地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第49話 氷叢さんの肝試し

No side

 

「ふぅーーーっ……」

 

 林間合宿三日目。

 六花は、この日も窯の中で高温に耐える訓練をしていた。

 炎熱に対する耐性は着実に上がっており、二日目より氷を薄くしても耐えられるようになっていた。

 

 ちなみに補習組は、クタクタの状態で訓練をしていた。

 他のクラスメイトが十時就寝なのに対して、補習組は二時就寝。

 実質睡眠時間は五時間しかない。

 

「だから言ったろキツいって」

 

 相澤曰く、上鳴と砂藤は容量を増やす為の反復、瀬呂はそれに加えてテープ強度と射出速度の強化、芦戸は酸を使い続ける事で皮膚の耐久力を強化、切島は硬度と筋力を同時に鍛える事で相乗効果を狙うのが課題だという。

 キツいはキツいのだが、補習組がクタクタなのはほとんど睡眠不足によるもので、昨日の訓練の疲労はあまり残っていない。

 六花の癒しの氷のおかげで、補習組もなんとかハードなスケジュールにもついていけていた。

 

「気を抜くなよ。皆もダラダラやるな。何をするにも原点を意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて何の為にグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

「原点……」

 

 相澤の言葉を聞いた六花は、自分の原点について一から考え始めた。

 

 

「ねこねこねこ…それよりみんな! 今日の晩はねぇ…クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後はしっかり楽しいことがある! ザ! アメとムチ!」

 

 ピクシーボブの発表に、六花達は耳を傾ける。

 

「きもだめし……?」

「ああ…忘れてた!」

「怖いのマジやだぁ…」

「闇の狂宴…」

 

 六花が首を傾げ、拳藤が思い出したように、耳郎が憂鬱そうに言い、逆に常闇は若干ワクワクした様子だった。

 

「イベントらしいこともやってくれるんだ」

「フフフ…対抗ってところが気に入った」

 

 鱗が言うと、物間は悪い笑みを浮かべた。

 

「というわけで、今は全力で励むのだぁ!!!」

「「「イエッサァ!!」」」

 

 虎が喝を入れると、生徒達は一斉に返事をした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 圧縮訓練が終わり、夕食の準備中。

 

「爆豪くん包丁使うのウマ! 意外やわ…!!」

「意外って何だコラ包丁に上手い下手なんざねえだろ!!」

「出た! 久々に才能マン」

「皆元気すぎ…」

 

 麗日が爆豪の手際の良さに驚くと爆豪がキレ、上鳴が横から覗き込みながら言うと切島が呆れ返る。

 三日目の夕食は、白米と味噌汁と肉じゃが(ただし男子のみ肉抜き)だ。

 この日はA組が火おこしと肉じゃがの調理を、B組が白米と味噌汁の調理を担当する事になっている。

 

「バクゴーさんすごいなぁ……」

 

 六花は、圧縮訓練で身につけた熱い氷を着火剤の上に置いて発火させつつ、爆豪の包丁使いに素直に感心していた。

 するとその時だ。

 

「なぁ氷叢」

「ん、なんですかショートさん」

 

 轟が、具材の入った鍋を持って声をかける。

 何やら先程まで緑谷と何かを話していたようだ。

 轟は、少し考え込んでから、六花に話しかけた。

 

「お前なら、“個性”を嫌ってる子供を見たら何て言う?」

「……はい?」

「あっ、僕から説明するね! 実は……」

 

 話が飲み込めていない六花に、轟から引き継いで緑谷が説明する。

 洸汰の両親はプロヒーロー《ウォーターホース》夫妻で、数年前に(ヴィラン)に殺されたとの事。

 世間はそれを名誉ある死だと讃え、その事がトラウマで“個性”ありきのヒーロー社会そのものが嫌いになってしまったそうだ。

 それに対して六花は、少し考え込んでから口を開く。

 

「……う〜ん、別に何も言わなくてよくないですか?」

「え?」

「だって、ストレスの原因が説教したってうざいだけじゃないです? そもそもデクさんが今言ったことって、その子自身の問題じゃないですか。外野が何言ったって、結局その子が自分で自分の気持ちに折り合いつけてくしかない……と思います」

「それは……確かに……」

「っていうか、ヒーローが人を守って死んだら褒め称えられるとか、ハッキリ言ってタチの悪いカルト宗教みたいできもちわるいです。そのせいで苦しんでる子に対して今の社会を受け入れろとか、そっちの方がよっぽどおかしくないです?」

「……おぉ」

「なんか、すみません……」

 

