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No side
2回戦の試合が全て終わり、準決勝進出者4人が出揃った。
時は遡り、10分前。
「……あれ? 道わかんなくなっちゃった……」
六花は、控え室に向かっている途中で迷子になってしまった。
キョロキョロと周りを見渡しながら歩いていた、その時だった。
「あつっ」
「おぉ、いたいた」
突然襲いかかってきた熱気に、六花は無意識のうちに氷でバリアを作って自分の身を守った。
六花の目の前には、赤い炎を纏った大男、エンデヴァーがいた。
堂々と立ち塞がってくるエンデヴァーに、六花は困惑する。
「あのょ……なにか用ですか? えっと……私、控え室に行かなきゃいけなくて……」
「選手控え室なら、この通路を真っ直ぐ行って突き当たりを左折だ」
「あ、ありがとうございます」
エンデヴァーが丁寧に道案内をすると、六花はペコリと頭を下げる。
六花がそのまま控え室に行こうとすると、エンデヴァーが話しかけてくる。
「氷叢六花くん……だったね。まずはベスト4進出おめでとう」
「はぁ、どうも」
「氷の操作か……素晴らしい“個性”だね。氷の“個性”
エンデヴァーが、六花を指差しながらそう言い放つ。
今までの戦績から、六花の実力を認めてはいるようだが、息子である轟焦凍に肩入れしているような言い方だ。
だが六花は、自分と息子を比べて息子の肩を持つようなエンデヴァーの物言いを特に気にする事はなく、別の点に注目していた。
「あぁ……ショートさんのお父さんだったんですね。でも目元以外あんまり似てないですね」
「ムッ……」
六花が『似てない』とハッキリ言うと、エンデヴァーが顔を顰める。
エンデヴァーのオールマイトを憎む目と、轟のエンデヴァーを憎む目はそっくりだが、それ以外は同じ要素が左側の髪と瞳の色くらいしか無く、むしろ顔立ちは母親譲りだ。
本人も多少は気にしているのか、愛息と『似てない』と言われた事が不服なようだ。
「まぁ、それはそれとして……卒業後は私のサイドキックになる気は無いか?」
「……ん?」
「君の実力は下手なプロを超えている。君をサイドキックとして扱えるのは、それこそ私かオールマイトくらいだろう。それだけではない。君の力があれば、私の“個性”の弱点を補える。無論、タダでとは言わん。私のサイドキックになるというのであれば、我がエンデヴァー事務所が君を全面的にバックアップしよう。どうだろうか、君としても悪い話ではないと思うのだが?」
「……あ、ショートさんのお父さん、プロヒーローだったんですね。どうりでピチピチのスーツ着てると思いました。事務所のお誘いについては、体育祭が終わったら考えておきます。それじゃ……」
そう言って六花が立ち去ろうとする。
するとエンデヴァーが、慌てて六花を呼び止める。
「なっ……おい、待て!! 待ちなさい!! このフレイムヒーロー《エンデヴァー》を知らんというのか!?」
「……ごめんなさい。私、ヒーローあんまりくわしくないので、オールマイトくらいしかしりません。あと、くさいのでおフロはいったほうがいいですよ」
「なっ!?」
六花が暴言を吐くと、エンデヴァーがショックで固まる。
普段のエンデヴァーであれば、アンチに暴言を吐かれた程度では動じない。
彼ほどファンとアンチがハッキリしているプロヒーローであれば、誹謗中傷など日常茶飯事だ。
だが暴言を吐いたのは、よりによって
冷や冬美に顔や“個性”が似ている六花を個人的に気にかけていたエンデヴァーにとって、悪気がないとはいえ暴言を吐かれるのは地味に堪える。
否、悪気がないからこそ余計にタチが悪い。
唐突にもらった“オールマイトくらいしかしりません”
予想外の“くさい”
特に理由の無い暴言がエンデヴァーを襲う───!!
