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No side
「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」
「!」
上空から緑谷を探していた六花は、轟がステインと交戦しているのを見つける。
轟は頬から血を流しており、今にもステインに血を舐められそうになっていた。
六花は、無数の雪兎を生み出し、ステイン目掛けて降らせた。
六花が雪兎を降らせると、ステインが後ろに飛び退く。
六花はそれを見逃さず、脚を氷化して強化し、両脚から冷気を噴射して錐揉み回転しながら落下する。
「ぐるぐるキック!!」
THUMP!!!
錐揉み回転しながら落下した六花は、渾身の蹴りをステインの頭に叩き込む。
爆豪が体育祭で見せた『
頭に直撃を喰らったステインは、そのまま頭を地面に叩きつけられ、地面が放射状にひび割れる。
「デクさん……まいごになっちゃったけど……やっとみつけました」
「氷叢さん……!?」
飯田、轟、緑谷、そしてネイティブの前には、六花がいた。
六花の頭からは、何故かアンゴラウサギのようなふわふわの兎の耳が生えている。
そして六花の周りには、ソフトボールサイズの雪兎がふわふわと浮いている。
六花は、轟以外の地面に倒れている三人に目を向ける。
「デクさん、イーダさん……あとしらない人……こんなとこでねてたらカゼひきますよ」
「違う、ヒーロー殺しの“個性”のせいで動けないんだ」
「血を舐めた相手の動きを止める“個性”だと思う……轟くん以外みんなやられた……!」
「ああ、そういうこと……」
「ネイティブだよ……」
六花の天然発言を轟と緑谷が訂正すると、六花が納得する。
その後ろでは、『しらない人』呼ばわりされたネイティブが、痛みに顔を歪めながらも呆れた様子で訂正していた。
状況を確認した六花は、ステインの方を振り向く。
「イーダさんたちにケガさせたの、あなたです? 人のからだ勝手になめたらケーサツにつかまりますよ」
六花は、スッと目を細めてステインに話しかける。
そこには、首の関節を鳴らしながら起き上がるステインがいた。
「ハァ……次は女か……今日は次から次へと邪魔が入る……お前は本物か?」
「はぁ? ホンモノ? なんのはなしです?」
「こいつらは、英雄を騙り私欲を満たそうとする贋物……社会のゴミだ。全ては正しき社会の為……ハァ……俺には、こいつらを始末する義務がある……邪魔をするなら、女子供だろうと容赦はしない。弱い者はここで淘汰されるわけだが……どうする?」
ステインは、六花に向かって鋭い殺気を放ちながら、六花を試すような質問をする。
直接向けられていない緑谷達ですら慄く程の殺気だが、六花は一切怯む事なく、ため息をついて言い放つ。
「なにゆってるかさっぱりわかんないです」
六花が呆れ顔で言うと、ステインの目元がピクリと動く。
「正しい社会のためとか、ゴミとか、あなたにだけはゆわれたくないです。だっていちばん正しくないことしてるの、あなたじゃないですか」
六花は、向けられる殺気をものともせず、正論でステインを殴った。
どんなに素晴らしい思想を持っていたとしても、殺人鬼の掲げる綺麗事など、まともな神経を持つ人間の心には響かない。
一言で言えば、『お前が言うな』。
若しくは、棚上げともいう。
「どんな言いわけしたって、わたしのお友だちをきずつけたのはゆるしません。ボコボコにします」
「ハァ……論外……! 貴様に興味を持った俺が浅はかだった…死ね、贋物」
六花がステインを静かに睨みながら言うと、ステインが殺気を剥き出しにして刀を抜く。
六花は、襷で振袖をまとめて固定すると、殺気を向けられても躊躇いなくステインへと突っ込んでいく。
「氷叢さん、ダメだ! 1対1じゃ勝てない! ここは連携して……」
「だいじょうぶです。さがっててください」
緑谷と轟が援護に入ろうとすると、六花は氷の壁を生成して後ろにいる四人を守った。
