No side
「お早う諸君」
「くぅ……くぅ……」
「ケロ」
合宿二日目、午前5時30分。
六花達A組は、宿泊施設前の広場に集合していた。
六花が立ったまま眠ってしまい倒れそうになると、隣に立っていた蛙吹がうとうとしつつも六花の体を舌で支える。
「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の心の準備だ。心して望むように。というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
そう言って相澤は、ボールを爆豪に投げた。
「これ…体力テストの…」
爆豪が受け取ったボールは、“個性”把握テストの時に投げたボールだった。
相澤は、入学時の爆豪の記録を見せながら言った。
「前回の… 入学直後の記録は705.2m…どんだけ伸びてるかな」
「おぉ! 成長具合か!」
「ここ3ヶ月色々濃かったからな! 1kmとか行くんじゃねぇの!?」
「行ったれバクゴー!」
瀬呂や芦戸が大いに期待しながら爆豪に声援を送ると、爆豪は前に出て右腕をブンブンと振るう。
そして、左脚を軽く上げて投げる姿勢を取った。
「んじゃよっこら…くたばれ!!!」
(((……くたばれ…)))
爆豪が罵声を吐き捨てながら球威に爆風を乗せると、六花を除くA組全員が固まった。
ボールは大きく飛んで森の中に入って行き、相澤の持っている端末がピピッと鳴り記録が出た。
すると相澤は、端末を全員に見せながら記録を発表する。
「855.4m」
「おおっ!?」
「すごい、150mも伸びてる!」
爆豪の叩き出した記録に、切島と芦戸が驚く。
だが相澤は、首を横に振って口を開く。
「いいや、
「「「え?」」」
「約三ヶ月間様々な経験を経て確かに君らは著しく成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、爆豪が今言ったように、“個性”そのものはそこまで成長していない。爆豪も、技術の向上だけで150mも記録を伸ばしたのは大したもんだが、“個性”そのものはほとんど伸びてないと言っていい。だから──今日から君らの“個性”を伸ばす。死ぬほどキツいがくれぐれも…死なないように──…」
相澤が人差し指を立てていい笑顔を浮かべながら言うと、A組の大半が顔を青くして震え上がる。
ようやく起きた六花は、目をしぱしぱさせてきょとんとした顔をしていた。
「許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は“個性”に由来する器官・部位の更なる鍛錬。時間は有限、合理的にいこう」
そう言って相澤が移動しようとすると、飯田がバッと手を挙げる。
「先生! 我々は、B組も含めて40人います! 少人数でどうやって全員の“個性”を伸ばすのでしょうか!?」
「だから彼女らだ」
「そうなのあちきら四位一体!」
相澤の声に続く形で、どこからか女性の声が聴こえる。
「煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手手助けやってくる!!」
「どこからともなくやって来る…」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」
そう言って出てきたのはマンダレイとピクシーボブ、そして黄色いコスチュームを着た緑色のロングヘアと丸い四白眼の女性《ラグドール》と、茶色いコスチュームを着た筋骨隆々の男《虎》だった。
「あちきの“個性”『サーチ』! この目で見た人の情報100人まで丸分かり!! 居場所も弱点も!」
「私の『土流』で各々の鍛錬に見合う場を形成!」
「そして私の『テレパス』で一度に複数の人間へアドバイス」
「そこを我が殴る蹴るの暴行よ…!」
((((色々駄目だろ))))
ラグドール、ピクシーボブ、マンダレイに続けて虎が言うと、主に男子が心の中でツッコミを入れる。
猫をモチーフにした四人組の女性ヒーローチーム……のはずなのだが、一人だけジャンルも性別も違う(一応虎も元女性だが)。
