地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第2期 体育祭〜期末試験編
第14話 氷叢さんの次なる戦い


相澤 side

 

 保健室でリカバリーガール(婆さん)の治療を受けた後、俺はセントラル病院に足を運んでいた。

 13号は、USJでの襲撃事件で上腕から背中にかけて裂傷を負い、治療のためセントラル病院に入院している。

 

 氷叢のおかげで生徒は誰も怪我をせずに済み、俺も軽傷で済んだ。

 だが俺は、あれで良かったとは思わない。

 俺は、あの時何も出来なかった。

 氷叢が…教え子が自ら危険に飛び込んでいくのを、止められなかった。

 結果的にあいつは無傷で済んだが、あいつがクソどもに立ち向かった時、担任として何か出来る事があったんじゃないかと今でも思う。

 

「…………クソ」

 

 非合理的な考えを巡らせながら、廊下のベンチに腰掛けコーヒーの缶を握りしめた、その時だった。

 

「らしくないわね。相澤くんが思い詰めるなんて」

「……香山先輩」

 

 ちょうど13号(黒瀬)の病室から出てきたミッドナイト(香山先輩)が、俺に声をかけた。

 後輩が重傷を負ったと聞いて、同性の彼女が見舞いに駆けつけてきたのだ。

 

「……黒瀬の容態は?」

「順調に回復しているわ。もう退院できるそうよ。これから退院手続きですって」

 

 俺が尋ねると、香山先輩が黒瀬の容態を教えてくれた。

 その後、黒瀬は退院手続きを済ませ、明日には復帰できる事となった。

 そこへトゥルーフォームのオールマイトも来て、病院の喫茶店で軽食を摂りながら話をした。

 

 

「じゅうさ……黒瀬くん、相澤くん。私が遅れたばかりに、こんな目に遭わせてすまなかった」

「いえ、あの襲撃事件は、誰にも想定できなかったことですし……オールマイトさんのせいじゃありませんよ。それに僕達だってヒーローであり、教師です」

「彼女の言うとおりです。頭を上げてください」

「……ありがとう」

 

 オールマイトは、俺達の窮地に駆けつけられなかった事を謝罪してきた。

 俺と黒瀬は、オールマイトのせいじゃないと言い、頭を上げさせた。

 俺達はヒーローとして、教師として、生徒を守る為に(ヴィラン)と戦ったまで。

 それで重傷を負ったのなら、それは生徒やオールマイトのせいなんかじゃなく、俺達の問題だ。

 

「ところで、何故急に今日退院できることになったんだい? ああいや、早く治るのは良いことなんだけど、退院できるのは明日だって聞いてたから……」

「ああ、それなんですが、担当医の先生にも驚かれたんです。信じられない早さで回復してるって」

 

 オールマイトの質問に対して、黒瀬が答える。

 信じられない早さで回復した……か。

 

「……あ、そういえば」

「どうしたの、相澤くん?」

「俺も今日、やけに傷の治りが早かったんです。リカバリーガールが驚いてました」

「えっ、相澤先輩もですか?」

 

 俺が言うと、黒瀬が驚く。

 俺も黒瀬も、普通ならあり得ない早さで傷が回復した。

 俺達の共通点といえば……

 俺も黒瀬も、事件後に氷叢の応急処置を受けた。

 

「……まさか、な」

 

 偶然の一致とは思えない。

 あいつの“個性”が、俺達の傷の回復に影響を及ぼしていたとしたら……

 

「そういえば、USJの(ヴィラン)はどうなったんでしょう?」

「主犯二人には逃げられてしまったが、それ以外は全員逮捕したよ。氷叢少女に凍らされた(ヴィラン)もいたが、解凍したら無事蘇生したそうだ。後遺症も無く、無傷で復活したらしい」

「コールドスリープってやつですか……」

「血を流さずに敵を捕らえられるという意味じゃ、優しい力なのかもしれないな」

「それに、彼女の応急処置はとても適切でした。(ヴィラン)を捕まえるための力だけじゃなく、人を救うための力も伸ばしてあげたいですね」

 

 オールマイトや黒瀬は、氷叢の力を好意的に捉えていた。

 あいつの“個性”は、悪用すれば日本を脅かしかねない程の強大な力だ。

 だが同時に、正しく使えば多くの命を救える力でもある。

 幸い本人は、クラスの奴等と一緒にヒーローを目指している。

 ()()()()()()()で、あれだけの“強個性”を持っていながら、よくここまで屈折せずに育ったもんだ。

 まぁ、危うい部分が無いわけじゃないが……

 