その直後、ステインが六花の首を狙って刀を振るってくる。
六花は、上体を逸らして避けると、そのまま右脚を振り上げてステインの頭目掛けて回し蹴りを放つ。
ステインは、六花の蹴りを回避すると、小柄で素早い相手には長物では不利と判断したのか、ナイフを抜いて斬りかかる。
そこから、目にも留まらぬ速さの攻防が始まる。
ナイフを使ったステインの高度な近接格闘に対し、六花は両腕と両脚を鋼のように硬くしなやかな氷に変えて対応した。
ステインがナイフを投げ込んで六花のペースを崩しにかかるが、六花はそれらを氷の爪で全て弾き飛ばす。
そして、一気に間合いを詰めると、懐に入り込んでアッパーカットでステインの持っていたナイフを弾き落とす。
片手の武器を失った事で一瞬生まれた隙を見逃さず、六花はステインの脇腹に中段回し蹴りを叩き込んだ。
「がっ!!」
直撃を喰らったステインは、体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。
六花は、ステインが壁に激突する前に脱兎の勢いで背後に回り込むと、そのまま背中を蹴り上げ、空高く吹き飛ばす。
普段ならこのような無様は晒さなかったのであろうが、身体能力が鈍っていたステインは、六花の動きに一切対応できなかった。
六花のナチュラルな煽り文句により心を乱されていたのもあるが、原因はそれだけではない。
ステインを蹴った時、少しずつ体温を下げておいたのだ。
極超音速の世界にも容易く適応できる六花にすれば、動きが鈍っているステインなど止まっているも同然。
六花は、空中で身動きが取りづらいステイン相手に、容赦なく追い討ちをかけた。
「10連キック!!」
3日間でミルコの戦闘スタイルを学習した六花は、彼女の戦闘スタイルを独自の解釈で取り入れた蹴り技を放つ。
瞬きよりも短い時間の間に、右腿、左膝、右腕、左肩、股間、丹田、臍部、鳩尾、顔面の計9ヶ所に蹴りを叩き込んだ。
どれも人体の急所と言われる部位だ。
そして最後の一撃を顎に叩き込み、そのまま地面に蹴り落とした。
自由落下による重力加速に蹴りの勢いを加えて墜落したステインは、ちょうどゴミ袋の山の中に落ち、そのまま意識を手放した。
「……おわりました」
ステインを仕留めた六花は、そのまま地上に降り、念の為にステインを氷漬けにしてから、重傷の飯田とネイティブに治療を施した。
小さな氷の花が飯田とネイティブの傷を覆い、雪が解けるように消えていく。
一回の処置では完治とまではいかないものの、二人とも手術が要らない程度には回復した。
「助かった、ありがとう……」
歩ける程度には回復したネイティブは、六花に礼を言う。
重傷の二人を癒した六花は、今度はかすり傷で済んだ緑谷と轟を回復させる。
完全に六花に任せきりにしてしまった事に負い目を感じたのか、緑谷が謝ってくる。
「ごめん氷叢さん、何もできなくて……」
「デクさんたちがあのまま戦ってたら、よけいケガしてましたよ。テキザイテキショです」
そう言って六花は、緑谷の傷を癒す。
応急処置を終えた六花は、氷漬けにしたステインを浮かせて運ぼうとする。
すると飯田が、六花に話しかける。
「待て、氷叢くん! そいつは僕が……!」
「殺すんですか?」
飯田がステインに近づこうとすると、六花が飯田の前に立ち塞がって止める。
「そんなことしたら、イーダさんがケーサツにつかまります。私、イーダさんがいっしょに授業うけられなくなるのはヤです。だから、殺すのはやめてください」
「っ……わかっているさ……! だが、そいつは兄さんを……!!」
「イーダさんにとって、お兄さんの仇討ちは、みんなで授業を受けられなくなってまでやることなんですか?」
六花がそう言うと、飯田が目を見開いて言葉を詰まらせる。
すると今度は、轟が飯田に話しかける。
「氷叢の言う通りだ。助けられっぱなしだった俺が言えたことじゃねぇが……なりてぇもんちゃんと見ろ」
◆◆◆
飯田 side
――ターボヒーロー《インゲニウム》は知ってるかい?