色々とツッコみたいところはあったが、“個性”伸ばしの訓練が始まる。
出席番号順にラグドールが生徒を見てマンダレイがリアルタイムでアドバイスをしていき、各々がアドバイス通りに訓練を始める。
爆豪の次は、六花の番だ。
《じゃあ次、氷叢さん!》
「はい……よろしくおねがいします……」
「にゃ」
マンダレイに『テレパス』で呼ばれた六花がラグドールのもとへ行くと、ラグドールが六花を見て“個性”を発動する。
ラグドールは、少し考え込むような仕草をしてから、六花に話しかける。
「……氷叢六花ちゃん、結論から言うにゃん。キミはまだ、100%“個性”を使い切れてにゃいみたい」
「……ん? どういうことですか?」
「キミの“個性”は、氷を操る発動型、体を氷にする変形型、冷却装置の体を持つ異形型の複合型。弱点は暑いところにいると“個性”のパフォーマンスが落ちること……そうにゃんね?」
「そうですけど……」
六花が答えると、ラグドールが首を横に振る。
そして、信じがたい言葉を口にした。
「まずその認識が間違いにゃん。キミの“個性”は本来、
ラグドールの言葉に、六花は目を丸くする。
「……え?」
「キミの本来の“個性”は、どんなに熱いものでも立ち所に冷やして自分の力に変えることができるにゃん。暑さに弱いのは、“個性”に体が追いついてないってこと。それは多分キミの──……」
ラグドールはそこまで言うと、突然口を閉じる。
この先は言ってはいけないと直感したからだ。
彼女が口走りそうになった言葉は、六花にとっては心に大きな傷を負いかねない重い現実だった。
「……ううん、なんでもにゃい。とにかく今は、暑さに耐える訓練をするといいよ。高温への耐性が上がれば、やれることが増えるにゃん」
「あ、はい……」
ラグドールにアドバイスを貰った六花は、小さく頷く。
◇◇◇
「ん……ふぅっ…………あつい…………」
その後六花は、ピクシーボブが造った竈の中でひたすら熱に耐えていた。
六花の“個性”伸ばしの特訓は、火のついた竈の中でギリギリ火傷しない程度に氷で体を冷やしながら熱に耐え、その状態で氷像を造り続けるというものだ。
顔が茹蛸のように真っ赤になり、全身から汗を垂れ流しつつも、集中力を切らさずに体温調節と氷像の操作を行う。
するとその時だ。
「うおっ、熱ちっ!?」
鉄哲が、“個性”を発動しながら竈の中に入ってきた。
「……誰ですか」
「B組の鉄哲徹鐵だ! 覚えとけ!」
「……へ?」
鉄哲の名前を聞いた六花は、思わず鉄哲を二度見する。
その拍子に集中力が途切れてしまい、氷が途切れた右腕にジュウっと火傷を負う。
「あちっ」
腕を火傷した六花は、すぐに氷で冷やしながら、やや恨めしそうに鉄哲を見る。
「……あなたのふざけた名前のせいでやけどしました。ごめんなさいしてください」
「なっ……何だとぉ!?」
六花の理不尽な発言に対して、鉄哲がキレる。
するとその拍子に鉄哲の体の金属化が緩んでしまい、鉄哲は左手にジュウっと火傷を負う。
「熱あ!!」
鉄哲が手を火傷すると、六花が憐れむような目で見る。
「……だいじょうぶですか?」
「おめーが理不尽なこと言うからだろうが!!」
六花が他人事のように憐れむと、鉄哲がツッコミを入れる。
鉄哲の“個性”伸ばしの訓練は、金属化の強度を高めるため、鉄分を摂取しながら竈の中で“個性”を発動し続けるというものだ。
「ふぅっ……んっ……うぅ……」
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
“個性”伸ばしの訓練開始から1時間後。
六花が氷の水筒で水分を補給しながら“個性”を使い続けている隣では、鉄哲が鉄分を摂取しながら全身を金属化している。
最初こそ互いに集中を乱し合ってあちこち火傷していた二人だったが、要領を掴んできたのか、今は集中して自分の特訓に励んでいる。
一方その頃、竈の外では。
「HAHAHA!! どうした爆豪少年!! そんな弱連打じゃ私は倒せないぞ!!」
「クソがぁぁぁぁ!!! 死ねぇぇぇ!!!」
アイスマイトが、“個性”伸ばしでボロボロになった爆豪を追いかけ回していた。
