なんか急に構想が降りてきたから描きました。
需要があるかは知ラソ。
(校舎デケェ〜、緊張すんなぁ……)
後ろに倒れそうになる程見上げながら、金髪の少年が心の中でそう呟く。
目の前には、天高く聳え立つ校門がある。
さらにその奥には、数々の名のあるヒーローを輩出した名門校、雄英高校の校舎が摩天楼のように聳え立っている。
周りには、同じように緊張で身を固め、ぎこちない歩き方をしている見ず知らずの少年少女達がいる。
彼の名前は上鳴電気、入学試験を受けにきた受験生の一人だ。
彼が持つ“個性”『帯電』は、電気を纏う事ができるという異能だ。
食いっ逸れる事のない“強個性”と生まれつきのポジティブな性分故か、最初は『ヒーローってなんかカッコいいから』、『女の子にモテそう』という良くも悪くも単純な動機でヒーローを目指していたが、ヒーローになる為に積み重ねてきた努力は決して一朝一夕ではない。
そして今日は、人生一番の大勝負、雄英入試の実技試験の日だ。
前日の筆記試験は、五分五分といったところだった。
地元の中学ではトップの成績といえど、倍率300倍、偏差値79の超難関校ともなれば、合格ラインに立てているかどうかすら怪しい。
だからこそ、憧れの雄英に入れるかどうかは、今日の実技試験にかかっている。
よしやるぞ、と意気込んで一歩踏み出そうとしたその時、上鳴の横を誰かが通り過ぎた。
「うぉ、すげえ美人」
「可愛い……」
「雄英受験しに来て良かった……!」
他の受験生達の視線が、一人の少女に注がれる。
高級なシルクのような白銀の髪は風を受けて靡き、淡い水色の瞳は氷を連想させる。
肌は陶器のように白く、顔立ちは彫刻のように美しく、ダークグレーのダッフルコートからはすらりとした脚が伸びている。
頭の左側につけた黒いリボンには雪の結晶の飾りがついており、陽の光を浴びてプリズムのように輝いている。
その表情には緊張は一切見られず、校舎に向かって悠然と歩いている。
瑞々しい桜色の唇は一文字に噤まれており、まさに氷の女という言葉が相応しい。
周りの受験生、特に記念受験をしに来たお気楽な受験生達は、少女に見惚れていた。
かくいう上鳴も、彼女に見惚れている一人だった。
どこかのお嬢様だろうか。
自分達には到底及ばないような高潔で聡明な人に違いない。
完成された美貌を前に誰もがそう思った、その時だった。
「ふぎゃっ」
間抜けな声と共に、少女がうつ伏せに倒れ込む。
べちっと痛そうな音を立てて、地面に顔面を強打する。
その光景を見て、周りの受験生が呆然とする。
見間違いではないかと、二度見する者もいた。
完璧だと思っていた美少女が、皆が見ている前で、しかもよりによって受験前の大事な時にすっ転ぶというドジをやらかした事実に、理解が追いつかなかった。
だがそんな中、起き上がる気配がない少女を見てハッと我に返った上鳴が、慌てて少女に駆け寄る。
下心は無く、純粋に彼女を心配しての行動だった。
「ねえ君、大丈夫!? どっか怪我してない!?」
上鳴が近づいて声をかけるも、少女は倒れたまま返事をしない。
もしかしたら、気絶しているんじゃないか。
そんな考えが頭を過った瞬間。
倒れていた少女が、ガバッと上半身を起こした。
何の前触れもない突然の出来事に、何人かは反射的にビクッと肩を跳ね上がらせた。
当の本人は、鼻が少し赤くなっているところ以外は、特に目立った外傷はない。
少女は、顔を上げるなり上鳴に目を向けた。
「…………」
少女は、上鳴を見つめたまま何も喋らない。
最初こそ目が合ってドキッとした上鳴だったが、じっと見つめたまま何も言わない少女に対して、次第に不安が勝ってくる。
だが沈黙が5秒を過ぎようとした時、少女が口を開いた。
「…………あー、はい、大丈夫です」
少女は、赤くなった鼻を左手で擦りながら言った。
上鳴は、一拍置いてから、先程の呼びかけに対する返答だと気付く。
そして、少女が立ち上がって膝を両手で払っている間に、頭につけていたリボンが落ちている事に気がついた。
「これ、落としたよ」
上鳴は、地面に落ちていたリボンを拾い上げて声をかけた。
今までのナンパ経験(ただし成功経験があるとは言わない)を総動員させ、自分が一番カッコいいと思う仕草で少女にリボンを差し出す。
だがそんなナンパテクも虚しく、少女はピクリとも笑わず、無表情のままリボンを手に取った。
「………えっと、ありがとです」
少女はリボンを受け取ると、少し舌足らずで拙い日本語で礼を言った。
不自然な日本語と会話のテンポの悪さに少し引っかかりつつも、可愛いは正義の精神で上鳴は受け入れた。
当の少女は、受け取ったリボンを頭の右側に付け直した。
「あれ? それ、最初左側につけてなかった?」
「……そうでしたっけ?」
上鳴が指摘すると、少女は首を傾げて聞き返す。
指摘されて左側に付け直すが、今度は髪飾りの向きが逆だ。
清楚なクールビューティーのイメージとは違ったがこれはこれで可愛い、それが上鳴の率直な感想だった。
むしろ、人並みに欠点のある女の子だとわかって、親近感すら湧いている。
所謂ギャップ萌えというやつだ。
限られた合格枠を競い合うライバルだという事も忘れて、少女とお近づきになろうと声をかける。
「ねえ、君さ……」
「受験会場はこちらでーす! 受験される方は受験票を持って受験会場の方へお進み下さーい!」
