スナネコ天使様、評価10ありがとうございます。
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No side
「でね! 今日はトコヤミさんが大活躍だったんだよ!」
「へぇ……そうだったのね」
六花は、遊園地から持ち帰ったアップルパイを雪代と一緒に食べながら今日の話をした。
遊園地の期間限定アップルパイがとても美味しかったので、六花が雪代と一緒に食べる為に冷凍して持ち帰ったのだ。
遊園地で飯田達と遊んできた六花は、そこで常闇が女の子を助けた話をする。
雪代は、クスクスと笑いながら六花の話を聞いていた。
するとその時、廊下から電子音で奏でられたバッハのカンタータが聴こえる。
固定電話の着信音だ。
「あら……」
着信音に気づいた雪代が、廊下に出て電話に応じる。
そしてすぐに受話器を持って居間に戻ると、六花に声をかけた。
「六花、相澤先生から電話よ」
「?」
雪代に声をかけられた六花が、廊下に出て雪代から受話器を受け取る。
だが、相澤からの電話と聞いて、遊園地で“個性”を無断使用した事がバレたと思ったのか、顔を強張らせながら話しかける。
「……もしもし」
『あー、そう固くなるな。何かやらかしたとかじゃねえから安心しろ。授業参観のことで、少し話がある』
「授業参観……?」
『そうだ。お前の“個性”は規格外だ。明日の授業参観での演習も、俺は正直お前一人で全部解決出来ちまうと思ってる。それだと授業にならん。ってなわけで、お前には先にネタバラシだ。授業参観当日は、保護者を人質に取られた状態で演習を受けてもらう。保護者の皆さんには、当日は人質役として演技してもらう予定だ。ただし、このことは他言無用だ』
「えっとぉ……それってつまり、みんなにはお芝居のことを黙って一緒に演習を受けろってことですか?」
『いや、違う。お前が何もしなかったら怪しいからな。お前には、当日はこちらで用意したシナリオ通りに動いてもらう。指示はメールで送るから、よく読んでおけ。以上だ』
そう言って、相澤は一方的に電話を切った。
突然の連絡に、六花は肩を竦めて首を傾げた。
◆◆◆
緑谷 side
授業参観当日。
僕達は、メールで相澤先生に呼ばれて、バスで模擬市街地に向かっていた。
教室には、何故か相澤先生と氷叢さんが来ていなくて、保護者もいなかった。
何かあったのかと不安をかかえながらも、しばらくバスに揺られていると、模擬市街地のバス停に到着した。
でも、そこに氷叢さんと相澤先生の姿はない。
バスは元来た道を戻っていく。
「この中で待っているということなんだろう。さぁ、みんな行こう!」
「……なんか匂う」
飯田くんが先導しようとすると、触手の先に鼻を複製した障子くんが呟く。
どうやらガソリンのような匂いがするらしい。
するとその時、どこからか悲鳴が聴こえてきた。
「なんだっ?」
慌てて悲鳴のする方へと走っていくと、ガソリンの匂いが濃くなっていく。
そして、信じがたい光景が目に飛び込んできた。
「っ……なんだよ、あれ……」
立ち止まった切島くんが茫然と呟く。
突然開けた視界の先には、空き地が広がっていた。
本来、そこにあったはずのビルは倒壊したらしく、瓦礫が脇に無残に寄せられている。
ビルの建っていたところには、半径数十mはある穴がぽっかりと開いている。
そして、その穴の中央にポツンと取り残された大きなサイコロのような檻。
一見、宙に浮いているように見えるのは、丸齧りして残されたリンゴの芯のように、削り残された塔のような地面の上に檻が置かれているからだ。
檻の中から上がっていた悲鳴が、意味のある言葉に変わった。
「出久……!」
「──お、お母さん……?」
紺のスーツを着たお母さんの姿に、僕は息を飲む。
お母さんだけじゃない。光己おばさんもいる。
檻に囚われていたのは、皆の保護者達だった。
それぞれ怯えたように檻から僕達の名前を呼ぶ。
するとその時、葉隠さんが右腕を肩の高さまで上げて声を上げる。
見えないけど、おそらく指を指しているんだろう。
「六花ちゃん……!?」
葉隠さんが指を差した先では、氷叢さんが、お母さん達と一緒に檻の中に閉じ込められていた。
氷叢さんが教室にいなかったのは、そういう事だったのか……!
