地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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赤バーでぬか喜びしてたらオレンジに戻った悲しみ。
でも日間ランキング30位以内に入れて嬉しかったです(;ω;)
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作者は単純ですので、高評価・お気に入り・感想をいただけましたらモチベーションになります。


第32話 氷叢さんのお見舞い

No side

 

 救助レースの数日後。

 六花達は、市街地で避難訓練を受けていた。

 六花達の立っているビルは、今にも崩れそうだ。

 

「次、氷叢」

「はいっ」

 

 相澤に呼ばれた六花は返事をしながら、三階から地上へと繫がっている垂直式救助袋の中へ入っていく。

 僅かな浮遊感の後、救助袋を出て無事着地した。

 だが……

 

「ふうっ」

 

 着地した六花を待ち構えていた峰田が、盛大にため息を吐く。

 

「どうしたの? 峰田くん」

 

 先に降りていた緑谷が聞くと、峰田はさらにため息を吐いた。

 

「緑谷、女子が滑り台で滑るっていえば捲れるスカートだろうが! なのになんで体操服なんだよ!」

「ミノルさん怖いです」

 

 峰田の煩悩丸出しな発言に、六花がツッコむ。

 そんな峰田の発言に、飯田が「いちいちスカートが捲れていては訓練にならない」とツッコミを入れようとするも、「本番ではスカートを穿いている女性も多いから現実味を出す為のスカートか」と勝手に過大解釈モードに入り、そんな飯田を緑谷が苦笑いしながら見ていると、爆豪が絡んでくる。

 

 

「はぁ……バクゴーさんは相変わらずだなぁ……」

 

 六花は、遠くから爆豪を見て、呆れるようにため息をついた。

 爆豪が「避難訓練なんてクソダリィ」と悪態をついたので、飯田が人命救助を軽んじる爆豪に対して説教をすると、案の定爆豪が反発してきたのだ。

 自尊心の塊の爆豪と真面目の塊の飯田が相入れるはずもなく、二人はバチバチの喧嘩ムードだ。

 そんな飯田を緑谷が押さえようとすると、轟が「爆豪が人命救助してるところは想像できねえ」と言い放ち、さらにそれに対して上鳴が同意したため、爆豪がさらにキレる。

 収拾がつかなくなってきたところで、相澤の低い声が響いた。

 

「…お前ら、今何の時間かわかってんのか」

 

 相澤の地を這うような声に、生徒達はシンと静まり返る。

 相澤は、全員が大人しくなったのを確認してから説教を始めた。

 曰く、向いてるとか向いてないとか、そんな言い訳は現場では通用しない、やる事を当たり前にやれて一人前。

 救助隊や警察が間に合わなかった場合、避難の誘導をするのも務めだとの事。

 一人や二人なら救出した方が早いかもしれないが、大勢いた場合は救助器具が役に立つので、いざという時に使えるように救助器具のカリキュラムが用意してあるとの事。

 その説明を聞いて、先程まで喧嘩ムードだった爆豪も大人しく頷いていた。

 

「…………ん」

 

 相澤の説明を聞いた六花は、頷きながらその言葉を噛み締めていた。

 その後ろでは緑谷がブツブツ言っていたが、もはやA組の名物だ。

 

「じゃ、次は……」

 

 その言葉を遮るように、空からバルバルバル、と空を切る音が聴こえる。

 上を見ると、一台のヘリコプターが降下してきていた。

 そこから、バッと大きな人影が飛び降りてくる。

 

「空から……私が来たー!!」

「オールマイト!?」

 

 ズシンッと地面を揺らしながら降りてきたのは、オールマイトだ。

 オールマイトは、HAHAHA!と笑い飛ばしながら六花達に話しかける。

 

「やぁ遅れてすまないね、諸君! ちょっと出がけに敵(ヴィラン)を捕まえてきたものでね!」

「全くですよ。本来ならあなたの担当時間だったんですから」

 

 相変わらずのオールマイトの様子に、相澤が呆れ返る。

 その後オタクモード全開で話しかけてきた緑谷を上手く捌いてから、オールマイトが授業を始める。

 

「さ、これからヘリによる救助訓練さ! アーユーレディ!?」

 

 その後は、ヘリによる雪山、水辺での救助訓練をした。

 特に雪山での救助訓練は、六花の独壇場だった。

 雪山の雪そのものを丸々持ち上げて救助するという規格外の力を見せつけ、オールマイトをもぎょっとさせた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「はい、お疲れ。早速だが再来週、授業参観を行います」

