No side
「休憩だーー…」
「おしっこおしっこ…」
全員がバスから降りる中、峰田は股間を押さえてモジモジしていた。
先程バスで猥談をしていた際、調子に乗ってジュースを飲み過ぎたせいで、尿意を催してしまったのだ。
「つかここパーキングじゃなくね?」
「ねえあれB組は?」
「お…おしっこ…トトトトイレは…「何の目的も無くでは意味が薄いからな」
相澤は、トイレを探してソワソワする峰田を見事にスルーして話をする。
するといきなり女性の声が聞こえてくる。
「よーーーうイレイザー!!」
「ご無沙汰しています」
相澤が頭を下げると、三人の人物がA組の前に立つ。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
猫をモチーフにしたアイドルのようなコスチュームに身を包んだ女性ヒーロー二人、そして角の生えた帽子を被った6〜7歳くらいの男の子が現れる。
女性ヒーロー二人は、登場するなり猫のようなポーズを決めた。
相澤は、ポーズを決める女性ヒーロー二人を紹介する。
「今回お世話になるプロヒーロー、《プッシーキャッツ》の皆さんだ」
二人は、プッシーキャッツと呼ばれるプロヒーローチームで、赤いコスチュームを着た茶髪ボブの女性がマンダレイ、水色のコスチュームを着た金髪ロングの女性がピクシーボブだ。
すると緑谷がお約束のヒーロー解説をし始めた。
「連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! ワイプシ! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなる…「心は18!!」へぶ!!」
「心は?」
「じゅ、18!!」
緑谷が言い終わる前に、ピクシーボブに猫パンチをお見舞いされ、鬼のような形相で睨まれて訂正させられる。
一方で、六花はというと。
「ねこさん……かわいい……」
マンダレイとピクシーボブを見て、頬を緩ませていた。
六花は、かわいい動物に目がないのだ。
ちなみに犬派か猫派かで言えば猫派だ。
「ここら一体は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
「「「「「遠っ!!」」」」」
マンダレイが遠くに見える山を指差すと、生徒達は一斉にツッコむ。
「え…? じゃあ何でこんな半端な所に…………」
「いやいや…」
「バス…戻ろうか……な? 早く…」
麗日が疑問を抱き、砂藤がまさかと言いたげな表情を浮かべて笑い、瀬呂が苦笑いを浮かべながらバスを指差す。
何かを察したのか皆が焦り始めバスに戻ろうとする。
だが…
「今はAM9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
マンダレイが言うと、切島と芦戸が絶望する。
「バスに戻れ!! 早く!!」
切島は、A組を先導してバスに戻ろうとする。
だが既に遅かった。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね諸君、もう合宿は始まってる」
A組の前方にピクシーボブが現れ地面に手をつくと、土砂が盛り上がる。
だがA組は、土砂の中に落ちる事はなかった。
“個性”を発動した六花が、冷風を操ってクラスメイト全員を浮かせていたからだ。
すると相澤が、六花を睨みつける。
「おい氷叢、助けるな。今すぐ下に降ろせ」
「……人を助けるのがヒーロー「言い訳するな。あと、飛ぶのは禁止だ」……あっはい」
相澤が言うと、六花も内心では許されると思っていなかったのか、浮かせたクラスメイトをあっさり放した。
「「「「「わあああああああ!!!?」」」」」
六花に放されたA組は、真っ逆さまに落ちていく。
「私有地につき、“個性”の使用は自由だよ! 今から3時間! 自分の足で施設までおいでませ!! この…魔獣の森を抜けて!!」
マンダレイの声が響く中、六花以外のA組は真下の森へと落ちていった。
六花も、下に落ちたクラスメイト達のもとへと降りていく。
真下の森は、木々が生い茂っており、9時台だというのにどこか薄暗くて不気味だ。
「魔獣の森…!?」
「なんだそのドラクエめいた名称は……」
「雄英こういうの多すぎだろ…」
「文句言ってもしゃあねぇよ、行くっきゃねぇ」
「耐えた…オイラ耐えたぞ」
峰田が股間を抑え、茂みに向かっていく。
だがその時、土塊でできた魔獣が、峰田の前に立ちはだかった。
「「マジュウだーー!!?」」
