ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした   作:いつもより多く回っております

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7 あまり人に見せたくない光景

 牧駒ミウはまっっっっっっっっっったく気付いていなかったようだが、彼女は大学で非常に人気が高いようだ。

 見た目がいいし、愛想もいいし、ノリもよくてよく食べる。

 飲み会に呼べばとりあえず場が盛り上がる便利アイテム。

 もしかしてあの子俺のことが好きなんじゃね、と男子が思う女子選手権第一位(非公式)。

 カー◯ィ。

 などなど、様々な称号があるようだ。

 最後端的すぎるだろ。

 そんな彼女に懸想するやつの一人がストーカーになった。

 それが今回の話の真相だ。

 

「知りませんでした、そんなの――――」

「こやつはどうやればここまで、自分への好意に鈍くなれるのじゃ?」

 

 現在俺達は、公園のベンチに腰掛けてジュースを飲みながら三人で話をしている。

 話を聞いて、崩れ落ちる牧駒ミウ。

 葛木クスハがガチめに心配していた。

 

「そやつの名は戸村慎太郎。まぁ対して面白くもない男じゃ。そやつはお主のことを”守らねばならない”と思っておるぞ」

「……それが怪異に私を襲わせる形で出力されるんですか、いやですね、ほんと」

「どうかの、やつがお前さんに対して使った怪異は”猿の手”じゃ」

 

 ――なるほど。

 なんとも因果なものに手を出したものだ。

 牧駒ミウが俺に対して視線を向けてくる、俺と関係があるのか? といった視線。

 ようするに、猿の手がなにかわかっていないんだろう。

 

「猿の手は俺とは無関係の怪異だよ。三つ願いを叶える怪異、ただしその願いは歪んだ形で叶えられる。そして三つ目の願いを叶えると消滅する……まぁ、よくある怪異だ」

「なんだか如何にもって感じですね」

「それで二回目に呼び出した怪異がアレか。ひぃー、気色悪くてかなわんのう」

 

 そこら辺はあまり触れないほうがいいぞ、葛木クスハ。

 牧駒ミウはわかってないみたいだからな。

 わからないなら、わからないほうがずっといい。

 

「そして、やつはすでに三回願いを叶え終わっている」

「え? だって私の前にサルマさんが現れたのは二回だけですよ?」

()()怪異を潰しておるじゃろ」

「あ、あそこのコバエみたいな怪異も願いの一つだったんですか」

 

 おそらくは、牧駒ミウの監視がしたかったんだろうな。

 本当ならしばらく監視をして、一定以上の時間が立つと強くなるタイプの怪異だった可能性が高い。

 そのタイミングで俺が呼ばれていたんだろうが、先に潰してしまったから呼ばれなかったんだ。

 

「で、3つ願いを叶えたとなると……もうその人は私に手出しできないんですよね?」

「ああそうじゃの。じゃが――今度は3つの願いを叶えたことで猿の手の呪いがその男に向けられるぞ?」

「……それ、サルマさんがその人の前に出現するってことじゃないですか?」

「まぁ、そうだな」

 

 そんな状況を想像してか、牧駒ミウは俺の方を見て問いかけてくる。

 

「そういうときも、やっぱりサルマさんはその人を助けるんですか?」

「いや、助けないぞ? やっぱり、って……君は俺がそんなお人好しに見えてたか?」

「見えてました」

「見えておるのう」

 

 葛木クスハからも言われてしまった。

 しかし俺は、別に怪異に襲われたら誰でも救ってしまうようなお人好しではないぞ。

 

「興味本位で怪異を突っつくアホは、一度放置するのが基本方針だ」

「でも、最終的には助けるんじゃろう」

「反省した、と判断したならな。一度反省してから二度やらかすやつは知らん」

 

 流石にそういう奴は、今まで見たことがないが。

 

「今回みたいに、怪異の被害者であり容疑者であった場合は、どうするんですか」

「そんなの、最初から決まってる」

 

 俺はマッスルポーズを取ってから――

 

 

「一緒にボコる」

 

 

 ムキっとそれを膨張させて、いい切った。

 

「わぁ……」

 

 二人して、そんなドン引きすることないじゃないか。

 何にしても方針は決まった。

 この次はこれまでみたいなお気楽な感じではない。

 もっとドロドロとした、人間の悪意が待っているはずだ。

 相手は愛情を勝手に暴走させてストーカーになるような手合。

 その感情は非常に屈折していることだろう。

 何せそいつにとって、牧駒ミウへの愛情は人生そのものなのだ。

 いや、人生そのものを負の方向に積み上げてきたからこそ、牧駒ミウへの執着が成立してしまったといったところか。

 そんな人間の悪意なんて、どうしようもないに決まってる。

 しかし俺は猿回しであり、怪異あるところに猿回しがあるのだ。

 対決は、避けられない――

 

 

 ■

 

 

 ――でも正直、そんなストーカーの悪意なんて長々見せられてもしょうがないから、ここはカットでよくね?