――俺の兄さ!
――規律を重んじ、人を導く、愛すべきヒーロー!! 俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。
――インゲニウム! お前を倒す、ヒーローの名だ!
何が、ヒーロー…
友に守られ、血を流させて!!
――あいつをまず救けろよ
罪を思い知らせんが為に、僕は兄の名を使った。
入試の時から何も変わっちゃいない。
――お前が憧れるっつーことは俺、すげえヒーロなのかもな。ハハッ
お前の言う通りだ、ヒーロー殺し。
僕は、緑谷くんや轟くん、氷叢くん…彼等とは違う。
未熟者だ…
足元にも及ばない!!
だからこそ、ここで変わらなきゃ…
二度と兄さんに、彼等に、追いつけなくなってしまう。
「すまない、皆……僕の私怨に巻き込んで、こんな目に遭わせて……本当に、すまなかった…何も…見えなく…なってしまっていた………!」
僕は涙を流しながら、三人に謝った。
すると緑谷くんが、僕に謝ってくる。
「僕もごめんね、君があそこまで思い詰めていたのに全然見えてなかったんだ。友達なのに…」
僕は、職場体験初日に、緑谷くんと麗日くんが僕を気にかけて声をかけてくれた事を思い出した。
友達が気にかけてくれていたのに、僕は……!!
「しっかりしてくれよ。委員長だろ」
「……うん…」
轟くんの言葉を胸に刻みながら、溢れてくる涙を拭う。
すると、その時だった。
「んなっ…何故お前がここに!!?」
「グラントリノ!!!」
「無事かショートォ!!!」
「親父…」
ヒーローらしきご老人とエンデヴァーが、現場に駆けつけてきた。
その後、氷叢くんがヒーロー殺しを警察に引き渡し、事件は収束を迎えた。
◆◆◆
黒霧 side
「帰ろ」
貯水タンクの上から街の様子を見ていた死柄木弔が、双眼鏡を塵に変えながら踵を返す。
私は、帰りのワープゲートを開きながら、死柄木弔に話しかける。
「満足いく結果は得られましたか? 死柄木弔」
「バァカ、そりゃ明日次第だ」
そう言って死柄木弔が、ワープゲートを通って帰っていく。
私も彼に続いて帰ろうとした、ちょうどその時。
たった今、ノウメンから連絡が入った。
「……はい」
『あぁ、黒霧さん。こちらの仕事は終わりましたよ。たった今、氷叢氷太郎を暗殺しました。そちらは終わりましたか?』
「……えぇ。たった今、ヒーロー殺しが逮捕され、脳無も全員捕捉されました」
『それはそれは。では、帰りの足の用意をお願いします』
「かしこまりました」
ノウメンは、淡々と仕事完了の報告と、帰りの足の催促をした。
彼女の抱えている事情は、私には到底推し量れるものではありません。
ですが仕事とはいえ、
◆◆◆
No side
その後、ヒーロー殺し《ステイン》は逮捕され、負傷が酷かったので
ちなみにヒーロー殺しは、頭頂骨亀裂骨折、前頭骨亀裂骨折、鼻骨粉砕骨折、上顎骨粉砕骨折、下顎骨粉砕骨折、左鎖骨嵌入骨折、左肩甲骨亀裂骨折、右上腕骨完全骨折、左上腕骨嵌入骨折、胸骨粉砕骨折、第四、第五肋骨亀裂骨折、第六〜第九肋骨完全骨折、脊椎粉砕骨折、恥骨粉砕骨折、右大腿骨完全骨折、左大腿骨亀裂骨折、左膝蓋骨粉砕骨折、左脛骨亀裂骨折、さらに折れた肋骨が肺下葉に刺さっており、(治癒系“個性”も込みで)全治3ヶ月の重傷と診断されたが、それはまた別の話。
そして事件翌日。
「イーダさん」
「飯田くん!」
「よぉ飯田」
「皆……」
六花、緑谷、轟の三人は、飯田の見舞いに訪れた。
緑谷と轟は六花の処置のおかげで完治したので入院の必要はなかったが、両腕を負傷した飯田は念の為検査入院をしていた。
六花は、三人で割り勘して買ったオレンジジュースのギフトセットを飯田に差し出す。
「おみまいです。どうぞ」
「ありがとう」
六花がギフトセットを差し出すと、飯田が礼を言いながら受け取る。
「冷静に考えると…すごいことしちゃったね」
