No side
「ありがとうね、もう戻っていいよ」
タワー最上階に辿り着き、緑谷達が二匹の龍から降りると、六花がここまで全員を運んでくれた二匹の龍の頬を撫でる。
すると二匹の龍の高龗と闇龗は、グルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らし、それぞれ白と黒の雲になって消えた。
そして六花達は、制御ルームに向かって走る。
「メリッサさん、制御ルームの場所は…?」
「中央エレベーターの前よ」
緑谷が尋ねると、メリッサが答える。
六花達は、とうとう制御ルームに辿り着いた。
六花達の目の前には、六花の氷に覆われたコンソールがあった。
あとは氷を解凍して、警備システムを元に戻すだけだ。
だが、それにはひとつ問題がある。
警備システムを元に戻すには、六花が一度凍らせた島内の警備システムを解凍しなければならない。
つまり、警備システムが完全に元に戻るまでの間は、警備マシンや防犯システムが再び六花達に牙を向くという事だ。
六花達が最上階まで来たのは、メリッサが警備システムを元に戻すまでの間、島内の暴走した防犯システムから彼女を守る為だ。
「……これから、セキュリティを解凍します。その間は……」
「わかってる。できるだけ早くシステムを元に戻すわ」
「その間は、僕達がメリッサさんを守ります!」
「……ありがとう、お願いね!」
「「「「はい!」」」」
メリッサが言うと、緑谷達が頷く。
六花は早速、島内の全セキュリティを凍結させている氷を解凍した。
その直後、警備システムが復活し、タワー全体に警報が鳴り響く。
その間にも、メリッサはコンソールを操作し、警備システムのプログラムを書き換えていく。
六花達は、メリッサを守るべく、襲いかかってくる防犯システムに立ち向かった。
「あと少し……!」
メリッサが警備システムの奪還まであと少しというところまで書き換えた、その時だった。
「そこまでだ」
メリッサの後ろから、声が響き渡る。
彼女の後ろには、父親のデヴィットと、その助手のサムが立っていた。
「…………パパ……サムさん……!?」
メリッサは、信じられないと言わんばかりに目を見開く。
それもそのはず、オールマイトからは彼等が
「どうして……どうしてパパがここにいるの!?
メリッサが、思わずシステムを書き換える手を止めてデヴィットに詰め寄る。
するとデヴィットは、俯きながら答える。
「それは……この事件を起こしたのが、私だからだ」
デヴィットが言うと、六花達が目を見開く。
「え……何で……どうして!?」
メリッサが尋ねると、サムが真相を話す。
「博士は奪われたものを取り返そうとしただけです! 機械的に“個性”を増幅させる、画期的な発明を!」
「“個性”の増幅…!?」
緑谷が目を見開きながら言うと、サムが話を続ける。
「ええ、まだ試作段階ですが、この装置を使えば薬品などとは違い人体に影響を与えず“個性”を増幅させることができます。しかし、この発明と研究データはスポンサーによって没収、研究そのものも凍結させられた。これが世界に公表されれば、超人社会の構造が激変する。それを恐れた各国政府が、圧力をかけてきたのです。だから博士は…!」
サムは、研究を取り戻す為の手段をデヴィットに話した。
それは、自分達が雇った
研究を取り戻した後は別の場所で研究を続けるつもりだった。
どんな手を使おうとも、二人は自分達の研究を取り戻したかったのだ。
そして計画の為の準備を整え、タワーの休みとなるI・エキスポのプレオープン、関係者が唯一一堂に会するレセプションパーティーの開催と同時に作戦を開始する事にした。
二人が裏で手引きをし、
「そんな…嘘でしょパパ…? 嘘だと言って…!」
メリッサは、サムの言う事が信じられずに必死にデヴィットに訴えかける。
だがデヴィットは、メリッサから目を逸らしながら言った。
「嘘ではない」
「こんなのおかしいわ! 私の知っているパパは、絶対そんなことしない! なのにどうして!? どうして!?」
メリッサは、大切な人達を巻き込んでまで研究を取り戻そうとするデヴィットの真意がわからず、必死に問い詰める。
するとデヴィットは、絞り出すように言った。
「……オールマイトの為だ」
「え…?」
「お前達は知らないだろうが、彼の“個性”は消えかかっている。……だが、私の装置があれば、元に戻せる! いや……それ以上の能力を彼に与えることができる。No.1ヒーローが……平和の象徴が……再び光を取り戻すことができる! また多くの人達を、助けることが出来るんだ!」
デヴィットは、誇らしげにそう言った。
彼は、古くからの友人であり、平和の象徴であるヒーローとしての『オールマイト』を延命させる事に必死で、その為ならどんな犠牲でも払う気でいた。
緑谷は、オールマイトが自分に“個性”を分け与えたせいで弱体化してしまい、それを憂いたデヴィットが彼の“個性”を取り戻そうとしていると知って罪悪感に苛まれる。
「頼む、オールマイトに装置を渡させてくれ! もう作り直している時間はないんだ! その後でなら、私はどんな処罰でも受ける!」
デヴィットは、メリッサに縋りついて必死に頼み込んだ。
メリッサは、そんなデヴィットを、目に涙を溜めて睨みつける。
「あのぉ……ちょっといいですか?」
ずっと黙って話を聞いていた六花が、手を挙げてデヴィットに話しかける。
「一個確認したいんですけど……メリッサさんのパパさんは、私たちを殺してまでその装置とやらを取り返したかったんです?」
「いや、違う! タワーを占拠したのは、
「おかしいですね……私たち、普通に殺されかけたんですけど?」
「え……!? 殺されかけた……!?」
「ええ、いきなり
「……どういうことだ!?