慌てて駆け寄ろうとして、僕達は穴の淵まで行く。
「っ、くさ……っ、ガソリン……!?」
麗日さんが、穴の中を覗いて顔をしかめる。
穴の深さは8〜9メートルあって、その底に澱んだ液体が浮かんでいた。
「なんだよ、これっ? なんで親があんなとこ……」
「つーか相澤先生は!?」
その時、ざわつく僕達を冷たく撫でるように、機械的な声が聞こえてきた。
『アイザワセンセイハ、イマゴロネムッテルヨ。クライツチノナカデ』
明らかな敵意が籠った声に、僕達は咄嗟に身構えた。
皆が混乱のあまり騒ぎ、中には冗談じゃないかと言う人もいたけど、声の主は皆を一蹴するように言った。
『サワグナ。ジョウダンダトオモイタイナラ、オモエバイイ。ダガ、ヒトジチガイルコトヲワスレルナ』
「人質……」
皆は、事態を把握しようと声の主を探して辺りを見回す。
そんな僕達に、触手に耳を複製させていた障子くんが言う。
「違う、この周りじゃない。声はあの檻の中からだ」
「中……?」
『ソノトオリ。ボクハココニイル』
その声を合図にしたように恐れ慄いて退く保護者達の後ろから、潜んでいた人影が現れた。
フード付きのマントを被った大男だ。
「なんで、六花まで!」
『コノコノ“コセイ”ハヤッカイダカラ、サキニツカマエテヒトジチニサセテモラッタ。モウニドト、キミタチノトコロヘモドッテクルコトハナイ』
「そんな……!」
芦戸さんの疑問に犯人が答えると、耳郎さんが目を見開く。
よりによって、クラスで一番強い氷叢さんを先に捕まえて人質にするなんて……!
異常な事態に飯田くんが隙を見て、そっと携帯から連絡をしようとしたその時、犯人が言う。
『サキニイッテオクガ、ガイブヘモ、ガッコウヘモレンラクハデキナイノデアシカラズ。アァ、モチロン、ソコノデンキクンノ“コセイ”デモムダダ』
「マジか、くそっ……」
僕らの事知ってる……?
訝しむ僕の前で、犯人は続ける。
『ニゲテ、ソトニタスケヲモトメニイクノモキンシダ。ニゲタラ、ソノセイトノホゴシャヲスグニシマツスル』
その時檻の中で、お母さん達が助けてと叫ぶ。
相澤先生がやられたかもしれない。
親達と氷叢さんが人質に取られている。
これは現実なんだ。
「お母さん……」
檻の中で不安そうに涙を浮かべているお母さんを見て、自分でも血の気が引くのがわかった。
なんでこんな事をするのかと尋ねれば、犯人が答えた。
犯人はかつて雄英に落ち、落伍者としての人生を歩む事になった。
だから雄英生である僕達の明るい未来を奪う、と。
「要するに八つ当たりだろうが、クソ黒マントが!!」
犯人の言葉を遮って、かっちゃんが叫ぶ。
「かっちゃん!?」
「めんどくせえ、今すぐブッ倒してやるよ……!」
そう言ってかっちゃんが、爆破を起こしながら檻に近づこうとする。
だけど……
『オット、ヒトジチガイルノヲワスレルナ』
「キャア!」
犯人が、一番近くにいた光己おばさんを引き寄せる。
その様子に、かっちゃんが舌打ちして二の足を踏んだ。
「勝手に捕まってんじゃねえよ、クソババア!!」
「クソババアって言うなっていつも言ってるでしょうが!!」
かっちゃんの言葉に反応した光己おばさんが、さっきまでの怯えた態度から一変して、かっちゃんに向かって怒鳴った。
その怒号に、僕は一瞬呆気に取られた。
お母さんが光己おばさんに何かを話しかけると、光己おばさんがハッとして急に大人しくなる。
『……オトナシクシテイロ』
そう言って、犯人は光己おばさんを突き放した。
「ずいぶん、胆の据わった母上だな」
「うん、相変わらずだな、おばさん……」
驚く飯田くんに話しかけられて、僕は緊張しながらも苦笑して答える。
おばさんは、相変わらず豪胆な人だ。
昔、イタズラがバレたかっちゃんと一緒に、とばっちりで僕も叱られた事がある。
でも、おかげで少し落ち着いた。
僕は小さく息を吐き出した。
僕が…僕達が今、やるべき事は人質の救出。
だからまずは──
「……それで、あなたの目的は何ですか」
犯人の要求を知らなければならない。