爆豪はアイスマイトの顔面を爆破で吹き飛ばそうとするが、爆破された箇所から再生していく。
爆豪のタフさはA組の中でもトップクラスだが、爆破で体を削り取ってもキリがないアイスマイトに、少しずつ体力を削られていた。
A組はI・アイランドでの魔改造により相澤の予想に反して“個性”伸ばしが効率よく進んでいるので、プロを見据えた実戦的な訓練を急遽実施する事になった。
そんなわけで六花以外のA組19人は、本来予定されていた“個性”伸ばしに加えて、六花の造ったアイスマイトによる拷問特訓を受けているのだ。
オリジナルに比べて半分の力もないとはいえ、戦闘力や技術面においてはA組のほとんどの生徒を軽く上回る。
アイスマイトにいじめ抜かれて満身創痍になっているA組を見て、ここぞとばかりに物間が煽ってくる。
「アハハハハ!! まったく、A組が羨ましいよ!! 実戦的な訓練をさせてもらってさぁ!! でもしょうがないよねぇ!? A組はB組よりずっと優sh「言っておくが、後でB組にも同じことをやってもらうからな」……ヒュッ」
「「「物間ぁ!!!」」」
自分達は関係ないと勘違いした物間がボロボロのA組を煽ると、相澤が容赦なく現実を突きつけ、物間が絶望のあまり卒倒した。
訓練には休憩時間が設けられ、その間に六花が順番に癒しの氷で他の39人を回復させる(物間にはものすごく嫌そうな顔をされたが)。
六花の氷で回復スピードを早める事で、通常の10倍以上の効率で“個性”を伸ばす事ができるのだ。
デメリットの重い生徒から順に、“個性”や体力を回復させていく。
「オチャコさん、どうですか……?」
「……うん、だいぶ楽んなった。ありがと六花ちゃん」
六花が麗日を回復させると、麗日の顔色が良くなってくる。
「六花〜、アタシも冷やして〜!」
「あぁはい、今行きます……」
麗日の吐き気を治した六花は、今度は酸で手が焼けた芦戸を回復させる。
時刻はAM10:30。
地獄の特訓はまだまだ続く。
◇◇◇
時間が進み、時刻はPM4:00。
プッシーキャッツ達の前には、野菜や肉などの大量の食材と調理器具が並んでいた。
「さぁ、昨日言ったね。『世話焼くのは今日まで』って!!」
「己で食う飯くらい己で作れ!! カレー!!」
「「「「「イエッサ……」」」」」
ピクシーボブとラグドールの言葉に、ほとんど全員が覇気のない声で答える。
余裕があるのは、唯一アイスマイトに揉まれていない六花と、比較的負担の少ない訓練内容だった障子くらいだ。
疲労困憊状態の生徒達を見て、ラグドールが笑い飛ばす。
「アハハハ全員全身ブッチブチ!! だからって雑なねこまんまは作っちゃダメね!」
「確かに…災害時など避難所で消耗した人々の腹と心を満たすのも、救助の一環……さすが雄英、無駄が無い!! 世界一美味いカレーを作ろう皆!!」
「「「オ…オオ〜…」」」
飯田は、勝手に過大解釈し生徒達を纏め上げた。
その後ろでは、相澤が「飯田便利」などと考えていた。
そしてA組とB組共同でカレーを作り始める。
それぞれの担当は委員長同士で話し合い、初日はA組が米を、B組がルウを担当する事になった。
まずは人数分の米を洗って水と一緒に飯盒に入れ、浸水させるところから始める。
芦戸と葉隠が米と水を飯盒に入れていると、六花が話しかける。
「……これで4合です?」
「え、そうだけど」
「……ちょっとお水が多いかもです」
そう言って六花は、飯盒の水を計量カップで掬って捨ててから、手で持って重さを確認する。
「……これでちょうどいいです。新米はお水を少なめにして炊くんですよ」
「へぇ〜!」
「六花ちゃん、お水冷やしといて」
「あ、はい、わかりました」
蛙吹が言うと、六花は“個性”で飯盒の水を冷やす。
すると葉隠が、蛙吹に話しかける。
「ねぇ梅雨ちゃん、なんでお米の水を冷やすの?」
「冷たい水を使うとお米がゆっくり水分を吸うから、ふっくら炊き上がるのよ」
「二人とも詳しいねぇ!」
「おうちでママのお手伝いしてるので……」
「私はいつも弟と妹にご飯作ってあげてるから」
芦戸の言葉に、六花と蛙吹が答える。
私生活がポンコツな六花だが、凝り性なためか、意外にも料理はできるのだ。
