第40話 氷叢さんと殺人事件?
No side
雄英高校は夏休みでも訓練を望む生徒に向け、特別講習を行っている。
今日はその二日目だった。
教室には、上鳴、切島、常闇、葉隠、六花、峰田、八百万の七人が集まっている。
相澤が、教卓の前に立って講習の内容を説明する。
「この講習は少人数で何回かに分けてやるぞ。今回はこの7人だ。言っておくが通常の授業よりハードになる。覚悟しておけ」
相澤がそう言うと、全員の顔に緊張が走る。
すると相澤が、講習の内容を説明し始める。
「特別講習の内容だが、対
「「ものすごくヒーローっぽいのキタァ!!!」」
上鳴と切島、そして葉隠がはしゃぐと、相澤が睨む。
すると全員が一瞬で黙った。
相澤は、そのまま六花達に説明を続ける。
「当たり前のことだが、
相澤が言おうとしたその時、後ろのドアが勢いよく開く。
「後ろのドアから私が来た!!」
笑いながら現れたのは、オールマイトだった。
「オールマイトぉ!」
「今日も画風が違ぇ!」
「HAHAHAHAHA!!!」
切島と峰田がオールマイトの登場を喜ぶと、オールマイトは高笑いする。
「オールマイトだけじゃない。セメントス、ミッドナイト、プレゼントマイク。彼らも特別講師として参加してもらう」
「では訓練を始める。全員グラウンド・βに集合しろ」
相澤が指示を出すと、六花達はテキパキと準備をしてグラウンド・βに向かった。
◇◇◇
六花は、指示通りコスチュームに着替えてグラウンド・βに集まっていた。
六花達が、曲がり角の影から現場の様子を窺う。
「お巡りさんの看板が立ってる」
「ここが事件現場ですわね……」
葉隠の発言に、八百万が頷く。
現場となる宝石店の前には、警察官のパネルがいくつも立っている。
「現場の状況を知らせておく。
「あのぉ、先生。この訓練って……」
「質問は受け付けん。状況を自分で確認し事件を解決しろ」
「「「……はい!」」」
相澤が六花の質問を遮って言うと、全員が揃って返事をした。
「それでは捕縛訓練を開始する」
相澤が言うと、開始のブザーが鳴る。
「……なぁ、どうする?」
「まずは現場の様子を把握するのが先決ですわ」
「あ、私、確認してくるよ!」
八百万の案にいち早く賛成し名乗りを上げたのは葉隠だ。
他人から姿が見えない彼女は、このような潜入捜査にはうってつけだ。
八百万が“個性”で小型無線を創造し、葉隠は小型無線を耳に装着した。
そして峰田の『もぎもぎ』をもぎって両手に持つと、常闇が
「行け、
「アイヨ!」
そして、窓から中の様子を確認すると、小型無線で状況を知らせる。
『
「葉隠さん、そのまま索敵を続けていただけますか?」
『わかった!』
するとその時、店のドアのガラス越しに、
「オールマイト…じゃねぇ、
「外にヒーローがいないか確認してんのか……」
救助訓練の時と同じ仮面をつけたオールマイトを見て、切島と上鳴が口を開く。
「どうする?」
「そうですわね……下手に動くと、
常闇が尋ねると、八百万が作戦を考える。
するとその時、六花が手を挙げて言った。
「……あの、このまま正面突破しちゃえばよくないですか?」
六花の提案に、五人が目を点にする。
「くっ……! 氷叢お前漢らしいな!」
「感心してる場合かよ!
