地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第3話 地獄の氷叢さん家と入試結果

 私の名前は氷叢雪代(ゆきよ)

 道北の田舎町で、六花と二人暮らしをしている。

 農作業を終えた私は、愛車に乗り込んで地元の中学校に向かう。

 私が中学校の駐車場に到着するのとほとんど同時に、六花が学校から出てきた。

 

「六花、帰るわよ」

「ママ!」

 

 私が声をかけると、六花は笑顔を浮かべて小走りで近寄ってくる。

 通学鞄を受け取って車に詰め込もうとした時、彼女の額にあざができている事に気がつく。

 前髪をそっと掻き上げると、やっぱりあざができて青くなっている。

 

「ねえ、これどうしたの?」

「? 何が?」

 

 私が尋ねると、六花はきょとんとした様子で首を傾げる。

 元々六花は、発達にちょっと遅れのある子だったから、昔から同級生の子達にいじめられていた。

 それに追い討ちをかけるように、身内が起こしたある事件がきっかけで、いじめもエスカレートしていった。

 

「それより、私お腹すいた〜。今日ご飯何?」

「今日はキャベツと長芋が獲れたから、お好み焼きにしよっか」

「やった」

「帰ったら作るの手伝ってくれる?」

「わかった! あのね、ママ。私、混ぜるのは得意だよ」

「ええ、お願いね」

 

 そんな会話をしながら、六花を車の助手席に乗せ、私も運転席に乗り込む。

 ブレーキペダルを踏み、ギアを入れてパーキングブレーキを解除すれば、車がゆっくりと動き出す。

 赤いジムニーが、まだ雪が微かに残る田舎道を走り抜ける。

 

 30分程車で移動すると、私達の家に着いた。

 『ここにはヴィランが住んでいます』『殺人鬼』『強姦魔』『ヤク中家族』『バカ』『クズ』『恥知らず』『死で償え』『犯罪者一家』『悪の巣窟』などの心無い言葉や、下品なマークの落書きが、家の塀や壁にびっしりと書かれ、家の庭にはゴミが散乱している。

 ポストを確認すると、郵便物の他に、『死ね!!』『人殺し!』『生きてる価値ないので死んでくださーい』といった心無い落書きがされた紙が入っていた。

 

 私達がこんな目に遭っているのは、去年六花の父親が起こしたある事件が原因だった。

 六花の実の父親が、スナックの従業員の女性を暴行、殺害した事件。

 近隣の住民からの通報を受け、あの男はその場で現行犯逮捕された。

 警察の調べで、あの男は薬物にまで手を出していた事が発覚した。

 元々気性の荒い性格だったからいつか何かしでかすだろうとは思ってたけど、まさかあれだけの事件を起こすとは、流石に私の想定の範疇を超えていた。

 

 田舎の噂は光回線より速い、というのは言い得て妙だと改めて思う。

 あの男が起こした事件の噂は、あっという間に町中に知れ渡った。

 あの男が逮捕されてから半日も経たないうちに、私と六花はバッシングを受け、家の落書きやゴミの不法投棄が後を絶たなかった。

 家計を支える為に就職しようにもどこにも雇ってもらえず、ご近所さんからは白い目を向けられる日々。

 

 私が責められるのはまだいい。

 あの事件の責任は、私にもあるだろうから。

 だけど周りの大人は、何の罪もない六花にまで心無い言葉を浴びせた。

 無神経な記者が勝手に家に入り込んできて、無許可で六花の写真を撮った事もあった。

 学校では酷いいじめを受け、買い替えたばかりの制服や通学鞄はもう既に使い物にならないくらいボロボロになっている。

 転校も考えたけど、噂が広まっているこの田舎じゃ、転校しても意味がない。

 言っちゃなんだけど、父親の顔すら知らないこの子が、世間様に一体何をしたって言うんだか……

 

 

「パパ、お姉ちゃん、ただいま!」

 

 家に帰った立花が、居間の仏壇に声をかける。

 仏壇には、中学の制服を着た、六花と瓜二つの女の子の遺影が飾られている。

 彼女の名前は、氷叢氷花。

 たったの13歳で命を落とした私の娘だ。

 

 そしてその隣には、白銀の髪をオールバックにした三十代後半の男の遺影が飾られている。

 彼の名前は、氷叢冱郎。

 私の亡き夫で、氷花の父親だ。

 