上鳴と瀬呂は同時に叫び、峰田は事切れたのか解放されたような表情を浮かべていた。
どうやら、魔獣が現れた時に驚いたせいで、堤防が決壊してしまったようだ。
六花が襲いかかってくる魔獣を“個性”で凍らせようとした、その時。
「氷叢!」
六花達が先程までいた場所から、相澤の声が聴こえる。
「お前は攻撃禁止だ。他の奴等のサポートに専念しろ」
「……わかりました」
相澤に縛りを設けられた六花は、不満そうな表情を浮かべつつ“個性”を発動する。
すると、森の中に巨大な氷の歩道が現れる。
歩道は施設まで一直線に繋がっており、ゴウンゴウンと音を立てながら通常の十数倍の速度で動いている。
それを見た相澤がまたしても口を開く。
「それもナシだ。訓練舐めてんのか」
「……ごめんなさい」
相澤に怒られた六花は、あっさり歩道を消滅させた。
そうしている間にも、魔獣が四方向から襲いかかってくる。
「静まりなさい、獣よ。下がるのです」
「口田!」
口田が前に出て“個性”で魔獣を退けようとするが、魔獣は土塊で出来ているため、口田の“個性”が通用しなかった。
◆◆◆
相澤 side
「しかし無茶苦茶なスケジュールだね、イレイザー」
俺が上から教え子達を観察していると、マンダレイが話しかけてくる。
「まァ通常2年前期から“修得予定のモノ”を、前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます。緊急時における“個性”行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格、その“仮免”。
「くぅーー、お任せ! 逆立ってきたぁ!」
俺が言うと、ピクシーボブが興奮気味にぶるりと体を震わせる。
あ、これ、品定めしてやろうって目ぇしてんな……特に男子。
この人、前からこんなんだったか?
なんて考えていると、マンダレイが洸汰くんに声をかける。
「洸汰行くよ」
「………下らん」
洸汰くんは、あいつらがいる森を見下ろして、冷たく吐き捨てた。
まぁ、
◆◆◆
No side
「口田!!」
四方向から現れた魔獣が、まさに口田に襲い掛かろうとしていた。
六花は攻撃できないので大人しく見物していると、緑谷、爆豪、轟、飯田が飛び出し、一瞬で魔獣を蹴散らした。
「みんな、突き進もう!」
四人を中心に、A組は魔獣を次々と蹴散らしていく。
指揮役の八百万を中心に、索敵役の耳郎、障子、口田、索敵兼回復役の六花が八百万を囲み、遠距離主体の芦戸、蛙吹、上鳴、瀬呂、常闇、峰田がその周りを囲み、近接主体の飯田、麗日、尾白、切島、砂藤、葉隠、爆豪、緑谷、そして火力の高い轟が一番外側を囲む陣形を取る。
まずは四人の索敵で最短ルートを割り出し、八百万の指揮のもと、ゴールまでの道を最高効率で突っ走る。
“個性”の使いすぎでペースが落ちてくると、六花が自身の生命エネルギーを閉じ込めた氷の花を散らしてクラスメイトの疲労回復を促す。
炎天下で上がり切った体温が下がり、冷気によって疲労感が緩和していくだけでなく、六花の分け与えたエネルギーによって体力そのものが回復していく。
さらには脱水防止のため、轟が氷を炎で融かして作った水を、六花の作った氷の水筒の中に入れて全員に持たせた。
「わぁ、生き返る〜〜……」
「ありがたや〜……」
「芦戸さん、麗日さん! 油断大敵ですわ!」
「「は、はい!」」
六花の癒しの氷と水筒の水のおかげで体力が回復した芦戸と麗日がほっと一息つくと、八百万が喝を入れる。
◇◇◇
時は流れ、12時25分。
六花達は、誰一人欠ける事なく合宿施設に到着した。
「ゼェッ……ゼェッ……ゲホッ……カヒュッ…………」
「お〜、早いね」
マンダレイが、“個性”を使いすぎてグロッキー状態になっているピクシーボブの背中を摩りつつ、六花達に素直に賞賛の言葉を贈る。
六花の回復のおかげか、A組はところどころに汚れや擦り傷はあるものの、疲労感はほとんど無く、各々の課題を話し合う余裕すらあった。
何故か峰田だけはむしろ清々しい表情を浮かべており、ズボンから異臭を放っていたが。
「『三時間』って、私達ならって意味だったんだけどね、うん……」
「実力差自慢の為か……やらしいな…」
マンダレイが少し気まずそうに言うと、砂藤がマンダレイの発言に対して不満を漏らす。
その後ろでは、まだ体力が回復しきっていないピクシーボブが、四つん這いの体勢でゼェゼェと息を切らしている。
あまりにもA組に簡単に魔獣を攻略されてしまったので、ついムキになって“個性”を全開にしてしまったのだ。