感心している切島に対して、峰田がツッコミを入れつつ六花に詰め寄って問い詰める。
だが六花は、いつもと変わらない態度で言ってのける。
「私なら、人質に危害を加えられる前に助け出せますし……時間無いんで突入しますね」
「「「あーーーー!!」」」
思い切って突入しようとする六花を、他の五人が慌てて追いかける。
だが、その時だった。
「皆、大変!!」
ビルの外壁から索敵していた葉隠が、六花達に向かって叫んだ。
「
「「「!!?」」」
葉隠の報告に、他の六人が目を見開く。
「とりあえず、突入すんぞ!」
「お、おう……!」
「おい待てよ、置いてくなよぉ!」
六花達は、右往左往しつつも宝石店の中へと飛び込んだ。
その瞬間、葉隠が言った通りの光景が目に飛び込んでくる。
「マジかよ……!」
「ヴィ……
「葉隠さん、
「わかんない! 急に煙みたいなのが出て、何も見えなかった!」
「血の混沌……」
血を流して倒れている
だがその時、六花がボーッとして歩いていたせいで、
「ぁ痛!」
「あ、すみません……」
六花が誤ってオールマイトを蹴ると、オールマイトが痛そうに声を上げるので、六花は咄嗟に謝る。
「凶器は血のついたナイフ…」
「現場は警察官に包囲され、人の出入りがなかったと仮定すると…
「じゃあ人質に話を聞かなきゃ!」
「……おい、なんか始まったぞ」
すっかり設定に入り込み、真面目に考察する常闇と八百万。
さらに葉隠が事情聴取をしようとすると、峰田が真顔で言った。
石山堅(28)
雄英ジュエリー店員
「私はこの宝石店の店員です。いきなりやってきた
香山睡(31)
大手広告代理店勤務
「私はアクセサリーを買おうとこの店に入ったら…
山田ひざし(31)
ミュージシャン
「俺はYO! 彼女のYO! 婚約指輪を選んでTA! そしたら
プレゼント・マイクは、一人だけノリノリで素晴らしい体幹の良さを披露するも、全員スルーして事情聴取を続けた。
「
「はい、いました。気絶させられてしばらくは目を覚ましませんでした」
「店に入って来た時、二人はいましたか?」
「入った瞬間は見ていませんが、縛られている時別々の場所で床に座らされている二人を見ました」
「証言に食い違いはない……か」
八百万が何やら
「宝石目当ての犯行、という可能性もありますわね……」
「そっか……二人とも、お財布を見せていただけませんか?」
六花達は、ミッドナイトとプレゼント・マイクの財布の中身を確認した。
ミッドナイトの財布には様々な種類のクレジットカードが、プレゼント・マイクの財布には数百万の現金が入っている。
「うわ、すげぇ大金」
「こっちもカードがいっぱい入ってるよ!」
「宝石を買う資金があったってなると……」
「……宝石目当ての犯行という線は薄いな」
「だぁー、ますますわかんねぇ!」
考えても犯人の動機がわからず、六花達は犯人探しに行き詰まる。
そんな中、常闇が少し考えてから口を開く。
「……犯人が一人だとは限らんぞ」
「そっか、そりゃそうだ!」
「
「だとすると、その会話を人質が聞いているはずだが……」
そう言いながら常闇が人質達を見ると、人質達が順番に答える。
「そんな話聞いてないYO!」
「私もです」
「私も」
人質達は、誰も
「……でも、全員で口裏合わせてたら、証言取っても意味なくないです?」
六花の身も蓋もない発言に、クラスメイトは何も言い返せず押し黙る。
こうして事件はまたしても迷宮入りしてしまう。
そんな中、峰田がやる気なさそうに口を開く。
「なぁ、もうこれ警察に任せた方が良くねぇか?」
峰田がやる気のない声で言うと、切島が反論する。
「でも、もうちょっとで犯人がわかりそうなんだぞ!」
「つったってよぉ……」
正義感を発揮して犯人探しに躍起になる切島に対し、峰田が何か不満を言いたそうにため息をつく。
そんな中、八百万は一人で何かを考え込んでいた。
「……? だとすると、この事件は……」
「ヤオモモどうしたの?」
「……あっ、いえ。犯人はどうして宝石店に籠城したのかと思いまして。宝石が目当てなら、わざわざここまで大ごとにしなくても、宝石を奪ってすぐに逃げれば良かったでしょう?」
八百万の説明に、切島達がハッとする。
言われてみればその通りだ。
するとセメントスが、こうなった経緯を説明する。
「それは、私が
「通報したんですか?」
「私はしてません」
「だとするとミッドナイト先生、警察に通報したのはあなたですわね」
「えっ?」
名指しされたミッドナイトは、僅かに目を見開く。