 氷花の為にも、六花の事だけは何があっても守ると心に決めて今日まで生きてきた。

 つらい毎日だけど、六花が笑って過ごしてくれている事だけが唯一の救いだ。

 この先もずっとこの子と一緒に生きていくと、この時は思っていた。

 だけどその翌朝、六花が思いがけない発言をした。

 

 

「あのね、ママ。私、ヒーローになりたいの」

 

 朝食の準備をしていると、突然六花がそんな事を言ってきた。

 私は正直、驚きを隠せなかった。

 この子の世代なら、ヒーローに憧れを抱く事は珍しい事ではなく、むしろ同年代の子はほとんどプロヒーローを志望している。

 だけどヒーローがいない田舎で生まれ育ったこの子は、今までヒーローに関心を抱かずに生きてきた。

 そんな彼女が、いきなりヒーローになりたいと言い出した。

 

「なんかね、昨日ね、夢の中で川の向こうのおばあちゃんが言ってたの。『ヒーローになりなさい』って。だからね、ヒーローになりたいんだけど、ダメかなぁ?」

 

 六花が、朝食の目玉焼きを食べながらそう尋ねてくる。

 そんな理由でいいのか、と思ったけど、この子らしいといえばこの子らしい。

 

 正直、この子がヒーローになる事に不安がないわけじゃない。

 ヒーローになったら、命の危険が常に付き纏う。

 そもそもヒーローになるのだって、とても険しい道だと聞く。

 

 だけど、千載一遇のチャンスだとも思った。

 この町にはヒーロー科の学校は無いから、ヒーロー科の高校に進学するならどのみち移住する必要がある。

 六花がヒーロー科に行ってくれれば私の負担は減るし、彼女も酷い大人しかいないこの町から抜け出せるし、まさにWin-Winだ。

 あわよくば、もしこの子がトップヒーローになってくれれば、私達に着せられた汚名を返上できるかもしれないという期待すらあった。

 

「そうねぇ……六花がどうしてもなりたいって言うんなら、ママ応援するわ」

「やった! あのね、私、ヒーローになったら、悪い奴らからママを守ってあげる」

「ありがとう」

 

 私は、六花の夢をサポートする事に決めた。

 不純な動機だけど、せめて高校生活くらいは幸せに過ごしてほしいという気持ちは嘘じゃない。

 

「でも六花、ヒーローになるってことは、ヒーロー科の高校に行くんでしょ? ヒーロー科の高校は、お家からは通えないわよ?」

「あ、そっか……」

「どうしてもヒーロー科の高校に行きたいんなら一人暮らししなきゃいけないけど、六花にできる?」

「……? ママは一緒に来ないの?」

「そうしたいんだけど、このお家があるから引っ越せないの。ママもできる限りサポートするから、一人暮らし頑張れそう?」

「…………頑張る」

 

 六花の言うように、この子と一緒に高校の近くに引っ越すのが理想だ。

 でも、この家を放って引っ越すわけにはいかない。

 

 私だって、こんな家さっさと手放して引っ越してしまいたい。

 だけど引っ越そうにも、この家に買い手が全くつかないのだ。

 そりゃあ、殺人犯を出した家の土地なんか、誰も欲しくないわよね。

 買取業者にも相談してみたけど、まるで相手にされなかった。

 「こんな土地タダでも要らない」と鼻で笑いやがった営業担当者の顔、今でも覚えてるわ。

 そのくせ固定資産税は毎年ぼったくりかってくらい持っていかれる。

 ほんとおかしいわよこの国。

 

 

 ついでに、ここで私と六花の家庭事情について説明しておこう。

 氷叢家は、古くから庄屋を営んでおり、農地改革後も分家を増やす事で、財とプライドを保っていた。

 だけど起き始めた超常現象に上手く対応できなかった事で、急速に零落し始め、異形の血が混ざるのを嫌い遠縁の分家同士での結婚が相次いだ。

 

 私の父方の祖父は、氷叢分家の人間だったが、本家以上の財と権力を持っていた。

 というのも、商才に富んでいた祖父は、若くして建設事業で成功を収め、『ヒムラ建設』という大手建設会社を設立し、代表取締役会長として会社のトップに立っていたのだ。

 一代で巨額の富を築いた祖父は、離散していた別の分家を買収し、当時18歳だった私の祖母を娶って私の父を産んだ。

 

