No side
プールでの特訓から数日が過ぎ、林間合宿当日。
「え? A組補習いるの? つまり赤点取った人がいるってこと!? ええ!? おかしくない!? おかしくない!? A組はB組よりずっと優秀なはずなのにぃ!? あれれれれえ!?」
物間が、ここぞとばかりにA組を煽ってくる。
すると六花が、真顔で物間を指差して言った。
「あ、B組の赤点の人」
「ぐはっ!!?」
六花が爆弾を投下すると、物間がダメージを受ける。
「え、A組の君が何故それを……!?」
「えっとぉ……I・エキスポにケンドーさんも誘ったんですけど、赤点の人の宿題手伝わなきゃいけないから行けないってゆわれて……あれ? これ、ゆっちゃいけませんでしたっけ?」
物間がダメージを受けて四つん這いの状態で尋ねると、六花がきょとんとした顔で説明する。
六花は、拳藤経由でB組唯一の赤点が物間だという事を知っていた。
六花の空気の読めない発言に場の空気が凍るが、当の六花は平然としている。
物間が相手を同じ土俵に立たせる為に煽るのに対して、六花は土俵の外から爆弾を投げ込んでくるタイプなので、物間からすればこの上なく相性が悪い。
中間では物間が2点差で六花に勝っていたのだが、六花が頑張った事で期末で逆転され、成績煽りという唯一有効だったカードすらも効き目を失っていた。
「拳藤……何故A組に余計なことを喋ったんだい……?」
「いや、あんたが赤点取ったのが悪いんだろ」
物間が拳藤を問い詰めると、拳藤が正論で返す。
六花の発言は空気が読めていなかったかもしれないが、そもそもの話、赤点を取ってクラスメイトに迷惑をかけた物間が悪いのだ。
「物間怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」
「ん」
柳が物間の態度にドン引きし、取蔭と小大が気さくに声をかけてきた。
峰田は、B組の女子達を性犯罪者の目つきで見ていた。
「よりどりみどり…」
「お前駄目だぞ、そろそろ」
峰田がいやらしい笑みを浮かべながら涎を垂らしていると、切島が注意をした。
「A組のバスはこっちだ、席順に並びたまえ!!」
「いい天気でよかったね!」
「そだな」
「……です」
飯田が先導する中、緑谷が大きなリュックサックを背負い直しながら近くにいた轟と六花にそう言うと、二人はそっけなく答えた。
六花のお気に入りのシマエナガのリュックは、雪代が荷造りをしてくれたおかげでコンパクトにまとまっている。
「B組のバスはこっちだよー。早くしな」
B組委員長の拳藤が声をかけると、 B組生徒もぞろぞろとバスに乗りこんでいく。
「B組も粒ぞろい……」
そんな中で峰田は、バスに乗り込むB組女子達を涎を垂らしながら、息荒く視姦する。
手は出していないが、その顔だけでセクハラで捕まりそうな性欲の権化がそこにいた。
「峰田くん! そっちはB組のバスだぞ。早く席順に並びたまえ!」
峰田の視線の意味など気づかない飯田が声をかける。
脳内セクハラを中断され、峰田は渋々A組バス乗り場に集まった。
「では、みんな席順で乗りこもう!」
飯田が、すっかりフルスロットルモードで提案する。
だがその提案に、不満を漏らしたのは芦戸だ。
「えー、席順じゃなくてもいいじゃん。適当に自由に座ろうよー」
「しかし、席順のほうがスッと座っていけるではないか?」
「だぁって、せっかくの合宿なのにいつもと同じ席順じゃつまんないじゃん」
「芦戸くん、合宿は学校行事なのだから、つまらないとかいう感情は関係ないのでは」
「俺も自由に座りてー」
上鳴も声を上げたのを見て、飯田は少し考えてから口を開いた。
「では、ここは多数決で──」
「いいからさっさと乗れ。邪魔だ」
飯田の後ろから言葉を遮ったのは相澤だった。
その鶴の一声で、A組はさささっとバスに乗り込んでいく。
車内は左右に二席ずつに分かれている、4列シートの典型的な観光バスの造りだ。
「六花ちゃん、あとでお菓子交換しよー!」
「あ……はい……」
葉隠の提案に、六花が小さく頷く。