飯盒の米の浸水を待っている間に、料理ができるメンバーがB組のフォローに入りつつ、他のメンバーが竈の準備を始める。
「轟ー! こっちも火ィちょーだい」
煉瓦の竈に炭を焚べていた芦戸が、轟に声をかける。
「爆豪爆発で火ィ付けれね?」
「付けれるわクソが!」
「ええ…!?」
「バクゴーさん竈壊さないでくださいバカなんですか」
「誰がバカだ氷女!!」
瀬呂に煽られた爆豪が対抗心を剥き出しにして竈の中で爆破を放つと、竈が壊れた。
六花が壊れた竈を氷で修復しながら呆れ顔でツッコミを入れると、爆豪がキレた。
「皆さん! 人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ」
「………」
チャッカマンを創造して火をつけながら呼びかける八百万に対し、耳郎はもはやツッコミの言葉すら出なかった。
「いや、いいよ」
そう言って轟は左手で火を起こす。
すると麗日がピョンピョン飛び跳ねながら喜ぶ。
「わー! ありがとー!!」
「燃えろー! 燃やし尽くせー!」
「尽くしたらあかんよ」
上機嫌になって言う芦戸に対し、麗日が冷静にツッコミを入れる。
キャッキャと笑う二人の声を聴きながら、轟は微かに微笑んでいた。
「轟くん、こっちも火おねがい!」
今度は葉隠が、轟に声をかける。
すると轟が立ち上がるよりも先に、六花が来た。
「あ、私やります」
そう言って六花が、炭の中に置かれた着火剤の上に小さな氷を置く。
すると数秒のうちに着火剤に火がつき、炭が燃え始める。
「わ、燃えた!?」
「どうやったの?」
「……ん……と、暑さに耐える訓練してたら、なんか熱い氷が出せるようになりました」
「いや、そうはならないでしょ……」
「……なんか、がんばったらできるようになりました」
「「才能マンかよチクショウ!!」」
六花のチートぶりに尾白が呆れ、上鳴と峰田が悔しがる。
ちょうど火を起こし終えたタイミングで、食材の下拵えを終えたB組が、食材の入った鍋を持ってくる。
あとは食材を炒めて煮込み、ルウを入れてさらに煮込めば完成だ。
時刻はPM6:00。
調理開始から2時間で、カレーが完成した。
「いただきまーす!」
六花達は、自分達で作ったカレーを食べ始めた。
「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめーーー!!」
「言うな言うな野暮だな!」
「……もぐもぐ」
野暮な会話をする切島と瀬呂の後ろの席で、六花もカレーを頬張る。
六花の舌は、雪代の作る本格派スパイスカレーに慣れている。
以前ランチラッシュの食堂で飯田のカレーを一口分けてもらった時、それでも「やっぱりママのカレーが世界一おいしい」と思ったほどだ。
だが訓練の後で腹が減っているという事もあって、市販のルウで作った一般的なカレーも、こういうものだと思って食べれば悪くないものだとしみじみ思うのであった。
「ヤオモモがっつくねー!」
「ええ。私の“個性”は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄える程沢山出せるのです」
「うんこみてえ」
瀬呂が失言すると、八百万が顔を両手で覆って落ち込む。
「謝れぇ!!」
「すんません!!」
ブチ切れた耳郎に殴られる瀬呂。
当然の報いである。
「私、カレーおかわりしてきます」
「どういう神経してんだお前……」
ちょうど瀬呂が失言したタイミングで六花がカレーをおかわりしに行くと、近くの席に座っていた砂藤がツッコミを入れる。
マイペースな六花は、あまりそういう話題を気にしないタイプなのだ。
そんな中、話を聞いていた洸汰が俯いて呟く。
「何が“個性”だ…本当…下らん…!!」
その洸汰を、緑谷は心配そうに見ていた。
洸汰がどこかへ去っていくと、緑谷は席を立ち、洸汰を追いかけに行った。
その後、明日の肉じゃがの肉を牛にするか豚にするかをクラスごとに決める事になったのだが、何かとA組より優位に立ちたい物間と、そんな物間に挑発された爆豪が喧嘩し、それに巻き込まれる形で両クラスの男子達の間で肉を巡った争いが勃発した。