 私の母は、元々氷叢本家の人間だった。

 氷叢家当主の妹だった母は、ヒムラ建設の御曹司だった父のもとへ嫁ぎ、私と弟を産んだ。

 おかげで私自身は裕福な子供時代を過ごしたものの、女の私には家督や会社を継ぐ事は許されず、僅かな土地と財産だけを与えられ、高校卒業と同時に父の用意した相手と結婚させられた。

 今住んでいる家も、父から譲り受けた……というか、無理矢理押し付けられた家だ。

 嫡男の弟が生まれた時点で、私はもう用済みだった。

 

 私の夫は、私とひと回り歳の離れた従叔父だった。

 彼の両親もまた、氷叢分家の人間だった。

 なまじ本家以上に富と権力を持ってしまったせいで、近親婚に歯止めがきかなくなってしまったのかもしれない。

 

 その後、私は二人の子供に恵まれた。

 夫に先立たれてからも、私はせめて子供達にだけは幸せになってほしいと願って、愛情を込めて子供達を育ててきた。

 だけど、そこからが本当の地獄だった。

 長女の氷花はある出来事がきっかけで命を落とし、あの子を失った苦しみに耐えながら六花を一人で育ててきたというのに、長い間行方不明だった六花の父親が殺人犯として逮捕され、私達はたった一夜で世間の敵になってしまった。

 当時勤務していた介護施設はクビになり、実家からも一方的に絶縁を言い渡されてしまった。

 再就職する事も土地を売る事もできず、今は祖父の遺産と、実質手切れ金として父から譲り受けた財産だけで生活している。

 今はそれだけで最低限の生活はできてるけど、このまま収入ゼロの状態が続けば、いつかは底を尽きる。

 

 

 そして、私達を取り巻く問題はそれだけではなかった。

 六花は小さい頃、“個性”を暴走させる事が多かった。

 しかもこの子の場合、暴走させた時の影響が尋常じゃなかった。

 庭や畑を凍らせてしまうだけならまだ可愛い方で、炎天下の真夏日に“個性”を暴走させて、その年は一年中雪が降りっぱなしだった事もある。

 

 私の父方の祖母の家系は代々20前後で子を成していて、彼女の代で既に“個性”第三世代だった。

 私自身は“個性”第五世代だけれど、他の同世代とは親子ほどの歳の差がある。

 しかも私達の場合、分家同士で近親婚を繰り返してきたせいで、氷の“個性”が代を経る毎に強くなっている。

 

 70年くらい前にある学者が、『“個性”終末論』というオカルトじみた学説を提唱した。

 "個性"は親から世代を経るごとにより強力、かつ複雑に混ざり変化し、やがて"個性"が人体の限界を超える臨界点、『“個性”特異点』に到達し、制御できなくなった“個性”によって人類は滅びる、という説だ。

 私の代ですら、既に“個性”特異点の兆候が現れ始めている。

 さらにその先の世代として生まれ、氷の性質がより濃くなった六花の“個性”の危険性は、語るまでもない。

 小学校に上がるくらいの歳になってようやく“個性”を制御できるようになってきたけど、それでもいつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えている状態には変わりない。

 同じ“個性”を持つ私ですら、彼女が暴走してしまったら、もう止める事はできない。

 だったら、ヒーロー科に進学して、日々“個性”を使って平和を守っているプロヒーローに指導してもらった方がいいのかもしれない。

 

 

「ところで六花、どこの高校行きたいの?」

「えっと……まだ決めてない」

 

 私が尋ねると、六花は手遊びしながら答える。

 ざっと調べてみただけでも、ヒーロー科の高校は4000校以上ある。

 名前を書けば入れるような高校から、倍率が100倍を超えるような高校まで、本当にピンキリだ。

 私は、朝刊の一面に載っているオールマイトの記事を見て、ある事を思いついた。

 

「だったら、雄英に行ってみない?」

「雄英……?」

「そうよ。雄英はね、あのオールマイトの通ってた学校なのよ。そこに行けば、ヒーローになるためのいろんなお勉強ができるのよ。行ってみたくなった?」

「……うん。私、雄英行ってみたい」

 

 私は、六花に雄英を勧めてみた。

 雄英ヒーロー科といえば、偏差値79、倍率300倍を超える国内最高峰の名門校だ。

 あの雄英に進学さえすれば、私達に着せられた汚名なんてあっという間に返上できる。

 それにあのオールマイトを輩出した高校なら、難儀なこの子の“個性”にも真摯に向き合ってくれるかもしれない。

 第一、雄英は国立校だから、私立校に比べて学費が嵩まずに済む。

 