「あれだけの“強個性”と複雑な境遇を持っていながら真っ直ぐ育ったのは、本人の素直さと、保護者の方の教育の賜物でしょうね」

「あぁ、雪代さんね。とても若くて綺麗なお──」

「香山くん」

 

 香山先輩の言葉を、オールマイトが遮る。

 氷叢と雪代さんの家庭事情は、深入りしないのが俺達教師陣の暗黙の了解になっている。

 誰が聞いているかもわからない場所なら尚更だ。

 人には、()()()()()()()()()もあるだろうからな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 USJ襲撃事件から、2日が経った。

 事件の翌日は臨時休校となり、休校明けの今日、A組は全員無事に教室に集まる事ができた。

 

「皆ーーー!! 朝のホームルームが始まる! 席につけーー!!」

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

 飯田が席を立ったまま号令をかけると、瀬呂がツッコミを入れる。

 すると、その時だった。

 

 

「お早う」

 

 時間ピッタリに相澤が教室に入ると、生徒達は全員ピシッと姿勢を正した。

 そんな生徒達を見渡してから、相澤が口を開く。

 

「……よし、全員揃ってるな。あんなことがあったが、こうして全員で集まれて何よりだ。だが、戦いはまだ終わってねぇ」

「戦い?」

「まさか…」

「まだ(ヴィラン)がーー!!?」

 

 爆豪、緑谷、峰田が反応すると、相澤は少し溜めてから言った。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」

「わっ……」

 

 相澤の言葉にクラスのボルテージが一気に高まる中、六花はノリについていけずにあたふたしていた。

 A組は皆、入学式をすっぽかしたりして学校行事に飢えているのだ。

 

「「「「体育祭…!」」」」

「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

 

 特に切島は、両手を握りしめてガッツポーズをして気合いを入れた。

 だが前の席の上鳴が、前から切島の顔面を押さえつけて口を開く。

 

「待って待って!」

(ヴィラン)に侵入されたばかりなのに大丈夫なんですか!?」

 

 上鳴が切島を押さえつけ、耳郎が相澤に尋ねる。

 マスコミパニック、USJと二回も敵に侵入されたという時に、体育祭など開催していいのか。

 一部の生徒がそんな疑問を抱いていると、相澤が話し始める。

 

「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が磐石だと示す…って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は……()()()()()()()(ヴィラン)ごときで中止していい催しじゃねぇ」

「いやそこは中止しよう?体育の祭りだよ…」

「峰田くん…雄英体育祭見たことないの!?」

「あるに決まってんだろ、そういうことじゃなくてよー…」

 

 相澤の発言に峰田が反論すると、緑谷が驚いた様子で峰田に話しかけ、峰田が呆れた様子で緑谷に反論する。

 そんな峰田の反論も、あえなく相澤の声に掻き消される。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した…そして日本に於いて今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ!!」

「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」

「知ってるってば…」

 

 相澤に続けて八百万も説明すると、峰田が若干呆れた様子で振り向く。

 直接足を運んだり全国放送やらで体育祭を見たプロが、そこで活躍した学生をスカウトするというわけだ。

 

資格習得(そつぎょう)後はプロ事務所にサイドキック(相棒)入りがセオリーだもんな」

「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」

「くっ!!」

 

 耳郎が辛辣な返しをすると、上鳴が悔しそうに黙る。

 

「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス、ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

 相澤は、クラス全員の闘志に火をつけて、ホームルームを終えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あんなことはあったけど…なんだかんだテンション上がるなオイ!!」

「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」 

 

 4限の古典が終わり、昼休み。

 切島と瀬呂は、体育祭と聞いてやる気を出していた。

 そんなクラスメイトを、緑谷が少し離れたところから見ていた。

 

「皆すごいノリノリだ…」

「君は違うのか? ヒーローになる為在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう!?」

「飯田ちゃん独特な燃え方ね。変」

 

 飯田が姿勢を低くして両手でぐっと握り拳を作ると、蛙吹がツッコミを入れた。

 

「緑谷くんも、そうじゃないのかい!?」

「僕もそりゃそうだよ!? でも何か…」

「デクくん、飯田くん…」

 

 緑谷が不安そうに何かを言おうとすると、麗日が声をかける。

 麗日の顔はというと…

 

「頑張ろうね体育祭」

「顔がアレだよ麗日さん!!?」

 

 麗日は、眉間に皺を寄せ険しい顔をしていた。

 

「どうした? 全然麗かじゃないよ麗日」

「オチャコさん顔すごい……」

「生…ぐえっ!?」

 