六花がどこに座ろうかとキョロキョロしていると、隣にいた轟が話しかけてくる。
「氷叢、窓側座っていいぞ」
「あ、ありがとうございます」
六花が窓側の席に座り、その隣に轟も座る。
ちなみに六花と轟の前の席は葉隠と芦戸、後ろの席は蛙吹と麗日だ。
A組の女子は奇数なので、六花だけは男子と隣だが、仲のいい葉隠と蛙吹が前後の席で、ある程度気心の知れた轟が隣なので、六花は特に文句もなく実家のような安心感で座っていた。
「おい轟ィ……女子に囲まれてどんな気分だ? そこ代われ!!」
先に轟にベストポジションを取られた峰田が、血涙を流しながら爪を噛む。
すると相澤が、後ろを振り向きながら“個性”を発動してギンッと睨みつける。
「どこでもいいからさっさと座れ」
右往左往している車内も、またも地を這うような相澤の鶴の一声で収まった。
エンジンをかけたバスが僅かに振動して、それからゆっくりと走り出す。
「1時間後に一回止まる。その後はしばらく…
相澤が、生徒達を振り向いて話そうとする。
だが……
「音楽流そうぜ! 夏っぽいの! チューブだ、チューブ!」
「バッカ、夏といや、キャロルの夏の終わりだぜ」
「終わるのかよ」
「しりとりの『り』!」
「りそな銀行!」
「『う』! ウン十万円!」
一番前の席に並んで座った上鳴と切島がスマホ片手に話す横で、同じく並んで座っている芦戸と葉隠がしりとりをしている。
車内は、まるで小学生の遠足のようなウキウキした賑やかさが充満していた。
「…………」
葉隠の前の席で、あまりの浮かれように相澤が呆れたその時、委員長の使命感を帯びた飯田が立ち上がり叫ぶ。
「おおい、皆! 静かにするんだ! 林間合宿のしおりに書いてあっただろう! いつでも雄英高校生徒であることを忘れず、規律を重んじた行動をとるようにと……!」
だが、その声は騒がしい声に掻き消される。
飯田の隣の席の緑谷が、気の毒そうに飯田を宥めた。
「ま……まぁまぁ飯田くん。それより危ないから座った方がいいよ」
「ム、俺としたことが!」
緑谷が宥めると、飯田が反省して席に座る。
飯田が窓側の席で、緑谷は通路側。
最前列の上鳴と切島の後ろだ。
(まぁいいか……)
相澤は注意するのを諦め、仮眠を取るべく目をつむった。
今注意したところで、そのうちまた騒がしくなるだろう。
元気が有り余った20人の生徒達と、一週間も寝食を共にするのだ。
今から多少の騒がしさに目鯨を立てているようでは、最終日まで体力がもたない。
それに、騒いでいられるのは今のうちだ。
合宿が始まったら、地獄のような特訓が目白押しなのだから。
「お茶子ちゃん、ポッキー食べる?」
「食べるー! 私も飴もってきたの、はい!」
「ありがと」
蛙吹と麗日は、仲良く二人でお菓子を分け合う。
すると前の席の六花が、座席の上から身を乗り出して話しかけてくる。
「私もおかしください」
「いいよー!」
「はいどうぞ」
「……ありがとうございます。お返しにグミあげます」
「わーい!」
「ケロケロ、いただくわ」
蛙吹と麗日からポッキーと飴を貰った六花は、お返しにコーラ味のグミを渡し、
「トールさんとミナさんも、グミたべます?」
「「食べるー!」」
「六花ちゃん、お返しにキャラメルあげるね!」
「アタシもグミあげるー!」
「……ありがとうございます。ショートさんもグミたべます?」
「……貰う」
前の席の葉隠、芦戸とお菓子を交換した六花は、隣の席の轟にも同様にグミを渡す。
蛙吹と麗日の後ろは、爆豪と常闇だ。
爆豪は寝ているが、常闇は気配を消すようにひっそりと瞑想していた。
そして、その列の一番後ろの席は尾白と瀬呂。
その隣の列には峰田と砂藤が座っており、砂藤が差し出したマシュマロを見て峰田がおっぱいを連想する。
峰田の頭は常に性に直結しているようだ。
そんな峰田と砂藤の前には、口田と障子が座っている。
障子達の前に座っている耳郎と八百万は、片方ずつのイヤホンで音楽を聴く。
そんな中六花は、窓の外の景色をぼんやり眺めながら、隣の席の轟に話しかける。