僕は犯人を見据えて、なるべく落ち着いた声を意識して言う。
犯人もじっと僕を見返してくる。
『……モクテキハ、ヒトツ。カガヤカシイキミタチノ、アカルイミライヲコワスコト。ソノタメニ、ダイジナカゾクヲ、キミタチノメノマエデ、コワシテシマオウトオモッテネ』
犯人の身勝手な主張に、皆が反論する。
犯人が人質に向かって手を伸ばすと、皆が必死に叫ぶ。
僕はその間にも、必死に頭を回していた。
お母さん達をあそこから出すには、一緒に中にいる犯人をどうにかしなきゃならない。
でも、犯人をどうにかしようとする前に、絶対に人質を盾にされる……
「……かと言って、犯人に気づかれずにお母さん達を逃がすことも無理そうだ……檻の周りに死角になりそうなものも無いし……それにここから檻までは数十mはある。檻に辿り着くまでにすぐに気づかれる……〜〜〜っ、ダメだ、思いつかないっ」
「緑谷、もっと声小さくしろ。気づかれる」
いつの間にかまたブツブツと呟いていた僕を隠すように、轟くんが前に立ちながら声をかけてきた。
いけない、つい声に出てた…
僕が考えを巡らせていると、飯田くん、上鳴くん、切島くんが僕の作戦に賭けてくれた。
それに他の皆が続く。
それぞれ犯人に話しかけて、注目を向けさせようとする。
僕は、皆が僕の作戦に賭けてくれた事に涙腺が緩みそうになりながらも、必死に作戦を考えた。
正面突破が無理なら、少しでも犯人の動きを止めて、その間に檻に近づけばいい。
犯人の動きを止めるには……これしかないな。
僕は、葉隠さんと八百万さん、そして麗日さんに集まってもらった。
まずは八百万さんにスタンガンを造ってもらって、麗日さんが“個性”で浮かせた葉隠さんが、それを犯人に押し当てて動きを止める、という作戦だ。
八百万さんが土色に塗装した小型スタンガンを造ると、葉隠さんが制服を脱ぐ。
「準備万端だよっ」
「気をつけて、葉隠さん……!」
「任せて!」
そう言う葉隠さんに、麗日さんがタッチする。
するとふわふわと浮いた小型スタンガンが檻へ向かっていった。
注意を引きつけている皆が、それに気づいてより一層大きな声を上げる。
頼む……どうかうまくいってくれ……!!
僕も声を上げながら、祈るようにその行方を見守った。
皆の呼びかけにうんざりしているような犯人の背後に、スタンガンが辿り着く。
葉隠さんは低い姿勢を保って移動しているらしく、スタンガンが地面すれすれをふわふわと移動している。
苛立って檻の中をうろうろと動き回る犯人を追うように、葉隠さんが移動する。
犯人が親を見定めようと足を止めた瞬間、葉隠さんが檻の格子の間から、犯人の足にスタンガンを近づける。
バチバチッとスタンガンが青白い火花を放った瞬間、犯人がスタンガンを蹴っ飛ばす。
スタンガンが、穴の底へと落ちていく。
「あっ……!」
『ドウヤラ、ミエナイコバエガチカクニイルナ……!』
犯人が怒りに肩を震わせ、乱暴に鍵を開けて檻の外へ出る。
そしてマントの中からライターを取り出した。
『ヒトリヒトリ、ジックリクルシメタカッタガ、ヤメタ。ミンナ、ナカヨク、ジゴクニイコウ』
「やめ……!」
僕の叫びを待つ事なく、犯人はライターを穴に放り込む。
その途端、穴から勢いよく炎が上がった。
「出久ぅ!!」
「お母さん!!」
救けを求めるように手を伸ばすお母さんに、僕も思わず手を伸ばす。
炎は風に煽られて勢いを増す。
上がる炎でお母さんの姿が消えた。
「僕のせいだ……」
作戦は失敗してしまった。
皆、僕に託してくれたのに……!
その時、絶望に崩れ落ちそうな僕を、さらに後ろから突き落とすような蹴りが飛んでくる。
「わっ……?」
「アホか、てめーは。今が絶好のチャンスだろうがよ!」
「かっちゃん!?」
かっちゃんは、いつもの不敵な笑みを浮かべて犯人を見据えていた。
かっちゃんが麗日さんに浮かせるよう言うと、麗日さんがかっちゃんにタッチする。
その途端、掌で爆発を連発させながら犯人へと向かった。
あっ、そうか……!
犯人が檻から出ている。
捕まえるなら、今がチャンスだ!