 問題は、六花が雄英に入れるかどうかだ。

 雄英の入試は筆記と実技があるそうだけど、ぶっちゃけ実技はよっぽどのやらかしをしなければまあ大丈夫だろう。

 去年までの体育祭を見る限りだと、ハッキリ言ってこの子の相手になりそうな子は一人もいなかった。

 

 問題は筆記の方だけど、六花は学力そのものはかなり高い。

 回答欄を間違えたり、他の事が気になってテストそっちのけになったり、学力以前の問題が多いせいで成績は振るわないけど、授業の内容はちゃんと理解できている。

 テストに慣れる訓練さえすれば、合格圏内も夢じゃない。

 

 

 それから10ヶ月間、私は全力で六花をサポートした。

 できるだけ本番に近い環境で試験問題を解かせて、苦手な分野を克服させた。

 “個性”の特訓もした。

 氷の操作性を上げて、攻防や敵の拘束だけじゃなく、移動や索敵、味方のサポートにも使えるように訓練を重ねた。

 

 そうしているうちに、試験日が近づいてきた。

 筆記試験は、試験会場として貸し切られた札幌の高校で受けた。

 車で2時間半かけて札幌駅に行き、そこからさらに南北線で移動する事20分弱。

 試験が終わる頃に札幌駅まで迎えに行くと、六花は「全部埋められた」と嬉しそうに語った。

 

 それから数日後、実技試験の通知が送られてきた。

 試験会場は雄英の校舎だったので、近場のビジネスホテルを予約して、実技試験の2日前から二人でそこに泊まった。

 そして受験当日、持ち物の最終チェックをして、玄関まで六花を見送る。

 

「受験票とジャージ持った?」

「うん」

「それじゃあ、気をつけて行ってくるのよ」

「……うん!」

「あ、そうだ」

 

 私は、六花が頭につけている黒いリボンに触れた。

 するとリボンの結び目の部分に、直径5センチくらいの雪の結晶ができた。

 六花は、ちょうど近くにあった姿見を見て、私の作った結晶の髪飾りに目を輝かせる。

 

「キレイ……! なぁにこれ?」

「お守り。六花が合格しますようにってお願い事して作ったのよ」

「わぁ、ありがとうママ」

 

 六花の頭を撫でながら言うと、六花はふにゃりと笑顔を浮かべる。

 持ち物の最終確認はしたし、あとは受験の時の注意事項をおさらいしておこう。

 

「それじゃあ、最終確認ね。先生の言うことを聞く、はい復唱」

「先生の言うことを聞く」

「わからないことがあったらすぐ先生に聞く」

「わからないことがあったらすぐ先生に聞く」

「人に“個性”を向けない」

「人に“個性”を向けない」

「よろしい、じゃあ行ってらっしゃい」

「はーい」

 

 受験の時の注意を復唱させてから、六花を見送った。

 その後、ホテルの部屋で受験の様子を六花から聞いた。

 なんでも今回の試験は対ロボットの戦闘演習だったそうで、六花は試験開始と同時に会場のロボットを全部凍らせて、さらにはその後出てきたお邪魔ギミックも一瞬で凍らせてしまったらしい。

 正直試験内容は想定の範疇を超えなかったし、六花の“個性”を考えればむしろ簡単すぎるくらいだ。

 

 だけど想定外な事が、いい事と悪い事ひとつずつあった。

 まずいい事は、六花にもお友達ができた事だ。

 名前は梅雨ちゃんと電気くんというらしい。

 六花には今まで一人も人間のお友達ができなかったから、六花と仲良くしてくれる子がいたのは素直に嬉しい。

 

 でもジャージ忘れたのはどういう事?

 え、私、何度もチェックして確かに持たせたよね?

 一体どこで忘れたわけ?

 ……しょうがない、ホテルのフロントから順番に確認しよう。

 

「すみません、ここに落とし物が届いてませんか? 白地に小鳥と雪の刺繍がついてる体操着袋なんですけど、大きさはこれくらいで……」

「え? ああ、こちらですか?」

 

 フロントに確認しに行くと、ホテリエさんがすぐに体操着袋を持ってきてくれた。

 どうやら、六花がホテルのロビーに置いて行ったそうで、六花が美人だから覚えてくれていたらしい。

 

 スゥ……

 

 ま じ か よ。

 

 えっ、なんで?

 どうやったらロビーに忘れるの?

