緑谷 side
皆が肝試しをしている森が、突然大爆発を起こした。
僕達は、山火事から逃れる為に、マンダレイの誘導に従って宿泊施設へ避難した。
「マンダレイ、状況は!」
《伝えた通りよ! 今は人命救助が最優先! みんなをお願い!》
「……わかった。こいつらを頼んだぞ」
マンダレイからのテレパスを受け取った相澤先生とブラドキング先生が、森にいる皆の救助に向かった。
かっちゃんの爆破や轟くんの衝撃波でも、ここまでの爆発は起こらない。
多分だけど、
ここまでピンポイントに大胆な襲撃を仕掛けられるのは、奴等しかいない。
USJの時はほとんどの
だけど、何かが引っ掛かる。
連合の目的はおそらく、今回の事件を通して、連合の存在を世に知らしめる事。
でもそれ以外に何か目的があるような気がしてならない。
何かを見落としてるような……
「洸汰……!? 洸汰!! いるなら返事して!!」
僕が考えていると、マンダレイが叫ぶ。
洸汰くんが施設にいない……!?
だったら、洸汰くんが今いそうな場所は……
“ひみつきち”……!
この規模の山火事だったら、洸汰くんのところにも火の手が及んでいるかもしれない。
プッシーキャッツ達も、先生達も、誰も気づいてない。
僕が助けに行かなきゃ……!!
「緑谷くん!?」
僕は、ふと目に留まったバケツに水を張って頭から水を被ると、飯田くんの制止も無視して走った。
「マンダレイ!! 僕、知ってます!!」
◆◆◆
洸汰 side
「ゲホッ……ゲホッ……」
僕は、崩れた岩の近くでうずくまっていた。
いつもみたいに一人でひみつきちにいたら、いきなり森が爆発した。
慌てて洞窟の中に逃げ込んだけど、それがよくなかった。
入り口の岩が崩れて、洞窟の中に閉じ込められた。
岩の隙間から黒い煙が入ってきて、どんどん濃くなってる。
岩を押してみたり、“個性”で水を出してぶつけてみたりしたけど、びくともしない。
頭がぼーっとして、目がかすんでくる。
僕、このまま死んじゃうのかな。
誰も、助けになんか来てくれないんだろうな。
パパとママに、マンダレイ達に、雄英の兄ちゃん達に、ひどい事ばっか言ってたから……
きっと、バチが当たったんだろうな。
「ぬあああああああっ!!」
洞窟の外から、声が聴こえてくる。
見てみると、岩が少しずつ動いて隙間が広がって、光が入ってくる。
入り口を塞いでいた岩がどかされて、人が通れるくらいの隙間ができた。
隙間からは、雄英の兄ちゃんが顔を覗かせていた。
僕がキンタマ殴って、散々ひどい事ばっか言った奴だ。
嘘だろ、なんであいつがここに……
「洸汰くん、救けに来たよ!」
そう言ってそいつは、洞窟の中に乗り込んできた。
頭がボーっとして動けない僕をおぶって、洞窟から抜け出した。
「もう大丈夫だよ。ここからすぐ逃げよう」
そう言って緑の兄ちゃんは、全速力で施設に向かった。
「ゲホッ……ゲホッ……ハァ……ハァ……」
「大丈夫!? ゆっくり息吸って、吐いて!」
「おまえ……なんで……」
「昨日ここに来た時、『俺のひみつきち』だって言ってたよね。宿泊施設にいなかったから、もしかしたらここにいるんじゃないかって……!」
「ちげぇよ……おれ、おまえにひどいことしたんだぞ……? なんでたすけにきたんだよ……」
僕は、兄ちゃんを殴って、ひどい言葉ばっかりかけた。
助けに来てくれるわけがないんだ。
だけど兄ちゃんは、ニッと笑って言った。
「困ってる人を救けるのが、ヒーローだから」
◆◆◆
相澤 side
「お前達、しっかりしろ!! くそっ、なんでこんなことに……!!」
「くそっ、血が止まらない……! 瀬呂、凡戸! テープと接着剤出せ!」
「っス!」
「は、はいっ!」
俺達は、奇跡的に無傷だった常闇、小大、柳の三人や、歩ける程度の軽傷だった奴等の助けも借りて、教え子達を宿泊施設に運び込んだ。
ブラドは、特に外傷のひどい回原、鎌切、黒色、角取、取蔭、吹出に呼びかけながら救命処置を施していた。
俺も、捕縛武器と生徒達の“個性”で、六人の止血を最優先に行う。
幸い他の奴等はすぐに処置しなくても命に関わらない怪我だったが、この六人に関しては、すぐに処置しなきゃ助からない。
マンダレイが消防と救急を呼んでくれたが、到着はいつになるか……
「心肺停止! 虎!!」
「ぬぅっ!!」
ピクシーボブと虎の声に、思わず後ろを振り向く。