 六花が正論を言うと、轟が納得したように頷き、緑谷が俯きながら謝る。

 物心ついた時からヒーローオタクだった緑谷にとっては、皆がヒーローを讃え憧れる事は当たり前の事で、ヒーローを受け入れられない洸汰は異質な存在だった。

 だからこそ、今の社会の構造に適合できない事はつらい事だと無意識のうちに決めつけてしまっていた。

 だが六花にその前提を覆す発言をされた事で、考えを改めた。

 するとその時、ジャガイモの皮を剥いていた飯田が声をかけてくる。

 

「君達手が止まってるぞ!! 最高の肉じゃがを作るんだ!!」

「はたらいてますよ」

「ムッ、それは失礼した!!」

 

 飯田に対して六花が氷で薪や食材を運びながら言うと、飯田があっさり手のひら返しをする。

 ちなみに爆豪が調理を担当した肉じゃがは、素人作品とは思えないほど完璧な出来栄えで、あっという間に完食したのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…さて! 腹もふくれた皿も洗った! お次は…」

「肝を試す時間だー!!」

「フフフ……A組の顔が恐怖で歪むのが楽しみだ」

 

 肉じゃがを食べ終わって後片付けをした後、ピクシーボブが言うと、芦戸が上機嫌で乗っかる。

 物間も、A組を思う存分怖がらせてやろうとやる気を出していたが……

 

「その前に大変心苦しいが、物間はこれから補習授業だ」

「…………えっ?」

 

 相澤が、物間を捕縛武器で縛り付け、そのまま宿泊施設へと引きずっていく。

 

「すまんな。寝不足のせいか、日中の訓練が疎かになっていたからな。()()()を削る」

「ヒュッ……」

「物間ぁ!! しっかりしろぉ!!」

 

 気絶したまま引き摺られていく物間に、鉄哲が叫ぶ。

 ちなみにA組はI・アイランドでメリッサとソフィアに魔改造してもらったおかげで補習のスケジュールにもついていけていたので、肝試しお預けを免れた。

 

「はい、というわけで脅かす側先攻はB組! A組は2人1組で3分おきに出発、ルートの真ん中に名前を書いたお札があるからそれを持って帰ること!」

「闇の狂宴…」

「また言ってる」

 

 ピクシーボブの説明に対し常闇が呟くと、麗日がツッコミを入れる。

 

「脅かす側は直接接触禁止で、“個性”を使った脅かしネタを披露してくるよ」

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

「やめて下さい汚い……」

 

 虎が嬉々として言うと、耳郎がドン引きしながらツッコミを入れる。

 

「なるほど! 競争させることでアイデアを推敲させその結果、“個性”に更なる幅が生まれるというわけか。流石雄英!!」

 

 飯田はまたしても一人で納得していた。

 そして組分けのクジを引く事になった。

 クジ引きの結果、

 

 

 1番 障子&常闇

 2番 瀬呂&轟

 3番 耳郎&葉隠

 4番 芦戸&八百万

 5番 爆豪&氷叢

 6番 麗日&蛙吹

 7番 上鳴&切島

 8番 尾白&峰田

 9番 飯田&口田

10番 砂藤&緑谷

 

 

 という順番に決まった。

 A組の女子は奇数人なので、誰か一人は必ず男子と組む運命にあるのだが、六花のペアはよりによって爆豪だ。

 

「うわ、マジか……」

「六花ちゃん、ご愁傷様」

「?」

 

 他のクラスメイトが六花に同情の目を向けるが、当の本人はきょとんとしている。

 流石に同情を禁じ得なかったのか、轟が声をかける。

 

「氷叢……俺と代わるか?」

「あ……大丈夫です……」

「そうか」

 

 轟が代わりに自分が爆豪とペアになると提案するが、六花は首を横に振った。

 なお、六花が内心ラッキーだと思っていた事は知る由もなかった。

 

「爆豪ぉ…オイラと代わってくれよ………」

「あぁ?」

 

 峰田が爆豪にペアを代わるよう言うと、爆豪が睨みつける。

 六花とペアを組もうという峰田の目論見は、あえなく失敗に終わった。

 

 

 そんなこんなで十数分後。

 障子常闇ペア、瀬呂轟ペア、耳郎葉隠ペア、芦戸八百万ペアが既に森の中に入っており、森のあちこちから耳郎や葉隠、芦戸や瀬呂の叫び声が聴こえてくる。

 

「それじゃ5組目…バクゴーキティとリッカキティGO!」

「……いきますか」

「前歩くな」

「ごめんなさい」

 