「そうだな」
「…ですね」
緑谷が言うと、轟と六花が頷く。
「イーダさん、怪我は大丈夫なんですか?」
「ああ。幸い、処置が早かったおかげで後には遺らないそうだ。君のおかげだよ、ありがとう」
六花が尋ねると、飯田は包帯の巻かれた腕を見せながら答える。
左腕の腕神経叢を負傷した飯田だったが、六花の迅速な処置によって奇跡的に回復し、後に遺らずに済んだ。
するとその時、緑谷の職場体験先のグラントリノと、飯田の職場体験先のマニュアルが病室に入ってくる。
「おぉ、いたいた! 調子はどうだ!」
「グラントリノ!」
「マニュアルさん…!」
グラントリノが飯田のベッドの前まで来ると、緑谷は説教されるのかと思いきちんと座り直した。
するとグラントリノはため息をつきながら話し始める。
「すごい…グチグチ言いたい…が」
「あっ…す…?」
緑谷が心の整理をして身構え他の三人も立ち上がると、グラントリノが振り向いて後ろを差す。
「その前に来客だぜ。保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」
グラントリノとマニュアルの後ろから、犬顔の警察官が現れる。
四人は、どう見ても犬の顔面をしている事と、普通は一生徒の病室に見舞いに来る事などあり得ない人物が来た事とで目を見開いて驚く。
「面構!! 署…署長!?」
「掛けたままで結構だワン。君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」
面構署長が尋ねると、四人はコクリと頷く。
「ヒーロー殺しだが…なかなかの重傷で現在治療中だワン」
「「「「!」」」」
面構署長が言うと、四人は僅かに目を見開く。
すると面構署長は話を続けた。
「超常黎明期…警察は統率と規格を重要視し、“個性”を武に用いないこととした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使…容易に人を殺められる力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人達がモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく“個性”で危害を加えたこと、たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。君達氷叢六花を除く三名及びプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この六名には厳正な処分が下されなければならない」
「えぇ……デクさんたち、許可取ってなかったんですか……」
「許可を取っていた氷叢六花に関しても、どう見ても過剰防衛だワン。一歩間違っていれば、殺人罪に問われていてもおかしくなかったワン。そもそも資格未取得者が単独で
「えっ? あっ……ごめんなさい……」
面構署長が六花を除く三人に説教をすると、三人が許可を貰っていなかった事を知った六花がドン引きする。
だが面構署長が六花に対しても説教をすると、六花は大人しく反省する。
すると轟が前に出てくる。
「待って下さいよ」
「轟くん……」
面構署長の言い分に反感を抱いた轟は、緑谷や飯田の代わりに反論する。
「飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「ちょちょちょ」
轟が感情的になって問い詰め緑谷が止めようとすると、面構署長が反論する。
「結果オーライであれば規則など有耶無耶でいいと?」
面構署長が尋ねると、轟が反論した。
「―…人をっ…救けるのがヒーローの仕事だろ」
「だから…君は“卵”だ。全く…良い教育をしてるワンね。雄英も…エンデヴァーも…」
「この犬―…」