呼吸と心拍が止まったラグドールに、虎が心肺蘇生を試みていた。
回原達も重傷だが、一番重傷なのはラグドールだ。
全身に火傷を負い、見つけた時点で既に意識がなかった。
虎が必死に胸骨圧迫をしていると、応急処置を手伝っていた小森が声をかける。
「虎さん、ラグドールは助かるノコ……? ラグドールは、身を挺してキノコ達を助けてくれたノコ」
「死なせはしないさ……! 我等は四位一体!!」
そう言って虎がラグドールの胸部を圧迫した瞬間、ラグドールの心拍が復活した。
何とか一命は取り留めたものの、予断を許さない状況だ。
だが、気がかりなのはラグドール達だけじゃない。
俺達が生徒を救助しに森に入った時、爆豪と氷叢の二人だけが見つからなかった。
障子の“個性”でも、二人を見つけられなかったらしい。
もしかしたら、俺達が見つけられなかっただけで、二人は今もまだ森の中で立ち往生しているのかもしれない。
あの二人なら死んじゃいないだろうが、万が一という事もある。
俺が二人を助ける為に森へ行こうとした、その時。
俺のスマホに、誰かから着信が入った。
非通知設定か……
「……誰だ?」
『はじめまして、相澤先生。私は
「っ……!?」
スマホから聴こえてきた声に、思わず息を呑む。
ボイチェンでもしているのか、野太い男の声をしているが、おそらく女だろう。
ノウメン……
USJを襲撃したクソどもの中に、こいつはいなかった。
あの事件の後に連合に加入したのか、それとも、死柄木達より
このタイミングで電話をかけてきたという事は、さっきの爆発はこいつらの仕業とみて間違いない。
「お前、何故この番号を……!?」
『そんなことはどうでもいいじゃないですか。それより、あなた達が今頃行方不明の生徒を探している頃じゃないかと思いまして。あぁ、それとも……死にかけの生徒の救命に必死で、そんな余裕は無いですかねぇ? まぁ、私がやったんですけどね』
「っ……!」
『ああ、そうそう。あなたに伝えなきゃいけないことがあったんでした。あなた達があまりにも無能なものだから、あなた達が探している爆豪くんと氷叢さん、私が攫っちゃいました♪』
なっ……!?
ん……だと……!?
爆豪と氷叢を攫っただと……!?
こいつ……!!
俺は、動揺を悟られないように、相手がどんな奴かを分析した。
こいつの言ってる事が真実なら、たった今この瞬間まで、俺達に存在を悟らせずに、生徒を森ごと爆破した上に生徒二人を攫うなんて大胆な真似をやってのけたって事になる。
しかも俺達でさえ持て余している氷叢と、凶暴性と戦闘センスの塊みてぇな爆豪の二人を、他の生徒に一切悟られる事なく拉致しやがった。
死柄木よりずっと有能で頭の切れる奴だ。
『こちらに
「おい待て!!」
ノウメンと名乗る奴は、俺の返事を聞くまでもなく一方的に電話を切った。
通話が終わった後、メッセージアプリに新着のメッセージが来ていた。
開いてみると、動画のURLが添付されていたので、URLを踏んだ。
すると二分半程度の長さの動画が再生される。
そこには、薄暗いバーのような場所で、カウンター席に座っている死柄木が映っていた。
死柄木は、気怠そうに首を掻きながら話し始める。
『あー…………どうも、俺は
死柄木がそう言うと、映像が切り替わり、二つの画面が同時に映る。
右側には氷叢が、左側には爆豪が映っていた。
二人は頑丈そうな拘束具で椅子に拘束されていて、外傷は無いが、麻酔か何かを打たれているのか、項垂れたまま動かない。
『これでも捏造を疑うなら、好きなだけ疑えばいい。だがこれを見ている当事者のあんたらは、これが紛れもない事実だってことをよくわかってるはずだ。まぁ、どのみち明日の朝にはニュースになっているだろうけどな……』
死柄木は、明らかに俺達に向けて、淡々と、それでいて宣戦布告するように言い放つ。
そして今度は、憎しみのこもった目でカメラを睨みつけながら指をさしてくる。
『なぁ、オールマイト。お前今、どんな気分だ? お前が肝心な時にいねぇから、大事な生徒が二人攫われちまったぞ? なぁにがヒーローは遅れてやって来る、だ。ピンチの時にその場にいなきゃ意味ねぇじゃねぇかよ。あぁでも俺達を責めるのはお門違いだぜ? お前の生徒がこんな目に遭ってるのは、お前が救えなかったものなんか何一つ無いかのように、ヘラヘラ笑ってるせいなんだから。何もかも全部、お前が悪い!!』
