ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした 作:いつもより多く回っております
牧駒ミウにとって、猿回しとはちょっと特別なだけの普通の人間だ。
確かにムキムキだし声はイケボだし、ちょっと自分の癖に突き刺さりまくるけれど、中身は気の良い青年である。
あれ、癖に突き刺さりまくる上に人格も好ましいって……ちょっとこう……アレじゃない?
いやいやいや、そんな会って数日の人に惚れるとか自分はそんな軽くないし。
というか今まで好きになった相手とか彼氏とかいなかったのに、いきなり好きになるとか、ないし。
もうちょっとこう、関係性を深めてからそういうことは考えるべきだよね。
いやいや。
話が脱線しすぎている。
そういうことをいいたいんじゃないんだ、自分は。
そんな普通のいい人な猿回しが、どうして怪異になんてならなきゃいけない?
ミウにはまったく承服できないことだった。
だからこそ猿回しを知りたいと思う。
「サルマさんって、猿回しになる前は何をしてらっしゃったんですか?」
「普通に社会人だが……なんかこれだと俺が転職して猿回しになったみたいじゃないか?」
実際に猿が皿回す方の、とジェスチャー付きで言う猿回し。
猿回しが本当に皿を回したらそれはそれでバエそうだとちょっとミウは面白くなってしまった。
「実は記憶を失ってるだけで、事故に遭いそうな子どもを助けた結果、怪異になってたりしませんか?」
「君は俺にどうしてこう、物語性を求めたがるんだ?」
「物語性のありそうな人格をしているからですよ。お人好しですし、面倒見もいいですし」
「遠回しに生きづらそうって言ってるな……」
「そこは……まぁ、私も言われたことありますし」
ミウは昔から、マスコット扱いで可愛がられてはきたけれど、どことなく周囲からは舐められている空気を感じていた。
それでも空気を壊さないためにもそのポジションは甘んじて受け入れたほうがいいと思っていたし、今もそうしている。
友人が懸想している他校の男子から告白されて、それを何とか軟着陸させた時はなんで自分はこんなことをしているんだろうと思ったこともあった。
猿回しのしてくれたことは、その時の自分と似ている……なんて勝手に思ったりもしたものだ。
「まぁ生きづらいと感じたことは、たまにだけどあるよ」
「ほらやっぱり」
「でも人生なんてそんなもんだろ? ストレス無しに生きていくなんて、そうそう無茶ってもんだ」
だからこそ、と猿回しは続けた。
「そんな中でも、自分にどうにかできそうな理不尽があったら、それをどうにかすることができたら――最ッ高に
「気持ちいい……ですか」
「そう、達成感ってやつだ。別に他人を慮って俺は他人を助けてるわけじゃない。そうした方がスカッとするからやってるんだよ」
それは、俗――といえば俗なのだろう。
どれだけ正しいことをしていたのだとしても、結局は独善に分類される感情だ。
でもだからこそ、それをいいな……と思ってしまう自分も、ミウの中にはいる。
猿回しの話し方が、どこか活力を感じられるからだろう。
「少なくとも人間だった頃は、眼の前の理不尽をどうにかする力なんてなかった。だったら、むしろ俺は今のほうが恵まれてるよな」
「でも、だからって大変じゃないですか? 人としての生活も送れませんし」
「
――いい切った。
正面から、何一つためらうこと無く。
ここまでの会話で、思考を整理したからだろう。
だからこそ思わずミウは息を呑む。
こわっ。
「そもそも理不尽で言ったら、怪異にとって俺の存在は理不尽そのものだろう。だとしたら俺は――」
そして、猿回しは――
「理不尽に理不尽を与えるために、生まれ変わったのかも知れないな」
そう、端的にまとめたのだ。
いや、ちょっとまって?
まってまってまってのまって?