対して、I・アイランドでソフィアとメリッサによる魔改造を受けた上に、六花の氷で回復しながら魔獣の森を攻略したA組は、グロッキーになるどころか涼しい顔をしている。
A組をプルスウルトラさせるつもりが、プルスウルトラさせられていたのはむしろピクシーボブの方だった。
「ねこねこねこ…でも正直、誰も間に合わないと思ってた。まさか全員3時間で辿り着けるとはね。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特に、そこの4人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん? 三年後が楽しみ! ツバつけとこーー!!!」
グロッキー状態から回復したピクシーボブが、飯田、轟、爆豪、緑谷の四人に唾を飛ばそうとした、その瞬間。
ピクシーボブの前から、冷気が襲いかかる。
夏場だというのに凍えるような冷気に前を見ると、四人の前に六花が立っていた。
「……なにするんですか」
「ヒッ……!? さ、寒気……」
六花が割り込んだ事で、ピクシーボブと四人の間の空気が一気に冷え切る。
ちなみに六花は、これでもまだ“個性”を発動していない。
六花の体から漏れ出す冷気は、生まれ持った体質によるものだ。
強者特有の威圧感と冷気に気圧されたピクシーボブは、唾かけを断念した。
そんなピクシーボブに冷ややかな視線を向けつつ、相澤がマンダレイに話しかける。
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
「適齢期と言えば──…」
「と言えばて!!」
緑谷が言い終わる前に、ピクシーボブが緑谷の顔面に猫パンチを喰らわせる。
「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」
「ああ違う。この子は私の従甥だよ。洸汰! ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから…」
マンダレイが洸汰に手招きすると、緑谷は洸汰に歩み寄った。
「あ、えと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
緑谷が自己紹介をすると、洸汰は緑谷に思いっきり金的を喰らわせた。
すると緑谷は気を失って倒れる。
「きゅう」
「緑谷くん!!」
「デクさん大丈夫ですか……」
「おのれ従甥! 何故緑谷くんの陰嚢を!!」
気絶した緑谷に飯田と六花が駆け寄り、六花が“個性”で緑谷の股間を冷やして痛みを取り除く。
飯田が緑谷を介抱しながら尋ねると、洸汰はA組の生徒達を睨みながら言い放った。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」
「つるむ!!? いくつだ君!!」
「コラ! 待ちなさい! 謝んな洸汰!!」
洸汰が冷たく言い放ちながら去っていくと、飯田が洸汰に対して注意をする。
マンダレイは緑谷に謝るよう洸汰を叱るが、洸汰は黙って去っていく。
そんな中、爆豪は洸汰を見て鼻で笑う。
「マセガキ」
「お前に似てねえか?」
「あ? 似てねぇよつーかてめぇ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎」
「悪い」
「いや……事実だとおもいますけど」
「うっせぇ! てめぇも黙れ氷女」
爆豪に対して轟と六花が率直に言うと、理不尽に爆豪がキレ出す。
そんなやり取りの後、六花が空気を読まずに口を開く。
「……というか、そんなことよりおなか空きました。ごはんまだですか?」
「12時半までに辿り着けたら、お昼あるんですよね……?」
「「…………」」
六花と麗日が言うと、マンダレイとピクシーボブが気まずそうに目を泳がせる。
二人の反応を見て、爆豪の額にビキッと青筋が浮く。
「……おい、てめぇら……まさかとは思うが、用意してねぇなんて言わねぇだろうな……?」
爆豪がビキビキと青筋を浮かせながら尋ねると、マンダレイとピクシーボブの二人が冷や汗を流す。
他のA組からも、突き刺すような視線を向けられる。
そしてついにA組からの視線に耐えきれなくなったのか、二人して六花達に頭を下げて謝った。
「「ごめんっ!!」」
「その、まさかお昼に間に合うとは思ってなくて……」
「私達の分しか用意してなかったの!」
二人が白状すると、場の空気が一気に凍りつく。
「嘘だろ……?」
