六花 side
バクゴーさんがうるさくしてファミレスを追い出された後、私達は別のファミレスで勉強会をした。
バクゴーさんの雑な教え方のせいでエージさんは苦戦してたけど、なんとか赤点の危機からは抜け出せそうだった。
私は、バクゴーさんに「勉強以前の問題」って言われて、エージさんが勉強を教えてもらっている間にひたすら演習問題を解く練習をさせられた。
集中力が切れそうになる度に教科書でバシバシ頭を叩かれていたかった。
おかげで、演習問題は安定して8割くらい解けるようになったけど……
「ありがとな、爆豪!!」
「てめェ、これで赤点だったらタダじゃおかねえからな」
「おうよ!」
バクゴーさんが頬杖をつきながら言うと、エージさんがぐっと親指を立てて笑いながら頷く。
私も、赤点にならないようにがんばらなきゃ……
そう考えていると、ふと中学の頃の出来事を思い出した。
――氷叢さん、こんな簡単な問題も解けないの?
――おい氷叢、中学生にもなってなんだこのきったねぇ字は? 幼稚園からやり直してきたらどうだ?
――氷叢さんさぁ、もう質問しに来るのやめてくんない? やる気ない人に教えたって意味ないじゃん。
私は、中学校の頃のテストでいつもビリだった。
たくさんミスしちゃったり、字が汚いって言われて、がんばって直そうとしたけどダメで、先生には努力不足だって怒られた。
みんなが当たり前に出来る事が私だけはできなくて、いっつもみんなにメイワクかけてばっかりだったから、そのうちいじめられるようになった。
雄英に行きたいって言った時も、「お前には無理だ」って笑われた。
雄英に入って、みんなと一緒にがんばって勉強してきたけど、それでもダメだった。
せっかくバクゴーさんに勉強教えてもらったけど、もし次もダメだったら……
「……あの、バクゴーさん」
「あぁ?」
「んと……私ドジだから、今回も赤点になっちゃうかもしれないですけど……そしたら、合宿のお話きかせてください」
赤点は嫌だけど、今までがんばってもダメだったから、次もダメかもしれない。
そう考えていたら、バクゴーさんは、私の頭をまた教科書で叩いてきた。
「あだっ!」
「始まってもねーのにウジウジうぜェんだよ! そんなだからビリになるんだろうが!!」
「う……」
「チッ、めんどくせぇ……」
バクゴーさんは、舌打ちをするとおもむろに席を立った。
しばらくして、バクゴーさんが何かを持って戻ってくる。
「ホラよ」
バクゴーさんが、何かを乱暴に投げ渡してきた。
それは、オールマイトの消しゴムだった。
「バクゴーさん……これ……まさか盗「ちげぇわアホ!!」
あ、良かった……
盗ってきたわけじゃないんだ……
「てめェ、集中力がクソだからしょうもねぇミスするんだろ。だったら本番はそれ持っとけ」
「え……?」
「何が『赤点は嫌』だ、そんな舐めた考えで点取れるわけねぇだろうが! 殺す気でやるンだよ。それ持ってる間は、ガチでクソ問ぶっ殺せ!」
クソ問を、ぶっころす……
「……ありがとうございます」
「くっ……! 爆豪お前漢らしいな……!!」
「ざけんなクソ髪! 赤点のクソカスに勝ったところでゴミなんだよ!!」
◇◇◇
1週間はあっという間に過ぎて、期末テスト当日。
まずは、三日間に分けて行われる筆記試験。
四日目に、実技試験が行われる。
「……よし、お前ら余計なものは片付けたな。始め!!」
相澤先生の合図と同時に、問題用紙と解答用紙に目を通す。
だけどその瞬間、目の前がぐにゃりと歪んだ。
手汗が溢れて、うまく鉛筆が握れない。
周りの書いてる音とか時計の針の音がうるさく聴こえる。
ダメだ、私やっぱり……
「ぁ……」
だけどその時、ふと消しゴムが目に留まる。
バクゴーさんがくれた、オールマイトの消しゴム。
それを見た瞬間、バクゴーさんに言われた言葉を思い出した。
――殺す気でやるンだよ。それ持ってる間は、ガチでクソ問ぶっ殺せ!
「クソ問を、ぶっ殺す……」
私は、バクゴーさんに教科書で頭をバシバシ叩かれながら演習問題を解いた時の事を思い出した。
……大丈夫。あの時と一緒だ。
あの時教えてもらった事が、ちゃんと書いてある。
ガチで、クソ問をぶっ殺す……!