「「「授業参観ー!?」」」

 

 訓練後のホームルームで相澤が開口一番に放った言葉に、クラスが騒然とする。

 ヒーロー科でも、普通の高校らしいイベントはあるようだ。

 

「プリントは必ず保護者に渡すように。で、授業内容だが保護者への感謝の手紙だ。書いてくるように」

 

 一瞬の沈黙の後、どっと笑いが起こる。

 クラスの総意を代表するように、上鳴が「小学生じゃあるまいし」と笑うと、相澤が静かに睨みながら口を開く。

 

「俺が冗談を言うと思うか?」

 

 相澤の威嚇に、クラスは再び静まり返る。

 その後訪れたのは、困惑や不満によるざわつき。

 生徒達は、高校生にもなって、親の前で手紙の朗読など恥ずかしいなどといった不満を漏らす。

 

 そんなクラスメイトの声を飯田が大声で静めてから、相澤に意見する。

 ヒーロー科の授業参観なのだから、もっとヒーローらしい事をするべきだと。

 だがそんな飯田の意見に対して、相澤が反論する。

 曰く、プロヒーローは助けた一般市民に感謝されることが多いから、感謝の気持ちを改めて考えろとの事。

 相澤の言葉を過大解釈した飯田は、速攻で納得して席についた。

 

「イーダさん、納得はや……」

 

 そんな飯田を見て、六花が小さな声でツッコミを入れる。

 

「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが」

「むしろそっちが本命じゃねえ!?」

 

 相澤の言葉に、上鳴がまたしてもクラスの総意を代表して叫ぶ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「授業参観かぁ、感謝の手紙どうしよ」

「どうもこうも書くしかねえだろ」

「最初は疑問だったが、素晴らしい提案だと思うぞ。日頃から家族に感謝の気持ちはあるが、こんな機会でもないと改まって言うことがないからな。そういえば、手紙に枚数制限はあるのだろうか?」

「どうでしょう……先生何か言ってましたっけ」

 

 その後の帰り道、緑谷、轟、飯田、六花が並んで会話をする。

 少ない枚数だと困ると唸る飯田に、緑谷が素直に感心すると、飯田は助けた人がお礼の品をくれた時に感謝の手紙を書く事がよくあるからこれくらい普通だと言う。

 真面目すぎる飯田には普通の事なのだろうが、他の三人は、それは普通じゃないと冷静に指摘した。

 

「そうか? 普通だろう」

「いや、俺はしたことない」

「わたしも、お手紙とかちゃんと書いたことないです」

「そうなのか……」

 

 轟と六花にばっさり切られ寂しそうにする飯田に、緑谷が感謝の気持ちを伝えるのはいい事だと言う。

 すると緑谷の言葉に気を持ち直した飯田が、思い出したように何かを取り出す。

 

「僕としたことがうっかり忘れるところだった! これ!」

 

 飯田が取り出したのは、遊園地のチケットだ。

 ちょうど四人分ある。

 飯田曰く、職場体験でヒーロー殺しの一件の後、被害に遭ったヒーロー《ネイティブ》から、命を救われた礼にと貰ったものだそうだ。

 期限が再来週までなので一緒に行かないかと飯田が誘うが、緑谷はヒーロー回顧展が、轟は母親の見舞いがあるため行けなかった。

 二人がいけないと分かり、飯田が寂しそうに肩を落とすと、六花が飯田の制服の袖を引っ張って話しかける。

 

「イーダさん。わたし行けますよ」

「本当かい!?」

「はい、ただ……」

「「ただ?」」

 

 何かを懸念しているような六花の顔に、飯田と緑谷がきょとんとする。

 

「わたし、遊園地とか行ったことないので……どう楽しめばいいか、わからないんですけど……それでもいいですか?」

 

 六花は、遠慮がちにそう言った。

 六花は、生まれてこの方遊園地というものに行った事が無い。

 USJ(救助訓練の施設の方)に来た時も、一人だけピンと来ていなかった。

 

「そういうことなら、一緒に行こう! 行ったことがないなら、尚更いい思い出にしなくてはな!」

「……はいっ」

 

 飯田の言葉に、六花は頬を緩ませて何度も頷く。

 結局遊園地は飯田と六花の二人で行く事になったのだが、まだ二枚余るので後日あと二人誘う事にした。

 