「せっかく条件クリアしたのに、昼飯抜きかよ……」
「腹減った、死ぬ……」
「はわっ……」
「六花ちゃんしっかり」
せっかく時間通りに辿り着いたのに昼食抜きという理不尽な仕打ちに、瀬呂、砂藤、切島が絶望の表情を浮かべる。
六花に至っては、昼食抜きのショックで口から魂が抜け膝から崩れ落ちていた。
「ざけんなクソがぁぁぁっ!!!」
そして爆豪に至っては、怒りのあまり目尻を80度吊り上がらせ、両掌から爆破を放ちながらキレ散らした。
「ほんとごめん!!」
「すぐ用意するからちょっと待ってて!!」
爆豪の剣幕に圧されて、二人が慌てて厨房へと駆け込む。
そんな二人を尻目に相澤がため息をつき、六花達に告げる。
「お前ら、今のうちにバスから荷物下ろして部屋に持って行け」
「「「「「はい……」」」」」
相澤が指示を出すと、六花達は弱々しく返事をし、バスから荷物を下ろして部屋へと運んでいく。
六花達が昼食にありつけたのは、到着から40分後の13時過ぎだった。
「お待たせ〜!」
「今日のお昼は、おにぎりと中華スープだよ!」
「わーい!!」
「やっと飯だ〜!!」
プッシーキャッツ達の作った昼食に、空腹でヘロヘロだった六花達ががっつく。
待ちに待った昼食のメニューは、おにぎり*1と、卵ともやしの中華スープだ。
一日目の昼食の分の食材が足りない中で作ったからか、育ち盛りの高校生の昼食にしては些か質素なメニューだが、それでもかつてないほどの空腹に喘いでいた六花達からしてみれば充分に御膳だ。
「美味しい!! 米美味しい!!」
「このおにぎり、ランチラッシュの白米にも負けてねぇ!」
「生き返るぜぇ!!」
「……うまっ」
上鳴、切島、峰田の三人は涙を流しながらおにぎりを頬張り、六花も葱味噌のおにぎりをハムスターのように頬張る。
ちょうどいい硬さで握られた米が口の中でほぐれ、味の濃い具材がさらに食欲を掻き立て、気がつけば次のおにぎりに手が伸びている。
そうして100個あったおにぎりが、あっという間になくなっていく。
六花達がおにぎりを食べていると、端の席に座っていた相澤が立ち上がって口を開く。
「お前ら、食べながらでいいから聞け。18時に食堂にて夕食だが、それまでの間は自由に過ごして構わない。自主練するなり、部屋で過ごすなり好きにしろ。ただし、くれぐれもプッシーキャッツの皆さんに迷惑をかけることのないように」
「「「「「はい!」」」」」
相澤が言うと、すっかり体力が回復した六花達が元気よく頷く。
昼食の後、A組は各々自主練をしたり、部屋でまったりUNOをしたりして過ごした。
17時には、主に女子達を中心に、全員で夕食の準備の手伝いをした。
◆◆◆
ブラドキング side
「やーーーっと来たニャン」
A組の到着から5時間後、5時20分。
俺の教え子達が、ボロボロの姿で到着した。
皆限界まで“個性”を使い、喋る事すらも辛そうだ。
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」
「何が『三時間』ですか…」
「腹減った…死ぬ」
「悪いね、私達ならって意味。アレ」
「実力差自慢の為か……やらしいな…」
骨抜と鉄哲が弱音を吐く中、マンダレイが嫌味を言うと、泡瀬が呆れ顔で不満を漏らす。
「あれ……? A組いなくない……?」
取蔭が、A組が一人も施設の前にいない事に気がつく。
するとそれを聞いた物間が、急に元気を取り戻す。
「あれれれぇ!? もしかして、A組はまだ到着していないのかい!? それっておかしくない!? A組は、僕らB組よりずっと優秀なはずなのにぃ!?」
「その元気はどこから来んだよ……」
「こいつA組が絡むとやばいノコ」
「もうシバく元気もないわ……」
A組がいないと聞いて急に饒舌になった物間を、鱗、小森、拳藤が半ば諦めモードで見ていた。
俺は、真実を伝えるべきか少しの間悩んだ末に……
「A組なら、5時間前に到着したぞ。今は中で夕食の支度を手伝っているところだ」
そう真実を伝えた。
すると物間が、電池が切れたように卒倒する。
「おい物間ぁ!! しっかりしろぉ!!」
気絶した物間に、鉄哲が駆け寄る。
やはりこうなるか……
「とにかくお前達、よく頑張った! 部屋に荷物を運んだら食堂で夕食、本格的なスタートは明日からだ! 明日の訓練に備えて、今日はしっかり休め!」
「ブラキン先生ぇ……!」
「「「っはい!!」」」
俺が教え子達に激励を送ると、皆元気のいい返事で応えてくれた。
一日目はA組に完全に遅れを取ってしまった。
だが次こそは、我々B組が勝つ!!
