された結果炎上する……っていうのが、怪異に目をつけられるってことなんですか」

「悪意が根底のあるのは、どっちもそう変わらないからな」

 

 今だと、ネット上で発生する怪異も多いのだろうな……というのは、ミウもなんとなく想像できるところだ。

 

「それにしても、どうするのですか? そのサンドウ様……放って置くわけにもいかないんですよね?」

「ああ、だが厄介なのは、サンドウ様は君が参道の前に立たないと出現しないってことだ。君が参道から離れている間に、俺がぱぱっと言って退治する……なんてこともできない」

「ははぁ。でも、寺社の奥にそいつがいるなら参道は通らないとですよね?」

「神に詣でる以上、仮にそこが人の作った道の上じゃなくてもそれは参道だ。いや、実際に宗教の世界でそういう解釈になっているかはわからないが――悪意というのは、意図的に自分の都合のいいように考えを捻じ曲げるものだからな」

 

 要するに、地面の上を歩いたらサンドウ様に捕まってしまうということだ。

 どうすればいいんだ、そんなの。

 ミウは思う。

 が、サルマの考えは単純だった。

 

「なら、倒し方は一つしかないだろ」

 

 二人はそのまま、ランニングをしつつ手近な神社へと向かう。

 たどり着いたのは山の奥にある少し寂れた神社。

 鬱蒼とした木々に覆われていて、なんとも不気味な場所だ。

 ごくりとミウが喉をならすと、それは聞こえてきた。

 

『――大丈夫ですか、お元気ですか?」

 

 思った以上に、不気味さを感じない声色だ。

 むしろ、普通に話しかけられたと思って返事をしてしまいそうである。

 ミウはスマホを通じてサルマに問いかけた。

 声に出すと、それだけで賛同したことになってしまうからだ。

 

『これ、もしかしてはい? って聞き返しながら後ろを振り返るだけでも賛同したことになります?』

『なるだろうな』

『存在を知らなかったら初見殺し過ぎますね』

 

 思った以上に厄介な怪異である。

 どうしたものかとサルマの方を見ていると、サルマは少し屈伸をしてから――

 

「んじゃ、行ってくる」

 

 

 木々の上に飛び乗った。

 

 

「あ、ああー」

 

 確かに、それなら道は歩いていない。

 ミウは思わず感心してしまった。

 しばらく、木々がガサガサと揺れる音が続き、最後にずどぉん……と響くような音が聞こえてくる。

 この調子なら、サルマはすぐに帰ってくるだろう。

 それにしても――

 

「……サルマさんって、不思議な人ですね」

 

 怪異であるということは、わかる。

 見た目がものすごく胡散臭いということも、見ればわかる。

 けれどなんというか、それ以上に。

 優しいのだ。

 本当に、ごくごく自然に、彼がお人好しであるということがミウにはすぐわかってしまった。

 どうしてそんな人が、怪異になってしまったのか。

 そんなことが、どうしても気になってしまう。

 この世に理不尽があるとしたら、自分ではなく彼のほうがよっぽど理不尽な目にあっていないだろうか、と。

 それはそれとして――

 

 

「筋肉やば……声イケボすぎ……やばいです……うへ……」

 

 

 ミウは新たな扉をこじ開けられそうになっていた。

 否応無く怪異の世界に引きずり込まれていることといい、ミウという少女の人生と性癖が異様な速度でネジ曲がっていることを、指摘できるものはこの場にいない。

 これが怪異か――ミウは、後にそう振り返ることとなるのだろう。

 

 あと、全身の筋肉をムキっとさせて木々を飛び移ったら、いよいよ森の賢者にしか見えないと思います。




ミウが死ぬほど食べるのも理由はあります。
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