『爆豪エゲツない絨毯爆撃で3回戦進出!! これでベスト4が出揃った!! 小休憩を挟んだら早速いくぞー!!』
「あっ、行かないと」
六花は、精神攻撃によるショックで言葉を失っているエンデヴァーを置いて、足から出した氷でスケートをして去っていく。
そのままその足で控え室へ行き、ドアを開けると、ちょうど轟がそこにいた。
「お」
「あっ」
控え室でバッタリ会った六花と轟は、互いにピクッと肩を跳ね上がらせる。
「……なんでショートさんがここに?」
「いや……ここ俺の控え室」
「あっ……ごめんなさい、まちがえました」
「おう」
轟に指摘されて控え室を間違えた事に気がついた六花は、慌てて謝る。
そしてそのまま、自分の控え室に向かおうとした。
「じゃあ、私はこれで……」
「氷叢」
「ん、なんですか」
六花が自分の控え室へ行こうとすると、轟が話しかけてくる。
轟の目つきは、今までのエンデヴァーへの憎しみに満ちた目ではなく、何かに迷っているような目だった。
「俺は緑谷と戦った時、左を使った。俺は今までずっと、左の力を
轟が、神妙な面持ちで六花に尋ねる。
今までの轟にとっては、エンデヴァーへの復讐だけが、彼を突き動かす行動原理だった。
だが緑谷に焚き付けられた事で、復讐という薪が燃え尽き、轟を突き動かす炎が消えかかっていた。
そんな轟に対し、六花は一言言い放った。
「しりません、そんなこと」
六花は、ハッキリとそう言ってから、さらに言葉を続ける。
「どうすればいいかなんて、私に聞かれてもこまります。というか、正しいか正しくないかなんて、どうでもよくないです?」
「何……?」
「ショートさん……私ね、思うんです。大事なのは、『どうすればいいか』じゃなくて、『どうしたいか』、自分が『どうなりたいか』だって。さっきのお昼休憩の時に言ったこと、もう一度聞きます。あなたは今、どうしたいんですか。なんのために、そこにいるんですか」
「何の、為に……」
六花は、復讐という薪を失って燃え尽きた轟に、新たな薪を焚べた。
奇しくも、轟の目に映った六花の顔に、『なりたい自分になっていい』と言ってくれた母親の姿が重なる。
すると轟は、光の灯った目で六花をまっすぐ見据えて言い放つ。
「……決まってるだろ。なりてぇもんになる為だ。俺だって、カッコいいヒーローに……!!」
「……ちゃんと言えたじゃないですか」
「氷叢、ありがとな」
再び自分の心に火を灯してくれた六花に対して、轟が礼を言った。
葛藤を乗り越えた轟は、どこか吹っ切れたような表情を浮かべていた。
『さーて、小休憩も終わったことだし、そろそろ次行くか!』
「行くか」
「……はい」
小休憩が終わり、二人はスタジアムへと歩いていく。
◇◇◇
『準決! サクサクいくぜ! お互い氷使い同士の対決だ! 轟焦凍 対 氷叢六花!! レディ……START!!』
試合開始と同時に、轟は今までの氷結───
ではなく、灼熱の炎を放った。
緑谷戦と同等かそれ以上の火力の炎が、スタジアムに吹き荒れる。
『熱っつああ!! 轟、開幕早々エゲツない火力の炎をぶっ放したーーーー!!』
『……!! ……ったく、カメラと音響を壊しやがって……』
フィールド全体が、真紅の炎に包まれる。
炎で熱されたセメントがふつふつと泡立ち、会場に設置されていたカメラや音響機器が熱で壊れる。
一番近くにいたミッドナイトは、セメントスの後ろに退避し、セメントスはセメントの壁で炎熱から自分とミッドナイトを守った。
観客達は応援どころじゃなく高温に喘ぐ中、一人だけ、轟の炎に感激している男がいた。
「いいぞ焦凍ォオオオオオオ!!! それでこそ俺の子だ!! 存分にお前の力を見せてやれ!!」
エンデヴァーが観客席から叫ぶが、轟はそれを無視して、氷で体温調節しながら最大火力の炎を放出し続ける。
今までの試合で、六花には氷結が一切通用しなかった。
それどころか、自分で出した氷を逆に利用され、窮地に追い込まれた。
だからこそ、六花に勝つための鍵は、父親から受け継いだ左の炎の方にある。
氷を自在に操れる六花だが、炎に関してはそうはいかない。
六花は炎に対する耐性は低く、炎に晒され続けると熱が体内にこもり、熱を活力に変換する機能を持つ循環器に多大な負荷がかかるという弱点がある。
炎に打ち勝つには、自身の氷で炎を中和し、冷やし尽くすしかない。
つまるところこの勝負は、六花が轟の炎を全て冷やし尽くすのが先か、轟が六花の氷を焼き尽くすのが先か、クソゲーの押し付け合いだ。
「勝つのは……俺だ!!」
轟は、氷で体を覆って一定の体温を維持し続ける事で、最大火力の炎を放出し続ける。
一方で六花は、反撃するそぶりすら見せない。
『氷叢、灼熱の炎の前に手も足も出ず!! ここに来て初の下剋上なるか!?』
フィールド上は、常人であれば焼け死んでもおかしくない温度にまで熱されている。
氷を操れる六花といえど、これだけの高温の炎を生身で受ければタダでは済まない。
だがその時、真紅の炎の中に、小さな白い光が見えた。
その次の瞬間。
「や!! き!! そ!! ば!! パンチ!!!」
「がはっ……!!」
六花の氷の拳が、轟に腹に突き刺さる。
轟の目の前には、白い羽衣のようなものを纏った六花がいた。