「はふっ……」
……ふぅ、なんとか全部埋められた。
三日間かけて行われたテストは、一応全部埋められた。
これで、確実なバツは避けられた。
あとでバクゴーさんにお礼言わないと……
「ありがとー、ヤオモモー!」
「とりあえず全部埋めたぜ!」
「まあ、お役に立てて何よりですわ!」
ミナさんとデンキさんも、モモさんの勉強会のおかげで全部埋められたらしい。
あとは、実技試験を受けるだけだ。
◆◆◆
No side
そして、演習試験当日。
相澤をはじめとする教師陣の前には、コスチュームに身を包んだ六花達が並び立つ。
「それじゃあ演習試験始めていく。この試験でも勿論赤点はある。林間合宿行きてぇならみっともねぇヘマはするなよ」
「先生多いな…?」
「5…6……8人?」
耳郎がふと疑問を抱き、葉隠が教師陣の人数を数える。
「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々分かってるとは思うが…」
「入試みてぇなロボ無双だろ!!」
「花火! カレー! 肝試ーーーー!!」
相澤の説明が終わらないうちに、上鳴と芦戸が調子に乗ってはしゃぐ。
だが……
「残念!! 諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
相澤の捕縛武器がモゾモゾと動いたかと思うと、根津校長がヒョコッと飛び出しながら言った。
それを聴いた上鳴と芦戸は、絶望の表情を浮かべる。
「校長先生!」
「変更って…」
瀬呂と八百万が尋ねると、校長が相澤の捕縛武器を使って下へと降りながら説明をする。
「それはね…」
◆◆◆
相澤 side
俺は、期末前の職員室での会議の内容を思い出した。
「
「もちろんそれを未然に防ぐことが最善ですが、学校としては万全を期したい。これからの社会、現状以上に対
「無視しときゃいいんだそんなもん、言いたいだけなんだから。だから不合理なんだよ」
「これからは、対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!」
◇◇◇
「というわけで…諸君らにはこれから
校長が説明すると、麗日が目を見開く。
「先…生方と…!?」
「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度………諸々を踏まえて、独断で組ませてもらったから発表してくぞ。轟と八百万がチームで、俺とだ」
「「!!」」
俺が捕縛武器を握りしめながら発表すると、二人の表情が僅かに強張る。
「そして緑谷と爆豪がチーム」
「デ……!?」
「かっ…!?」
俺が指名すると、爆豪と緑谷は同時に目を見開く。
「で…相手は──…」
「私がする!」
二人の前に、オールマイトさんが立ちはだかる。
「協力して勝ちに来いよ、お二人さん!!」
オールマイトさんが言うと、二人は互いの顔を見合った。
それから、次々と組み合わせを発表していく。
最終的な組み合わせは、以下の通りになった。
対戦カード
第1戦 セメントス VS 切島・砂藤
第2戦 エクトプラズム VS 蛙吹・常闇
第3戦 パワーローダー VS 飯田・尾白
第4戦 イレイザーヘッド VS 轟・八百万
第5戦 根津校長 VS 芦戸・上鳴
第6戦 プレゼント・マイク VS 口田・耳郎
第7戦 スナイプ VS 障子・葉隠
第8戦 ミッドナイト VS 瀬呂・峰田
第9戦 オールマイト VS 爆豪・緑谷
「……あれ?」
「先生! 私と六花ちゃん、まだ呼ばれてません!」
まだ名前を呼ばれていない氷叢が首を傾げ、麗日が挙手をする。
それもそのはず、氷叢と麗日の試験はちょっと特殊だからな。
「最終戦は、氷叢と麗日がペアだが……お前らに関しては、相手は俺達教師じゃない」
「「……?」」
「お前らには、特別ゲストを呼んである」
俺がそう言うと、後ろからザッと足音が聴こえる。
その人の姿を見て、クラス全員が目を見開いた。
◇◇◇
数日前の、期末試験の組み合わせ決めの職員会議にて。
「組の采配についてですが……まず芦戸・上鳴の二人。良くも悪くも単純な行動傾向にありますので……校長の頭脳でそこを抉り出して頂きたい」
「オッケー」
俺が言うと、校長が資料を読みながら頷く。
「轟。一通り申し分ないが、全体的に力押しのきらいがあります。八百万は万能ですが、咄嗟の判断力や応用力に欠ける…よって俺が“個性”を消し、近接戦で弱みを突きます」
「「「異議なし!」」」
俺が二人の相手に名乗り出ると、他の教師陣が快諾する。
そして次に、オールマイトさんに対して言った。
「次に緑谷と爆豪ですが…………オールマイトさん頼みます。この二人に関しては能力や成績で組んでいません… 偏に仲の悪さ!! 緑谷のことがお気に入りなんでしょう? 上手く誘導しといてくださいね」
俺が釘を刺すと、オールマイトは少し気まずそうな様子で頷く。
その後も、それぞれの生徒の弱点になるような教師を采配した。
近接短期決戦型の切島・砂藤には、遠距離持久戦型のセメントス。