ミウが気になったのは、猿回しの宣言ではなかった。
もう一つの方。
「――生まれ変わった?」
「ん、ああ。ややこしいんだけど、俺はこの世界の人間じゃないんだよ。転生者ってやつだな。気づいたら、俺が暮らしていた世界とは違う世界で怪異になってた」
「ま、ままま、まってください? 転生? 前、そんな話してましたっけ?」
「話すとややこしいだろ。実際今も君は混乱しているわけだし」
いやまぁ、それはそうなんだけれども。
「まぁ違いと言っても、前世とこの世界はほとんどかわらない。漫画やゲームもほとんどそのまま出し、違うことと言えば怪異が存在するってことと――俺がいないってことだけ」
「――――――――――――サルマさんが、いない」
「ああ、調べたけど俺の両親はいても、俺は生まれていないことになってるみたいだ」
何気なく、猿回しはそう話しているけれど。
ミウはこれまでの経験から、怪異の発生理由については色々と猿回しから聞かされている。
たしか、人の強い思念が形を成すと、怪異になるのだ。
大抵は死人であることも多いが――
じゃあ、たとえば、だ。
もし仮に……本当に仮に、だけれど。
いやホント仮に……仮に、ですけどね? 仮に、なんですけど、仮ですってば!
こほん。
こことは少し違う世界に、理不尽に強い憤りを覚えながら生きている人間がいたとしよう。
少し違うといっても、本当に違いは些細なものだから、その世界とこの世界は相当近い場所にあるはずだ。
そんな別世界の人間の強い意思が、この世界まで届いてしまったら?
「猿回しさんは本当に、本気の本気で怪異という理不尽をどうにかしたいと、思っているんですね」
「
――――ミウは感じた。
今、眼の前に男の中に宿る意志の力は、それくらいやってのけてもおかしくない、と。
やべぇよやべぇよ……
猿回しには、イケボやらムキムキやら転移やら、様々な能力が備わっている。
だけど、もし彼のことを少しでも知れば、誰だってわかるはず。
彼の本当に厄介なところは、その意志の強さだ――と。
いくら鍛えれば鍛えるほどムキムキになれるからって、筋肉が膨張するような行動を平気で試せる人間はそういない。
少なくともミウは、理屈を知っても一切猿回しのようになれるとは思えなかった。
「サルマさんが別世界から来たってこと、知ってるのは私だけなんですか?」
「んー、そうだな。わざわざ話すようなことでもないし、話がややこしくなるからな。今回だってだいぶ君を混乱させただろう」
「ええと……」
混乱した理由はそれ以外にもあるんですけど……!
ただ、これもやはり説明するのが憚られる内容だ。
もしも猿回しがこのことを知ってしまった時、
何より猿回し自身が、ミウでも気付けたようなことに気付けないのは、本人が無意識にストッパーをかけているからという可能性も否定できない。
一番の理由は、前世の一般人としての感覚が抜けきっていないから、なのだろうけど。
とにかく、他に相談できる人を見つけないと行けない、ミウはそう考えていた。
「それで、こんな話を聞いて君はどうするんだ?」
「そう、ですね……」
わからないことは二つある。
一つは、どうやって猿回しがこの世界のことを知ったのか。
いくら世界を飛び越えられる意志の強さがあるといっても、そもそもこの世界のことを猿回しが知らなければそれは叶わない。
おそらく本人でも意識していないような要因で、一度猿回しはこの世界と繋がったのだ。
その理由は、知っておきたい。
もう一つは、どうして猿回しのもととなった存在がこの世界にいないのか。
ああでもこっちは、なんとなくわからないでもない気がする。
だってもしもこの世界に人間だった頃の猿回しがいたら――
――とっくの昔に、理不尽にキレて怪異なんて殲滅されてるよなぁ。
なんて。
あはは、いやそんなこと……でもなぁ……
だから多分、怪異が必死に祈って生まれてこないように歴史を書き換えたとか、そんなことあるかもしれないなぁ。
なんて。
まぁ、そんなの本当にミウの想像でしかないわけだが。
なぜか、このことを知れば誰もがそう思う気がしてならないのだ。
あっはっは(乾いた笑い)。
「さっきから何やら百面相してるけど、大丈夫か?」
「こほん! こほん……げほっ! ごほっ!」
「いやホントに大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です。むせただけで……こほん! とにかくですね!」
気を取り直して、ミウは宣言する。
「私、猿回しさんのこともっと知らなきゃ行けないと思うんです!」
「お、おう!?」
「だからこれからも――こっちから絡んでいきますんで、よろしくおねがいしますね!」
ビシッと、力強く指を指してミウは言ってのけ――
「……ってこれじゃあ、愛の告白みたいじゃないですかぁ!」
「いや、俺に言われても」
「んにゃあ!!」
――自爆した。
というわけでここまでがプロローグになります。
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