上鳴の言葉に被る形で、係員が遠くから呼びかけた。
間の悪さに上鳴が凹んでいる事など露知らず、少女は係員のいる方向を振り向く。
「あっ、行かなきゃ。それじゃ」
「ウェ……」
少女は、上鳴に軽く手を振ると、先に受験会場に向かった。
一人取り残され、阿保面を晒した上鳴だったが……
「絶対合格してやろ」
彼は良くも悪くもポジティブだった。
可愛い女の子との出会いをモチベーションに、気合を入れ直していた。
◇◇◇
『受験生のリスナー俺のライブにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』
雄英高校の大講堂にて、プロヒーローで雄英教師のボイスヒーロー《プレゼント・マイク》が試験内容の説明を行う。
プレゼント・マイクは返事を求めるが、緊張もあってか誰も返事をしなかった。
というより、プレゼント・マイクの声量に圧されて誰一人として返事ができなかった。
だがそんな事はお構いなしに、プレゼント・マイクは一切テンションを下げる事なく説明を始める。
『こいつあシヴィー!!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEAHH!!!』
二度目の呼びかけにもレスポンスは無く、プレゼント・マイクはとうとうセルフィーで掛け声を挙げた。
『入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!! OK!?』
ヒーロー故か、それともラジオDJ故か、その両方か。
プレゼント・マイクは、三度目の総スカンもものともせず鋼のメンタルで説明を続けた。
『演習場には仮想敵を三種多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!! 各々なりの“個性”で仮想
プレゼント・マイクの説明中に、ある少年は興奮気味にブツブツと早口で独り言を言う。
そんな中、後ろの方の席から一人の少年が立ち上がる。
やや大柄で眼鏡をかけた真面目そうな少年だ。
「質問よろしいでしょうか!? プリントには四種の
質問をした男子は、先程までブツブツと独り言を言っていた緑髪の少年を指差す。
指を差された少年は、肩を跳ね上がらせ目を丸くし自分を指差していた。
眼鏡の少年は、ギロリと緑髪の少年を睨みながら注意をした。
「先程からボソボソと…気が散る!! 物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
「すみません…」
そう指摘されると、緑髪の少年は口を塞ぎながら小声で謝った。
すると少年の周りの受験生がクスクスと笑い出す。
大勢のライバル達がいる中で笑い者にされ、公開処刑も同然だ。
ちょうどその時、プレゼント・マイクが眼鏡の少年を宥めるように説明を続けた。
『オーケーオーケー、受験番号7111番くん、ナイスなお便りサンキューな! 四種目の敵は0ポイント! そいつは言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズやったことあるか!? レトロゲーの! アレのドッスンみたいなもんさ! 各会場に一体、所狭しと大暴れしている『ギミック』よ! 倒せないことはないが、倒しても意味は無い! リスナーには上手く避ける事をオススメするぜ!』
「ありがとうございます! 失礼致しました!」
プレゼント・マイクが説明すると、眼鏡の少年はちょうど直角に頭を下げて席に座った。
だが、その時だった。
「私からも質問いいですか?」
『OK!』
一人の少女が、手を挙げて立ち上がる。
「またか」とうんざりする他の受験生などお構いなしに、少女は人差し指同士をくっつけながら口を開く。
「えっとぉ…………もし
少女がぎこちない口調で口にした質問に、会場がどよめく。
動揺する受験生達を落ち着かせるようにプレゼント・マイクが両手を挙げ、少女の質問に答えた。
『受験番号7016番ちゃん、面白いお便りサンキューな! 万が一に備えて予備の仮想
「はぁーい」
プレゼント・マイクが説明すると、少女は間延びした口調で返事をし、そのまま席に座り直した。
『制限時間内に会場内にいる全ての仮想
((((あいつ、バカだ!!))))
周りの受験生は、心の中で少女を馬鹿にした。
制限時間内に仮想
雄英がそれを想定していないはずがない。
そもそも、制限時間内に全部倒せるはずがない。
そんな事もわからないのかと、その場にいたほとんど全員が思っていた。
『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう! かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者』と!! “Plus Ultra”!! それでは皆! よい受難を!』
プレゼント・マイクが最後にそう締めくくり、実技の説明が終わった。
最初は上鳴くんの視点に限りなく近い三人称視点にしてみました。
一番初っ端にオリ主に絡ませやすいキャラだったので。
ちなみに本作は、三人称視点と一人称視点を混ぜた形で書く予定です。
オリ主が一人称視点を書くのが難しい特性持ちなのと、戦闘シーンは三人称視点の方が分かりやすいので。
オリ主の詳しい情報は次回出します。