轟くんが犯人目がけて右足から氷を放つ。
氷は、あっという間に犯人の足元を氷結させた。
「僕達も行こう!」
飯田くんに促されて僕も立ち上がると、麗日さんが僕達を浮かせる。
飯田くんと一緒に、僕も檻へと飛ぶ。
轟くんと常闇くんも、それに続いた。
だけど、かっちゃんが男に掴み掛かろうとした、その時だった。
「「「「「っ!?」」」」」
無数の氷の弾丸が、僕達の方へ飛んでくる。
見ると、男の足を覆っていた氷はいつの間にか消えていて、男の隣には氷の弾丸を生成している氷叢さんがいた。
氷がなくなって自由になった男は、かっちゃんの攻撃を躱した。
「ちっ……!」
「氷叢さん……!? なんで……!」
『イッタダロウ。コノコハニドトキミタチノモトヘモドラナイト。リッカチャンハ、サイミンジュツデボクノナカマニナッタンダ。キミタチニ、ダイジナクラスメイトヲキズツケラレルノカナ?』
男の不穏な発言に、僕は自分の詰めの甘さを責めた。
くそっ、なんでその可能性を想定してなかったんだ……!!
僕達にとって、考えうる最悪な状況は二つ。
ひとつは、人質にされたお母さん達や氷叢さんが
もうひとつは、お母さん達や氷叢さんが、
「氷叢くん!! バカな真似はやめて、こっちに戻ってくるんだ!!」
「氷叢、敵の邪心に飲み込まれるな……! 己を強く保て!」
「氷叢、聴こえてるか!? 俺達のことがわからないのか!?」
飯田くん、常闇くん、轟くんが氷叢さんに呼びかけるけど、皆の声は氷叢さんには届かなかった。
氷叢さんが、男を庇うように立つ。
近づけば攻撃すると言わんばかりだ。
氷叢さんが邪魔で、お母さん達を救出できない。
かといって、氷叢さんを攻撃するわけにはいかないし……どうすれば……
僕達が二の足を踏んだその時、かっちゃんが叫ぶ。
「クソ
かっちゃんは、近接だと不利だと踏んだのか、一度距離を取ってから氷叢さん目掛けて爆破を放つ。
氷叢さんは、掌から冷気を出してかっちゃんの爆破を相殺した。
「かっちゃん!?」
「爆豪くん、なんてことを……!!」
「やめろ爆豪、氷叢は
「んなこと知るか!!」
氷叢さんを攻撃しようとしているかっちゃんを飯田くんと轟くんが止めようとすると、かっちゃんが反論した。
「俺はクソ
そう言ってかっちゃんは、もう一度氷叢さんを吹き飛ばそうとする。
……そうだ、今最優先にやらなきゃいけない事は、お母さん達を救け出す事。
こんなところで立ち止まってる場合じゃない。
氷叢さんは、背後に魔法陣みたいな氷の結晶を展開して、そこから無数の氷の弾丸を放ってくる。
轟くんは左側の炎で弾丸を燃やし尽くし、脚を振るって起こした旋風で弾丸を吹き飛ばし、常闇くんは
「今だ、緑谷くん!!」
飯田くんの声を合図に、右拳を振りかぶる。
氷叢さんを、止めて、救ける……!!
『ワン・フォー・オール・フルカウル』……30%……!!