埒が開かなくなってきたので、A組委員長の飯田の提案で、クラス対抗の腕相撲対決で決着をつけるという形で話がまとまった。
ちなみに六花は、カレーを食べてまったりしており、男子達の口論を全く聞いていなかった。
◆◆◆
峰田 side
小さなドアを抜け、暗がりの中でオイラは息を殺して身を潜める。
オイラは今、高い壁に挟まれた狭くて薄暗い隙間にいる。
気配を……いや、体温や心音さえも完璧にコントロールして、自分の存在を無の境地に落とし込む。
この次が、一番重要な作業だ。
ここで失敗すれば、今までの努力が全て水の泡になっちまう。
壁に耳を当てて壁の向こうに誰もいない事を確認したオイラは、ズボンのポケットに手を伸ばし、小型ドリルを手に取る。
そして、壁に狙いを定めて、ドリルビットの先端をあてがう。
指先のボタンを押せば、電動のそれが、ギュルル、と音を立てて木製の壁を削り取る。
静まり返った空間にやけに大きく響く作動音にも心を乱さず、焦らず慎重に壁を削っていく。
やがて、プツッと手応えがなくなった。
ドリルの刃先が壁を貫通したらしい。
僅かに開いた穴から、細い月明かりが差し込む。
興奮して声を出しそうになるのをぐっと堪えながら、そっと穴を覗き込む。
そう、オイラは、この時の為に覗きの計画を立てていたのだ。
一日目は糞ガキに阻まれて失敗し、二日目以降は男女の入浴の時間をズラされたわけだが、ここまでは想定内だ。
デキる男ってのは、不測の事態に備えて、第二、第三の策を用意しておくもんだ。
何せオイラは、この時の為にピッキングツールと小型ドリルを買っておいたんだからな。
まずは、男子が全員風呂に入り終わって女子と交代するまでの僅かな時間の間に、壁の間に入る小さなドアの鍵をピッキングで開けて、壁と壁の間に侵入。
そんでもって壁に穴を開けて、そこから女子風呂を覗くって寸法だ。
幸い他の野郎どもは、肉じゃがの肉を巡った争いに夢中で、オイラの事は眼中にない。
A組の女子はすっかり警戒モードだから、今日のターゲットはB組女子だ。
オイラの計算が正しければ、そろそろB組女子が来る頃だが……
なんて考えていたその時。
ひやり、と冷気が肌を撫でる。
さっきまで感じなかった冷気に、最悪の事態を脳裏に思い描きながら、恐る恐る視線を横に向ける。
そこには、さっきまでいなかったはずの白い小鳥がいた。
「──ピ?」
オイラと目が合った小鳥が、小さく首を傾げる。
その瞬間、オイラは頭の中で描いた“最悪”が的中した事を確信した。
次の行動に移る暇もなく、オイラの体は冷気に包まれた。
「ぎゃあああああああ!!!」
◆◆◆
No side
遡る事10分前。
「あ〜、きもちよかったぁ」
六花達A組女子は、ちょうど風呂から上がって脱衣所で着替えていた。
よく見ると女子達の頬は少し赤みを帯びており、しっかり温泉を堪能したのがわかる。
「ひんやりして気持ちいい〜」
「クセになりそうやわ」
「やぁぁ」
温泉でのぼせた芦戸と麗日が、六花の頬をプニプニする。
きゅっと目を瞑って声を上げる六花だが、逃げないあたり、満更でもないらしい。
するとその時だ。
「A組いる〜?」
その言葉と共に、脱衣所の扉が開く。
入ってきたのは、B組委員長の拳藤だ。
「あっ、拳藤さん。お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いや、急がなくていいよ。私らが勝手に早く来ただけだから」
八百万が慌てて脱衣所を空けようとすると、拳藤がその必要はないと笑う。
女子風呂の脱衣所は充分なスペースがあり、A組B組両方の女子全員が入っても窮屈に感じない。
A組の女子達は既に着替え終わってドライヤーで髪を乾かしながら雑談しているので、ロッカーはもう空いている。
「ちょっと早いけど、私らも入っちゃおっか」
「ん」
B組の女子達は、六花達と入れ替わる形で服を脱ごうとした。
だがその時、蛙吹が口を開く。
「ちょっといいかしら。峰田ちゃんが、今日もまた懲りずに覗きを企んでるかもしれないわ。私達は峰田ちゃんを警戒していたから、今度は一佳ちゃん達をターゲットにしようとしているかも」
「あっ、確かに!」