「ショートさん」
「……ん?」
「ん……と……楽しいですね……」
「……おう」
六花が話しかけると、轟は少し戸惑いながらも頷く。
轟は、入学当初から、六花の事を気にかけていた。
最初は母親に容姿と“個性”が似ているからというだけの理由だったが、彼自身、六花には何度も救われた。
体育祭では心を救われ、ヒーロー殺しと戦った時は命を救われた。
そして、母親と腹を割って話す機会を与えてくれた。
ずっと家族以外の人間と接してこなかった轟には、六花の事をどう思っているのか自分でもわからないが、飯田や緑谷に対して抱いている友情とは少し違うような気がする。
そんな六花の関心が別の相手に向いているように見えるのが、少しむず痒く感じる事がある。
「……私、合宿でこんなに楽しいの、はじめてです。中学の頃は、あんまりクラスのみんなと仲良くなかったから……」
それを聞いて、轟は僅かに目を見開く。
「一緒だ」
轟が言うと、六花が轟を振り向く。
雄英に入るまで友達ができず、学校行事を楽しいと思った事がないのは、轟も同じだった。
中学の頃は、父親への復讐に囚われており、学生生活を楽しもうという発想すら無かった。
「じゃあ……お互い楽しい思い出、いっぱい作らないと……ですね」
「……そだな」
少しぎこちないが、お互いマイペースな二人にとっては、このゆったりとしたテンポの会話が一番心地良いのだ。
そんな二人を、通路を挟んだ隣の席の緑谷と飯田が、温かい目で見ていた。
轟と六花が仲良く話しているのを見て緑谷が心がほんわかするのを感じている間にも、前の席の上鳴や切島を中心に、クラスメイトがガヤガヤとはしゃぐ。
だが出発から30分ほど経つと、話の種も尽きてきたのか、バスの中が先程より少し静かになってくる。
そんな中、最後列から声が聴こえてくる。
「なぁお前ら、オイラが面白い話してやるぜ」
最後列に座っていた峰田が、得意げに口を開く。
すると耳郎が、不愉快そうに峰田を振り向く。
「ちょっと、エロ話なんかすんなよ」
「そうですわ、下品な話はおよしになって」
「オイラは面白い話って言っただけですけどぉ?」
「あんたの口から出てくるのは、エロだけでしょーが!」
「そうだそうだー!」
女子達のブーイングを峰田は、小馬鹿にしたような顔で聞き流す。
女子達と峰田の対立を収束させようとした飯田が、精一杯背を伸ばして峰田を振り返る。
「そうだぞ、峰田くん! ここはバスの中だ。聞きたくない者がいる以上、無理矢理話をすることは反対する!」
「委員長……オイラだってTPOを弁える男だぜ。それとも何か? 恐怖政治でクラスを抑えるのが委員長なのか?」
「いいや! そんなことは決してない! 俺は皆の意見を平等に尊重するつもりだ!」
「なら、話してもねえのに止めるっていうのはおかしかないか?」
「ム……それもそうだな。ならば、とりあえず聞いてみようではないか」
真面目な飯田があっさり峰田に丸め込まれると、再び女子達からブーイングが起こる。
そんなブーイングの陰に隠れながら、一部の男子が無言で期待を膨らませていた。
そんな期待を感じ取りながら、峰田は話し始める。
峰田の話は、彼自身が小学生の頃に体験した話だった。
当時からエロ小学生だった峰田は、レンタルビデオ屋で18禁コーナーのカーテンを潜るのを止められた100回目の帰り道、河川敷で官能小説の原稿を拾った。
官能小説の内容は、主人公である未亡人の若妻が借金返済の為に裏社会に身を堕とし、そこでのドロドロした人間模様を綴った話だ。
峰田の無駄に高いトーク力も相まって、つい先程までブーイングしていた女子達までもが話に惹かれていく。
小説の続きが気になった当時の峰田が再び河川敷に行くと、そこには峰田が最初に原稿を拾った時にも見たホームレスのおっさんがいた。
おっさんは、なんとその小説の作者だった。
脱サラして官能小説家の夢を追いかけていたおっさんだったが、当然ながら家族に猛反対され、自信を失くしてホームレス生活をしていたのだという。