 その後、授業参観は誰が来るのかという話になった。

 飯田と緑谷は二人とも母親が来る予定で、六花は母親代わりの雪代が来る予定だ。

 轟がウチは誰も来ないかもと言うと、気まずい空気が流れる。

 慌てて緑谷が謝ると、轟は何でもないように首を横に振る。

 来られないご両親が気の毒だと言う飯田に対して、轟がエンデヴァーを思い出しながら忌々しそうに「あいつに来られたらと思うとゾッとする」と言ったので、父親を「あいつ」呼ばわりする轟の態度にムッとした飯田が代わりの呼び方を提案するも、どれもしっくり来なかったので却下される、というやり取りがあった。

 そして曲がり角に来て、轟が立ち止まる。

 

「悪い。俺はこの後、氷叢と用事がある」

「……あ、えっと、はい」

 

 轟が言うと、六花も思い出したように頷く。

 二人して用事があると言うので、緑谷がきょとんとして尋ねる。

 

「氷叢さんと?」

「ああ、ちょっとな……」

 

 緑谷が尋ねると、轟は少し視線を逸らして語尾を濁した。

 そんな轟を見て、飯田と緑谷は、それ以上は追及しなかった。

 

「じゃあ、ここで。また明日」

「気をつけて!」

「あぁ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……悪いな」

「いえいえ」

 

 轟が少し申し訳なさそうに謝ると、六花が首を横に振る。

 緑谷達と別れた後、しばらくして二人がやってきたのは、轟の母親が入院している病院だ。

 二人は、ロビーで面会手続きを済ませてから、エレベーターに乗り込む。

 

「えっと……ママはもうすぐ来るみたいです」

 

 六花は、携帯でラインを確認しながら轟にそう告げる。

 体育祭が終わった後、六花は轟から『お母さんが会いたがっている』と伝えられていた。

 保護者の雪代も一緒に行くので、二人とも都合がつく日を探していたのだが、ここ二週間は雪代のスケジュールが丸々用事で埋まっており、最短で都合がついたのが今日だった。

 雪代はこの日は半休を貰ったそうで、今はお見舞いに持っていくスイーツを選んでいるところだという。

 エレベーターのドアが開くと、轟が先に歩く形で、二人で病室に向かう。

 

「焦凍くん……あら? あなた、体育祭の……」

 

 ナースステーションの前を通りかかると、轟と顔見知りの看護師が声をかけてきた。

 看護師は、轟と一緒に歩いているのを見て驚いていた。

 

「……どうも」

「氷叢六花です。ショートさんといっしょにおみまいにきました」

 

 轟と六花は、声かけてきた看護師に、丁寧にお辞儀をした。

 轟と六花の顔立ちは、心なしか少し似ている。

 特に、轟の右側の髪と六花の髪は、ほとんど色味が同じだ。

 二人で一緒に歩いていると、まるで兄妹、もとい姉弟のようだ。

 

「ここだ」

 

 扉の横に『315 轟様』と書かれた病室に辿り着く。

 部屋の前に来て、軽く息を吐いてから轟はドアを開ける。

 

「……お母さん」

「焦凍?」

 

 窓辺に座っていた轟の母親の冷が振り返る。

 格子の嵌められた窓を背負ってやわらかな笑みを浮かべたその姿を見て、六花はその場で立ち尽くした。

 

「ママ……?」

 

 六花は、驚きのあまり口をぽかんと開けて何度も瞬きをする。

 六花が驚いていたのは、目の前にいる冷が、雪代によく似ていたからだった。

 よく見れば雪代より華奢で、特徴的な左眼の泣き黒子が無いが、それでも見間違えてしまう程にそっくりだった。

 しばらく呆然としていた六花だったが、ふと我に返ると、慌てて自己紹介をする。

 

「はっ……はじめまして、ショートさんのお友だちの氷叢六花です」

「会いたかったわ、六花ちゃん。はじめまして、焦凍の母の冷です」

 

 六花が自己紹介をすると、冷も優しく微笑みながら自己紹介をする。

 「はわわ…」と目の前の現実に混乱している六花を見て、冷はクスッと笑う。

 

「……本当に、雪代姉さんそっくりね」

「雪代姉さん……?」

「あら、そういえば話してなかったわね。私と六花ちゃんのお母さん、実は従姉妹同士なの」

「「!?」」

「だからあなた達は、はとこ同士なのよ」

「「……!?」」

 