 芦戸と六花が麗日を気にかける中、峰田がどさくさに紛れて下ネタを言おうとすると、蛙吹が舌で峰田の顔面を引っ叩いた。

 

「皆!! 私!! 頑張る!!」

「おおーーーーけどどうした、キャラがフワフワしてんぞ!!」

 

 麗日の気合いに、切島は乗っかりつつも若干引いていた。

 そんな中、教室のドアが開き、相澤が教室に入ってきた。

 

「おい、氷叢はいるか?」

「……? はぁい、います」

「今時間あるか?」

「えっと……これからごはん食べるところで……」

「そうか。じゃあ、リカバリーガール(婆さん)がお前を呼んでるとだけ伝えておく。俺も詳しいことは知らんが、昼休みか放課後に保健室に来てほしいらしい。そういうわけだから、放課後必ず行け」

 

 そう言って相澤は、教室を出るとドアをピシャリと閉めた。

 呼ばれた本人はきょとんとしており、クラスメイト達も顔を見合わせていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして時は流れ、放課後。

 

「うおおお……何ごとだあ!!?」

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」

 

 ドアの前にいた麗日と峰田が、驚いた様子で声を上げる。

 教室の外には、B組や他科の生徒達が屯していた。

 すると爆豪が、ずいっと前に出て口を開く。

 

「敵情視察だろ、ザコ。(ヴィラン)の襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭(たたかい)の前に見ときてぇんだろ。意味ねぇからどけ、モブども」

「アワワ…!」

「知らない人のことをとりあえずモブっていうのやめなよ!!」

 

 爆豪が教室の前にいた生徒達に向かって言い放つと、緑谷があたふたし、飯田が注意をする。

 

「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」

「ああ!?」

 

 青紫色の髪を逆立てた長身の男子生徒が、ずいっと前に出てくる。

 普通科の男子の言葉に反応する爆豪の後ろでは、緑谷と飯田がブンブンと首を横に振っている。

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ。敵情視察? 少なくとも普通科(おれ)は、調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」

 

(((この人も大胆不敵だな!!)))

 

 普通科の男子生徒、心操人使が宣戦布告すると、A組の生徒達が心の中でツッコミを入れる。

 すると今度は、銀髪と睫毛が特徴的な男子生徒が口を開く。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!! (ヴィラン)と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんなオイ!!! 本番で恥ずかしいことんなっぞ!!」

 

(((また大胆不敵な人キタ!!)))

 

 B組の男子生徒、鉄哲徹鐵が言うと、またしてもA組の生徒達が心の中でツッコミを入れる。

 爆豪が無視して他の生徒を押し退け帰ろうとすると、切島が爆豪を引き止める。

 

「待てコラどうしてくれんだ! おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」

「関係ねぇよ………」

「はあーーー!?」

「上に上がりゃ、関係ねえ」

 

 そう言って爆豪は、教室の前にいた他科の生徒を無理矢理押し退けて帰っていった。

 そんな爆豪を見て、切島、常闇、砂藤は逆に感心していた。

 

「く…!! シンプルで男らしいじゃねぇか!」

「上か…一理ある」

「言うね」

「騙されんな! 無駄に敵増やしただけだぞ!」

 

 三人が爆豪の言い分に納得すると、上鳴がツッコミを入れる。

 だが、その時だった。

 

 

「あのょ……すみません。調子乗ってるって、なんですか」

 

 六花が、手を挙げて心操と鉄哲に反論した。

 

「ごめんなさい。なんで調子乗ってるってゆわれなきゃいけないのか、ちょっとよくわからないです」

「そっちが先にケンカ売ったからだろうが!! たった今、ザコとかモブとか言ってたじゃねぇか!!」

「うーん……でもそれ、バクゴーさんがゆってただけじゃないですか。それだけで私たちが調子乗ってるってことになるのはおかしくないです? こっちはただでさえいきなり悪い人に授業を潰されて、先生やお友達を傷つけられて、それでも学校に来てるんですよ? あんまりそういうことゆわれたくないです」

 

 六花は、鉄哲の言い分に対して正論で返した。

 六花達も、好きで襲撃に遭ったわけではない。

 それなのに、爆豪一人の発言で、A組全員が調子に乗っていると言われなければならない理由が無い。

 その事に対して六花が不満を示すと、心操が値踏みするような目を六花に向けて話しかける。

 