「『デトロイト・スマッシュ』!!!」
僕は、拳から放った衝撃波で、残りの弾丸を全て吹き飛ばした。
そしてその勢いのまま、衝撃波が氷叢さんの方まで飛んでいく。
氷叢さんは、咄嗟に氷の壁を出して衝撃波を防ごうとする。
彼女なら、今の衝撃波も防いでしまうだろう。
だから……
「死ねェ!!!」
衝撃波を追い風にして氷叢さんの背後を取ったかっちゃんが、最大級の爆破を氷叢さんに浴びせた。
氷叢さんは、防御が間に合わずに、吹き飛ばされて穴へと落ちていく。
『ナッ……!?』
「てめぇもだ、黒ずくめ野郎!!」
『クッ……!!』
落ちていく氷叢さんに男が驚いている隙に、かっちゃんは男を取り押さえた。
僕は、落ちていく氷叢さんを掴むと、そのままお母さんのもとへ向かった。
穴の底からの炎に炙られながら辿り着いた僕に、お母さんが駆け寄る。
「出久!」
「お母さんっ、大丈夫!?」
慌てて頷くお母さんに頷き返して、氷叢さんを地面に下ろしてから、すぐにかっちゃんの元へ駆け寄る。
「かっちゃん!」
かっちゃんは掌から爆発を起こしながら、犯人を地面に押しつけていた。
檻から出てきた光己おばさんが、感動の対面も忘れて食ってかかる。
僕がその光景に苦笑したその時、かっちゃんが押さえていた犯人が口を開く。
『アマイナ。テキヲツカマエタカラッテ、アンシンシテイイノカナ』
「えっ……?」
犯人の意味深な発言に、ふと、穴の中を覗く。
見ると、無数の氷の粒が今にも炎の中へ落ちようとしていた。
「まずい……!!」
僕がその腕を伸ばす前に、氷が炎の中へ落ちた。
直後、凄まじい爆発が起こった。
そして檻が乗っているリンゴの芯のような地面が揺らぐ。
「な……っ!?」
「何した、てめえ!」
かっちゃんが犯人に詰め寄る。
『イッタダロウ? ナカヨクイッショニジゴクイキダ』
犯人の言葉に、僕はようやく犯人の狙いに気づいた。
犯人は、自分が捕まる事を想定して、最後の悪足掻きを氷叢さんにやらせたんだ。
氷叢さんは、僕達が犯人とお母さん達に気を取られている隙に、氷を炎の中に投げ込んだ。
炎の中に落ちた氷が熱で融けて、ガソリンを吹き飛ばしながら急速に膨張し……
「水蒸気爆発か……!! うわっ……!」
そう言った飯田くんが、揺れる地面にバランスを崩す。
穴の向こうでは、八百万さんが作り出したであろう消火器で、麗日さん達が炎を消そうとしている。
でも焼け石に水だ。
大きく傾く地面に、保護者達から悲鳴が上がる。
するとその時、轟くんが穴の向こうへと氷を伸ばす。
だけど塔を繋ぎ止めている氷は、炎でどんどん融けていく。
飯田くんがお母さん達を避難誘導をするけど、その間にも塔は崩れてしまいそうだ。
その時、お母さんが涙をこらえながら、僕を見た。
「出久……っ」
「っ……」
大切な人を守れずに、何がヒーローだ……!!
お母さんの顔を見て、僕は震えそうな口元で笑った。
「──大丈夫だよ、絶対救けるから」
「出久……」
どうすれば皆を助ける事ができるか、僕は必死に考えた。
その時、轟くんの氷が目に飛び込んできて、僕の頭にある考えが浮かんだ。
八百万さんに大きなシートか何かを作ってもらって皆をその上に乗せて、氷の橋の上を滑り台のように滑れば、皆を助けられるかもしれない。
八百万さんに造ってもらって麗日さんに浮かせてもらったシートを、瀬呂くんのテープでこっちに射出して、そこに皆を乗せる。
全員がシートに乗ると、飯田くんが前からシートを引っ張ってくれた。
僕達も、飯田くんの全速力に負けないように、シートを後ろから押す。
だけど飯田くんが向こう岸に辿り着いた瞬間、塔が崩れた。
足場を失った僕達は、必死にシートにしがみつくしかない。
その拍子に、僕のポケットから手紙が落ちた。
羽のように舞い上げられながら、手紙は燃えて消えていく。
立ち上る炎に飲まれそうになる瞬間に、引き上げられる。
でも、その反動で汗で手を滑らせたのか、シートの端にいたお母さんの体が弾かれるように宙に浮いた。
「キャ……!?」
「お母さ……!」
投げ出されかけたその時、いつの間にかお母さんの後ろにいた犯人が、それを咄嗟につかんで引き戻す。
瞬きの間の出来事に気づいたのは、僕とお母さんだけだった。
その一瞬後、全員を乗せたシートは無事、こちらの地面に着いていた。
「助かった……」
そう呟く僕に、お母さんが駆け寄ってくる。
「大丈夫!? 出久……っ」
「お母さんこそ……っ」
また心配させちゃった……
……あっ、そうだ、犯人……!