◆◆◆
No side
午後6時。
A組とB組は、食堂に集まって全員で夕食を食べた。
「いただきます!!」
テーブルの上には、全員分の白米と味噌汁に加えて、魚料理はカニクリームコロッケにエビフライに刺身の盛り合わせ、肉料理は唐揚げにトンカツ、ローストビーフ、ミートボール、麻婆豆腐、酢豚、餃子、副菜は焼きそばに大根サラダと、食べ盛りの高校生に合わせた豪華な料理が並んでいる。
まるで満漢全席のように並べられた食事を、全員がっつきながら食べていた。
「へえ、女子部屋は普通の広さなんだな。じゃあ」
「男子の大部屋見たい! ねえねえ見に行ってもいい後で!」
「おー来い来い」
「魚も肉も野菜も…贅沢だぜえ!!」
「あ……おこげ発見……」
瀬呂と芦戸が楽しそうに話し、峰田はあまりの美味しさに口から味噌汁をこぼしながら食事をかきこんでいた。
爆豪と緑谷の間の席に座っていた六花は、自分の分の白米の中におこげが混じっているのを発見し、僅かに頬を緩ませる。
そして白米を口に含んでから、僅かに目を見開く。
「……おいしい」
雪代の作る料理は、プロの料理人であるランチラッシュの料理にも劣らない。
そんな雪代の料理を幼い頃から食べてきた六花は、美食家並みに舌が肥えている。
その六花が素直に『おいしい』と言うほど、プッシーキャッツ達の作る料理は絶品だった。
六花が次に爆豪の前にある大皿の刺身を狙って箸を伸ばすと、爆豪が刺身の皿を取って無言で六花の前に置く。
「……ん」
「……あ……ありがとうございます」
「おいデク、麻婆取れや」
「あ、はい!」
「どうぞ」
爆豪がテーブルの端の麻婆豆腐を見て言うと、緑谷が麻婆豆腐の皿を手に取り、さらに六花が緑谷から受け取って爆豪に渡した。
「美味しい! 米美味しい!」
「五臓六腑に染み渡る!! ランチラッシュに匹敵する粒立ち!! いつまででも噛んでいたい! ハッ…土鍋…!?」
「土鍋ですか!?」
「うん…つーか腹減りすぎて妙なテンションになってんね」
B組の泡瀬と鉄哲が尋ねると、食事を運んでいたピクシーボブが呆れながら答える。
昼食抜きで魔獣達に揉まれ続け、よほど腹が減っていたようだ。
「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」
「あ、洸汰! そのお野菜運んどいて」
「フン……」
不満そうに野菜の入った箱を運ぶ洸汰を、緑谷はがっつきながらも心配そうに見ていた。
◇◇◇
「〜♪ 〜〜♬」
夕食の後は、入浴の時間。
六花が脱衣所で鼻歌を歌いながら服を脱いで風呂場に入ると、既に先に風呂場にいた女子達に羨望の眼差しを向けられる。
上質なシルクのような白銀の髪に、ブルーダイヤモンドを連想させる碧眼、雪のように白くきめ細やかなもち肌。
上向きのふっくらしたバスト、無駄な脂肪が削ぎ落とされ引き締まったウエスト、肉感的な安産型のヒップ、細めだが筋肉のある腕、スラリと伸びた脚。
細身でやや小柄でありながらも、もちもちした脂肪の下にしっかり筋肉がついており、よく鍛えている事がわかる理想的な体型だ。
入念に全身を洗ってから、露天風呂に浸かる。
髪は温泉に浸からないように、無造作なシニヨンにしてある。
女子風呂の湯船は二つに分かれており、六花は小さい方の湯船に浸かった。
六花は自分の意思とは関係なく周りのものを冷やしてしまう難儀な体質のため、プッシーキャッツ達がわざわざ六花の為に風呂を改造してくれたのだ。
小さい方の湯船は、六花の体から漏れる冷気のせいで水風呂ならぬ氷風呂になっているが、暑がりな六花にとってはちょうどいい温度だ。