「あんた、確か首席入学者だったよな。しかも主犯格を一人で撃退したそうじゃないか。あんたも俺達のことを見下してるのか?」

「……みくだ……? ……えっと、ごめんなさい。そもそも知らなかったです」

「…………は?」

「私、学校のこととかよく知らないので、雄英ってヒーロー科だけだと思ってました。……なるほど、いろんなクラスがあるんですね、今知りました。丁寧に教えてくれて、ありがとうございます」

 

 六花は一切の悪気なく、六花の知らない他科の事情を説明した心操に対して礼を言った。

 すると他科、特に普通科の生徒達は、不満そうに顔を歪める。

 

「嫌味かよ……」

「やっぱり調子に乗ってんじゃねぇかよ……!」

 

(((まずいぞこれ…!?)))

 

 六花の性格を知らない他科の生徒達は、遠回しに「お前たちなんか眼中にない」と皮肉を言われたように聞こえ、六花に敵意を向ける。

 六花に向けられる敵意を察したクラスメイト達は、青ざめた顔をする。

 だが六花は、他科の生徒達からの敵意やハラハラしているクラスメイト達に全く気づく事なく、純粋な好奇心からさらに地雷を踏もうとする。

 

「ところでさっき、ヒーロー科に落ちた? みたいなことゆってましたっけ。なんでヒーロー科に落──」

 

 六花が他科の地雷原でタップダンスをするような発言をしようとした、その時。

 近くにいた飯田と麗日が慌てて六花の口を塞ぎ、緑谷が大声で六花の声を掻き消す。

 

「わーっ!! わーーわーーーわーーーっ!!」

「んぐぅ〜っ」

「六花ちゃん、それ以上は言うたらあかんよ!」

 

 三人の機転により、六花の地雷発言は不発に終わった。

 その後、敵情視察に来ていた他科の生徒達がゾロゾロと帰っていく。

 他科の生徒が全員帰っていったのを確認してから、ようやく飯田と麗日が六花を解放した。

 

「ぷはっ……」

 

 六花は、気まずそうにしているクラスメイトの顔を見て、ようやく自分が失言をしてしまったかもしれない事に気がつく。

 

「……あの、私……何かまずいこと言っちゃったです?」

「いや……あの、うん……」

 

 六花が尋ねると、クラスメイト達が言葉を濁す。

 六花に一切悪気がない事はわかっている。

 そして、彼女の性格を考えれば、怒鳴ったり詰ったりするのが逆効果という事も。

 だからこそ、どう言葉をかければいいのかが難しいところだ。

 だがそんな時、蛙吹が口を開く。

 

「ケロ……私、思ったことはなんでも言っちゃうの。六花ちゃん、今のは嫌味に聞こえちゃってたと思うわ」

「え、嫌味……? 私、嫌味なんて言ってないですよ?」

「ええ、わかってるわ。六花ちゃんは優しい子だもの。でも、六花ちゃんのことを知らない人が聞いたら、嫌味に聞こえちゃうかもしれないって話よ。クラスの皆は六花ちゃんのことをわかってるけど、他の人とお話しする時は、言う前に踏みとどまって、言われた方はどんな気持ちになるか考えるの。私もすぐ口に出ちゃうから、お互い気をつけましょう」

「……がんばります」

 

(((梅雨ちゃんナイス!!)))

 

 蛙吹が冷静かつ優しい口調で六花を諭すと、クラスメイトが心の中で蛙吹を讃える。

 すると今度は、耳郎が六花のフォローに入る。

 

「あ、でも、『調子に乗ってない』ってハッキリ言ってくれたのは嬉しかったよ。ありがとう」

 

 耳郎がそう言うと、立花は嬉しくなり、何度も首を縦に振る。

 その後、六花は荷物をまとめて帰路についた。

 

 

「踏みとどまって、考える……踏みとどまって、考える……」

 

 六花は、蛙吹に言われた事を何度も反復して心に刻みながら廊下を歩く。

 するとその時。

 

「あ、おい。氷叢」

 

 ちょうど六花の前を通りかかった相澤が、六花に声をかける。

 

「お前、放課後婆さんに呼ばれてただろ。今すぐ保健室に行ってこい」

「…………はっ」

 

 相澤が言うと、六花はようやく思い出す。

 今の今まで、用事があった事をすっかり忘れていた。

 

 

 

 〜少女移動中〜

 

 

 

「しっ……失礼しまぁす」

 

 リカバリーガールに呼び出された六花は、保健室に入った。

 何かやらかしたのかと思い、手遊びをしてソワソワしていると、六花の心情を察したリカバリーガールが声をかける。

 