 冷のカミングアウトに、轟と六花は互いに顔を見合わせて驚く。

 お互い何となく似ているとは思っていたが、まさか再従姉弟同士だったとは。

 

「……すげぇ偶然だな」

「ですね……」

 

 轟がため息を吐きながら左頬を掻くと、六花も首を縦に振る。

 

「雪代姉さんは?」

「あぁ、えっと……あと5分くらいしたらつくと思います」

「外暑かったでしょう? 何か飲む?」

 

 冷は、学校帰りの二人を気遣って声をかける。

 5月も下旬を迎えた今は、少し蒸し暑い。

 特に氷の“個性”を持つ六花にとっては、明確に「暑い」と感じる温度だ。

 似た系統の“個性”を持っているからか、冷は六花が暑がっているのを敏感に感じ取っていた。

 

「あ、うん」

「もう用意してあるわ。冷蔵庫開けてみて」

 

 喉の渇きを覚えて、外の自販機で飲み物を買おうと立ち上がった轟に、冷が慌てて声をかける。

 言われるままベッドの横のデスク下に置かれている小さな冷蔵庫を開けると、緑茶や炭酸やジュースなどのペットボトル、飲むヨーグルトの紙パックなどが入っている。

 

「ほら、焦凍、牛さんヨーグル好きだったでしょ? 売店で売ってたから、つい」

 

 冷が恥ずかしそうに言うと、轟の脳裏に幼い頃の記憶が微かに蘇る。

 言われてみれば、牛さんヨーグルが好きだったような気がする。

 

「焦凍ももう高校生だもんね……そう思って、いろんなのを買っておいたんだけど、好きなのあるかしら……?」

「……これにする」

 

 そう言って轟は、迷わず牛さんヨーグルを手に取った。

 母親が自分の為にと考えて飲み物を選んでくれたのが嬉しかったのだ。

 紙パックを開けて飲み干したヨーグルトは、どこか懐かしい味だった。

 

「六花ちゃんも好きなの飲んでね」

「あ、じゃあこれにします」

 

 そう言って六花が手に取ったのは、オールマイトのリアルなイラストがラベルにプリントされたマイティコーラのペットボトルだった。

 六花がくしゃっと眉間に皺を寄せながら不器用な手つきでペットボトルを開けると、オールマイトのイラストが気になったのか、轟が話しかける。

 

「いっつも飲んでるな、それ。美味いのか?」

「おいしいですよ。わたしは大好きです」

 

 轟が尋ねると、六花は頬を緩ませながら答える。

 仲良さげに話している二人を見て、冷が嬉しそうに目尻を下げた、その時。

 

「お母さん、入るよ」

 

 ノックをして入ってきたのは、轟の姉の冬美だった。

 母親似だが、繊細な印象を与える母親とは違い明るい印象だ。

 母親譲りの白銀のミディアムヘアには、父親譲りの深紅が所々に混じっている。

 冬美は、轟と一緒に話していた六花に目を向けると、明るい笑顔を浮かべて話しかける。

 

「初めまして、焦凍の姉の冬美です」

「はじめまして……ショートさんのお友だちの氷叢六花です」

「六花ちゃん、来てくれてありがとう。焦凍があなたのこと話してたから、私も一回話してみたかったの」

「言うなって」

「あ、そうなんですか……」

 

 初対面で緊張していた六花だったが、普通の姉弟のように話す冬美と轟を見て、少し緊張がほぐれる。

 

「お母さん、雪代さん来てくれたよ。ちょうど行き掛けに一緒になったの」

「あら、そうなの?」

 

 冬美は、途中で雪代に会った事を冷に伝える。

 すると雪代が病室に入ってくる。

 

「……冷ちゃん」

「雪代姉さん……」

「ごめんなさいね、お土産選んでたら遅くなっちゃった」

「……ううん。こっちこそ、急に呼んでごめんなさい」

 

 雪代と冷は、対面するなり互いに少し気まずそうに目を逸らす。

 二人にとっては、32年振りの再会だ。

 いざ対面してみると、何を話せばいいのかわからない。

 

「……!?」

 

 轟は、気まずそうにしている二人を見て、僅かに目を見開いて宇宙猫状態になっていた。

 それもそのはず、雪代と冷は、轟が思っていた以上にそっくりだった。

 体格や髪型、泣き黒子などの違いはあれど、顔立ちや色味はほとんど同じだ。

 知らない人間なら、一卵性双生児だと言っても信じるだろう。

 