 せっかく六花の為に頑張ってシマエナガと雪の刺繍をしたのに、忘れちゃいましたか、そうですか。

 こんな事なら、やっぱり会場まで着いて行けばよかった……

 忘れたのが受験票の方じゃなくてまだ良かったけど……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雄英入試が終わってから一週間、私達は家に帰って結果を待った。

 夕方に郵便ポストを確認すると、夕刊と、怪しい宗教勧誘のチラシと、いつもの下品な落書きが書かれた紙……

 そして、白い封筒が一通入っていた。

 封筒は、雄英の校章の印が押された赤い封蝋で閉じられ、右下に『雄英高等学校』と書かれている。

 

「六花〜!! 雄英からお手紙来てるわよ〜!!」

「はぁ〜い」

 

 玄関から六花に呼びかけると、お風呂に入っていた六花が、パタパタと足音を立てて駆け寄ってくる。

 

「ママ〜、お手紙は?」

 

 駆け寄ってきた六花は、全裸だった。

 しかも体はずぶ濡れで、廊下には水溜りができている。

 まさか体も拭かずに走ってきたわけ?

 

「それより先に体拭いて服着てきなさい! 玄関なんて誰が見てるかわからないから! あと濡れたまま家の中走らないで、床が腐る!」

「えぇ〜、でも着替えてる間に白ヤギさんがお手紙食べちゃわない?」

 

 いやいや、白ヤギさんって……『やぎさんゆうびん』じゃないんだから。

 てかどうでもいいけど、先に手紙食べちゃうのって黒ヤギじゃなかったっけ?

 

「じゃあ白ヤギさんが来ないようにママが見張っとくから、早く体拭いて着替えてきなさい」

「はぁ〜い」

 

 私が着替えるように言うと、六花が着替えに脱衣所に戻っていく。

 六花が戻ってくるまでの間に、ビシャビシャになった廊下を雑巾で拭いておく。

 しばらくして、シマエナガのパジャマに身を包んだ六花が戻ってくる。

 

「……じゃあ、開けるね」

「じゃあ、ママはあっち行ってるわね」

「なんで? ママも一緒に見ようよ」

「いや、こういうのは先に一人で見た方がいいんじゃない?」

「え? 結果は変わんないよ?」

 

 いや、うん……

 そうなんだけどさ……

 この子、普段はぽわぽわしてるのに、急にこうやって身も蓋もないド正論突きつけてくるんだよなぁ……

 

 なんて思っている間にも、六花が封筒を開けた。

 中には、書類とボタンみたいな機械が入っている。

 何これ、プロジェクターかしら?

 六花がボタンを押したらしく、空中にブゥン!!と映像が表示される。

 

『んっんん゛〜〜、私が投影された!!!』

 

 そこには、オールマイトがドアップで映っていた。

 え、なんでオールマイトが映ってるの……?

 これ、雄英からの手紙で合ってるわよね?

 

『初めまして、氷叢少女! 私はオールマイトだ!! 何故私が雄英から送られてきたプロジェクターに投影されたかって? それは私が雄英に講師として勤める事になったからだ!!! ええ、何だい? 後がつかえてるから巻きで? OK、では早速君の合否を発表しよう……』

 

 その言葉と共に、画面が暗くなり、オールマイトの立つステージだけがライトアップされる。

 ダラララララ……とドラムロールが始まる。

 流石オールマイト、エンターテイナーとしても一流……

 ……でもさっき、後がつかえてるから巻きでって言ってなかったっけ?

 なんて思っていると、ダン!と最後のドラムが鳴った。

 

『おめでとう、合格だ!!』

 

 『合格』。

 その二文字に、肩の荷が降りる。

 

『筆記はギリギリ合格! マークミスが多かったから、気をつけような!』

 

 あちゃー……六花ちゃんやっぱりやっちゃったか。

 あれだけマークミスには気をつけろって口を酸っぱくして言ったんだけどなぁ……

 まあでも、合格してるならとりあえずは良しとしよう。

 通過できただけも御の字です。

 

『そして実技! まず、(ヴィラン)ポイント! これが990ポイント! この時点で歴代最高記録を更新! だが!! 我々が見ていたのは(ヴィラン)ポイントのみにあらず!! 救助活動(レスキュー)ポイント!! しかも審査制!! 我々が見ていたもう一つの基礎能力!! これが25ポイント!! 計1015ポイント!!』

 

 首席かぁ……

 六花には簡単すぎる試験だとは思ってたけど、正直ここまでだとは思ってなかったわ。

 