近接が弱い常闇には、間合に入り込めるエクトプラズム。さらに、常闇のペアには、特に課題が無く味方のサポート力が試される蛙吹。
安定した足場で機動力を発揮する飯田・尾白には、不安定な地形を生み出せるパワーローダー。
音に関する“個性”の口田・耳郎には、音響系ヒーローの中ではプロの中でもトップクラスの
索敵や隠密行動に長けた障子・葉隠には、正確な射撃能力を持つスナイプ。
拘束系の“個性”を持つ瀬呂・峰田には、拘束された状態でも敵を封殺できるミッドナイト。
「そして最後、氷叢。奴は戦闘
一応俺が他の教師陣に尋ねると、全員押し黙る。
中には目を逸らしたり、咳払いをする奴もいる。
やっぱりこうなるか……
そんな中、
「13号、お前『ブラックホール』でどうにかできねぇの?」
「いや、その前に凍らされたら、いくら僕でも……!」
確かに、何でも吸い込む13号の“個性”は、氷叢にとっても脅威になる可能性はある。
だが、13号の攻撃範囲は指先の射線上だけで、加えて本人の戦闘力はさほど高くない。
氷叢の“個性”で容易に完封されるのが目に見える。
「それこそあなたの出番なんじゃないの? 相澤くん」
「俺じゃありませんよ……奴は、轟よりも機転の利く立ち回りができますし、ミルコのもとで近接格闘の技術を身につけています」
確かに、この中で氷叢に勝てる可能性があるのは、俺かオールマイトさんくらいだろう。
だがあいつは、“個性”抜きの近接戦を弱点としていない。
氷叢への対策という理由だけで俺が相手をするくらいなら、轟や八百万に課題を克服させるべきだろう。
奴への対策に気を取られて他の生徒への指導がおざなりになるようじゃ本末転倒だ。
オールマイトさんは爆豪と緑谷で固定だし、こうなるとあいつの相手ができる教師がいない。
そんな中、オールマイトさんがしばらく考え込んでから、おもむろに口を開く。
「……いや、一人だけいる」
オールマイトさんの発言に、教師陣が一斉に彼に注目する。
オールマイトさんの発言の意図が読めず、
「いやいや、オールマイト! たった今、氷叢を相手取れる教師がいねーって話になったでしょ!?」
「ああ、いや……雄英の教師ではないんだけどね?
オールマイトさんのその発言に、その場にいた全員がハッとする。
あいつの弱点を突けるかもしれないヒーローが、日本に一人だけいる。
その事にいち早く気付いた校長が、少し考え込んでからスマホを取り出す。
「なるほど、彼なら……もしかしたら、あるかもしれないね。早速掛け合ってみるよ」
そう言って校長が、そのヒーローに掛け合ってくれた。
地声が大きいからか、スピーカーをオンにしなくても会話の内容がハッキリ聴こえる。
『期末試験の試験官になれだと? 生憎俺は
「そこをなんとかお願いするのさ! 実は、ウチには氷叢くんの相手ができる教師がいなくて困っているのさ。だから君にお願いしたいのさ」
『……何? オールマイトでもダメなのか?』
「ああ、オールマイトでもダメさ。君じゃなきゃ相手にならないのさ!」
『……フン、情けない奴らだ。そういうことなら仕方あるまい』
校長の巧みな話術で言いくるめられ、彼は期末試験の日だけ特別講師として来てくれる事になった。
それにしても、『オールマイトでもダメ』の一言だけでやる気になるとは……
この人、案外チョロいのでは……?
◇◇◇
「ってなわけで、氷叢、麗日。お前らの相手は──…」
「俺がする」
そう言って、一人の男が氷叢と麗日の前に立ちはだかる。
「「「「「えっ……エンデヴァー!!?」」」」」
そう、この人こそ、フレイムヒーロー《エンデヴァー》だ。
「親父……!?」
「嘘やろ、なんでエンデヴァーが……!?」
「あ、くさいおじさん……」
轟や麗日が愕然とする中、六花は一人だけ天然発言をかました。
するとエンデヴァーが、威圧するような目で六花と麗日を見ながら言い放つ。
「氷叢くんと、麗日くん……だったな。学生だからと容赦はしない。本気でかかってこい」
エンデヴァーの威圧感に顔を強張らせる麗日に対し、六花は冷静にエンデヴァーを見据えていた。
こうして、最後の対戦カードが揃った。
第10戦 エンデヴァー VS 麗日・氷叢
というわけで、六花ちゃんの相手はエンデヴァーです。
初期案では13号先生が相手だったのですが、六花ちゃんは時に何の条件も無しに遠距離にいる敵を凍らせる事ができるので、13号先生が六花ちゃんに凍らされてカフスをかけられる未来が見えたのでボツにしました。
ちなみに期末は原作と同じ一斉スタートです。
てかアニメの順番にスタートする方式って、前半の組ほど不利になる上に、めちゃくちゃ効率悪いですよね。
1組あたりの制限時間が30分。
前の組の終了と後の組の開始が同時だったとしても、30分×10組で5時間。
さらにB組も同じ試験方式なら、5時間×2で10時間。
どう考えても拘束時間長すぎですね、ハイ。
A組とB組の試験をシフト制で同時にやって試験時間を5時間に短縮したとしても、2年生や3年生はどうするつもりなんだろうか?