「はじめまして、焦凍くん。六花の母の雪代です」

「……どうも」

 

 驚いている轟に雪代が自己紹介をすると、轟が一拍遅れて会釈をする。

 

「お土産持ってきたの。良かったら食べて」

 

 そう言って雪代が、冷にお土産を渡す。

 中身は、フルーツのゼリーの詰め合わせだった。

 リンゴにみかん、キウイ、ブドウ、さくらんぼ、桃など、色んな味が入っている。

 透明なゼリーの中にカラフルなフルーツがゴロゴロと入っていて、まるで宝石箱だ。

 

「わぁぁ! おいしそう! わたしこれがいい!」

「六花、順番よ。まず他の皆が選んでからね」

「うう〜……」

 

 真っ先に桃味のゼリーを取ろうとした六花を雪代が止めると、六花は唇を尖らせて唸る。

 

「冷ちゃん子供の頃、このゼリー好きだったよね」

「そうそう。姉さんがよく家に持ってきてくれたのよね」

 

 雪代が話しかけると、冷は子供の頃の事を思い出す。

 二人は、子供の頃によく一緒に遊んでいた。

 雪代は冷の家に遊びに行く際、必ずお気に入りの店のスイーツを持って行っていた。

 中でも二人のお気に入りだったのが、伝統的なフルーツパーラー、千◯屋のフルーツゼリーだ。

 

 子供の頃を思い出して笑顔を浮かべる冷を見て、轟は視線を下に落とす。

 雪代が当然のように知っている母親の好物を自分が知らない事に気づき、母親の事を何も知らない自分が恥ずかしくなったのだ。

 そんな轟の様子に気づいてか、雪代が轟と冬美にも声をかける。

 

「冬美ちゃんと焦凍くんも、好きなの食べてね」

「ありがとうございます!」

「……いただきます」

 

 雪代が声をかけると、冬美と轟も好きなゼリーを選んで手に取る。

 六花に気を遣ってかはわからないが、六花が選ぼうとしていた桃味は最後まで残った。

 最後に六花が桃のゼリーを取り、爛々と目を輝かせながらゼリーを頬張る。

 するとその時、冬美が話しかける。

 

「ねぇ、二人は学校でどんな感じなの?」

「私も気になるわ。聞かせてくれる?」

「うん……まず、何から話すか……」

 

 冬美と冷に聞かれ、轟は学校での出来事を思い出しながら話した。

 今日の救助訓練の事、体育祭での事。

 話を聞いていた冬美と冷は、嬉しそうに笑顔を浮かべながら頷いていた。

 雪代も、少し離れたところで話を聞いていた。

 

「……本当に、いいお友達ができたのね」

 

 嬉しそうに、目を少し潤ませる母親に、轟はゆっくりと小さく頷いた。

 

「──うん」

 

 笑う冷と轟の顔を見て、冬美は六花の手を取って話しかける。

 

「六花ちゃん。焦凍とお友達になってくれて、本当にありがとう」

 

 冬美は、手を握ったまま六花に頭を下げて礼を言った。

 すると緊張のせいか戸惑っていた六花が僅かに目を見開く。

 

「焦凍ね、笑うようになったのは最近なの。焦凍が六花ちゃんのことを楽しそうに話してくれて……それがすごく嬉しくって……だからどうしても、会ってお礼が言いたかったの」

 

 冬美が、六花の手を握りしめながら胸の内を語る。

 そして、顔を上げて微笑む。

 

「これからも、焦凍と仲良くしてあげてね」

「……はい」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

轟冷 side

 

 その後、子供達には少しだけ席を外してもらって、私は雪代姉さんと病室で二人きりになった。

 私がここに姉さんを呼んだのは、謝りたかったのと、姉さんが今どうしているのかを知りたかったから。

 

 燈矢が死んで、夫(あの人)がより一層焦凍を傷つけるようになってから、私は姉さんを頼って電話をした。

 その時は、『愚痴ならカウンセラーか牧師にでも言え』と冷たく突き放されて、そのまま一方的に電話を切られてしまった。

 酷いと思ったし、姉さんの事を嫌いになった。

 

 だけど入院してしばらくしてから、姉さんもつらい状況だった事を知った。

 旦那さんと娘さんに先立たれて、息子さんも失踪して、ご近所さんに白い目で見られながらたった一人で幼い六花ちゃんを育てていて、そんな状況で人助けなんかできるわけがない。

