ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
さて、流石に2日連続で俺が牧駒ミウの前に出現するというのは、相当まずい事態だろう。
いくらなんでも頻度が多すぎる。
一番簡単な対処方法は、俺が逐一出現するたびに怪異を退治し、最終的に黒幕を引きずり出すことだ。
俺は呼び出された瞬間に、被害者の知識と出現した怪異の知識がざっくりインプットされる。
それを利用して怪異を討伐したのが、サンドウ様と路地を走る怪異だ。
後者は「路地を走る怪異」が正式名称。
更に俺は二回目の出現で怪異と被害者の眼の前にポップするので、何かしらの方法で俺が分断されてしまっても、窮地に駆けつけることも可能。
怪異をボコくり回し被害者を守ることに特化した能力といえる。
ただ、今回はかなり特殊な事例だ。
待っているだけでは、状況が悪化してしまう可能性もある。
「そういうわけだから、こっちでもなんとかできるよう、色々行動を起こす必要があるわけで」
「その”行動”がこうして私とジョギングをすることなんですか?」
「まぁ、その一つではある」
サンドウ様を退治してから数日。
ここ数日は怪異の出現もないので、俺達は特定の時間帯に集まって二人でジョギングをしていた。
これにはいくつか理由があって、一つは牧駒ミウの体力づくり。
怪異式トレーニングの効果は絶大だが、イメージが根底にある以上ある程度数を重ねることも必要だ。
加えて言うと、習慣化しておかないと効果が弱くなるからな。
定期的にサボって、怪異案件の時だけ極端なトレーニングをして、終わったらまたサボるどこかの配信者様みたいになるぞ。
「本命は君の方だ。大学でなにかおかしな動きはあったか?」
「んー、特にこれといって変化は」
そして今やっているジョギングはあくまでサブプラン。
本命は牧駒ミウに大学で情報収集をしてもらうことだ。
「それにしても、本当に大学に犯人がいるんですか?」
「考えられるとしたらそこだろう、と思っている。理由もなんとなく察しはつくし……もしその予想があたっていたら、こうして二人でジョギングをすることも効果があるはずなんだ」
「ふぅん、よくわかりません」
牧駒ミウは、基本的に悪意とは無縁な生活をこれまで送ってきたのだろう。
特に中学高校は、一貫校の女子校に通っていたそうだから、
ともかく。
「前にも言ったけど、俺達がジョギングをする理由は3つだ」
「体力づくりと、黒幕をおびき出すため、それと……」
「……3つ目がある意味で一番大きな理由でもある。ほら、来たぞ」
ふと、視線を向けると前方に不可思議な格好をした少女がいた。
「そこまでじゃ、猿回し! その子を解放するのじゃ!」
いいながら、ビシッと御札を俺に突きつけてくる。
その姿は一言でいえば――ソシャゲに出てくる巫女。
もっと言えばコスプレ系巫女。
癖のある長い髪は銀髪に染め上げられており、瞳は左右それぞれ別のカラコンを入れているため今はオッドアイに見える。
ついでにアタッチメントで狐耳と尻尾もつけていた。
俺とこいつは、牧駒ミウと出会う以前からの仲だ。
「よう、やっぱ出てきたな、葛木クスハ」
「ええとサルマさん……この人は?」
「わ、妾は葛木クスハ! 由緒ある葛木家の現当主にして除霊師! お主、今すぐその変態ストーカーから距離を置くのじゃ!」
「……除霊師」
そう、除霊師。
このホラーな怪異が跋扈する世界に置いても、人類の守護者というのは存在する。
それが彼らだ。
「つっても、半数はインチキだし、半数はカルト宗教の所属なんだが」
「そう聞くと碌でもない人たちにしか聞こえませんが」
「わ、妾をそのようなパチモンと一緒にするでない! 葛木家は、先祖代々この国を守護してきた除霊師の末裔なのじゃぞ!」
と、葛木クスハは言っているが、じゃあ実際どうなのかというと……
「だけど、今はごくごく普通の家だろう。少し前までは除霊師の素質がある君を除霊師に仕立てて、なんとかかつての名声を保とうとしていたけど、それももう潰えたはずだ」
「い、いちいち全部言う必要はないじゃろ」
「ええと……どういうことです?」
首をかしげる牧駒ミウに、軽く説明する。
葛木家は戦前くらいまではきちんとした格のある除霊師の一族だった。
しかし科学の発展とともにオカルトが迷信になり、除霊師の力を信じるものが少なくなっていく。
葛木家もこの例に漏れず、かつては大量に抱えていた弟子もほとんどいなくなり、現在は没落しているといっても差し支えなかった。
が、そこに産まれたのが本物の除霊師としての力を持つ葛木クスハだ。