『ぶっちぎりの首席合格だってさ。来いよ、氷叢少女。ここが君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 そこでプツリと映像が消える。

 私は六花の小さな体を抱きしめて、一緒に合格を喜んだ。

 

「ママ、私やったよ!」

「ええ、凄いわね! 今日はご馳走にしよっか。何食べたい?」

「えっとね……お蕎麦! あと、天ぷら!」

「わかった、お蕎麦と天ぷらね。あと、茶碗蒸しと鴨焼きも作っちゃおう。今日は出血大サービスだ!」

「わぁい!」

 

 その後私は、六花の為に大急ぎでご馳走を作った。

 ざる蕎麦と、天ぷらと、茶碗蒸しと、鴨焼きと、だし巻き卵と、蕎麦味噌。

 こりゃ家計に大打撃だわ。

 まあ、この子が雄英に受かった事を考えれば安いもんだけどさ。

 

 

 

 

 




原作漫画では、筆記と実技が別日と明記されています。
実技試験の時のデクが初見っぽいリアクションだったので、筆記試験は共通テスト方式で、自宅か学校に近い会場で受けられるシステムだったかと思われます。
雄英の合格者の数と倍率を考えると受験生が1万人を超える事になりますが、いくらなんでも一斉に1万人の受験生を審査するのは非現実的なので、筆記試験で一定水準を満たしていない受験生はお祈りされて、水準を満たした受験生だけに実技試験の通知が送られるシステムだと推測。

ちなみに他のヒロアカ二次主にも負けない大活躍をしたにもかかわらずオリ主のレスキューポイントが低いのは、次のお話で詳しく語りますが、簡単に言うと「最初の凍結がクッソ邪魔、くたばれ(要約)」と他の受験生からクレームが入ったからです。
でも彼女に助けられた受験生がいるのも事実なので、折衷案で50ポイントの半分の25ポイントだけ加算、といった感じです。


今話の氷叢さんちの地獄ポイント
①刃牙ハウス
②父親が前科持ち
③轟家より近親相姦が深刻
④保護者が四面楚歌


どうでもいいメモ

◆氷叢雪代(ヒムラ ユキヨ)
49歳。
六花の保護者。六花からは「ママ」と呼ばれている。
見た目は轟冷と瓜二つだが、髪を後ろで結んでいる。
氷叢本家の当主(冷の父親)の妹が分家に嫁いでできた子供。
父方の祖父が大手建設会社の代表取締役会長、父親が同社の代表取締役社長という、生粋のお嬢様。
彼女自身は裕福な幼少期を過ごしていたが、女であるため父の事業を継ぐ事は許されず、僅かな土地と財産だけを与えられ、従叔父と結婚させられた。
冷とは従姉妹同士だが、父方の祖母の家系が代々若くして子を成してきたため、彼女自身は“個性”第五世代(デク達と同世代)。

◆氷叢氷花(ヒムラ ヒョウカ)
享年13。
雪代の長女。
六花からは「お姉ちゃん」と呼ばれている。

◆氷叢冱郎(ヒムラ ゴロウ)
享年37。
雪代の夫で、氷花の父親。
彼自身も氷叢分家の人間であり、雪代の従叔父(雪代の父方の祖母の甥)。
六花からは「パパ」と呼ばれている。

◆氷叢本家
冷の生家。雪代の母親の生家でもある。
超常黎明期に零落し始め、分家の一つが建設事業で成功を収めた事で経済力や社会的地位で完全に逆転された。
親戚同士の婚姻だけでは立ち行かなくなり、身売りを始めた事で、彼女の代で事実上の終焉を迎えた。

◆氷叢分家(祖父一家)
雪代の生家。
雪代の祖父が建設事業で成功を収め、大手建設会社『ヒムラ建設』を設立した事で、分家の中では唯一零落を免れた。
たった一代で巨額の富を築き、本家を上回る財力と社会的地位を持つ。
現在は、雪代の弟が家督を持っている。
実りの少ない雪代や本家の人間を見捨て、六花の実父が事件を起こした後に至っては、雪代と六花に絶縁を言い渡している。

◆氷叢分家(祖母一家)
雪代の祖母と冱郎の生家。
かつては貧乏だったが、雪代の祖父が買収した事で、ヒムラ建設の者と政略結婚し合う歪な関係が生まれてしまった。
代々20歳前後で子を成してきたため、雪代の祖母の代で既に“個性”第三世代。
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