ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
「そういえば、サルマさんって普段はどうやってお金を稼いでるんですか?」
「ん? 動画編集だな」
「意外と現代的!」
「そりゃ、元から現代人だし……」
怪異だからってそんな古臭いだけじゃないんですよ。
そもそも最近の怪異はネットだって器用に扱うでしょう。
モキュメンタリーモノの怪異ネットに湧きすぎ問題。
いやまぁ怪異と噂って相性いいですからね。
現実でも、裏でこそこそやってる怪異はネットに強いことが多い。
――なんて話を、俺達は怪異退治後のファミレスでしていた。
牧駒ミウの発言は、俺が何気なくパスタを注文したのを見ての発言である。
俺としては、俺がパスタ一つを注文する横でピザを三つとパスタを一つとステーキ一つと大盛りご飯を注文する君のほうが怖いよ。
どこからその資金力が出てるんだ。
部屋の内装からして、多分実家は太いんだろうけど。
「っていうか、税金とか大丈夫なんですか? まぁ怪異なんだから法律とか関係ないかもしれないですけど」
「まぁそもそもの話、俺は食事とか本来はいらないし睡眠も適当な場所で取れるんだよ。だからお金はいらないっちゃいらない」
寒さとか寝苦しさとか、カットしようと思えばカットできるんだよな。
味覚とかも同様だ。
逆に強く味を感じたいと思いながら食べれば、普通に味を感じることもできる。
俺にとって食事は完全な嗜好品だ。
「ああー、年収二十万円以下なら課税いらないみたいな話ですか」
「それもあるけど、後は知り合いにそこら辺を管理してもらってる」
「しり…………あい…………?」
「人を友人がいないみたいに言うな。一応いるよ、君以外にも怪異について知ってる知り合いが」
具体的に誰かと言えば、単純だ。
「ほら、少し話しただろ、最初に俺の能力が発揮されたときに
「あ、ああー…………女の子ですか!?」
「えらい食いつくな?」
やはり女子は恋バナ的なのが気になるんだろうか。
で、俺の答えだけど。
ええと……そうだな……ううん……
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………生物学上は、女だ」
「めっちゃ悩みましたね」
「俺は人間だったころは男だし、今も一応男だけど怪異だから性別の概念は正直謎だ。……それと同じ分類」
「なんかこう、深淵を感じますね」
まぁ……うん、そうね。
俺はあいつが配信者とはいえ、社会で生きていけることを純粋にすごいと思うよ。
「俺が編集してる動画は、そいつの切り抜きやそいつが別アカでやってる解説系動画がほとんどだ。自分ではアカウントをもってないし、収支自体は全部そいつの懐に入ってて、そこから必要分だけ支払われる仕組みになってる」
「はえー……ん、あえ?」
何やら感心した様子の牧駒ミウが、俺が悩んでいる最中にかっ喰らっていたパスタの最後のひと口を食べながらなにやら悩む。
もっちゃもっちゃと、リスみたいに動く口がなんか……小動物そのものだ。
んで、ごくんと飲み込んでから、一言。
「………………ヒモ?」
「違う!!」
思わず大声で否定してしまった。
あっぶね、注目集めないように力を使っておいて正解だったな。
牧駒ミウは、驚いた様子で目を丸くしていた。
「確かに構造上はヒモだが……普通に稼いでるよ! だから俺は……ヒモじゃないぞ!」
「ヒモという言葉に、めちゃくちゃトラウマがある人だ!」
「だってさぁ! 俺の容姿で女から金を受け取ってたら……ヒモにしか見えないだろ! 散々言われたんだぞ!」
主に、俺にちょっかいをかけてくる除霊師とか、その配信者本人に。
俺自身も気にしてるんだから……
「そ、そういえば、牧駒ミウは動画とか見るのか!? やっぱ、推しの配信とかがメインか?」
「あ、またフルネームで言いました。というか誤魔化してますよね!?」
「誤魔化してないって!」
「大声で誤魔化しに来ている! ああもう、見てますよ。流石に現代っ子でオタクですから!」
こんだけ騒いでもまったく周囲に気にされないのはありがたい話しだ。
ともあれ、頼んだアルコールに口をつけながらミウはとつとつと話し出す。
こいつ……大食いな上にウワバミか……っ!