 

 

 というわけで俺は、顔面をボコボコにした戸村慎太郎の顔を掴み体を持ち上げる。

 戸村慎太郎はぷらーんとなっていた。

 

「もう二度と人様に迷惑かけるんじゃないぞ」

「ふぁい……」

 

 一件落着である。

 そうして俺は、転移を終えて牧駒ミウの隣に戻ってきた。

 場所はこないだ葛木クスハも交えて話をした公園。

 自販機から買ったジュースを、牧駒ミウは差し入れしてくれた。

 

「いやぁ、猿の手は強敵でしたね」

「そうでもなかったが……」

「せめてそこは強敵だった感出しておきましょうよ……犯人が猿の手を取り込んで怪人猿の手になってサルマさんと大決戦したとか……捏造しておきましょうよ」

「自分から捏造と行っていくのか……」

 

 ここに至るまでは、まぁ何ら面白いことなんて何もなく。

 猿の手が暴走を始めたことで、俺が転移。

 そこで猿の手をボコボコにした後、今度は戸村慎太郎の説得を試みるも失敗。

 というか猿の手の影響を受けていたのか若干怪異化しかけていた。

 しかし牧駒ミウの言うようなヤバい存在になっているということもなく、ちょっと殴ったら正気に戻ったのである。

 殴るついでに説得したのが、さっきの状況だったという感じ。

 

「何にしても……サルマさん、ここまで本当にありがとうございました」

「いや、俺はあくまで君を放っておけなかっただけだ」

「もう……やっぱりサルマさんはお人好しさんですね」

 

 牧駒ミウはそう言いながら、ベンチから立ち上がって俺の前に立つ。

 

「あの……私たちって、これが終わったらまた赤の他人に戻るのでしょうか」

「連絡先はちゃんと交換してるだろ? 何かあったら、いつでも連絡してくれればいい」

「そ、それはその……いくらなんでも男の人に何の用もなく連絡を取るのはハードルが高いといいますか……」

「そうか? 今の俺の知り合いは、何もなくても適当なことばっかりメッセージ送ってくるが」

「ひ、人それぞれですよ!」

 

 なんなら葛木クスハすら、たまにコスプレの自撮りを送りつけてくるぞ。

 こっちが感想を返さないと次あった時にそのことばかり文句を言ってくるので、ぶっちゃけ面倒くさい。

 

「じゃあえっと……その、一つだけ聞いてもいいですか?」

「何だ? 答えられる範囲でなら、何でも答えるが」

 

 頼むから、あのASMRの声優って俺だよな? とか聞かないでくれよ……

 

「――どうしてサルマさんって、怪異になっちゃったんですか」

 

 と思ったら、案外真面目な質問だった。

 俺が邪念ばっかりみたいじゃん……

 

「どうしてって言われても……正直俺にもよくわからん」

「怪異になる前に、死んじゃったとか……そういうわけでもないんですよね?」

「そうだな……特にそういうことはなかったな」

 

 前世とは言うけれど、気がついたら別世界で怪異になっていた。

 まず別世界ってのもわけわからんよな。

 俺が人間だった頃にあった創作はだいたいこの世界にも存在するし、わざわざ別世界に行く必要が皆目健闘もつかない。

 違いなんて、強いて言うなら怪異が存在することと――この世界に人間だった頃の俺が存在しないということだけだ。

 もしかしたらその二つだけがすり替わっただけの、まったく同じ世界なのかもしれない、と思うこともあるけど、よくわからん。

 

「なんかそれって……理不尽じゃないですか! サルマさん、何も悪いことしてないんですよ!?」

「いやでも……別に食うに困ってるわけでもないし……むしろ腰痛とか気にしなくて良くなって今のほうが便利だし……」

「そ、それは…………まぁ………そう……なんです、けど……」

 

 いや否定できないんかい。

 でもまぁ、確かに。

 理不尽といえば、理不尽だよな。

 俺、そういう理不尽って嫌いなんだけど、あんまり自分事をそう思ったことはなかった。

 

「そうだな……正直、あんまり理由は自分でもよくわからないんだが――」

「……はい」

「でも、確かに――何も考えないってのも、よくないよな」

 

 とはいえ、まったく思い当たることもないので、答えなんて出るはずもないんだけど。

 ほんと、なんだって俺は猿回しになっちまったんだろうなぁ。




猿回しさんは呼び出された時は基本意味深にしか話せませんが、たまに普通に話せます。
ぺっ、雑魚が。の時とか。

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