何かやましい事でもあるのか、目を泳がせながら反論する。
「な、何を根拠に……」
「ミッドナイト先生だけは、
「っ……」
八百万が理路整然と告げると、ミッドナイトが俯く。
すると葉隠が反論した。
「ちょっと待ってよヤオモモ! ミッドナイトは、
「ここからは私の推測になりますが……
「え……?」
「ミッドナイト先生はおそらく、
八百万が説明すると、図星なのか、ミッドナイトの表情が曇る。
すると今度は切島が反論した。
「でも待てよ、だったらなんで
「ええ、ですからミッドナイト先生は犯人ではありませんわ。そもそも、人質の中に犯人はいません。犯人は、自殺したんです」
「え、自殺って……なんでそうなるの!?」
葉隠が疑問を口にすると、八百万が血のついたナイフを見せる。
ナイフの持ち手には、くっきりと指紋がついている。
「
ナイフの持ち手に付着した指紋は、逆手だった。
これこそが、犯人の自殺を決定づける証拠だ。
「
「うっ…うっ……うわあああああ!!」
八百万が言うと、ミッドナイトはその場で崩れ落ちて泣き叫んだ。
「そんなことって……」
「ミッドナイト先生は
「チクショウ、そんなん誰も救われねぇじゃねぇか!」
「……二人の愛が招いたのが、こんな結末とはな」
事件の真相が明らかになり、妙にしんみりした空気に鳴る。
そんな中、その空気についていけない男が二人いた。
「……なにこれ」
「うェからね……」
目の前で繰り広げられる茶番劇に、峰田が真顔で呆れ、途中から事件がややこしくなりすぎて思考を停止した上鳴は、放電していないにもかかわらずアホになっていた。
こうして、夏期講習の演習が終了する。
「よし、そこまで」
「アハッ、面白かった!」
「「「「変わり身早っ!」」」」
相澤先生が終了を知らせると、ミッドナイトは演技をやめて素に戻った。
「三人ともお疲れ様でした。戻ってもらって結構です」
「俺の演技どうだった?」
「少し過激では?」
相澤先生が言うと、三人は解散していった。
プレゼント・マイクが尋ねると、セメントスが呆れながらコメントをする。
一方で相澤は、八百万に話しかけていた。
「八百万。お前の推理は、大体こちらで用意したシナリオ通りだ。現場に残った証拠から、よくここまで辿り着いたな」
珍しく相澤が褒めると、生徒達の頬が緩む。
「……だがお前ら、何か忘れてないか?」
「「「「え?」」」」
相澤の言葉に、全員が振り向く。
そこには……
「あだだだだだだ!! 氷叢少女、ギブ!! ギブ!!」
「「「ええええええ!!?」」」
六花にじわじわと氷漬けにされているオールマイトがいた。
「えっ、嘘でしょ!? オールマイト生きてたの!?」
「つーか氷叢、なんでオールマイトを氷漬けにしてんだ!?」
「いや、オールマイトが普通に動いてたので……」
「マジかよ!?」
「じゃあオールマイトは、別にミッドナイトの為とかじゃなくて、死んだフリして逃げるチャンスを窺ってたってこと!?」
まさかのオチに、生徒達が驚く。
オールマイトは、最初からミッドナイトの為に自殺したのではなく、自殺したフリをして逃げるチャンスを待っていた。
ミッドナイトは、それを自分の為に自殺したと思い込んでいただけだった。
六花が逃げるオールマイトに気づいていなければ、犯人は今頃逃げおおせていたところだろう。
愛ははじめから無かったのだ。
「今日の授業はここまで。教室に戻ってレポート提出しとけ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
相澤が言うと、六花達が返事をする。
授業が終わり、六花は女子更衣室で制服に着替えた。
「何あのひどいオチ!」
「私もすっかり騙されましたわ……」
「……あれ? 何か忘れてるような……」
着替えている途中で、六花が首を傾げる。
「おーい!! 氷叢少女!! これ、解凍してくれない!? というかこれ、忘れられてない…!?」
六花は、オールマイトを氷漬けにしたままだった事をすっかり忘れていたのだった。
もしデク達じゃなくて別のクラスメイトが例の茶番授業を受けていたらって事で書いてみました。
展開が似通っちゃったのは大目に見て下さい。
真面目なヤオモモと切島くんなら真面目に謎解きしそうですし、葉隠さんもノリが良いのでなんだかんだで謎解きに付き合いそうだという事で。
あと、常闇くんはなんとなくミステリーやらサスペンスやらが好きそうなイメージがあったので、今回は割とノリが良い感じになってます。
推理についていけない上鳴と、最初からやる気がない峰田は珍しく常識人枠です。