面構署長が呆れたように言うと、轟は面構署長に怒鳴りつけようとする。
「やめたまえ、もっともな話だ!!」
「ショートさん、落ち着いて……」
「まァ…話は最後まで聞け」
面構署長の言葉が頭に来た轟が前に出ると、飯田と六花が止め、グラントリノが宥める。
グラントリノが轟を宥めて話を聞くよう諭すと、面構署長は咳払いをして話を続ける。
「以上が──…警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」
「!」
「公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰は免れない。一方で汚い話公表しない場合、ヒーロー殺しの打撲痕からミルコを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られている。この違反はここで握り潰せるんだワン。だが君達の英断と功績も、誰にも知られることは無い」
面構署長が言うと、四人は僅かに目を見開く。
面構署長は、親指を立てて笑顔を浮かべながら言った。
「どっちがいい!? 一人の人間としては…前途ある若者の『偉大なる過ち』に、ケチをつけさせたくないんだワン!?」
「まぁどの道監督不行届で俺らは責任取らないとだしな」
マニュアルがガックリと肩を落として言うと、飯田は深く頭を下げた。
「申し訳ございません…」
「よし! 他人に迷惑がかかる! わかったら二度とするなよ!!」
マニュアルは、軽く飯田の頭を小突いた。
六花、轟、緑谷の三人も深く頭を下げる。
「……よろしく…お願いします」
「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声は無くなってしまうが…せめて、共に平和を守る人間として…ありがとう!」
六花達四人は、面構署長の言葉を胸に刻み込んだ。
◇◇◇
「それじゃ、私は他の患者さんのところに行ってきますね」
「ああ」
その後、六花は飯田と別れ、病院に入院している患者の慰問に向かった。
ネイティブや飯田の証言から、六花の氷に回復能力がある事を聞いた保須総合病院の病院長から、患者の慰問を頼まれたのだ。
だが、その事を詳しく知らない緑谷が、疑問を口にする。
「あれ? でも氷叢さん、ミルコのところで職場体験してたんじゃ……」
「……ミルコさんにゆわれました。
六花はそう言って、キラキラと氷の粒を散らしながら去っていく。
六花が患者の慰問の話をミルコに伝えたところ、今日一日だけパトロールの休みを貰い、慰問の日に充てる事にしたのだ。
患者を順番に慰問していた六花は、インゲニウムこと飯田天晴の部屋に辿り着く。
「こんにちわ」
「あら……? あなた……」
「リッカです。ここの先生に頼まれて、患者さんのおみまいにきました。えっと……飯田天晴さん、であってますか?」
「はい、そうですけど……」
マスクをつけて首からバインダーをかけ、腰に経口補水液のペットボトルが入ったポーチを携えた六花が、バインダーのチェックリストを見ながら確認する。
六花の目の前には、ちょうどリハビリを終えたばかりのインゲニウムと、彼の見舞いに来ていた母親がいる。
飯田の顔を少し柔らかくしたような好青年と、飯田同様に眼鏡をかけた真面目そうな女性だ。
六花は、インゲニウムに近づくと、空中に無数の小さな氷の花を咲かせる。
花は徐々にインゲニウムの周りに集まっていき、体に触れた途端に消えていく。
「……どうですか?」
「ああ……痛みと疲れが取れたけど……これ、君がやったの?」
「はい。リハビリがんばってくださいね」
「……ありがとう」
六花がインゲニウムに癒しの氷を施し、経口補水液のペットボトルを手渡すと、インゲニウムが礼を言う。
顔色が良くなったインゲニウムを見て、彼の母親も六花に感謝する。
「リッカちゃん、ありがとうね。今こんな物しかないけど、よかったらどうぞ」