夢を諦めようとしていたおっさんに対して、もっとエロい小説を書いてくれと、峰田は涙ながらに説得した。
「それでおっさんは自信を取り戻した。もう一度チャレンジすると言って笑顔で握手して別れた……それから一年後、おっさんは新進気鋭の官能小説家としてデビューしたぜ」
「おおー! すげーじゃん!」
「今度、Vシネで作品が映像化もされるぜ! 18禁コーナーに入るみてーで、オイラが観れるのはまだ先なんだけどな」
おっさんの夢が叶ったと知り、一瞬車内にほんわかした空気が流れた。
だが切島が小さく首をかしげる。
「つ ーかエロ話じゃなかったよな……?」
「何ていうか……微妙にいい話みたいな……そうじゃないような……」
消化不良を抱えた一部の男子が、何とも言えない顔で首を傾げている。
すると葉隠が峰田に声をかける。
「ねえねえ! で、その小説の続きはどうなったの?」
そんな葉隠の声に、とたんに峰田の顔が性欲にまみれる。
血走った目とだらしない口もとでニヤリとゲスく笑って言った。
「……へっ、知りたけりゃ、オイラの家に来いよ。おっさんのサイン本見せてやるぜ」
「うわ、サイッテー!」
あからさまな誘いに、再び女子のブーイングが蘇る。
峰田はブーイングを男の勲章とばかりに涼しく小憎たらしい顔で受け入れる。
そして話し終え満足したのか、勝利の美酒のように、持ってきたジュースをゴクゴクと飲み干した。
そんな中、六花が退屈そうに発言する。
「あの、エロ話はもういいので、ちがう話が聞きたいです」
六花が、峰田の話をエロ話と言い切り、話題転換のきっかけを投下した。
普段から峰田に当たりのキツい耳郎までもが絆された峰田のトークだったが、唯一六花だけは絆されなかった。
良くも悪くもマイペースで無垢な六花は、エロに興味がないのだ。
さらに六花の毒舌は、エロ話をぶっつりと打ち切っただけにとどまらなかった。
「何か面白い話ないですか?」
六花の悪気のない発言に、場の空気が一気に凍りつく。
『何か面白い話して』、それは多くの人間に共通する地雷ワードだ。
特に男子にとっては、これほど女子に言われてプレッシャーになる言葉はない。
話題選びを誤れば、それだけで『つまらない男』という不名誉な烙印を押されてしまう。
しかもクラスで一番強い女子が悪気なく言っているのが余計にタチが悪い。
流石は氷の女、場の空気を凍らせるのもお手のものだ。
だがそんな中で、一人だけ凍りついた空気を変える勇者がいた。
「それじゃ、今度は私が話をするわね。この話をした時、弟が真剣に聞いてくれたの」
「おー、梅雨ちゃんが?」
「ええ」
蛙吹が言うと、切島が興味を引かれたように振り返る。
蛙吹は頷いてから、ゆっくりと話し出した。
「……私がまだ子供の頃の話よ。初めて一人で田舎の親戚のお家へお泊りに行ったの。二つ上のお姉さんがいてね、一緒にきれいな浅い川で水遊びをしたり、セミを見つけたり、ひまわり畑でかくれんぼしたりしたの」
「へえー、いいねぇ」
麗日が理想の田舎の風景を思い浮かべて、頬を緩ませる。
そして他のクラスメイトも、ほのぼのした話のようだと気を楽にした。
「そして遊んでいる内に、同じ年くらいの女の子が『一緒に遊ぼ』って言ってきたの。私はもちろん快諾したわ。だって、皆一緒に遊んだ方が楽しいもの。それに、新しいお友達ができてとっても嬉しかった。でも、その内お姉さんは用事を思い出して、『先に戻ってて』って行ってしまったの」
「えー、梅雨ちゃんを置いて?」
「家はすぐそこだったから。でも、私とその子はまだ帰りたくなかったから、二人で遊んでいたの。その子はとっても元気な子で、私達は日が暮れるまで遊んだわ。流石にもう帰らなきゃって言ったんだけど、その子はまだ遊びたいって言うの」
「子供んときって、無限に遊べるよな」
うんうんと頷く切島に、飯田が少し眉を寄せる。
「しかし、あまり遅くなるとご親戚が心配するだろう」