「安心しな。何かやらかしたとかじゃないよ。今日はあんたにお願いがあって呼んだんだ」

「お願い、ですか……?」

「あんたには、あたしの手伝いをしてほしいのさ」

 

 リカバリーガールが単刀直入に用件を話すと、六花はきょとんとする。

 そんな六花に対して、リカバリーガールは事情を説明し始めた。

 

「実は、あんたが応急処置したっていう13号とイレイザーなんだけどね、いつもより傷の治りが早かったんだよ。緑谷って子も、“個性”把握テストの後にあたしのところに来た時には、既に治りかけてた。確かにアイシングは傷の回復を早くすることはあるけど、あれはそういう範疇を超えてたよ。あたしは、あんたの氷に人の傷を癒す効果があるんじゃないかと考えているんだけど、どうなんだい?」

「え、そうなんですか……? しらなかったです」

 

 リカバリーガールが言うと、六花はまたしてもきょとんとする。

 

 六花自身は自覚していないが、リカバリーガールの推測通り、六花の氷には人の傷を癒す力がある。

 六花の“個性”は体を氷に変える変形型と氷を操る発動型の複合型だが、異形型の性質も少し混じっており、六花の体には周囲から熱エネルギーを奪う冷たい血が流れている。

 六花の持つ冷たい血で吸収した熱エネルギーを心臓で活力に変換し、その活力を使う事で氷の操作を可能にしている。

 六花がほとんど無尽蔵に氷を操れるのは、その仕組みのおかげだ。

 そしてその活力は、やろうと思えば氷を介して他者に分け与える事もできる。

 六花は氷を使って応急処置をする時、無意識のうちに氷を介して活力の一部を分け与える事で、治癒力を活性化させ、傷を癒していたのだ。

 

「もしあんたに傷を癒せる力があるなら、保健室(ここ)で他の子達を診てやってほしいのさ。あたしも歳だから、生徒全員の傷を癒すのは、そろそろきつくてね……今日みたいに呼び出すことがあると思うけど、その時は手伝いをお願いしてもいいかい?」

「そういうことなら……わかりました、がんばります」

「よろしく頼むよ。それで、ここからはあたしの提案なんだけど……あたしら医療系ヒーローは今、人手不足でね。特にあんたみたいに傷を癒せる“個性”は希少なんだよ。医師免許を取って、医療系ヒーローになる気はないかい?」

 

 リカバリーガールは、六花にとって思いがけない提案をした。

 六花が医師免許を取得して医療系ヒーローとして活躍すれば、現存する医療系ヒーローの負担はかなり減る。

 そして六花自身も、医師とプロヒーローの二足の草鞋で生計を立てる事ができる。

 だが六花は、少し考えてから、首を横に振る。

 

「うーん……今のところ、考えてないです。私、どんくさいから、大事なこと忘れちゃうし、いっぱいミスもしちゃうと思うし……お医者さんになるとか、考えたことなかったです」

「そうかい。まぁ、なる気がないなら無理強いはしないよ」

「でも、気が向いたら考えてみます」

 

 そう言って六花は、ペコリと頭を下げる。

 

 

 

 

 




世にも珍しい原作キャラにお説教される側のオリ主w
そもそも他作品のオリ主さんは完璧超人が多いので、ここまでポンコツのオリ主が珍しいという。

先に断っておきますが、この作品の体育祭での心操くんの扱いはあまり良くないです。
大人の事情で、あまりこの段階から彼を前面に出せないんです。
その代わりオリスト用意するし2学期から活躍を鬼盛りするからゆるちて…
嫌いなわけではないので悪しからず(抹アカの頃から追って下さっている方はご存知かと思いますが、むしろヒロアカキャラでは最推しです)。

ところで、氷属性って汎用性が高い割に回復技のイメージがあまり無いですが、冷気によるアイシングや血流操作、氷のギプスや義肢などで応急処置したり、コールドスリープさせて回復キャラが来るまでの時間稼ぎをしたり、氷を使って外科手術したりできるので、医療方面に応用できれば割と万能ですよね(一歩間違えれば凍傷になるので諸刃の剣ですが)。
それ関連で今回は、氷系の能力者が奪った膨大な熱エネルギーはどこ行くのか問題に切り込んでみました。
本作のオリ主ちゃんはヒーラーとしても活躍させる予定です。
流石に本職のリカ婆や活真くんを食うほどの力はありませんが。
少なくとも、他の回復系オリ主さんのような「オールマイトの傷全快ッ!!」みたいな事はできません(笑)。
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