 爆豪に怒られた六花は、大人しく爆豪の後ろを歩く。

 すると爆豪が、六花の前を歩きつつも声をかける。

 

「おい、氷叢」

「ん、なんですか」

「てめェ俺から離れんなよ。てめェバカだからすぐ迷子になんだろ」

 

 そう言って爆豪は、先へ進んでいく。

 六花の胸がとくん、と小さく鳴った。

 前を歩く爆豪の背中が、大きく、そして頼もしく見えた気がした。

 

「……バクゴーさん、心配してくれてるんですか?」

「ざけんな死ね! てめェが迷子になったら後々面倒だろうがよ!」

「あ、すみません……」

 

 六花は、爆豪のすぐ後ろを歩くと、後ろからそっと手首を握った。

 

「……これで迷子にならないですね」

 

 六花が手を握ると、爆豪が六花の手を振り払う。

 

「離せや、てめェ冷てぇんだよ」

「ん……」

 

 手を振り払われた六花は、少し寂しそうに爆豪の後ろをついていく。

 すると、その時だった。

 

 

「ん」

「おっ」

 

 突然小大が地面から頭を出し、驚いた爆豪が声を上げる。

 爆豪は怖いのは平気な方だが、何の予告もなくいきなり出てこられるとどうしてもびっくりしてしまう。

 隣にいた六花は、そんな爆豪に対して、口元を手で押さえてぷぷぷっと笑っていた。

 

「バクゴーさん……『お』て……」

「うっせぇ!! 今のはノーカンだろが!! おい笑うな殺すぞ!!」

 

 六花が笑いを堪えると、爆豪が掌から爆破を放ってキレる。

 ちなみに六花も怖いのは平気な方で、むしろホラー系は大好きだ。

 特にゾクゾクと背筋の凍るようなモノを好む傾向にある。

 もっとも六花の場合は、本来の楽しみ方ではなく笑える話として見てしまい、上映中に笑ってしまうので、誰も六花とホラー映画を観に行きたがらないのだが。

 だが、その時だった。

 

「……ん、なんでしょうかこの煙……?」

 

 突然、森の中に白い煙が発生する。

 煙は次第に濃くなり、あっという間に周りが見えなくなった。

 また、異変はそれだけではなかった。

 

「寒ぃ……クソがっ……」

「バクゴーさん大丈夫ですか?」

 

 隣にいた爆豪が、顔を真っ青にしてガタガタ震えていた。

 寒さに耐性のある六花は平気だが、この時の森の気温は、真夏だというのに0度近くまで下がっていた。

 

「てめェ、さっきの脅かしにビビって“個性”ブッパしたんじゃねぇだろうな……」

「そんなことしてません。『おっ』ってゆったバクゴーさんといっしょにしないでください」

「あ゛!!?」

「B組の人の“個性”ですかね……?」

「あぁ? 知るかよ」

「ですよねぇ」

 

 六花が爆豪とそんな会話をしながら一緒に森を歩いていた、その時。

 

 

「六花!」

 

 後ろから、声をかけられる。

 振り向くとそこには、雪代が立っていた。

 

「ママ!」

 

 雪代の姿を確認した六花は、雪代の元へと走っていく。

 それを見た爆豪は、目を大きく見開いていた。

 

「そういうことかよ、クソが……!」

 

 そして、全てを理解してしまった。

 何故生徒と教師達しか知らないはずの合宿先に雪代がいるのか。

 そして何故、このタイミングでピンポイントに自分達のもとへ現れたのか。

 答えは簡単だ。

 

 六花から、位置情報をリアルタイムで引き出していたからだ。

 GPSのようなものを六花につけておけば、いつでも簡単に位置情報を入手できる。

 あるいは、そういう事ができる“個性”なのかもしれない。

 USJの時も、ショッピングの時も、今回も、全て雪代が手引きしていたのだ。

 

 六花が何の疑いもなく雪代に抱きつくと、雪代はニヤリと笑う。

 そして今にも、六花の首に針を打ち込もうとしていた。

 

「死ねェ!!!」

 

 爆豪は、爆速ターボで雪代のもとへ飛んでいくと、モロに顔面に爆破を放つ。

 すると雪代の首から上が吹き飛ぶ。

 

「なっ……!?」

 