「気持ちいいねえ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」
「ふぁぁ……」
「「「チピィ♪」」」
麗日と耳郎が、肩まで温泉に浸かりながらうっとりと心と体を休める。
六花は、気持ちいいのか、頭の上に雪でシマエナガ団子を作って体をゆらゆら揺らしている。
するとそれを見た芦戸が六花に話しかける。
「六花〜、アタシの頭にも乗せて〜」
「あ……はい……どうぞ……」
「ひゃ〜、気持ちいい〜!」
六花の頭上のシマエナガ団子のうちの一匹が芦戸の頭に移ると、芦戸の頭に上っていた熱が冷えていく。
かわいいの上にかわいいが乗っている、そんな光景に他の女子達が頬を緩ませた、ちょうどその時。
「峰田くんやめたまえ! 君のしていることは己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」
「やかましいんスよ…壁とは超えるためにある!! “Plus Ultra”!!!」
男湯の方から、飯田と峰田の声が聴こえてくる。
どうやら、峰田が『もぎもぎ』を使って壁を登って女湯を覗こうとしているらしい。
「むぅ……っ」
六花が湯船から上がり、峰田ごと凍らせるべく壁に冷気を放とうとしたその時、壁の上から洸汰が現れた。
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
そう言って洸汰は、峰田を突き飛ばした。
「くそガキィイイィイ!!?」
峰田は、ヒーローらしからぬ断末魔を上げながら落ちていった。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸汰くーん!」
「……ん、ありがとです」
芦戸と六花の声に反応した洸汰が、女湯の方を振り向く。
芦戸と六花は湯船から上がっており、タオルや手で体を隠さずに曝け出している。
A組女子の中でも特にスタイルの良い二人の裸体に、無垢な6歳児の性癖が壊れた。
「わっ…あ…」
刺激の強すぎる光景に、洸汰は鼻血を流し、顔を茹で蛸のように真っ赤にする。
そして、そのまま気を失ってバランスを崩し、壁から落ちてしまった。
「「「洸汰くん!!?」」」
「わっ……」
六花は、咄嗟に洸汰を冷風で包み込んで浮かせる事で落下速度を落とした。
緩やかに落ちていく洸汰を緑谷がキャッチし、峰田は飯田の顔面にヒップアタックする形で落ちた。飯田哀れ。
余談だが、その後六花は、温泉に長く浸かりすぎてのぼせた女子達に抱きつかれ、体中をプニプニされたのだった。
一日目のお昼はオリジナルです。
「一日目のお昼の分の食材がないの!」「ごめんねー!」的なノリでお昼はカプヌ一個、という案もあったのですが、流石に六花ちゃん達が可哀想なのでワイプシに頑張ってちゃんとしたお昼を作ってもらいました。
ちなみに食堂での席順です。
アニメの席順を参考にしました。
青山くんの位置に砂藤くんを移動させ、爆豪緑谷の間にオリ主を捩じ込んだ事で、葉隠爆豪の席が1個ずつずれてます。
一見出席番号順かと思ったのですが、緑谷達のテーブルにヤオモモがいないので、一応は出席番号順のところを、本人達の希望次第で好きにシャッフルできるって感じだと思います。
葉隠 砂藤 障子 上鳴
爆豪 芦戸 耳郎 切島
氷叢 蛙吹 瀬呂 常闇
緑谷 飯田 八百万 轟
峰田 麗日 口田 尾白
それと夕食はアニメを参考にしてます。飯田くんの席の前に置いてあった黄色くて丸い料理だけ分からなかったのですが(色的にジャガイモっぽい?)、本作ではクリームコロッケって事にしてます。