 

 私はずっと、姉さんに頼ってばかりだった。

 いつも自分の事ばかりで、姉さんなら助けてくれるって心のどこかで甘えて、姉さんの負担なんて考えた事もなかった。

 愛想を尽かされても仕方がない。

 それでも、姉さんが何か困っているなら、せめて話だけでも聞いてあげたい。

 私は、花瓶の水を変えてくれている姉さんに話しかけた。

 

「……来てくれてありがとう、雪代姉さん」

「こちらこそ。もう二度と会ってくれないと思ってた」

 

 そんな会話の後、しばらくの間沈黙が続く。

 こうして二人きりになると、どう謝ったらいいのかわからない。

 私は、タイミングを見計らって、思い切って姉さんに謝った。

 

「「ごめんなさい」」

 

 私が謝るのと同時に、姉さんも謝った。

 

「……え?」

「姉さんも大変だったのに、私、姉さんに頼ってばっかりで……」

「いや……なんで冷ちゃんが謝るの? 私の方こそ、自分のことで手いっぱいで……ひどいこと言ってごめん」

「…………」

「…………」

 

 姉さんは、私の事をあっさり許してくれたばかりか、私を突き放した事を謝った。

 お互いに胸の内を打ち明けて、また沈黙が下りる。

 それを、姉さんが柔らかい声で破った。

 

「……なんか、こうして二人で話してると、昔のことを思い出すね」

「そうね」

「覚えてる? 冷ちゃん、小さい頃は雪ねぇ、雪ねぇって言って私の後ろをついて回ってたのよ。可愛かったなぁ」

 

 そう言って姉さんがクスクス笑う。

 やっぱり姉さんは、優しい姉さんのままだ。

 

 雪代姉さんは、私の憧れだった。

 綺麗で、頭が良くて、何でも出来て、そして優しかった。

 お金持ちのお嬢様なのに、それを鼻にかける事もなくて、私の事を妹のように可愛がってくれた。

 本を読んでくれたり、一緒に庭の花の絵を描いたり、落ちない紙飛行機の折り方を教えてくれたり、私にとても良くしてくれた。

 私が話す時は、いつもニコニコ笑って頷いて聞いてくれた。

 昔のように笑う姉さんの顔を見ていたら、この時だけは、あの頃に時が戻ったような気がした。

 

「あの頃は本当に楽しかったね」

「……うん」

 

 姉さんが、目尻を下げて笑う。

 姉さんは強い人だ。

 自分だって余裕が無いはずなのに、こうして昔みたいに話をしに来てくれた。

 それに比べて、私は……

 ……いけない、また自分の事を考えてしまった。

 思い切って、今度は私から話題を振る。

 

「姉さん、困ってることがあったら何でも言ってね。私、話なら聞くから」

 

 私がそう言うと、姉さんはきょとんとした顔をする。

 

「……え、どうしたの急に?」

「私、ずっと姉さんに頼りっぱなしだったから、今度は私が姉さんの力になりたいの」

 

 私のその言葉に、姉さんが僅かに目を見開く。

 ほんの数秒の沈黙の後、姉さんがクスッと笑って言った。

 

「大丈夫。私今、幸せにやれてるからもう助けなんて期待してないから」

「……そう」

 

 姉さんが、穏やかな笑顔を浮かべる。

 

 この時、もっと強く言葉をかけておくべきだった。

 余計なお節介だって言われても、食い下がるべきだった。

 ……いや、この時にはもう手遅れだったのかもしれない。

 それでも、何か私にも出来た事があったんじゃないかと後になって思う。

 後に私は、この時の選択を後悔する事になる。

 

 

 

 




すまねぇ…尺が長くなっちまった…
だが、これ以上話数を増やしたくなかったんだ…

なんかフラグらしきものが建ってますが、轟くんとは付き合いません(断言)。
法律上はギリギリ他人ですが、これでデキちゃったらなんか轟くんがマザコンみたいになっちゃうので。
ちなみに六花ちゃんは12月生まれなので、轟くんより1ヶ月だけお姉さんです。
どちらかというと兄妹っぽいので、脳みそバグりますね(笑)

轟くんですが、六花ちゃんの介入によって原作より頻繁にお見舞いに来ている、という設定です。
平日に来るのもこれが初めてじゃないので、原作よりは緊張してません。
なのでこのタイミングで来訪しても不思議ではないかな、と。
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