「ええ、私もそう思ってまた明日って言ったんだけど、その子は遊びたいって泣いちゃったのよ。だから、私、もうちょっとだけ遊ぶことにしたわ。そうしたら、その子、とっても嬉しかったみたいで、秘密の場所に連れていってあげるっていうのよ。蛍がいっぱい見られるんだって」
「蛍か~、幻想的だね」
葉隠がうっとりとして言うと、蛙吹は続ける。
「それでね、その子に手を引かれて山の方へ入っていったの。細い小道。小さな赤い鳥居を潜ったわ。辺りはどんどん暗くなるけど、一人じゃなかったから怖くなかったわ。それでね、しばらく歩いて着いた、その秘密の場所にはとってもたくさんの蛍が舞っていたの。まるで光の雨かと思うくらいだったわ」
「うわぁ見てみたい~!」
蛙吹の優しげな口調も相まって、葉隠がまたしてもうっとりする。
緑深く暗い山の中で、月明かりを凝縮したような小さな光が現れては消える幻想的な光景を想像し、それぞれがうっとりと頬を緩ませる。
マイペースな六花や轟も、先程の峰田の話よりは興味ありげな様子で聞いていた。
「あんまりキレイでしばらく眺めていたと思うわ。そのうちに私を探す親戚の人の声が聞こえてきたの。だから二人で急いで山を下りたの。急ぎながら『秘密の場所、教えてくれてありがとう』ってその子に言ったら、『絶対に秘密ね』って笑ったわ。二人の約束にしたの。それでね、山を出て親戚の人の元へ駆け寄ったわ。お姉さんも泣きながら心配してくれていて……それでお姉さんに聞かれたの。『今まで一人で遊んでたの?』って。私は『この子と一緒だったわ』って振り返ったの。そうしたら……そこには、誰もいなかったのよ」
「「「「「「「え?」」」」」」
最後の一言で一変した空気に、皆の顔が固まる。
「いつの間に帰っちゃったのかしらって思ったんだけど、お姉さんにその子のこと聞いたら知らないっていうのよ。ずっとお姉さんと私の二人だけで遊んでたって」
「それってもしかして……」
「あとから聞いたんだけど、その地域って昔からよく子供が神隠しに遭うんですって。もしかしたら、山で亡くなった子供がお友達を探しているのかもしれないわね。一緒に蛍を見ている時に捕まえようと思ったら怒ってこう言われたわ。『あなたも蛍になっちゃうよ』って……そうそう、次の日にあの場所を探そうとしたんだけど、小道も、小さな赤い鳥居も見つけられなかったわ。あの場所はいったいなんだったのかしら……?」
淡々とした蛙吹の声が、逆に恐怖を煽り立てる。
ホラー系が苦手な耳郎、葉隠、麗日が絶叫する。
「……ひぃ!!!」
「ひぎゃー!!」
「怖い話なら、怖い話って先に言ってぇー!!」
まさかのホラー展開に、女子だけではなく、男子達の顔も青ざめていた。
「これから林間なのに……」
「山、やべぇ……神隠されちゃう……」
「あら? そんなに怖かった? 弟は面白がって聞いてくれるんだけど」
「……ふふっ、ツユちゃんさんのお話、面白かったです」
(((マジかよ!!?)))
他の皆が怖がる中、六花は口元を手で覆いながらクスクスと笑っていた。
氷や冷気を操る“個性”だからか、六花は冷たいものや寒い場所を好む。
話も、背筋が凍るようなものが好きらしい。
「……お前ら、うるさい。もうすぐバス止まるぞ」
目を覚ました相澤の鶴の一声で、バスの中はシンと静かになった。
そしてバスに揺られる事一時間後。
相澤の言葉通り、少しして休憩所も何もないパーキングスペースにバスが止まる。
窓から見える景色は建物など見当たらない、見渡す限りの山ばかりだ。
「さっさと降りろよ」
相澤に促され、それぞれ休憩かと伸びをしたりしながら立ち上がる。
「おしっこしてえ」
ジュースを飲みすぎた峰田が、ぶるりと体を震わせた。
六花達は、これから地獄の試練が待っているとは露知らず、合宿を心待ちにしながらバスを降りるのだった。
本作は青山不在なので、しりとりやクイズのくだりはありません。
ちなみにバスの座席です。
相澤
上鳴 切島 芦戸 葉隠
飯田 緑谷 轟 氷叢
八百万 耳郎 麗日 蛙吹
障子 口田 爆豪 常闇
砂藤 峰田 瀬呂 尾白