「そうですねぇ、基本的に女の子の雑談配信やゲーム配信を見ることが多いです。食事中の暇つぶしに見ることが多いので……賑やかな配信が好きですかね。
「…………へ、へぇー」
――――知り合いだ。
というか前者が例の金の管理をしている配信者である。
「あ、後普通に解説系動画も見ますよ。最近好きだったのは”世界の怪異解説”チャンネルですかね~」
「え、マジで?」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――サルマさんが作ってます?」
「はっっっっっっっっ!」
しまった。
思わず名前がでて素で嬉しくなってしまった。
「……まぁ、そうだな」
「え、ホントですか!? あの死ぬほど胡散臭いイケボってサルマさんだったんです!?」
「……んん、”まぁ、そうなるねぇ”」
「本物だぁああああああ!」
きゃっきゃっ。
両手にピザを持ちながら、牧駒ミウが目を輝かせた。
世界の怪異解説というのは俺が動画を作っているチャンネルだ。
だいたい名前の通りだが、ネットや書籍に散らばる様々な怪異を色々解説している。
プロデュースと台本作りは例の配信者がやっているが、怪異に関する情報集めと動画で声を当てるのは俺が担当している。
一番再生数が伸びたのは……猿夢の動画だったかな……俺が猿夢にアテレコしたのがバズったんだ。
とにかく解説の声がいいと評判で、登録者数は現在五万人くらい。
この収益を半分にして俺が貰うと余裕で税金に引っかかるくらいには稼げてるのだ。
「まぁなんだ、怪異に関して俺より詳しい存在なんてそういないし、怪異について知ってもらえると誤差程度だけど人を守れるしな」
「はえー、相変わらずお人好しですねぇ」
「ところで……その、なんだ? ……好き”だった”ってのは?」
そこ、割と普通に引っかかるんだが……なんか、俺まずいことしたか?
「いやぁ……本当に怪異が実在するって知っちゃうと、怖くてあの動画見返せないな……って」
「ああ…………」
それは……普通にしょうがないな……
元々、あまりホラーが得意なわけではないらしく、動画を見たきっかけも声が理由だとか。
「……実はコレ、あんまり恥ずかしくて言うのためらうんですけど、私って筋肉と声がフェチなんですよ」
「知ってた」
「えっ」
「アレで隠してるつもりだったのか……」
まぁとにかく、なんとなく牧駒ミウの好みとかがわかる感じだったな。
今回は怪異も絡まないし、平和で大変いいことだ。
「そうだ、ソエンちゃんのオリソンって知ってます? あの子本当にヤバいですけど、歌だけはほんっとうに上手くて……」
「ああうん……」
知ってる、マジで人格終わってるよな……歌だけはマジなんだけど。
どうやらそれを牧駒ミウは聞かせたいらしい。
スマホをスッスッとフリックしている。
俺が人払いをしてるからって、ファミレスで聞かせるのはずいぶんと油断しているな。
俺のいないところで事故とか起こさないといいんだけど――
「あっ」
「えっ?」
その瞬間。
『俺の筋肉の中で――――あがけ――――』
ちょっと人に聞かせちゃいけなさそうなタイプのASMRが大音量でかき鳴らされた。
「…………」
「…………」
「…………ちがくて」
「…………アアウン」
涙目になっている牧駒ミウに対して、俺は可能な限り取り繕いながら返す。
多分、それどころじゃなくて気付かないだろうけど、いつ気づいてもおかしくない。
「コレ……最近話題のすごいエッッッッッなASMRで…………」
「淑女がそういう発言するんじゃアリマヘン!」
「ひぃん!」
牧駒ミウはすごい勢いであたふたしているけれど、俺もまたまったく別の理由で脂汗がだらだらしてしまうのだった。
サルマさんのイケボは資源なのでね、活用しないとね。
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