「流石にそれは考えすぎでは……?」
「いいや、ヤオモモ……あいつならやりかねないよ」
蛙吹の言葉に葉隠が同意し、八百万の言葉を耳郎が首を横に振って否定する。
普通の人間なら、こっぴどく制裁されたら懲りる(というかそもそも、まともな人間は覗きをしない)。
だがエロの為ならどんな逆境をも乗り越える、それが峰田実という男だ。
幸い六花達の入浴中は、耳郎と六花による隙のない監視が抑止力となっていたが、峰田のエロに対する執念を知らないB組女子達は、彼にとっては恰好の的だ。
だがそんな中、六花が手を上げて口を開く。
「じゃあ……私がみはっておきます……」
六花が、覗きの見張り役に名乗り出た。
彼女が見張ってくれるのはありがたいが、どうやって見張るつもりなのだろうか。
そんな疑問を、取蔭が投げかける。
「見張るって、どうやって?」
「……この子たちにがんばってもらいます」
そう言う六花の腕から、雪がモコモコと湧く。
雪は小さくまとまっていき、六花の腕の上でシマエナガ団子を形成した。
「「「チュリッ♪」」」
六花の使い魔のシマエナガ達は、身を寄せ合って可愛らしく鳴いた。
早速六花は、女湯と男湯、そして壁の隙間の三箇所に、シマエナガ達を忍ばせる。
そのまましばらく見張っていると、壁の間に忍ばせた一匹が、ドアを開けて侵入し壁にドリルを当てるエロブドウの姿を確認した。
「……やっぱり、ミノルさんいました。んと……ドリルで壁に穴開けてます」
「うわ……」
「引くわ……」
「キモいノコ」
「なんと罪深い……鞭で打たなくては」
六花が報告すると、柳、取蔭、小森の三人がドン引きし、塩崎は峰田の悪行に心を痛めて物騒な事を口走る。
人間、あまりに最低な行いを目の当たりにすると、怒りを通り越してかえって冷静になるものだ。
「あのょ……今、凍らせたので……もう大丈夫です」
「六花ナイス! さっさと虎さんに突き出しちゃお!」
「賛成デース!」
「ん」
芦戸の提案に、角取と小大が賛成する。
氷漬けにした峰田を回収した六花は、そのまま峰田を虎に引き渡した。
その後、ブドウの汚い断末魔が、夏の夜空に響き渡った。
作者はトマトカレーが好きです。カレーを作る時は、必ず丸のトマト一個かホール缶一個使います。
玉ねぎは食感が残ってるやつが好きなので、くし切りにしてサッと炒めるだけです。
アニメの描写を見る限り、A組とB組でそれぞれカレーを作るんじゃなくて、お米はA組、ルウはB組、みたいな感じで役割分担してるっぽいですね。
ちなみに全員の“個性”伸ばしの訓練内容です。
芦戸三奈:皮膚の強度を上げるため、酸を出し続ける
蛙吹梅雨:蛙由来の器官の筋トレ。主にベロや脚周り
飯田天哉:エンジンを鍛えるため、エンストするまで悪路を走り続ける
麗日お茶子:三半規管を鍛えるため、ゾーブボールで転がりながら“個性”を維持し続ける
尾白猿夫:尻尾の強度を上げるため、硬化した切島をひたすら殴る
上鳴電気:最大出力を上げるため、高圧電流を浴び続ける
切島鋭児郎:皮膚の硬度を上げるため、ひたすら尾白に殴られ続ける
口田甲司:声帯の強化と引っ込み思案な性格の改善のため、ひたすら発声練習
砂藤力道:持久力と筋力を上げるため、糖分を摂取しながら筋トレし続ける
障子目蔵:複製した器官を強化するため、限界まで感覚器を複製した状態で索敵し続ける
耳郎響香:音質向上のため、プラグを硬いものに打ちつけ続ける
瀬呂範太:テープ強度と射出速度向上のため、テープを出し続ける
常闇踏陰:暗闇の中で暴走する
轟焦凍:炎の操作を氷に追いつかせるため、氷と炎を交互に出して風呂の温度を一定に保ち続ける
葉隠透:光の屈折率を素早く切り替えるため、ひたすら光線を浴び続ける
爆豪勝己:爆破の規模と燃焼効率向上のため、掌を熱湯に浸けて爆破を繰り返す
氷叢六花:高温への耐性を上げるため、竈の中で“個性”を使い続ける
緑谷出久:身体能力強化のため、虎に殴る蹴るの暴行を受ける
峰田実:頭皮の強化のため、ひたすら『もぎもぎ』をもぎり続ける
八百万百:創造物の質と生成速度向上のため、食べ物を食べながら創造し続ける
プラス、六花以外は冬将軍に10分間暴行を受ける