デヴィットは、話が違うと言いたげな様子でサムを見る。
するとその時だった。
「もちろん芝居をしてたぜ。偽物の
そう言って仮面をつけた大柄な男が、六花達の背後から現れる。
「あいつは……!!」
そこにいたのは、ウォルフラム。
パーティー会場でオールマイト達を捕らえた
「おいサム、装置はまだ手に入れてないのか」
「申し訳ございません……! 邪魔が入ってしまい……」
「チッ……このガキどもの仕業か。やってくれたな」
ウォルフラムに対して、サムが腰を低くして謝罪する。
その様子を見て、デヴィットが目を見開いた。
「サム……! まさか最初から、装置を
「騙したのは、あなたですよ。長年あなたに仕えてきたというのに、あっさりと研究は凍結、手に入れる筈だった栄誉、名声……全て、無くなってしまった……! せめてお金くらい貰わないと、割が合いません!」
「っ……!」
サムが言うと、デヴィットが顔を歪める。
信頼していた助手にそんな風に思われていた事がショックだったと同時に、道を踏み外させてしまった自分に不甲斐なさを感じていた。
「ガキどもは俺が始末する。お前は装置を回収してこい」
「は、はい……!」
「ダメだサム!! アレを
保管ルームへ向かうサムをデヴィットが止めようとすると、ウォルフラムが立ちはだかる。
「お前は俺と一緒に来い。これからは、一生俺と
そう言ってウォルフラムが、銃を向けてデヴィットを脅す。
すると緑谷が、デヴィットを助けようと飛び出した。
「やめろ!!」
緑谷が右の拳を振りかぶって飛び出すと、ウォルフラムが壁に触れて“個性”を発動しようとする。
だがその前に、六花が冷気を放ってウォルフラムの動きを封じる。
「SMAAAAAASH!!!」
ウォルフラムが隙だらけの体勢で動きを封じられたところを、緑谷が『デトロイト・スマッシュ』を喰らわせる。
殴られたウォルフラムは、そのまま数十メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
その直後、六花がすかさずウォルフラムを氷漬けにする。
「くっ……!」
サムは、親玉のウォルフラムが吹っ飛ばされた事で怯みつつも、保管ルームに向かって走った。
だが、彼が保管ルームに辿り着く事はなかった。
「とりゃあああっ!!」
「ぐっ……!!」
「確保!!」
いつの間にかドレスを脱いで臨戦態勢を取っていた葉隠が、サムに飛びつくなり素早く組みついてサムを捕らえた。
緑谷がウォルフラムを殴り飛ばして六花が氷漬けにし、葉隠がサムを捕らえ、メリッサは今も警備システムの奪還を続けている。
六花達の勝利は確実と思われたが……
「ガキどもが、調子に乗りすぎだ……この俺が、何の準備もなくここに来たと思うか?」
「っ!?」
その声に、ゾッと背筋が凍る感覚を抱いた緑谷が振り向くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。
氷漬けにされたはずのウォルフラムが、金属の床を触手のように変形させ、六花の氷を突き破っていた。
それだけではなく、全身の筋肉が赤く光りパンプアップしている。
少なくとも、『金属操作』と『筋力増強』、二つの“個性”を持っているように見える。
その姿を見たデヴィットが、信じられないと言わんばかりに目を見開く。
「関連性のない二つの“個性”……!? まさか……!」
「ああ! この強奪計画を練っている時、“あの方”から連絡が来た! 『是非とも協力したい』と言った。『何故か』と聞いたら、“あの方”はこう言ったよ! 『オールマイトの親友が悪に手を染めるというなら、是が非もそれを手伝いたい! その事実を知ったオールマイトの苦痛に歪む顔が見られないのが残念だけれどね』!」
「『オール・フォー・ワン』……!!」
デヴィットが、ウォルフラムの背後にいる存在に勘づいて慄く。
ウォルフラムの本来の“個性”は『金属操作』だが、オールマイトの宿敵であるオール・フォー・ワンに、『筋力増強』の“個性”を付与されていたのだ。