そう言って母親が、高級そうなオレンジゼリーを六花にお裾分けした。
それを見て六花は目を輝かせ、頬を緩ませながらゼリーを受け取る。
「……いただきます」
◆◆◆
『三人の
「…………どこもかしこも………脳無は二の次かよ。忘れるどころか…俺らの方がおまけ扱いか」
ヒーロー殺しのニュースを見た弔くんは、不機嫌そうに新聞紙を丸めて塵にする。
あーあー、すっかりヘソ曲げちゃって。
まあ、こうなる事はわかっていたけれど。
肩や明確な思想を持ったレジェンド級の殺人犯、肩や何の主義主張も無い前科一犯の大人子ども。
世間がどちらに注目するかなんて、考えるまでもない。
「……で、お前は何してんだ」
「ヒーロー殺しの『英雄回帰』の思想を支持するブログ記事やヒーロー殺しのPR動画を作ってSNSで拡散してます。見てくださいよこれ、半日でPV数10000超えましたよ」
弔くんが苛ついている中、私はせっせと啓蒙活動に勤しんでいた。
あ、この投稿のせいで身バレする、なんて事はないわよ。
このPCもアジトもいざとなれば使い捨てるだけだし、調べたところで何も出てきやしないわ。
というか、こんな投稿からは私達にまで辿り着けないでしょうし。
なんて考えていると、弔くんが私のPCに触れて“個性”を発動する。
「ふざけんな死ね。お前はどっちの味方だ」
PCの液晶画面にピシッとヒビが入り、たったの数秒で塵になる。
あーあー、使い捨てとはいえ安くはないのに……
「弔くん、カルシウム足りてます? そうやっていつも苛ついてるから友達ができないんですよ」
「お前……塵にされたいらしいな」
私が弔くんを煽ると、弔くんが私に手を伸ばしてくる。
私は、軽く体を逸らして弔くんの手を避けると、両手を挙げて降参の仕草をする。
「まぁそう怒らないでくださいよ。むしろこれはチャンスと捉えるべきです」
「何だと……?」
「君達のような強い力を持った若い世代ほど、こういう極端な思想に傾倒しやすいんですよ。彼の思想に共感した若者を取り込むことができれば、連合の戦力強化が見込めます。だからこうして啓蒙活動をしているんです。まぁ、考えは根本的に合いませんけど」
「彼女の言うことも一理ありますよ。仮にもヒーロー殺しは、
「……チッ。どうせ来んのはヒーロー殺しにあてられたミーハーだろ。要らねぇんだよ」
私と黒霧さんが説得すると、弔くんは私を殺そうとするのはやめたものの、苛立ちが収まらないままバーを出ていく。
まったく……彼にも困ったものだわ。
ただでさえ、現状戦力不足が否めないのに、選り好みしてる場合ですかねぇ。
◆◆◆
No side
「一週間、ありがとうございました」
「おう、また来いよ!」
一週間の職場体験はあっという間に終わり、六花はミルコと別れの言葉を交わす。
ミルコはいつも通り勝気に笑うと、どこかの街へとひとっ飛びする。
そんなミルコに手を振りながら、六花も帰路に着く。
その途中で、飯田からメールが送られてくる。
内容は、六花のおかげで兄は回復に向かっていて、学校で会ったら改めて礼が言いたいとの事だった。
その内容に安堵の表情を浮かべつつ、六花は駅へと歩いていった。
ヒーロー殺しが最後に見た光景は、純白の褌に包まれた饅頭だったという。。。
相手を凍らせる事ができるにもかかわらず六花ちゃんがステインをボコボコに蹴っ飛ばしたのは、六花ちゃんがメチャクチャ怒ってたからです。
まあメタ的に言うと、冷凍即堕ち2コマにしちゃうとミルコの手柄だって嘘が罷り通らないからなんですけどね(笑)
(ヴィジランテも含めて)ヒロアカ屈指の良識人のインゲニウムを再起不能にした罪は重かった。
ちなみに六花ちゃんの精神性は、ステイン的には不合格です。
実力でうまく誤魔化せてますけど、自分の為の延長上に人助けがあるだけで、自己犠牲してまで人を助けようってタイプじゃないので。