「犯人は……っ」
犯人は、少し離れて立っていた。
『オメデトウ、コレデ、ジュギョウハオシマイダ』
「は?なに言って……」
「捕まえとけ、とりあえず学校に知らせねえと……!」
「それに氷叢と相澤先生を──」
全員が顔面蒼白になる中、聞き慣れた無気力そうな声が聞こえてきた。
「はい、先生はここです」
「……は?」
倒壊したビルの陰から出てきたのは、普段通りの相澤先生だった。
僕達が呆気に取られていると、お母さん達と一緒にいたはずの氷叢さんが、ケロッとした様子で起き上がって歩いてくる。
「あー、おもしろかった」
「「「「はあーーーーーー!!?」」」」
◇◇◇
その姿に、僕達は目を丸くする。
飲みこめない事態に、皆がそれぞれ困惑する中、さっきまで怯えていたはずのお母さん達が和気藹々と話し出した。
ポカンとしたままの僕達の顔に、相澤先生が言う。
「まだわからねえか? わかりやすく言うとドッキリってヤツだな」
「じゃあ六花ちゃんは……!?」
「もちろん
「「「「はー!?」」」」
僕達の叫び声が、模擬市街地全体に響く。
犯人も、劇団の人らしい。
『オドロカセテゴメンネ?』
犯人役の人は、黒マスクマント姿で可愛らしく首をかしげた。
皆が不満そうに声を漏らす中、八百万さんがやりすぎだと抗議する。
すると相澤先生が、万が一に備えてあると言った上で続けた。
「……怖かったか? 家族に何かあったらと」
相澤先生曰く、身近な家族や友達の大切さは、口で言ってもわからない。
それを僕達に学んでほしかったという事らしい。
親が命の危険に晒され、友達が敵に取り込まれても、ヒーローに大事な判断力を保つ事ができるか、それを学ぶ為の授業だったという。
だけどその後で、今回のやり方は色々と不合理だったと説教が始まった。
でも「色々言いたいことはあるが……まぁギリギリ合格点だ」という言葉に、僕は思わず頬を緩ませた。
「今日の反省点をまとめて、明日提出な」
相澤先生がそう言った時、飯田くんが感謝の手紙は虚偽だったのかと食い下がると、相澤先生が手紙を書く事で普段より家族の事を考えたはずだと反論する。
食い下がった飯田くんが相澤先生の言葉にあっさりと深く納得した時、授業終了のチャイムが鳴った。
「それじゃ、今日はこのまま解散。保護者の皆様、ご協力ありがとうございました」
相澤先生の礼に保護者が礼を返して、皆が保護者の元へ向かう。
僕もお母さんのもとへ向かった。
僕を騙していた事を申し訳なさそうに謝るお母さんに、僕は苦笑して首を振る。
紺色のスーツを見ると、ところどころ汚れている。
だから、汚れが目立たない、って言ってたんだ。
僕もまだまだだなぁ。
なんて考えながら、不甲斐なさを感じてため息をつく。
「……でも、『大丈夫だよ、絶対救けるから』って言った時の出久、本当のヒーローみたいだったよ……!」
そう言って、目を潤ませながら微笑むお母さん。
少しは、安心させる事ができたかな……?
……あっ、そうだ手紙……
手紙じゃなくても、ほんの少しでも伝えなきゃ。
僕は、お母さんへの感謝の気持ちを、自分の言葉で伝えた。
するとお母さんは笑って、ずっと見守ってると言ってくれた。
今日の夕ご飯はカツ丼にしよう、なんて話をしながら、僕達もバス停に向かって歩き始めた時、少し離れて立っていた犯人役の人にお母さんが気づく。
お母さんが犯人役の人にお礼を言ったので、僕もそれに続いて頭を下げる。
僕は、当然の事をしたまでだと笑ってみせる犯人役の人を見上げた。
この人、もしかして……
僕は、お母さんを先にバス停に向かわせてから、犯人役の人をじっと見上げながら、口を開く。
「……あの、もしかして……オールマイト?」
『……ヨクワカッタネ、ミドリヤショウネン』
そう言いながら辺りに人がいない事を確認して黒マスクを外した男は、トゥルーフォームのオールマイトだった。
オールマイト曰く、教師陣の中ではこの姿が一番皆に気付かれにくいからという事で、犯人役を引き受けたらしい。
僕がオールマイトだと気づいたのは、お母さんを助けてくれた時の犯人役の人が、本物のヒーローに見えたからだ。
あの時オールマイトが助けてくれなかったら、今頃お母さんは……
自分の不甲斐なさを身に染みて感じていると、オールマイトは、僕に「謙虚も度がすぎるとイライラするぞ!」と全然アメリカンじゃないアメリカンジョークを言ってから、「敵として苦しめられた」と称賛してくれた。
オールマイトの賛辞に、滝のような涙が溢れ出た。
僕は泣きながらも、ニッと笑った。
いつか、誰かを救けるヒーローのように。