 爆豪は、相手を殺すつもりで爆破を撃ったわけではない。

 雪代の頭が、泥のようにいとも簡単に崩れたのだ。

 爆豪が爆破したのは、雪代の分身だった。

 爆豪がその事に気付いた直後、雪代が背後から煙に紛れて現れる。

 爆豪は咄嗟に、右の大振りで雪代に爆破を放つ。

 だが雪代は、まるで揺れる煙のような動きで爆豪の爆破を躱すと、物理的に対処不可能な死角に潜り込み、脇腹に針を打つ。

 

「がっ……!」

 

 針を打たれた爆豪は、急速に意識が混濁し、その場にうつ伏せに倒れ込む。

 プロポフォールやチオペンタールのような類の麻酔の類が塗ってあるらしい。

 

「こういう動きは授業で習わなかったでしょ? 授業の成績が優秀でも、実戦で負けてちゃ意味ないの」

「く……そが……っ」

 

 爆豪は、その言葉を最後に意識を失う。

 

「ママ……?」

 

 六花は、信じがたい光景に呆然と立ち尽くしていた。

 母親の雪代が、見た事のない動きで爆豪を気絶させた。

 今の彼女は、六花の目から見ても(ヴィラン)そのものだ。

 普段優しい雪代が何故こんな事をするのか、六花には見当もつかなかった。

 

「六花、手荒なことはしたくないの。しばらく眠っててね」

「え……?」

 

 雪代は、雪のようにふわりと六花に抱きつくと、六花の首筋に針を打った。

 六花は、爆豪同様急速に意識を失い、その場に倒れ込む。

 1分もかからずにその場を制圧した雪代は、誰にでもなく話しかける。

 

「……終わりました。こちらにワープゲートを展開してください」

 

 雪代がそう言った直後、何も無い空間から黒い靄がが現れ、その中から黒霧が現れた。

 

「お迎えに上がりました」

「ありがとうございます、黒霧さん。さて、帰りましょうか」

 

 雪代がそう言うと、黒霧が雪代と六花のすぐ近く、そして爆豪の下の二箇所にワープゲートを展開する。

 雪代は、六花をワープゲートの中に投げ込み、自分もワープゲートに片足を突っ込みながらどこかへ話しかける。

 

「……あ、荼毘くん? こちらの仕事は終わりました。あとはよろしくお願いしますね」

 

 雪代がそう言ってワープゲートの中へ逃げ込んだ、その直後。

 少し離れた場所で待機していた荼毘が、右手から青い炎を放つ。

 

「あばよ」

 

 そう言って荼毘が冷たい煙に覆われた森に圧縮した蒼炎を放った、その直後。

 

 

 

 BOOOOOM!!!

 

 

 

 雪代の“個性”で冷やされた空気が一気に膨張し、森の中で大爆発が起こる。

 

「なっ……!?」

 

 目の前で起こった惨劇に、マンダレイやピクシーボブ、虎が目を見開く。

 森の中には、生徒達やラグドールがいる。

 爆破の規模からして、間違いなく怪我人が出ている。

 

「あたし、行ってくる!」

「我も行こう。マンダレイは至急イレイザーとブラドに応援要請。それからこいつらを施設に避難させろ」

「ええ、わかったわ。皆、ついてきて! 火の手が広がる前に!」

 

 ピクシーボブと虎が生徒達の救助に向かい、マンダレイはまだ森に入っていない生徒達を連れて施設へ戻る。

 峰田は、マンダレイの避難誘導に従いつつ、燃える森を見て愕然としていた。

 

「なんだよ今の!? 爆豪か轟がビビって“個性”ブッパしたのかよ!?」

「いや、違う……(ヴィラン)だ……!」

 

 峰田が腰を抜かす中、緑谷が最悪の想像をして青ざめる。

 (ヴィラン)が、合宿先に侵入していた。

 しかも、前回よりはるかに凶悪な手で、殺意をもって攻撃してきた。

 その事実に、緑谷の脳裏には、死柄木の不気味な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 




六花ちゃん、完全敗北。
雪代さんをヴィラン側にしたのは、六花ちゃんを合宿編で違和感なく負けさせるためです。
本作の連合は保護者の雪代さんにある程度躾されてるので、原作のように全員で乗り込んで何人か捕まるなんてバカはやりません。
もし連合が原作通りに合宿に乗り込んでたら、全員六花ちゃんに捕まっちゃいますから。
合宿に乗り込んだのは、回収役の雪代さんの本体とコピー、それと着火役の荼毘のコピーだけです。
っていうか合宿先を襲撃してかっちゃんだけ攫いたいなら、全員で乗り込むなんて事せずにワープゲートで爆弾やら毒ガスやら投げ込んで全員重傷を負わせてからどさくさに紛れて攫えばいいだけなんですけどね。
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