ウォルフラムが、無数の金属の触手を六花達に向かって伸ばしながら、デヴィットにチラリと目をやる。
「俺と来てもらうぞ、デヴィット・シールド。抵抗すれば、ガキどもを殺──」
『ガキどもを殺す』、そう言い終わらないうちに、ウォルフラムは完全に停止した。
彼の懐にはいつの間にか六花が潜り込んでおり、ウォルフラムに触れて直接体温を奪っていた。
1秒もかからないうちに表面温度は零下100度まで下がり、冷凍されたウォルフラムは物言わぬ氷像と化した。
「チョーシのってるのはあなたのほうです」
六花が、冷たく白い息を吐きながら言い放つ。
するとその直後、タワー内に鳴り響いていた警報が鳴り止む。
「みんな! 島内の警備システムを奪還したわ!」
見るとメリッサが、警備システムの書き換えを終えていた。
メリッサが新たに書き換えた警備システムが起動した事により、氷漬けにされたウォルフラムが捕縛システムで拘束される。
制御ルームの外でメリッサを守っていた麗日達に襲いかかっていた警備マシンも正常モードに戻り、先程までの猛威が嘘のように撤退していく。
その後、捕縛システムから解放されたオールマイト達が駆けつけ、
◆◆◆
デヴィット side
事件が終わった後、私はオールマイトに全てを打ち明けた。
私がI・アイランドに
「そうか、そんなことが……すまないデイヴ、君が私のことでそこまで思い詰めていたとは……」
「トシが謝ることなんか無い。これは私が勝手にやったことだ。君という光に縋るあまり、何も見えなくなっていた……」
オールマイトは、自分のせいで私が悪事に手を染めたと思い、心を痛めていた。
私を責めるどころか責任を感じているオールマイトを見て、私は改めて自分のした過ちの大きさを実感した。
どんな処罰でも受ける覚悟はある。
だが私には、まだやる事がある。
「……トシ。最後にひとつ、やり残したことをしてもいいか?」
私は、保管ルームへと向かい、増幅装置を外に出した。
そして……
「っ…………!!」
思い切って、装置を床に叩きつけて壊した。
これで、世界にひとつしかないこの装置は壊れた。
この装置の開発の第一人者だった私は、これから研究者としての資格を剥奪されるだろう。
これでもう、この装置が世に出回る事はなくなった。
「デイヴ……!? 一体何を……」
「私は、君を助ける為にこの装置を作った。この装置を完成させて君に渡すことが正しいことだとずっと思っていた。だが、今回のことでわかったんだ。悪意のある人間に目をつけられた時点で、こんなものは表に出てはいけなかったんだ」
そう言ってオールマイトに自らの身柄を差し出そうとした、その時だった。
「パパ!」
緑谷くん達と一緒に先に下へ降りたはずのメリッサが、私に駆け寄ってきた。
「メリッサ……」
メリッサは、私の前で足を止め、拳を握りしめながら口を開く。
オールマイトだけじゃない。
私は、娘をも裏切って悲しませ、危険な目に遭わせてしまった。
オールマイトに縋るあまり、一番大事なものさえも見えなくなってしまっていた。
失望されて当然だ。
「……私、パパのしたことは許せない。
「……そうだな。多くの人を巻き込んで、お前を悲しませてしまった。とてもじゃないが許されることじゃない」
「でも私、パパはいつかやり直せるって信じてる。だって、パパの娘だもの」
そう言ってメリッサが、笑顔を浮かべて私の手を取る。
「ちゃんと罪を償って帰ってきて。私、ずっと待ってるから」
「……ああ。約束する」
私は、必ず罪を償って戻ってくると約束し、メリッサを抱きしめた。
「行こう、オールマイト」
私が投降すると、オールマイトが私の肩に手を置く。
そのまま他の
こうしてI・アイランドでの
せっかくここまで来てもらったので、ちょっとだけ葉隠さんを活躍させました。
博士の装置を試す前に六花ちゃんに完封されたウォルフラムさんは泣いていい。
六花ちゃんつおいからしょうがないね。
これにてI・アイランド編はめでたく完結……ではありません。
もう一話だけお付き合いください。