死柄木は、さっきまでの気怠く淡々とした口調とは打って変わって、急に席から立ち上がってカメラに近づき、感情的になって怒号を浴びせた。
散々怒鳴り散らしたかと思えば、急に冷静になってため息をつき、さっきまで座っていた席に座り直す。
『……とまぁ色々言ったが、最後にひとつだけ言っておく。この襲撃事件が起こったのは、雄英側の対策が杜撰だったからじゃない。あいつらはただ、運が悪かっただけ。この動画を見ている誰もが被害者になり得たんだ。そういうわけで、今回も襲撃を許しちまった雄英を責めないでやってほしい。俺から言いたいのはこれだけだ』
そこで動画が終わった。
俺達がついていたのに、あいつらを守れなかった。
俺は二人を攫ったクソどもと、襲撃を許しちまった俺自身への怒りのあまり、声にならない咆哮を上げた。
消防や救急、警察が駆けつけてきたのは、それから5分遅れての事だった。
一方の雄英側は、ラグドールが全身火傷及び心肺停止の重傷。
生徒40名のうち、トリアージ赤の重傷者が6名*1。
トリアージ黄の負傷者が10名*2。
軽傷者が8名*3。
無傷だったのは14名*4のみ。
そして、行方不明2名*5。
幸い、ラグドールも含めて全員搬送先の病院で一命を取り留めたが、生徒六人とプロヒーロー一人が瀕死、その他十人も重傷者を出した今回の襲撃事件は、言うまでもなく雄英始まって以来の大損失だ。
そして、俺達が被ったのは、物理的な損失だけじゃない。
死柄木の動画があらゆる動画サイトやSNS、各種メディアに一斉送信され、あっという間に日本中に拡散された。
翌朝に報道されたニュースによって死柄木の動画が現実味を帯び、世論は雄英叩き一色に染まった。
こうして林間合宿は、俺達雄英側の完全敗北で幕を閉じた。
◆◆◆
六花 side
「六花、朝よ。起きなさい」
ゆっくりと、肩を揺すられて声をかけられる。
いつもの優しいママの声。
あれ……?
わたし、何してたんだっけ……?
確か、合宿で肝試ししてて、それで……
……あれっ?
そういえば、なんで合宿先にママがいたんだっけ……?
わたし、合宿の話、ママにはしてなかったのに……
バクゴーさんは……?
どうなったんだっけ……
「起きろ!!!」
急に大きい声で叫ばれて、びくっと体が跳ねる。
目を開けると、知らない景色が目に飛び込んでくる。
どこ、ここ……!?
動けない……手足を縛られてる……!?
「おはよう、六花。いえ……
「ママ……!?」
「あー、混乱してるよね。順番に説明してあげるから落ち着いて。ここは
「ママ、何言って……」
アジト……?
わけがわからない……
ママはさっきから何を言ってるの……?
「こうしてお芝居抜きで話すのも、これが初めてね。はじめまして、六花。私は氷叢雪代。あなた達が
は…………?
ない……つう、しゃ……?
うそだ…………
ママが、
「う……そ…………」
「嘘じゃないわ。USJの時も、ショッピングの時も、今回の合宿も、全部私が手引きしたの。今まで貧乏だったのに、雄英に合格した途端にいい暮らしができるようになったこと、一度も不思議に思わなかった?」
そう言ってママが、スマホの画面を見せる。
そこには、大きなウナギを頬張っているわたしが映っていた。
「みんなを売ったお金で食べたウナギ、おいしかった?」
う、そ……
うそ、うそうそうそうそうそ……!!
「あぁ、間違っても私を裏切り者だなんて言わないでね。だって、あなたが雄英に行きたいって言った時には既に、私は内通者だったんだもの」
「ママ……」
わたしが話しかけようとすると、ママが怖い顔で睨みつけてくる。
「ママなんて呼ぶんじゃないよ。この際だから言うけど、あんたは私の娘じゃないんだよ」
え…………?
「私には、二人の子供が
そんな……うそ、うそ、うそ……
うそだ……!!
「氷花の形見だから今まで育ててきたけど、私はあんたを娘だと思ったことなんて一度だってない」
予告していたサードインパクトです。
やっとお出しできました。
実は3話時点から伏線を張ってありました。
第3話時点での伏線
・雪代さんがやたらと六花ちゃんの実の父親について詳しい
・雪代さんの「子供が二人いた」という発言(娘が二人がいたとは言ってない)
体育祭後に散りばめておいた伏線
・逮捕された父親の苗字が雪代さんと同じ
・黒霧の「家族を殺した」発言
・冷さんの「息子が行方不明になった」発言