葛木家はこれを当主として仕立て上げ、なんとか弟子を集めていたわけである。
「その様子は、見方を変えればカルト宗教と変わらない。娘の髪を銀色に染め上げ、カラコンまで入れてそれっぽく整えて、当主として崇めたんだ。更には弟子を納得させるために娘に本当に怪異を除霊させたりしてな」
「それは……」
「……まぁ、それで実際に怪異案件を解決するさなか、妾では対処できぬ怪異に出くわし、それによって家が丸ごと滅びかけた結果、ママもパパも懲りたがのう」
「あ、もしかして――」
で、そんな危ないことをしていた葛木家に襲いかかった怪異をどうにかしたのが――
「ああ、俺がその怪異を討伐した」
「……そんな命の恩人をストーカー呼ばわり?」
「し、仕方ないじゃろ!? だって、そやつ……妾のプライベートな情報をぜーんぶ丸裸にしおったのじゃ!」
いや、まぁ……うん。
「す、すすす、スリーサイズとか! 触るとちょっと変な気分になるところか、ぜーーーーんぶお見通しなんじゃ!」
「えっ!?」
「い、いや、基本的にそういう情報にはアクセスしないようにしているぞ!? ただちょっと葛木クスハに関わった怪異をどうにかするには、そこら辺に触れないわけにはいかなかっただけで……」
「えっ!?!? こんなちっちゃい子のそこら辺に!?」
「ちっちゃい子言うな! 妾はもう高校生じゃ! そもそもお主とてちっちゃいじゃろ! 一部はデカいが!」
――俺が出現した時に得られる被害者の情報は、かなり多岐に渡る。
中には見てはいけないプライベートなものも含まれるため、葛木クスハの言い分もあながち間違いではない。
しかし、俺は怪異として自身がアクセスする情報を意識的に選別できるのだ。
必要がなければ、知っちゃいけない情報は知らないようにするし、今だって牧駒ミウのそういった情報にはアクセスしていない。
でなけりゃ俺の……もといあのASMRの情報を俺は事前に察知していただろう。
ちなみに牧駒ミウはそういうところ気にならないか? 家に入られた時点で今更? そう……
「何より、除霊師というのは神秘性が大事なのじゃ。だからこうして妾はのじゃロリロールプレイをしておるし、服だってそれっぽくしておるわけでな」
ちなみに、親が除霊師から足を洗った後も葛木クスハがこうして除霊師をしているは本人がやりたいからだ。
昔は野暮ったかった衣装も、かなりカスタムされて今はコスプレイヤーとしても一流の実力がある。
「あー、もしかしてサルマさんって、除霊師の天敵なんですか」
「……おかげで、だいたいの除霊師は俺を目の敵にしているよ」
「いやそも、お主が怪異であることに違いはないじゃろう。お主はたまたま理性があるが、そうでなければ猿回しは非常に厄介な怪異じゃ」
そして何より、除霊師は怪異を相手にする関係上――俺を呼び寄せやすい。
呼び寄せてしまえば最後、除霊師の情報は筒抜けだ。
そこでもしヤバいことをしていたら、俺は怪異だけでなく――
「――あくどい除霊師が、どれほど猿回しによって壊滅させられたことか」
「…………それは、普通にいいことなのでは?」
「いいことじゃが、除霊師としては問題じゃ! 妾はぶっちゃけそこまで猿回しに隔意はもっとらんが、ストーカー能力持ちであることに変わりはないでのう!」
そんなこんなで、俺は除霊師からは討伐対象の怪異として扱われている。
比較的良好な関係の葛木クスハも割とあたりが強いし、やれやれだ。
「とはいえ、君がこうして来てくれたということは――見つけたんだろう? 今回の件の黒幕を」
「……不本意ながら、妾ではやつをどうにかすることはできん」
が、それでも葛木クスハは俺に協力してくれる数少ない協力者だ。
俺が牧駒ミウのことを話すと、独自に動いて除霊師の立場から情報を集めてくれた。
このあたり、除霊のための”術”を使える葛木クスハには、俺にできない分野で力を発揮してくれるんだよな。
具体的に言うと、俺は怪異ではあるが怪異の専門家ではない。
この世界の怪異がどういった法則で動いているのかをすべて知っているわけではないだ。
そこで葛木クスハが、これまでの除霊師達が積み上げてきた知見で調査すると、色々わかってくることもある……というわけ。
「牧駒ミウ、お主も最難じゃのう。
案の定、牧駒ミウに怪異を送りつけてきたのは、彼女のストーカーだったようだ。
……ん、二人? マジか。
二人もストーカーが――――
って一人は俺のことだろそれ!?
そりゃ除霊師からは目の敵にされますわよ!
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