轟は、咄嗟に氷で背面に防壁を張ったが、氷で強化された六花のボディーブローの前では意味を成さず、そのまま氷壁を粉砕して場外へ吹っ飛ばされた。
六花が拳を振り切ると同時に、六花の体から冷気が吹き荒れ、先程までの灼熱地獄が嘘のように、今度はフィールド全体が白銀の霜に覆われる。
粉砕された氷の破片が光を乱反射させて煌煌と輝きながら降り注ぎ、白銀の霜と共に幻想的な光景を生み出す。
轟が場外に吹き飛ばされたのを確認すると、ミッドナイトが、体に落ちてきた氷や霜を振り払いながら轟に歩み寄る。
「轟くん場外!! 決勝戦進出、氷叢さん!!」
『決まったァアア!! 完・全・勝・利!! 氷叢、轟の炎を真っ向からねじ伏せ、決勝戦へ進出!! 最高にホットでクールな試合を繰り広げた両者に、エヴィバディクラップユアハンズ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「六花様あああああああああ!!!」
プレゼント・マイクの実況と、観客の拍手喝采が、スタジアム全体に響き渡る。
こうして準決勝第1試合は、六花の勝利で幕を閉じた。
◆◆◆
轟 side
『───────!! ───────!! ──────────────────!!』
……そうか。
俺は負けたのか。
「…………っ」
立ち上がろうとすると、脇腹がツキリと痛む。
……これ、肋骨何本か折れてるな。
さっき殴られた時か、それとも氷壁にぶつかった時か……
なんて考えていると、氷叢が、氷の粒を散らして宙に浮きながら俺に手を差し伸べてくる。
「ごめんなさいショートさん、やりすぎました。だいじょうぶですか」
「……ああ」
氷叢は、火傷ひとつ負っていないどころか、ジャージすら燃えていなかった。
……くそ、無傷かよ。
せめて、火傷のひとつかふたつは負っててもらいたかったのに…
炎を使って、初っ端から全力をぶつけて、それでも届かなかった。
今考えてみれば、今までの俺が馬鹿みたいだ。
俺の全力すら簡単にねじ伏せたこいつに、炎を使わずに勝とうだなんて思ってたんだから。
「やっぱり強いですね、ショートさんは」
「…………え?」
「氷の力だけなら、正直言って、ショートさんにできることは全部私にもできます。でも、氷と炎をいっしょに使えるのは、ショートさんしかいません。他の誰にもできない、あなたにしかできないことなんです。だから、今回ダメだったからって、あきらめないでください」
そう言って氷叢が、俺の腫れた脇腹に触れて冷やしてくる。
患部を覆っていた氷が融けていくのと同時に、痛みと腫れが引いて、疲労が軽減されていく。
この試合で、できる事はやり切った。
その上で氷叢は、俺にしかできない事だって言ってくれた。
負けたのは悔しいけど、それより今は、初めて全力をぶつけられて、胸がスッとしている。
「氷叢」
「ん、なんですか」
「……次、頑張れよ」
「……はい」
俺は、氷叢に応援の言葉をかけてから、その足で保健室へ向かう。
去り際に、氷の花がそっと頬を撫でた。
◆◆◆
No side
「うっぜぇなぁあーーーーそれ!!!」
続く第2試合。
爆豪は、常闇の
すると八百万や塩崎の時は全く怯む事なく突っ込んできたはずの
常闇は、容赦なく
「修羅め…!!」
『爆豪 対 常闇! 爆豪のラッシュが止まんねぇ!! 常闇はここまで無敵に近い“個性”で勝ち上がってきたが、今回は防戦一辺倒!! 懐に入らせない!!』
爆豪が容赦なく爆破を繰り返して常闇を退けると、プレゼント・マイクが実況を挟む。
爆豪は、爆発で空中へ移動し上から
「掴め
常闇も爆豪を掴もうとするが、爆豪は空中で身を翻すと爆破の勢いで常闇の背後を取り、両手を前に出して構えた。
『裏を取ったあ!!』
「
爆豪は、掌から閃光を放った。
激しい光と音が、常闇を容赦なく襲う。
『煙幕ばっかだな…!! どうだどうだ!!?』
リングの上では煙が巻き起こり、リングの上が見えなくなっていた。
煙が晴れると、常闇を組み伏せた爆豪が右手を爆発させていた。
常闇は、掌を爆発させる爆豪を悔しそうに睨んでいた。
「…………知っていたのか…」
「数打って暴いたんだバァカ。まァ…相性が悪かったな。同情するぜ。詰みだ」
「…………参った…」
爆豪が左手で常闇の嘴を掴みながら右手の火花を近づけると、常闇が悔しそうに降参を宣言する。
「常闇くん降参! 爆豪くん決勝戦進出!!」
『よって決勝は、氷叢 対 爆豪に決定だあ!!!』
準決勝第2試合は、爆豪の勝利で幕を閉じる。
こうして、決勝戦進出者二人が出揃った。
六花ちゃんは割と口悪いです。
かっちゃんがクソ下水煮込みなら、六花ちゃんはクソ琥珀糖ボンボンです。
この世界線でのエンデヴァーは、六花ちゃんが冷さんや冬美さんに似ている事もあって、六花ちゃんに対しては比較的優しめです。過度に焦凍贔屓したりせずに実力もちゃんと評価してます。
あと、女オリ主にありがちな、エンデヴァーが轟くんの嫁に誘うみたいな展開もありません。
遠縁の親戚同士なので、轟くんとカップリングする予定はほぼ無いです。
むしろサイドキックとして雇っておいて、体を冷やしてもらう事でヘルフレイムの弱点を克服する方面での運用を考えてます。